十三世界でただ一人   作:来海杏

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ロボ×異世界×フルダイブ4

灰色の空の上、港町に迫る影があった。

 

 

 

 

 

最初に見つけたのは街の外壁、その上に建てられた監視塔で見張りについていた自警団の若者で、ドラゴンが山の方から下ってきている事は聞いていたからそれの影だろうと。

 

 

 

だが、どうにもおかしい。

 

 

 

 

 

余りにも数が多いのだ、それに、細かい所は話に聞いただけだがどうにも影が小さい気がする。

 

 

 

 

 

「ドラゴン、ドラゴンだよな?……アッ、やべ」

 

 

 

 

 

思い出した様に慌てて走り出した若者によって警鐘が鳴らされ、外壁に併設された格納庫から次々と機体が発進したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝸牛を模した機体、その殻に横座りに乗る形で置いて居た相棒を殻を揺らさない様に地面に降り立たせる。

 

 

 

 

 

「すみませーん!助かりましたー!」

 

 

 

 操縦席を開けて感謝を伝えると聞こえたのだろう、チカチカと発光信号でどういたしましてと返答が来る。

 

 

 

道中、森を抜けた所で偶然港町に行く予定の商人と出会い乗せて貰う事が出来たのだ、そのおかげでどうにかそれなりに早く街に着けた。

 

 

 

 

 

 舗装路やその土地に合わせてチューニングを行った機体ならまだしも、森や雪なんかの悪路は人型よりも蝸牛やダンゴ虫みたいな虫型の方が移動は速く、乗せて貰わなければ夕方、日没近くまで時間が掛かって居た事だろう。

 

 

 

「運が良かったな、相棒」

 

 

 

 

 

応える訳も無いのに声を掛け、コンソールを撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず、商人とは荷卸しを手伝う約束をしているのだ。港町を囲う様に作られた半円型の外壁、その中央に開けられた大門に向かって蝸牛の商人と共に機体を進め、門を開けて貰うべく門番に対し操縦席を開いた所で。

 

 

 

敵襲を告げる警鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「うぇっ!?ちょっ、何で!?」

 

 

 

 

 

 

 

 僕の動揺が通じてしまったのか驚愕に任せて蝸牛の商人を振り返る、そうすると商人の方も動揺しているのか蝸牛の眼がチカチカと発光を繰り返して毒々しい色合いを周囲に振りまいて居て。

 

 

 

 

 

ミュートにしていた筈のアラートが操縦席に鳴り響く、機能を越えたそれは馴染みは無いがよくよく知って居て。

 

 

 

 

 

「緊急クエストって、よりにもよって今日かよ!」

 

 

 

 

 

このゲームにも一応はあるらしい運営からのそれが、ワイバーンの襲来を告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門を開けて商人を町の中に避難させ、そうして改めて状況を確認する。

 

 

 

 

 

 操縦席を開き目視でワイバーンを見る、さてどうしようか?無視する訳にはいかない、この町の丘の上には彼女のお墓があるのだ。

 

 

 

殆ど素体だけの状態でワイバーンと戦えるだろうか?長年連れ添った愛機なのだ、素体のレベルはかなり高いし、やって出来ない事はあるまい。

 

 

 

 

 

試しに機体のギアを上げ、コンソールの数値を確認する。

 

 

 

 

 

「前言撤回、終わりだこれ」

 

 

 

 

 

 機体のコンディションは控えめにいってクソ、少しギアを上げるだけで放熱が追い付かなくなっている、これなら立って居るだけで焚火みたいに燃え出すだろう。

 

 

 

どうしよう?

 

 

 

 

 

 インベントリの中の装備を出したとしてもこのゲームの妙に不親切な所として取り付けは人力でやるしかないのだ、難しい作業ではないが最低でも一時間は掛かるだろう。

 

 

 

ワイバーンとの距離を考えるにどう考えても間に合わない。

 

 

 

 

 

とりあえず、どうにか簡単に準備の出来る所として機体用のインベントリから武器だけを取り出す。

 

 

 

 

 

「……なんだっけこれ??」

 

 

 

武器と言うよりは鉄塊とか工業用の鉄板と言われた方がまだしも納得出来る大剣。

 

 

 

 

 

 

 

 装備の類は彼女と一緒に使っていたもの以外は売れる全てを売り払ったから、一番のもの以外残っているのはプレイヤーメイドの武器だけで、更に言うなら全く売り物にならなかった類のそれで。

 

 

 

登録上の名前が

 

 

 

「鉄板Aって、なんだこれ?他はなんか無かったか?」

 

 

 

 

 

どう考えても現状の機体に扱える武器では無い、もっとまともなものは無いかとボックス式で十三に分かれているインベントリの中を確認していくが出て来るのは精々人間用の回復薬や携行用の食料ぐらい。

 

 

 

 

 

「いよいよ本格的に終わりか?これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、まぁ……手はあるが」

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、手はある。

 

 

 

 

 

問題はそれを使う勇気が僕の中に有るかどうかと言う事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来れば使いたくない」

 

 

 

 

 

 とは言え戦闘自体が久しぶりなのだ、なにか運よく方法を思いつくかもしれない、僕は何とかなるだろうとワイバーンの記憶を思い出す。

 

 

 

確か、ドラゴンと一緒に現れる類のコバンザメ的なヤツで素材としても難易度としても今一だった筈、なんだ?と言う事は近くにドラゴンが居るのか??

 

 

 

それから、それから、それから、何だっけ??

 

 

 

 

 

「なんだったっけなぁ?カールが好きだったんだけどなぁ、こう言う話」

 

 

 

 

 

 彼女はファンタジーが好きで、同じぐらい生き物の生態だとかそういうものが好きだったからたまに異様に熱を持って早口に話し出したんだが。

 

 

 

「聞き流してたんだよなぁ、ダメだ思いつかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

ワイバーンが目視で見える距離まで迫ってきている、ここに来るまでもう幾らも無いだろう。

 

 

 

 

 

「…出来る所までやるしかない」

 

 

 

 

 

ダメだったらその時は諦めて使うさ。

 

 

 

 

 

「もっとちゃんとカールの話を真面目に聞いておけばよかったな」

 

 

 

大剣を構える、使えるか?現状の出力だけでは無理、遠心力を使えば振るぐらいの事は出来るだろう。

 

 

 

 

 

「細かい所は分かんないけど、ブレス系の攻撃は無かった筈、それに降りて来たら飛びあがるのは時間が掛かるんだよな確か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モグラたたきの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギアを上げ大剣を肩で担ぐ、大した速度は出ないがこれで少しは走れる様になった、振り下ろす形でなら最初の一撃は多少はまともなモノになるだろう。

 

 

 

 

 

そうして、やってやるさと一歩踏み出した所で。

 

 

 

 

 

 

 

「オァー!!行くよー!劇団ぐりしゃ!ファイトー!」

 

 

 

 

 

そんな声に思わず機体の動きを止める。

 

 

 

 

 

 

 

「……プレイヤーか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町の東側の山肌から滑る様にして五機の機体が降りて来る、これなら何とか町を守れるかも知れない。

 

 

 

デフォルト機能である近距離通信によって五人の先頭に立って滑り降りて来ているサンライトイエローを基調にした機体に話しかける。

 

 

 

 

 

「そっちの五人、協力して対応しないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初心者なのか?通信入れた先頭の機体が驚いた様に肩を跳ねさせて、俺はこっちだと示す様に手を振った。

 

 

 

 

 

「……ガイコツさん?」

 

 

 

 

 

どうみても悪役じゃないか?とかセンス悪くない?なんて声も通信を通して聞こえて来て、たまらず俺は通信の範囲を全体に広げ彼女達に声を掛ける。

 

 

 

「見た目に関しては今は気にしないでくれ!このままじゃ町がやられてしまう!力を貸して欲しいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなりに捻った事でも言えれば良かったのだけれど、そもそも戦闘以前に人間と話をするのが久しぶりなのだ、裏返りかけた声でどうにも必死になって呼びかけると子供みたいな内容になってしまった。

 

 

 

 

 

そう言う必死さが通じたのかも知れない、当然です!と言う声と共に彼女達は街を守る様に広がってワイバーンを待ち構えてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「正直に言ってくれ、ワイバーンと戦った経験は?」

 

 

 

全員と話しても面倒なだけだ、彼女達のリーダーらしきサンライトイエローの彼女にだけ絞って再度通信を繋ぎ、話しかける。

 

 

 

「ありません!お兄さんはありますか!」

 

 

 

 

 

「それなりにあるけど今は戦える装備じゃないんだ、実質的に引退していたと言うか、エンジョイ勢みたいなものだったから、ある程度アドバイスは出来ると思うから前衛はアテにさせて貰って良いかい?」

 

 

 

 

 

ハイ!サンライトイエローの彼女が元気よく答える声と共に、刀を腰に下げた群青色の機体が居合の要領で斬撃をワイバーンに飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、珍しいな」

 

 

 

 

 

 このゲームにはスキルが色々あるが、その中でもあの手の現実の格闘技なり剣術なりから始まっているスキルを獲得するのは大変なのだ。

 

 

 

飛ぶ斬撃で言うなら、前提条件としてまず身体の延長線上として機体が本体の動きをトレースする操縦方式を選んだ上、この世界で居合術を使い機体のスキルとして開花させなければならないのだ。

 

 

 

このゲーム、そんな事をするぐらいなら機体用の射撃装備を積んだ方が早い。

 

 

 

 

 

そう言う意味でも珍しいし、もう少し言うならちゃんと戦闘に使えるレベルでものにしていて、ちゃんとカッコいいと言うのも珍しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現状まだ少しワイバーンの群れは遠く、遠距離系の武装が無い俺には出来る事が無い、自警団の機体は町の中に入って避難誘導と迎撃に当たってくれているから、精々ワイバーンの気を引くぐらいしか選択肢が無いのだ

 

 

 

 

 

俺は鉄板Aを地面に突き刺し、ガンガンとそれを叩いて外部スピーカーから大声を出した。

 

 

 

 

 

「うぉー!!こっちだ!こっちにこい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 それを真似て何人かの機体が同じように声を出し、この段階で攻撃出来るものは様々な手段で攻撃する。

 

 

 

白の重装備機体は大盾にメイスを叩き付け、合間合間にリキャストタイムが切れた魔法系列のスキルをワイバーンに撃ち込む。

 

 

 

 

 

「うわー!こっちだよー!」

 

 

 

 

 

白を基調にした機体の色合いに盾に描かれた赤い十字、信仰系のヒーラー機体が使う初期装備だろう、鍛えればそれなりに長く使えるものだからそう悪いものでは無い。

 

 

 

 

 

『うおー死ねよやー!』

 

 

 

 

 

同じ様にワイバーンに向かってインベントリから取り出したライフルを撃ち込んでいるのは何だ?AI式の機体だろうか?正直判断するのは難しいが機体の顔面部分が液晶になって居て顔文字が表示されている、ああいう手の込んだ事をするのは大体AIを育て切ったプレイヤーが多かった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌がらせの様に遠距離から攻撃したり音を立てた効果があったのだろう、そもそも大した数では無いが幾らかが恐らく巣に向かって逃げ帰る。

 

 

 

だが、傷を負った個体は怒りに任せてこちらに急降下して攻撃を仕掛けて来ていて、そういう個体の興奮に引っ張られたのか大多数の個体は金切り声をあげ円を描く様に飛んでこちらを威嚇している。

 

 

 

 

 

「……不味いな」

 

 

 

 

 

「何がですか?」

 

 

 

 

 

通信が繋いだままだったか、まぁ良い。

 

 

 

 

 

「攻撃してこない、ドラゴンを呼んでいるのかも知れない」

 

 

 

「ドラゴンですか!?取れ高!!」

 

 

 

「??多分、今の感じだとドラゴンの相手は無理だ、全滅する」

 

 

 

 

 

そしたら町の住人は皆殺しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 別にしょうがないとは思うが、どうにも無線の向こうの彼女の声には緊張感が無い、ゲームなんだしそういうものだとは思うが、僕はそう言う訳には行かないのだ。

 

 

 

ここには、彼女のお墓がある。

 

 

 

 

 

「…奥の手を使うしか無いか?」

 

 

 

通信を切り小さく呟く、急降下して来たワイバーンにタイミングを合わせ鉄板Aを振り下ろして打ち返すと、鉄板の重さでワイバーンは真っ二つに裂けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンと言うのは魔法に依ったデザインとしてかなり高度な知能と戦闘能力がある、彼女達はそれなりに戦闘に慣れて居るがそもそも勝てない事をベースに調整されている様な敵なのだ。

 

 

 

 

 

「…こんな事なら装備、つけときゃよかったかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 出来るだけ小さな動きで対応しているがどんどんと機体は熱を持っていて、徐々に機体は危険な領域近くまで温まっている。

 

 

 

だとしても止まる訳には行かず、手を止めずに鉄板Aでワイバーンを打ち返し続けた。諦めて良い様な気もしてくる、だけど、彼女はこの世界を愛していたから。

 

 

 

 

 

「だったら僕も、頑張るんだ」

 

 

 

 

 

 他の機体も戦っている。だが、頭上のワイバーンを落とそうと撃ち込まれる射撃や斬撃は、どうにも決定打に欠ける精度で三つ撃って一つぐらいの割合でしか当たって居ない。

 

 

 

早くしないと、これはドラゴンが来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ、言ってる場合じゃなさそう!アレ!撃ち落とした方が良いんですよね!?」

 

 

 

 サンライトイエローの機体から通信が入り、反射的にあぁ!!何とかしてくれ!!と叫ぶ。機体の熱はもう完全に危険な領域に入った、このままだと爆死だ。

 

 

 

「じゃあ、お気に入りだけど使っちゃいますね」

 

 

 

 

 

通信の向こうからそんな声が聞こえて来て、何となく視界の端で捉えて居たサンライトイエローの機体、その背中から花が開くみたいに水晶の様な物質が広がったのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 プレイヤー達が各々好き勝手に呼んでいる無線式飛行遠隔攻撃ユニット、正式名称は忘れたが彼女は、クイーンはそれを用途によって雨粒とか子犬だとか好きに呼んでいた。

 

 

 

まさか、彼女以外に好き好んでゴミ装備を使う人間が居たとは。

 

 

 

 

 

 

 

サンライトイエローの水晶が成長を続け、雪の結晶の様な形を機体の背中に作り出す。

 

 

 

 

 

「いきます!」

 

 

 

そうして掛け声に合わせて水晶が粉々に砕け、無数の雪の結晶に分かれたそれが上空の群れへと飛び立って行きズタズタにそれを引き裂いて。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

うおぉ

 

 

 

うおぉぉ!

 

 

 

 

 

うおおおおお!!!!!

 

 

 

「逃げろー!!!!!!」

 

 

 

 

 

もう少し細かく切れば良いものを、二等分か三等分されただけの軽自動車サイズの爬虫類の肉片が地上へと降り注いて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は遠隔操作中で動けなくなっているサンライトイエローの機体を担ぎ上げ外壁から離れた森の中へと走る、少しでも木々が肉片を防いでくれると良いんだが。

 

 

 

 

 

兎も角、僕達はそうして肉片の第一波が来ると同時に雪の中に飛び込んで。

 

 

 

 

 

 

 

ジュウジュウと機体の熱で降り積もった雪が解ける音を聞きながら、妙に気の抜けた音と共にモニターに表示が写るの見たのだった。

 

 

 

 

 

 

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