十三世界でただ一人   作:来海杏

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私には夢があります。

私には夢がありますか?

私には夢がありました。


拝啓 サイレンス様



「博士、貴方のそれは愛ではないのですか?」

イギリス ロンドン 裏路地

 

 

逃げてばかりの人生だった。

 

息が上がって来たのを感じる、最低だもっと普段からスポーツでもすれば良かった。人通りの無い路地裏、そんなことを考えていたら段差につまづいて転ぶ、何に使ったかもわからない注射器にコンドームやタバコの吸い殻。最低だ、地面についた手のひらを白衣で何度も拭った。

 

 

『大丈夫ですか博士?』

 

 

白衣の下、Yシャツの胸ポケットに入れた彼女が心配そうに僕に声を掛ける。あぁ、ごめんよガラテア、マイクと発声モジュールしかついていないその身体で転んだりなんてされたら怖かったろうに。ごめん、最低だ僕は。

 

 

「大丈夫だよガラテア、ちょっと転んだだけだ」

 

何もかも問題無いさ、出来るだけ明るい声でそう言うと僕はまた走り出した。逃げてばかりの人生だった。今度は彼女に真実を告げる事から逃げている。

 

 

最低だ。

 

 

ーーーーー

 

 

生まれはアメリカのボストンだった、母は一流の弁護士で年に百万ドル以上も稼ぐ様な敏腕だったがパートナーには恵まれなかった。着々と歳を取っていくなか母はどうしても子供が欲しいと考えて行くようになる。しかし仕事は楽しく、今更パートナーとの面倒な信頼関係の構築に時間は描けてられない、考えに考え、そして思い付いた。

 

精子バンクからノーベル賞候補にまで輝いた男のDNAを買い取ったのだ

 

 

そうして生まれたのが僕だ。

 

 

 

母の願いは概ね叶えられた、賢い息子に時たま家に帰って母らしいことをする自分、仕事と女の幸せを両立させた自分。誤算があるとすれば子供は産みさえすれば済むものでは無いと言う事だろうか?

 

ほぼ毎日家には帰って来ない母、毎朝10時に来て19時に帰るナニーのサマンサだけが友達だった。

 

僕は母にもっとこっちを見て欲しかった、気を引きたかった。テストで満点を取ろうが仕事、飛び級で上の学年になろうが仕事、時たま帰って来た時だけ母は僕を甘やかしたが、クリスマスのプレゼントに欲しかったのは郵送された500ドルとこれで好きなものを買いなさいと言うクリスマスカードではなく母のハグだった、二人で囲う夕食の食卓だった。

 

もっと馬鹿なら人生も楽だったろうに。僕は辛い現実から逃げた、馬鹿ならもっと選択肢もあっただろうが、僕には酒やタバコやドラックにセックス、そして暴力やテレビゲームは全く魅力的では無かった。

 

勉強だ、勉強だけが僕を救ってくれる、必死に勉強して賢くなればいずれ儘ならない現実の方から膝を折り僕に頭を垂れるだろう、と

 

僕はローティーンの殆どを勉強に費やし、同い年の子供がXB●xや下らないテレビのお騒がせセレブの追っかけに必死になっている頃には大学の研究室でAIの研究を行って居た、自慢じゃないがね。

 

 

そして母は

 

母は仕事で関わったIT関係企業のCEOと結婚しその間に新たに子供をもうけていた。

 

 

僕は用済みだと、つまりはそう言う事。

 

 

 

寝る間を惜しんで研究に励んだ、不規則な生活に不健康な食事で身長や体重は思ったよりも成長しなかったし、若くして右側頭部の髪の毛はほぼ全て白髪になったがこれはきっとDNAの都合もあることだろう。そんなことには構いもしなかった。僕は愛を

 

 

愛を作り出したかったのだ、消して裏切らない愛、無尽蔵で無償で、ただ愛すべき対照その一人だけを見つめ続ける愛。

 

 

 

世界が与えてくれないのなら、自分自身の手で作り出すまでだ。

 

その力が僕にはあった

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