十三世界でただ一人   作:来海杏

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水星の魔女☓乙骨

定期輸送船の中、憎しみの様な、酷く怯えた様な目でモビルスーツを眺めている男が、いや、まだ若い、青年とでも言うのが正しい男子が一人、暗がりの中に立って居た。

 

 

 

「………」

 

 

 

モビルスーツを眺め、何かを言おうとして、それでも言葉に出来なくて、一人暗がりにしゃがみ込む。

 

 

 

「だァいじょぉぉぶぅぅぅ??」

 

 

 

 そんな青年に対応するかの様にモビルスーツの瞳に灯りが灯り、大気環境用の外部マイクから声を発する、瞳に灯った夜に近い夕暮れの色、その色は男子に、青年にとっては何時も酷く苦痛と後悔に満ちた記憶を刺激するものだったが、だが、青年は俯いて居たから気づかなかった。

 

 

 

 ゆっくりとモビルスーツの手が近づき、そっと、人間では有り得ない精度の動きでもって青年の背中を撫でた。何も言葉に出来ないまま、ただ青年はその手にぎゅうとさらに身体を縮める。

 

 

 

孤独だった、誰も彼もが孤独で、ただ、宇宙の温度だけが輸送船の格納庫の中に溢れていて。

 

 

 

 

 

酷く、寒いなと、青年はただそんな事を思った。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 格納庫より幾らか過去、一人の青年が興味深そうに一枚の書類を眺めていた。

 

 

 

「へぇ?廃棄品同然のガンダムを遠隔で操作して四人を廃人に変えた、ねぇ?」

 

 

 

それは通常なら、少しでも常識と言うものを知っている人間なら誰も相手にしない様な、妄言としか受け取り様の無い報告が書かれたもので。

 

 

 

 

 

「興味深いじゃないか、少し会ってみたいなぁ」

 

 

 

 

 

そんな言葉に周囲の少女達は楽しそうにあーでもないこうでもないと書類の青年に対して評価を下していく。

 

 

 

 地球出身の青年、何もかも平凡だが直近で四人の人間を再起不能なレベルでモビルスーツを、しかもガンダムを遠隔で操作して叩き潰し、しかも然るべき機関の捜査が及んでいないだけでどうやら企業によれば過去の余罪はまだまだあるだろうと言う事。

 

 

 

そして、どう調べても常人では有り得ない程のガンダムとの共鳴を示している事。

 

 

 

「良いじゃないか、自然に地球で生まれた上でここまでのパーメットスコア適正、今は地球に居るんだったか?会いに行きたいなぁ」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

そうして今、書類を眺めていた青年、シャディク・ゼネリは大人達に囲まれてただ、陰鬱な陰謀に基づく会話をしていた。

 

 

 

 

 

「完全秘匿での死刑執行、16歳の子供相手にこの対応は有り得ないんじゃないですか?」

 

 

 

ただ暗がりの向こう、ガンダムとそれに関係する全てを恐れるだけの臆病者達がシャディクを見ている。

 

 

 

「だが本人が了承した」

 

 

 

「まだ16歳の少年です、まともな判断とは言えないでしょうに。それに実際アナタ達も取り扱いに困ってしまって居る、だから僕の様な人間ともこう言った調整の場を設けて頂けた」

 

 

 

「グラスレーの圧力だ、白々しい」

 

 

 

まぁそう言わずに、そう言って、実際白々しい笑顔を浮かべてシャディクは微笑んだ

 

 

 

「実際、取り扱いに困る類の問題ですよね?」

 

 

 

「だとしても、基本的な所は変わるまい」

 

 

 

「そうもいかないから閉じ込めるだけで済ませているんでしょう?僕が何とかして差し上げますよ」

 

 

 

……ではやはり。

 

 

 

ただ、シャディクは微笑む。

 

 

 

「ええ、乙骨憂太はグラスレーで預かります」

 

 

 

勿論、それなりの利益は保証させていただきますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、幾らか暗がりの中で話し合いが行われた後、シャディクは乙骨の前に立って居た。

 

 

 

書類の青年、乙骨は暗い部屋の中、唯一置かれた椅子の上で片膝を抱えたまま顔を上げようともぜずシャディクの言葉を聞いていた。

 

 

 

「君の才能を買いたい、もちろんそれは金銭的な所に限った話では無いよ?君が欲しいものを用意する、だから君の才能を僕の為に役立てて欲しいんだ」

 

 

 

手始めに君には宇宙に上がってアスティカシア学園に通って欲しいんだ、もちろんその為に必要な学力面でのサポートも経済面でのサポートもさせて貰う。

 

 

 

さあ、今日から、新しい学校だよ?

 

 

 

「……行きません、誰も傷付けたくありません、だから、外には行きません」

 

 

 

乙骨が顔を上げシャディクの方を見る、だが、乙骨からは影になって居てシャディクの表情は判断出来ない。

 

 

 

「……君には力がある、一人で死ぬのも良いさ、だけれど、君には世界を変えられるだけの力があるんだ」

 

 

 

「良い方にも悪い方にもね」

 

 

 

「君はその力に対しての責任がある、君のその呪いとも言える様な力は世界に手が届くものだ」

 

 

 

だからと言えば勝手だが

 

 

 

「僕に、俺に力を貸して欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

それに……、一人は寂しいだろう?

 

 

 

 

 

乙骨はただシャディクの顔を見つめていて、シャディクが一歩乙骨の方に近づいて暗がりの中を出て顔が見えて。

 

 

 

そうして。

 

 

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