十三世界でただ一人   作:来海杏

8 / 35
真剣勝負と「愛してる」を三回以上

 

 

神様、どうか12秒だけ世界を止めてくれ。時計の針が1周するまでなんて贅沢は言わないから。彼女の笑顔を覚えてたいんだ、俺にその時間をくれよ。

 

 

 

あいしてるわ

 

 

 

彼女が口の動きだけで告げたそれに俺はピアノで答える

 

 

 

「俺もだよ」

 

 

 

面と向かってに君に言う勇気なんてないから、こんなやり方しかできないが。

 

 

 

 

 

君に稼げと言われた5分

 

 

 

「……後悔すんなよばーか」

 

 

 

胸の奥で暴れる凶暴な愛が、鍵盤越しに世界に飛び出す。

 

 

 

「世界で一番愛してるぜ」

 

 

 

二階のVIP席で彼女が暴れているのが見える、やっちまえ、負けるな

 

 

 

俺に出来るのはピアノを弾くことぐらい。

 

 

 

 

 

最後の一人に彼女がブレーンバスターを決めるのを見て俺は演奏を止める、今日は皆さま俺の惚気をご清聴頂きどうもありがとうございますってな。

 

 

 

胸の前でひらひらと右手を二回まわし、左手は腰へ当てる

 

 

 

会場を包む拍手に包まれながら俺は出口まで全力で駆け抜けた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

3日前、何時も通りに突然彼女に呼び出された俺は不審者丸出しのツラをぶら下げて彼女の通う日本で一番有名な全寮制の女子校の前にバイクで来ていた。ここに着くまでにゲートを二つ、身体検査を二回。都心を少し外れているとは言えどうかしてるとしか表現のしようのない敷地面積に、俺は高校入学から半年でバイクの免許を取った(彼女の両親の署名付きの推薦状がなければここに来るだけで月に行くより長い時間が掛かる事だろう)

 

 

 

「遅いわ」

 

 

 

校門から出てきた彼女がふくれっ面で俺に言う。

 

 

 

「正気かよ、学校が終わってすぐ来たんだけど」

 

 

 

連絡をしたのは昼よ?ずっと待ってたのに。そう言って彼女は慣れた調子でサイドバックからヘルメットを取り出し被る

 

 

 

「それで?お嬢様、本日はどこに向かえばよろしいんで?」

 

 

 

彼女に呼び出される時はいつも足替わりとトラブルがセットだ、子供の時から変わらぬそれを嫌がりもせず続ける自分をどうかしてると思いながら彼女に問いかけた。

 

 

 

「ん、ここ」

 

 

 

そう言って地図アプリを起動したスマホを差し出す彼女にあいよと返し俺はワザと深くアクセルを回した。

 

 

 

ちょ、ちょっとーッ!!

 

 

 

日頃を考えればこれぐらいの悪戯は許される、だろ?

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

彼女と俺との出会いは5歳の頃、その頃彼女は今の自由奔放なお姫様姿からは想像もつかない程病弱で、俺は暇つぶしにでもなるようにとお姫様にあてがわれたお人形、ってのが口と頭の悪い連中からよく言われた嫌味で。

 

 

 

そう、そうだ、お姫様。彼女の両親は石油やミサイルから電子レンジまで取り扱う様な日本最大のグループ企業の総裁で、彼女はお金が一番の現代社会において日本どころか世界で何番目かに大きい王国のお姫様だ。

 

 

 

現代のお姫様、上級国民ってのかな?なんでそんなラノベの登場人物みたいな幼馴染が居るかというと完全にたまたま。

 

 

 

 

 

俺の親父は探偵だった、と言ってもそんなにご立派なもんじゃ無い、警察官僚崩れの私立探偵。その親父がだ、何かの事件の折に彼女と彼女両親の命を助けた。それが俺と彼女の運命だとか、関わる切っ掛けだとか、そう言うもの。もっと詳しく聞かせてくれと親父にせがんだが機密情報が多すぎるらしい、詳しい話は聞かせちゃくれなかった。

 

 

 

 

 

まぁ話を戻すとして、こっからが俺と親父の苦労の始まりだ。

 

 

 

ただの私立探偵だった親父は、大層な肩書とともに王国に召し抱えられてグループ内の不祥事や不穏分子の処理のため世界中を奔走することになったし(今は北アフリカで現地のエネルギー関連会社の日本人役員の不正を調査しているらしい、この前絵葉書と変なお面が届いた)俺はというと親父に憧れたのを切っ掛けに様々なトラブルに首を突っ込みたがる様になった彼女の見張り兼ボディーガードの為に青春の全てを捧げるハメになった。

 

 

 

 

 

こんなのも悪くないと思う自分に酔ってたらもう17歳だ、初めて彼女と出会ったあの時から10年以上が経とうとしていた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ねぇ?ちゃんと聞いてる?」

 

 

 

昔の事に意識を向けているとサイズに対して20倍ぐらいの値段設定がされているバーガーを食べながら彼女が話しかけて来る。彼女に案内された半地下のバーガーショップ、夜にはバーもやるのか店主の背中の棚には酒瓶が並べられている。アー、ちょっと待ってくれよ?

 

 

 

「何かさ、ガラ悪くない?ココ」

 

 

 

「そうかな?」

 

 

 

「そう思うね、心底」

 

 

 

週に3回は用もなく呼び出されてる以上彼女に何かが近づいたとも思えないがその辺りも仕事の範疇だろう、月に一度彼女のお母さんから「何時も貴方のお父様に無理を言ってごめんなさい、あの子をよろしくね」とお小遣いと称し学生に対して冗談じゃ済まない金額が送られてくるのだ。初めて貰った時、要りませんと言ったがその時に待っていたのは至る所で行われる忖度、王国が俺を守っている。そんな感覚に心の底から感じたものは恐怖だ

 

 

 

圧倒的な善意に殺される

 

 

 

それが中学生の時だ、以来おれは世間知らずでデジタル音痴の女王様の為、お姫様の様子を時々手紙に書いて送っている。

 

 

 

 

 

「デートにピッタリだって、クラスの子が」

 

私達、結構有名なのよ?お姫様と不良学生の不純異性交遊って、皆心底お嬢様って訳じゃないけどね。中には本当に素行の良く無い人もいて、そう言う人からこのお店を教えて貰ったの。

 

 

 

「ごめんなさい、お母様に色々言われてるのは知ってるけど」

 

 

 

結構便利なのよ?皆ラブロマンスが好きみたいで話しかけてくれるの、そう言いながら彼女は俺の口元に付け合わせのポテトを差し出してくる。

 

 

 

挑発的な彼女の瞳

 

「もしかして、不安にさせた?」

 

 

 

 

 

「……不良って、俺かよ」

 

 

 

そ、貴方。

 

 

 

ポテトは湿気ったにしては旨かったがやっぱり値段分の価値は無かったと思う

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

彼女の話というのは要するとパーティーに出席するからその時のパートナーになってくれというもので

 

 

 

 

 

今まで振り回されてきた中では比較的よくあるものだ、彼女は日本で上から数えた方が早いような有力者の娘なのだ。出たいパーティーや出なければいけないパーティーも多い(未だに俺には理解出来ない)余程しっかりしたパーティーなら不届きな連中は居ないが、上級国民の子供達が主催者とはいえ今回は学生がメインのイベントなのだ。彼女に顔を覚えてもらう以上の目的で近づく阿呆もいる。

 

 

 

自由意志なら構いやしないが、そうじゃない連中に関しての最後の一線が俺だ。

 

 

 

王様がそうと求めれば、ただの人間など一族郎党一瞬で消える。

 

 

 

 

 

都内のパーティー会場、元はアートギャラリーか何かだったのを様々な悪党や起業家連中が改装し続けた、そんな建物の怪物みたいな場所で100人近くがクラシックをベースにしたサンプリングに身を委ね踊る。周囲に飾られた絵画が正気か?お前らと、それを見守っていた

 

 

 

「あぁー、……帰っていいか」

 

 

 

「通ると思う?」

 

 

 

俺の幼馴染は人使いが荒い、耳元で喋らないと碌に会話も出来ない様なこの状況で俺は彼女に問いかける。

 

 

 

「じゃ、今回の目的を教えてくれよ、まさか単に俺とデートがしたかったって訳じゃないだろ?」

 

 

 

「そのまさかよ、愛してるわ」

 

 

 

「俺もだ、最高のデートをありがとよ、愛してる」

 

 

 

冗談めかしたその言葉に少しだけ赤くなった、顔がバレない室内の暗さがありがたい。

 

 

 

ップ、と彼女が吹き出す、そんな顔まで可愛いんだからズルいぜ。

 

 

 

「今の、結構好きよ」

 

そう言って彼女は悪戯気な表情で語り出した。

 

 

 

 

 

見える?あのVIP席にいる女の子、そう言って彼女が指さした先にはジャージの上着に制服らしきスカートを穿いた女が慣れない様子で座り、いかにも成金や阿呆な政治家の二代目ですと言った風のツラの良い男達に囲われて何事かを囁かれている。

 

 

 

「彼女がどうした?」

 

 

 

この後良からぬ目に合うかもしれないが、それは俺達には関係ない話だ。

 

 

 

「貴方の言いたいことは分かるけどそうじゃないの」

 

 

 

 

 

彼女は新進気鋭の画家でね、SNSを中心に世界中から評価を受けてるの、画家にしては珍しいことに生きてる間にね。

 

 

 

「ほら、これ彼女のフォロワー、米国国防長官に日本のアイドル、あとわー」

 

アルピニスト!?わお、すごい

 

 

 

そう、でね?元々は曾おじいさんが凄い芸術家だったのを切っ掛けに評価されていた一族だったんだけどね?最近はその遺伝子上の才能も枯れ気味みたいで一族も遺産を食いつぶすばかりだったのよ。その中で生まれたのが

 

 

 

「……彼女って訳か」

 

 

 

 

 

そう、ご名答、そして今彼女に良くない連中が近づいている

 

 

 

 

 

「あぁー。必要な事は何となく見えて来たが、そうなると俺は担当が違うんじゃないか?」

 

 

 

俺達にはあと二人の幼馴染が居る、チームメイトだと少しニュアンスが違うし、兵隊や駒だと情緒がなさすぎる。お姫様と三人の親衛隊。それぞれ得意なことがあるが俺の担当はバカ騒ぎとハッタリだ。

 

 

 

「んふふふ、今日貴方にやって欲しいのはね?」

 

 

 

この会場全員の視線を集めてほしいの

 

 

 

5分間

 

 

 

 

 

……ンハ、ンハハハ、正気かよ?

 

 

 

 

 

「出来ない?」

 

 

 

その聞き方は最低だ

 

 

 

「お嬢さん、アンタ最低だ」

 

 

 

そうね、愛してるわ

 

 

 

「俺もだよ、愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

様々な改装を受け続けた名残か、会場の片隅には一体いつから整備されていないか分かったもんじゃない様なホコリを被ったグランドピアノが置かれている。

 

 

 

 

 

鍵盤を叩けば音の出ている感覚、耳を寄せ調律を確認すればそこまで狂ってもいない

 

 

 

「なんだよ、お前、ガッツあんだな」

 

 

 

 

 

幸運とピアノのガッツに敬意を、我らの無慈悲なお姫様に愛を。

 

 

 

 

 

俺は音響関係の電源コードを抜き音楽を強制的に止め、DJのとぼけた顔に中指を立てる。暗い中でサングラスかけてんじゃねぇマヌケ。

 

 

 

沈黙がチャンスだ。ざわつくより早くアルコールや煙草やもっと良くないものにやられた連中の脳に飛び切りの愛を流し込む。

 

 

 

 

 

飛び切りスイングしたラブソングにしよう、彼女への愛で世界を揺らしてやる。

 

 

 

掛かってこい、掛かってこい!掛かってこい!!

 

 

 

 

 

俺に掴みかかろうとしたDJが足を止める、音楽に体を揺らしていた連中はマヌケ面を徐々にニヤケさせる。

 

 

 

 

 

良いだろ?聞いてくれ、俺の惚気

 

 

 

5分どころか2時間だって聞かせてやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

遠いVIP席に彼女の姿が見えて、彼女は例の画家と二人で俺の方を見ている。いい笑顔だ、ズルいぜ。

 

 

 

 

 

あぁ、神様どうか12秒だけ世界を止めてくれ

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。