十三世界でただ一人   作:来海杏

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没案 魔法少女

 

新大阪駅にて午前8時 自己紹介

 

リハビリ

 

 

「帰ったら何しようか?」

 

 

俺は君を背負って只管歩く、弾切れで重荷にしかならない小銃は随分と前に捨ててしまった。

 

教育隊の時分には何度も脅されて宝物みたいに大事にしてきたそれを捨てたのだから、きっと帰ったら震えるぐらい怒られるんだろうが、それでも、少しでも早く歩ける様に、少しでも君が助かる可能性が高まる様にと思えば何も怖くは無かった。

 

 

「……えぇ、そうだなぁ」

 

僕の背中、君が掠れるような声で答える。

 

 

「韓国行きたいな、韓国、アイドルとか劇団の舞台見て」

 

 

「良いね、それで?」

 

 

喉に血が入ったのか、彼女が咳き込む。俺は君を背負い直し、左腕に無理をさせながら右手で君の手ギュッと握った。

 

 

「ゴホッ、その、その後はさぁ、オシャレなカフェで働くの」

 

いいなぁ、制服とか絶対似合うよ

 

「…うん、制服の可愛い所で働いてね?それでね?」

 

「もう、普通の女の子になってて魔法を使ったりする事も無くて、私は普通の女の子として恋をするの」

 

 

……ふふふ、めちゃくちゃ素敵だ、俺、君の相棒として彼氏くんの事審査しちゃうぜ?中途半端な男の子だと怖がらせちゃうかも

 

 

「………ううん、カフェにね?重悟さんが来るの、私は今とはぜんぜん、違うから最初重悟さんは気づかなくて……それで、ね?」

 

うん

 

「ゴホッ、ゴホッっゴホッ重悟さんに私はありのまま、自然な姿で私が話し掛けて、そして重悟さんと私は仲良くなって」

 

「ゴホッ、ヒューッ、ヒューッ、ふぅー、……それでね?私達は凄く仲良くなって、ある日、重悟さんは私の事をデートに誘ってくれて」

 

「そこで、私は実は私なんだよって言って、それに重悟さんは凄くビックリして、そこで」

 

「……そこで私は言うの、ずっと、ずっと私、重悟さんの事が」

 

 

俺の事が何さ?

 

そう、背負った君に問い掛けて、答えは無くて、それで

 

そうして俺は帰って来た

 

 

 

魔法少女の面倒を見る事になった。

 

 

 

 

 

 今年で31歳、他人に卑下する様な生き方をして来たつもりは無いがそう言う問題でも無い、魔法少女と言うものは世間に広く知られている限り一定の年齢以下の少女だけが変身出来るらしいのだ。

 

 

 

 

 

つまりなんつーとその多くは多感な次期の年齢であり、そうでなくとも日々命を掛けて仕事に望んでいる以上、多くのサポートを必要としている。

 

 

 

そんな人間の面倒を、来月の家賃も怪しい様な俺がどうしてみれると言うのか?

 

 

 

 

 

 

 

 んまぁ、そう言う正論を俺に依頼して来た人間から叩き潰されて結局今、俺は魔法少女の出迎えの為に大阪駅で保護対象の魔法少女を待っている訳だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の8時から駅で待つと言うのはどうにも前職以来の人間らしいクロックでの生活であるからして、死ぬ程眠かった。

 

 

 

 

 

 

 

 「どうせぇっちゅうねん…」

 

 

 

 

 

 愛車であるアバルト500の屋根にもたれ掛かりながら彼女の資料を眺める。

 

 

 

 

 

 

 

年齢は18歳、身体強化と意思の力を原動力としたエネルギーの放出を得意としている。

 

 

 

 

 

高校に入学している年齢だが両親が敵対勢力との戦争で戦死しておりそれを切っ掛けに1年半の休学休職、心的外傷後ストレスが原因で他人の声が聞こえるとの妄想に囚われる。

 

 

 

 

 

その後医師の診断を切っ掛けに復職するが、本人の環境を変えたいとの要望から地元を離れたここ大阪で自宅学習を行いながら高校への再入学を目指す事になり転居する事が決まる。

 

 

 

 

 

 「そうして何の因果か、現役を離れたとは言え一流の魔法少女だった子を相手に民間の俺が現地サポート要員として選ばれる訳だ」

 

 

 

何でだ?

 

 

 

 

 

 

 

 こんな資料で人間の何が分かるとも思っちゃ居ないが、それでも、資料に書かれてる分ぐらいは思いを馳せたり想像を膨らませたりする事ぐらいは出来る。

 

 

 

 

 

どうしてだ?魔法少女として登録する時に撮影したのだろう彼女の写真はとてもじゃないが俺の様な人間と関わるハメになる様には見えなかった。

 

 

 

私立の女子高を出て、いい大学に進み、家に基づいた様な毛色の良い坊ちゃんと結婚する。そんな様子の女の子。

 

 

 

 

 

 実際彼女は一昨年まで関東の有名な私立女子校に入学していたし、SNS上を簡単に調べて見ただけでも家族で撮影されたであろう幸せそうな写真が山ほど見付かった。

 

 

 

「……いや、どうせぇっちゅうねん」

 

 

 

 

 

  新幹線、新大阪駅の改札の向こうに大きなキャリーケースを引き摺った少女が見えてくる、綺麗に纏められお団子になった髪の毛、誰が選んだのか年頃の少女にしては硬派な色、銀のキャリーケースは殆ど胸元まである様な大きなサイズで、両腕でやっと引き摺る様にして改札を出て来る。

 

 

 

上半身は灰色でヨレた様子の無いパーカーを着ていて、この距離では判断出来ない何かが控えめに描かれている。

 

 

 

下半身にはデニムか何かを着ているのだろう、なんとも、年齢の割にはシンプルな恰好をしているな、と言うのが遠くから眺めて第一印象であった。

 

 

 

 

 

 向こうはまだ俺には気付いて居なかった、俺はそのまま彼女の表情を観察する。

 

 

 

泣きそうな表情、何かを恥じているのか、あるいはただ、人並の中で違和感に苦しんでいるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 センスの欠片も無い金色の瓢箪の向こう、ガラス越しに俺の事に気付いたのだろうか?彼女と俺は目が合って、彼女は俺に気づくとただ、歯を見せない様にぎゅっと口元を結んで笑顔を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  彼女は真っすぐに俺の方に歩いて来た、家族を失って入学する少女がどう言う根拠で俺の所に真っすぐ来るのだろうか?

 

 

 

「やっぱ魔法か?」

 

 

 

資料の上では彼女の主な魔法は身体強化と意味の分からない原理のビームだ、俺の心を読んでいるのだろうか?だとすれば今後の付き合い方も考えないと行けない。

 

 

 

 

 

 俺に任されたのは彼女の仕事以外でのキャリアについての部分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女に異界の敵対勢力との戦闘を委任している性質上、基本的に彼女達は一律に特別国家公務員として扱われて居るが、一定年数の従事義務の満了や満了に伴うキャリアの選択で多くの魔法少女は現役を離れる。

 

 

 

その後、各々の地元で彼女達は予備役として警察や消防に編入され段階的に魔法の行使を減らして行きながら、

 

 

 

専門の部署に依るサポート受けながら社会へと復帰していくか。

 

 

 

能力を限界まで活かす為、魔法使用の民間免許を取得するか。

 

 

 

大きく分けるとその二つを選択していく訳である。

 

 

 

なにせ、加齢とともに魔法少女の能力は衰えて行くとは言え、完全に能力が喪失するまで平均として25歳までの時間が掛かる事が既に研究で明らかとなって居るし、ヨーロッパでは40歳近くまで能力を失わずに居た女性も居たとの話もある位なのだ。

 

 

 

戦って戦って戦って、皆幸せそれで終わり、なんて言う絵本のハッピーエンドとは違う、彼女達魔法少女のその後のキャリアと言うものが求められて居る訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兎も角だ、そう言う引退した魔法少女達と社会とのトラブルの解決や、生活ってものの調整と言うのが、俺の仕事なのである。

 

 

 

 

 

自動ドアを越えて彼女が俺の方へ歩いて来る、彼女が俺の前で立ち止る。

 

 

 

 

 

 

 

  俺達はどちらが話し出す事も無く沈黙していた。

 

 

 

 「なんで俺の事が分かったんだ?」

 

 

 

 

 

これから一緒に仕事をしようって相手なのだ、職業病かもしれないが細かい事まで確認してしまうのはしようが無い事だった、少なくとも、俺の中では。

 

 

 

 

 

 

 

「……写真、これ、貴方ですよね?」

 

 

 

 

 

  彼女は居心地が悪そうに、それでいて歯を見せない様にした笑顔をそのままに俺と目を合わせて答えた。

 

 

 

 

 

彼女がデニムからスマホを取り出して俺の方へと向ける、その画面には俺の前職の時の写真なのだろう、胸から上の部分だけが映された身分証用の写真が写って居た。

 

 

 

 

 

真顔、短く刈り込んだ髪の毛と焼けた肌は今の俺とはかけ離れた姿であり、素直に彼女は良く見つけたなと、俺は関心した。

 

 

 

 

 

 

 

 困った様にハの字型になった彼女の眉毛、これから長い付き合いになる相手なのだ、俺は気楽に話す事にする。

 

 

 

 

 

 

 

「良く分かったな?昔の写真だし大分印象が違うだろ?」

 

 

 

 

 

 今の俺は顎鬚を生やし、雑に伸ばした長髪は人前に出たり見た目の重視される仕事で無いから手を抜いてポニーテールにしている。

 

 

 

しいて言うならマトモな物はスーツぐらいだろうか?後は時計も、前職で買った異様に頑丈な物を付けている。

 

 

 

 

 

速い話が胡散臭い存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

「魔法で、その、身体とか骨格の事は詳しいんです、それで、ちょっとだけ魔法を使って探したらすぐに分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の視線がアバルトの屋根に置かれた資料に向けられる、そうしてまた、硬く口元を結んだままの笑顔が固くなる。

 

 

 

「君の資料だ、こっちに来るに当たって君のサポートを俺に決めたヤツから送られて来た」

 

 

 

不愉快だったら謝るよ、そう言って頭を下げる。

 

 

 

嘘だった、確かに送られて来た資料もあるが、それなりに金を払って自分で集めたものが殆どだ。

 

 

 

 

 

「……ご飯」

 

 

 

 

 

八の字型の困り眉毛のまま、彼女が口を開く。

 

 

 

 

 

「知らない間に一方的に知られるってちょっと嫌です、でも、これからお世話になる人ですから」

 

 

 

ご飯、朝ごはんまだなんです、奢ってくれるなら許します。

 

 

 

 

 

「そんなのでいいなら、喜んで」

 

 

 

 

 

そこでやっと俺達は自己紹介もまだである事に気付いた。

 

 

 

 

 

「自己紹介もまだだったな、初めまして、来海重悟だ」

 

 

 

 

 

知ってますよね?そう言う目でこちらを見て来る彼女に俺は笑って答える。

 

 

 

「資料で知れる事何て何の意味も無いさ、資料とコミュニケーションって別だよ」

 

 

 

 

 

そこまで言ってやっと彼女は少しだけ、硬さの取れた笑顔を見せてくれた。

 

 

 

「西宮です、西宮桜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言う訳で、俺達は兎も角、飯を食おうと言う事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

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