十三世界でただ一人   作:来海杏

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第34話

 

新御堂筋午前10時 苦しみだらけ

 

リハビリ

 

 

 

 

 

 高速道路を愛車であるアバルトが走る。

 

 

 

 

 

 駅での事だ、後部座席の荷物を整理し、座って貰おうとした所、西宮桜は自然な様子で助手席へと座った。

 

 

 

知らない人間を相手によくも助手席に座るものだと、何となく俺はそんな事を考えた、他人との距離感が近いのか?だとすれば今後の関わり方も考えないと行けない。

 

 

 

必要な人間を手配するのか、医者か、カウンセラーか、経験上他人との距離感に異常がある人間はどこかに異常がある、ともすればその為の手配を、俺は頭の中で静かに考えている。

 

 

 

 

 

 皆がそうとは言わないが、今まで関わって来た魔法少女達は皆。様々な形で助けを必要としていた

 

 

 

限界を越えた魔法の使用により自身の魔法の制御が出来なくなり、魔法による生成物で自家中毒に陥った子。深刻なPTSDにより周囲の人間を酷く傷付けた子、そもそもの能力が人間生活に向いて居ない様な子も珍しくない。

 

 

 

 

 

 だからと言ってどうしようも無いと諦めてしまう訳にも行かない。

 

 

 

 

 

「助手席、何で座ったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 かなり早い時間に新大阪で待ち合わせたからだろう、何かのラッシュに捕まったのか、ただでさえ狭い高速道路は完全に詰まっておりかなりゆったりとしか動いて居ない。

 

 

 

 

 

「ごめん、お昼ご飯になりそうだね」

 

 

 

 

 

 

 

俺がそう言って彼女を見ると、彼女はただ、猫の置物か何かの様に背筋を伸ばして真っすぐに座って居る。

 

 

 

 

 

「お腹減ってない?次で適当に降りるよ、下道で行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

そこまで問いかけ続けて彼女がやっと、本当にたった今気づいたかの様子でこちらの言葉に反応した。

 

 

 

 

 

「えっ、ごめんなさい、聞き逃して、どうしました?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か、本当に焦った様な様子でこちらに話しかけて来る彼女に不自然さは感じ無い。

 

 

 

 

 

「ごめん、車、苦手だった?」

 

 

 

資料の上では彼女の周囲に車に関してのトラウマを予感させる様な情報は無かった、だがそれも所詮は資料の上だけである。

 

 

 

 

 

結局、本人と強くコミュニケーションを取り続けるしかないのか。

 

 

 

 

 

 どうにも酷く、げんなりとした気分が身体には溢れて来るのを感じる、好きで始めた仕事でも無いのだ、ただ、必要に駆られてそうしただけの仕事。

 

 

 

遠く、事故でもあったのか車列は詰まったまま、動きそうも無い。

 

 

 

自然、吐きそうになった溜息を堪えながら俺は彼女の、西宮さんの目を見る。

 

 

 

 

 

「西宮さん、聞こえてるかい?」

 

 

 

 

 

「はい、大丈夫です、あの、本当に、私ぼうっとしてしまってただけです」

 

 

 

 

 

 

 

それなら良いんだ、聞いてくれ

 

 

 

 

 

「西宮さんとアイツが、石原がどんな関係なのかは分からない」

 

 

 

「まぁ関係がなんであれ、俺は少なくともアイツから仕事として君の面倒を見る様に依頼されたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 前職の頃からの友人である石原に頼まれたのだ、報酬の払いが定期的で安定するのが見えてるのもあるが、それ以上に何度も命を助けられたリ、助けたりした様な友人からの頼みを適当に済ませるつもりは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこん所は俺の気持ちと一緒に伝わってるかい?」

 

 

 

 

 

 西宮さんが俺の事を石原から何と聞いて居るか分からないが、認識次第ではゆっくりと説明する所から始めないといけないかも知れない。

 

 

 

 

 

俺は決して裏切らない。

 

 

 

 

 

 

 

色々あった中で、流れで始めてしまっただけの仕事だ。

 

 

 

だけどこれは、これだけは俺が彼女達元魔法少女と関わるにあたって、決して曲げない、破らない様にしている絶対のルールであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の語りに彼女は駅で会った時の様に、歯を見せずに唇を硬く結んだまま不思議そうに眉根を寄せた。

 

 

 

 

 

「関係って、変な事は何にもないですよ、向こうで一緒だったんです、1年ぐらい私のサポート隊の隊長さんでした」

 

 

 

それも、出世されて本部に転属される前までですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女にはそのバックアップと戦術的判断の補強の為、専門の訓練を受けた一個小隊が割り当てられる。

 

 

 

 

 

いや?逆だったか?忘れた、教育を受けたのはかなり昔の事なのだ、細かい理屈等おぼえちゃいない、大体50人かそこらのサポートやらボディーガードが魔法少女一人に責任を負わせない為くっついて回るのだ。

 

 

 

 

 

兎も角だ

 

 

 

 

 

「……へぇ、通りで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の経歴を思い出し、そこから推測するとアイツが本部勤務になった時と彼女の家族が戦闘に巻き込まれた時期は重なる、そう言った所で何か、気に病んで居たのか、負い目があったのか。

 

 

 

 

 

「通りでって、何がですか?」

 

 

 

 少しだけ不愉快な調子を感じさせながら彼女が問いかけて来る。

 

 

 

 

 

 

 

 どの様に切り出したものか、言葉選びに気を付けないと。俺は彼女が高校を無事に卒業し、成人となるまで付き合い続けないと行けない。最低でも、彼女がちゃんと自分の足で立てる様になるまでは。

 

 

 

そう言う依頼だった。

 

 

 

 

 

未成年の人生に外付けのアドバイザーとして関わる中で嫌われてでもやるべき事と言うものもあるだろうが、必要のない部分で彼女を追い詰めたくは無い。

 

 

 

 

 

大阪に彼女の頼れる人間は誰も居ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…アイツ、石原、最後に連絡したのかなり前だったからさ、それなのにいきなり依頼なんかして来てビックリしたなって」

 

 

 

 

 

友人は君の両親が死んだ事件の前に現場から離れちまった事を気に病んでいるのかも知れない、なんて、本人の居ない所でするには馬鹿げた話だ、今後、何かの参考に留めるだけにしようと決め、俺は適当に誤魔化す。

 

 

 

 

 

 

 

「お昼になっちゃったけど、何食べたい?」

 

 

 

 

 

 俺のそんな問いかけに彼女は不思議そうに首を傾げた後、考えておきますとだけ答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで」

 

 

 

彼女が切り出す

 

 

 

「俺の気持ちって、何ですか?」

 

 

 

 

 

車列が流れ出す、渋滞の終点が見えて来る。

 

 

 

 

 

「変な事言ってたんで、気になっちゃって」

 

 

 

 

 

彼女の言葉に俺はまた、どうしようかと考えて、それで、慎重に切り出す事に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西宮さんは、僕の仕事の事はなんて聞いてる?」

 

 

 

 

 

彼女が少しだけ視線を左上に向け、答える。

 

 

 

 

 

「元魔法少女専門の何でも屋さんだって聞きました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惜しい様な、全然違う様な。

 

 

 

 

 

「専門って訳じゃ無いんだ、まともに広告出したりSNSとかやってないからさ、自然と西宮さんと同じ様に知り合いから紹介して貰った仕事ばっかりになっちゃって」

 

 

 

 

 

俺の、前の仕事に関しては聞いてる?

 

 

 

 

 

俺の問い掛けに彼女は今度はコクコクと、歳の割には幼い仕草で何度もうなずいた。

 

 

 

 

 

「石原さんから聞きました」

 

 

 

そこの所はちゃんとアイツから聞いていたらしい。

 

 

 

 

 

「自衛官だったって聞きました、なんども向こうに行って、境界の防衛とか治安活動で働いてる魔法少女達のサポートだけじゃ無くて、色んな魔法少女や学者さんと一緒に深い所まで調査に行ったりしてたって」

 

 

 

 

 

大体合って居た、ただ、アイツが言わなかった部分があるとすればだ。

 

 

 

 

 

「それでだ、そういう仕事をやってる中で僕は、てか俺は、失敗したんだ。そうして責任やら気持ちの置き所やら色々やってられなくなって仕事を辞めたんだけど、結局、まともな生活に上手く戻れなくてね」

 

 

 

 

 

 

 

今だって大して上手く出来てる訳でもないんだろうけど、それでも、少なくとも俺だけじゃないって事には気づいたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「俺だけじゃ無いって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自衛官もそうだし、君達魔法少女もそう、思ったより沢山の人達が日常に帰って来れなくなってそのまま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んで居る、そう言おうとして、彼女がまだ18歳だと言う事を思い出す。家族が皆死んでしまったのだと言う事も。

 

 

 

 

 

 

 

「……そのまま、死を選んでしまう?」

 

 

 

 

 

 慎重に、寧ろ俺の方を思いやる様な調子で彼女から発された言葉に俺は思わず彼女方を振り向きそうになる。

 

 

 

 

 

渋滞を越えた後、俺は下道に降りて彼女が今後住む事になる南大阪の下町に向かって居る、よそ見運転をする訳には行かない。

 

 

 

 

 

高架下に入る、影に覆われ、薄っすらとフロントガラス越しに彼女と少しだけ、目が合う。

 

 

 

 

 

「いいや」

 

 

 

 

 

いいや

 

 

 

 

 

 何も傷付けてしまわない様、俺は慎重に言葉を選んだ。

 

 

 

「そのまま皆、酷く苦しんでしまって居るんだ」

 

 

 

 

 

 

 

それで、俺の気持ちって言うのはね

 

 

 

 

 

「俺は君を決して裏切らないし、一人にしないって事だよ」

 

 

 

 

 

 

 

赤信号に捕まる、ゆっくりと車両を停止させる。

 

 

 

 

 

彼女の顔を見ながら、彼女の目を見ながらもう一度俺は言葉にした

 

 

 

 

 

 

 

「俺は絶対に君を裏切ったりしないし、他の魔法少女達を裏切ったりもしない、だから」

 

 

 

 

 

君も、決して自分自身を裏切る様な事はしないでくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、西宮桜は困った様に眉毛を八の字に寄せ、ぎゅっと、歯を見せない様に笑顔を作った。

 

 

 

 

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