優しく指を包み込む感触に身悶えを抑えながら私は更に力を込めた、ジタバタと動いていた身体からは今にも逃げ出しそうな躍動感は失われ、目からは光が消えている。
「大丈夫?元気ないよ?なんか悲しい事でもあった?」
私に話してみろってー、勿論返事はない。正直もう死んだと思う、だけれど思うだけじゃダメだ。
もっともっともっともっともっと
私は肩から腕から指先から、思いが伝わるようにと思いながら締め続けた。
「とっどけーえッっ、私の愛ぃぃぃ」
どちらかと言えば憎んでいたけれど。
私はそのまま締めて締めて締め続けて、最初にグチャリと、次にぽきりと可愛い音がしてやっと彼は死んだのだなぁと、指を離したのだった。
後はまぁ、何時も通りになるはずだった。
「お嬢様、ドタバタと物音が聞こえましたが大丈夫ですか?」
ほんと、厄介な人。
我が家に古くから勤めているメイド長はなんでも見つけるのが得意だ。私の隠し事は何でも見つけ出してしまう。コッソリ食べようと思ったケーキも、悪い点を取った学校のテストも、割ってしまった綺麗なお皿も、見つけ出して私をコッテリと怒った後一緒に謝ってくれるのだ。
ほんと、厄介な人。
「まぁ、お嬢様!なんてことを!」
誰か!すぐに誰か来てください!誰か!
今日はすぐには寝れそうに無い、あれだけ大きな声で叫ばれてはじきに誰か人が来るだろう、だけどまぁ時間はある。私は人を呼ぼうとするメイド長を後ろから引きずり倒すと馬乗りになった。優しく指を包み込む感触はどうにも好きになれそうにはなかった。
ーーーーー
遂に一人になってしまった。
中東の石油精製プラント開発の現場を見せる為に父に連れてこられた異国は煌びやかな輝きと嗅いだ事の無い香りに溢れ、当時小学生だった私の心を熱くそして深く虜にした。今思えば夏休みに父親らしい事をしてやれない事への父なりの気遣いだったのかも知れないが効果は絶大だ。人並み以上に頭も良く、人生の目標に悩んでいた僕が立派な貝原の跡取りになろうと、父や祖父やそのまた祖父の様に世界を舞台に戦う立派な男になろうと心に決めたのだから。
事の始まりはヒュルヒュルと間抜けな音だった。次にばーんっと目の前の護衛の車が爆発、三人の護衛と運転をしていた父の秘書が死んだ。本当なら今日は休みだったのを息子が来るからと秘書に懐いていた僕の為に父が無理を言って連れて来ていた秘書。
僕のせいで死んだ。
もう一度ヒュルヒュルと音がして、今度は僕達の乗っている車が横転した、要人用の装甲車でなければ同じ様に爆発していただろう、あるいは見越していたのか。砂の中から男達が立ち上がりこちらに走って来るのが見える、僕達は赤子の様に必死に車の中から這い出すと盾にして隠れた。運転手と助手席の男がライフルを撃つが効果は無い、僅かに男達の足を止めるだけだ。
「大丈夫だ、おとうさんが付いてるからな!」
必ず助かる、力強く抱きしめた父の言葉に僕は何も返さなかった。
まず運転手の頭が吹き飛んだ、助手席の男が良く分からない言葉で父に捲し立てる、辛うじてスナイパーという単語だけが僕には聞き取れた。契約破棄か悪態か、何かしらの言葉を父に言うと助手席の男は逃げる様に駆け出して七歩目で頭を吹き飛ばされた。
僅かに悩んだ父もライフルを手に取ると男達に撃とうと立ち上がり、一発も撃てずに頭が弾け飛ぶ。
遂に一人になった。
男達の足音は少しずつ、しかし着実に進んで来ている。