十三世界でただ一人   作:来海杏

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第35話

 

ドーナッツ屋正午 毒の女王

 

「これより先に一歩でも踏み入れてみろ!!」

 

 

 

彼女が腕を一振するとそれに合わせ一本の道が荒野の上に引かれる、腕から発された彼女由来の猛毒は素材すら未知の地面をジュウジュウと焦がし溶かし煙の幕を作り、その内側で震える兵士の姿を隠した。

 

 

 

 

 

「死にたい者から前出ろ!!私の毒で近づいたものから殺してやる!!」

 

 

 

 

 

彼女が腕を振る度に敵対勢力が倒れる、多くの敵対者が彼女を狙う度、毒に依る煙の壁で溶け落ちるか彼女の発射する魔法で撃ち落とされて行く。

 

 

 

彼女の後ろのは傷付いた兵士達が居る、兵士に限らず兵士を助けようとする連合達の医療班や、更に後ろの城壁の中には様々な年齢、事情の現地住人や保護された少数民族達も居た。

 

 

 

 

 

「私は女王だ!毒の女王だ!敵よ!恐れろ!!死にたい者から前に出ろぉ!!」

 

 

 

必死だった、兵士よりも、誰よりも、彼女が。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 西宮さんとの食事はジャンクフードになった、彼女は長くバレエを続けて居てこういうモノを遠慮なく食べるのは初めてだったらしい。

 

 

 

不思議そうな顔で彼女が並びながら振り返り俺を見る。

 

 

 

「欲しいものを取ってくんだ、食べたい分だけね」

 

 

 

そう言うと彼女は妙に楽しそうにドーナッツを選び出して、それに俺は古い映画を思い出した。

 

 

 

「先に席を取って来るよ」

 

 

 

俺の言葉にまた、不思議そうに傾けた頭に、俺はこういう所では先に自分が食事する為の席を確保するんだ、と説明する。

 

 

 

そうして彼女の持つトレーに出来るだけ甘くないシンプルなドーナッツを乗せ、空いている席に向かった。

 

 

 

それで、席に座ろうとした所であった。

 

 

 

電話が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし?来海重悟さんの電話番号で間違いないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 トラブルだ、誰がどうしたのかまでは推測出来ないが、俺の携帯に電話してくる様なプライベートな関係の相手は居無い。

 

 

 

つまり仕事で、トラブルだ。

 

 

 

「何がありました?」

 

 

 

 

 

 

 

彼女が不器用な調子で会計を済ませる、楽しそうに俺の方を見て笑う彼女に俺は小さく手を挙げて応える。

 

 

 

 

 

「毒島百合愛を見失いました」

 

 

 

 

 

ユリア、かつては毒の女王として敵対勢力に恐れられた少女、第二次派遣の時、俺と彼女は同じ部隊として行動していた。

 

 

 

何度も彼女に命を救われて、そして俺もまた、何度も彼女の命を救った。

 

 

 

 

 

 

 

ユリアが2度目に逮捕された時からの俺の依頼人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 電話の向こう、緊急連絡先が俺となって居るユリアが居た施設の人間に問いかける。

 

 

 

「状況を教えて頂いても良いですか?」

 

 

 

俺の前に西宮桜が座る、彼女は楽しそうに何かを言おうとして、俺の顔を見て何かを感じたのか黙り込んだ。

 

 

 

多少のブランクがあろうと彼女は俺と同じ所に派遣されていた人間らしい、戦場の空気を知って居る。

 

 

 

 

 

「何かあったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

俺は彼女に少し待ってくれとボディランゲージを返す。

 

 

 

毒島百合愛は戦争後遺症から固有魔法である毒を暴走させ、四肢の麻痺や吃音の症状が残った。

 

 

 

今の日本では珍しい事でも無いが、彼女の両親や親族は戦争初期の侵攻に巻き込まれ死亡しており、そんな状況で後遺症を抱えたまま彼女は18歳で除隊。

 

 

 

 

 

帰国後、後遺症もマトモに治療出来ないまま働く先を探すも戦争直後の荒れた日本ではまともな働き口は見つからず、結局、魔法を活かし反社連中の用心棒の様な事を始める。

 

 

 

多くの人が無くなった中、マトモな年金も入らず、除隊した魔法少女達には充分なサポートも無かったのだ、責められるものでもない。

 

 

 

そうしてユリアはどんどんと魔法と生活を切り離せないまま後遺症を悪化させ、今では正気も怪しいまま車椅子での生活となり、彼女や多様な人間を含めたリハビリテーション施設の住人となって居た。

 

 

 

 

 

 

 

 電話越しの話を要約するとだ、施設の改装工事中、工事の音で精神が不安定になっていた所に戦争以後の不安定な境界による異世界敵対勢力が到来。

 

 

 

駆除の為に現地の魔法少女が到着するまでの間、ユリアの精神がどんどんと不安定となり敵対勢力を毒により蒸発させ、その場から消えたと言う。

 

 

 

非常に危険な状態である、全盛期であった時ユリアは有機や無機に捕らわれず万物様々なモノを溶かしてのけるだけの能力があった、しかも悪用するならまだ良い、彼女が完全に暴走し能力を使用した場合、全盛のユリアには日本を物理的に両断させるだけのポテンシャルがあった。

 

 

 

魔法の暴走で中毒症状に陥り、どうしようもない程能力を低下させた今、そこまでの魔法を行使出来ないにしてもだ、彼女は依然危険な能力を持ち、正気を失った狂暴な野生動物同然の状態である事は変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は目の前の西宮さんに目を合わせる。

 

 

 

「ごめん、急ぎで仕事が入った」

 

 

 

彼女の目と、派遣中に残された記録を、戦争体験を信用して俺はそのまま現状を伝える事にした。

 

 

 

「依頼人の一人、戦争中に世話になった同じ部隊の元魔法少女が姿を消したらしい、このまま放置していると行政に通報が行って」

 

 

 

 

 

何と表現したものか悩む、口の悪い連中は駆除と、その一連の流れを表現する。

 

 

 

 

 

「……駆除、されるんですね」

 

 

 

「……誰に聞いたんだ?そんな言い方」

 

 

 

「……そう言う子供扱いは不快です、私」

 

 

 

西宮桜がまた、歯を見せないようにグッと唇を閉じたまま微笑んだ。

 

 

 

悪意はどうしようも無いにしても、駆除なんて言葉は決して当事者に知られるべきものでは無いだろうに。

 

 

 

道徳、モラル、言い方はどうでも良い、そう言うものが戦争以降ずっと世界から欠けて行っている。

 

 

 

 

 

「姿を消した依頼人を探しに行かないとならない、彼女は苦しんでいてとても危険な状況なんだ」

 

 

 

だから、鍵を渡して駅まで送るので君が暮らす予定の新居で待っていてくれないか?

 

 

 

そう言おうとした所で彼女の方が割り込むように声を上げた。

 

 

 

「私も手伝います」

 

 

 

断固とした口調、迷いなくそう言った事をいうのが彼女達魔法少女の特徴だ、犠牲、献身、自分達が一人の人間だと言う事を忘れている。

 

 

 

ここは日本で、もう戦わなくて良いのだ。

 

 

 

「だめだ、理由としては三つ説明出来る」

 

 

 

彼女は微笑みを消し、真剣な表情でピンと背筋を伸ばし続きを促した。

 

 

 

「一つ、これでも色々な免許取ったり行政に申請やら通した上でこう言う仕事をしてるんだ、無許可で未成年の君をこう言う仕事に付き合わせる訳には行かない」

 

 

 

 

 

「二つ、現役の時の君は、というか君達魔法少女は色々な特別措置が取られていた、でもね、書類としては予備役になった今、ただの女の子なんだ、市街地で魔法を使えば多くの法律に引っ掛かるし、となると君はただの女の子だ」

 

 

 

ただの女の子を危険な場所には案内出来ない。

 

 

 

そう言うと彼女は酷く不満そうな顔で頷く。

 

 

 

 

 

「三つ、個人情報で色々言えない事が多いんだが、今から探しに行く依頼人の所に君を連れてって刺激したく無い、人見知りするタイプなんだよ、彼女」

 

 

 

 

 

俺の話を聞き終わった彼女はゆっくりともう一度頷き、そうしてまた断固とした口調で同じ事を言った。

 

 

 

「私も手伝います」

 

 

 

「……そうだなぁ…」

 

 

 

どうするか、じっくり考える時間は無い。

 

 

 

ここで断固として断っても彼女が暴走するかも知れないのだ、魔法による飛行や身体強化を使いパルクールの様に街中を飛び回られ、逮捕でもされようものなら依頼人の石原から俺が絞られる事になる。

 

 

 

 

 

「……幾つか約束してくれ」

 

 

 

だからまぁ譲歩するしか無い状況であると、俺はなんとか自分自身を納得させるしか無かった。

 

 

 

彼女は真剣な表情で頷き、そうして目の前のドーナッツを食べ出した。

 

 

 

マジかよ??そういう俺の表情にただ一言、勿体ないからと答える。

 

 

 

「……まぁいいけどさ、魔法は絶対に使うな、周りに人が居なくとも感知はされる様になっている」

 

 

 

嬉しそうに唸った後、俺の言葉にコクコクと頷きながら次のドーナッツに手を付けた、ホントに大丈夫なのか?

 

 

 

「約束に限らず現場では俺の指示に絶対に従ってくれ、仕事現場は戦場じゃ無いが、安全でもない、良いね?」

 

 

 

 

 

そう言うとまた彼女は頷いて、気付くと俺の選んだドーナッツも食べられていて。

 

 

 

それで兎も角、俺達はユリアを探す事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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