【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
レジスタンスのアジトの入口付近、そこでウォーグレイモンX抗体とメタルガルルモンX抗体が客人と向き合っていた。
「初めまして、と言うべきかな? 勇者殿」
「初めましてでいいと思うぞ。森の賢者」
ウォーグレイモンX抗体に森の賢者と呼ばれたのは、
どうやってここに来たのか、ウォーグレイモンX抗体たちは地味に気になっていた。
まぁ、歩いてきたのだが。
「ここに来たということは協力の話を受けてくれるってことで、いいんだよな?」メタルガルルモンX抗体がそう聞けば、ジュレイモンは苦々しい表情をして答える。
「うむ。本当に、本っ当ーにっ遺憾じゃがな。それでも、あの聖騎士様を騙るバケモノに対抗するにはそれしかない」
「……そうか。いや、ありがたい」
手を組む、協力するという相手に対して尊大過ぎるジュレイモンの言葉に、ウォーグレイモンX抗体は内心に湧き出た感情を何とか飲み込んだ。
そして、そんなウォーグレイモンX抗体に苦笑いをしたメタルガルルモンX抗体は手を差し出す。その手は、掴まれることはなかったが。
「……具体的に作戦を詰めたい」メタルガルルモンX抗体がそう口にした。
「と、言うと?」
「今度はこっちから、叩く。そのための作戦だ」
ウォーグレイモンX抗体の力強い言葉に、ジュレイモンが顔を顰める。そこには、彼らに対する露骨な嘲りの表情があった。
「冗談じゃろう。あのバケモノは力だけはある。そのバケモノに戦いを挑むじゃと? 冗談も大概にするといい」
「冗談なものか。いつまでも逃げ隠れてたんじゃオレたちが負ける。わかっているだろう?」
「……勇者とは聞いていたが、まさか蛮勇の方であったとは。わかってないのはキサマらのほうじゃろ。キサマのその怪我、大方あのバケモノにやられたんじゃろ。手も足も出さずにやられた、違うか?」
「……」
「キサマらX抗体持ちは確かに強い。じゃがそれは従来のデジモンに比べての話。キサマらがどれだけ束になろうと、あのバケモノには届かない」
ジュレイモンは見抜いていた。ウォーグレイモンX抗体の力量を。たかが完全体デジモンであっても、それでも究極体に進化できなかっただけで、長い時を生きている経験だけはあるのだ。だから、他人の質を見抜くくらいは容易い。
そんな彼にわからないはずがないのだ。あの白い聖騎士の力が。そして、自分たちとの力の差が。
「……それでも、戦って勝たなけりゃ未来はない」
絞り出したようなウォーグレイモンX抗体の言葉を、ジュレイモンは静かに聴いていた。
「そうか。てっきりもっと建設的な同盟だと思っていたのじゃが……勘違うとは、儂も衰えたか」
そう言ったジュレイモンは鈍い音を立ててウォーグレイモンX抗体たちに背を向けた。
そんなジュレイモンの背中に、メタルガルルモンX抗体が声を投げかける。
「ご老体。貴方も本当はわかっているはずだ。未来を掴み取るにはどうすべきなのか」
「……それでも儂には守るものがある。そやつらを望まぬ戦場に駆り出すことなどできんよ。自殺なら、キサマらだけでしてろ」
ジュレイモンは入口に立つ。入口の岩を開けろ、とウォーグレイモンX抗体に目を向けた。
「……オレたちの行いが自殺というなら、殺されるのを待つアンタたちも自殺ってことじゃないか……――」再び絞り出したような、ウォーグレイモンX抗体の声。
「そうじゃな」
ジュレイモンは静かに苦笑って、小さく声を出す。
「まぁ、儂はもう年老いた。その時は若いもんたちだけを逝かせはせぬよ。……生き残るのは、いつだって戦えるものじゃ。きっとキサマらは生き残れるのじゃろうな」
それは、どこか諦めたような言葉だった。あるいは、激励のような言葉だった。
ウォーグレイモンX抗体はもう何も言わなかった。ただただ黙って、入口の岩を持ち上げる。ジュレイモンはそこから外に出る――。
「っぐ」
――のだが、様子がおかしい。
何か苦しんでいるような。
「どうかしたのか?」怪訝に思ったメタルガルルモンX抗体が声をかけた。
「い、いや。何でもない」
すぐに元通りの様子を見せたジュレイモンは、今度こそ外に出て帰っていく。
その後ろ姿を、ウォーグレイモンX抗体たちは複雑そうに見ていたのだった。
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ニュースが入ったのは、その次の日のことだった。
普段とは違う慌ただしいさを肌で感じたのだろう、誰に起こされるでもなくコータたちは飛び起きた。起きてみると、多くのデジモンたちが集まってはざわついている。
そして、その中心にいるのはメタルガルルモンX抗体で、険しい顔で周りのデジモンたちと何かを話し合っていた。
「なぁ、どうしたんだぁ?」
ドルガモンが適当にそこをウロウロ歩いていたパルモンX抗体を捕まえて、話を聞く。
「あのね、抗体を持ってない奴らが攻めてきたの!」
「は? なんで?」
「それがわかんないのよっ」
混乱したままだったが、パルモンX抗体は話してくれた。
今朝、日が昇るよりも早く、X抗体を持たないデジモンたちがここを攻めてきたというのだ。今、最大戦力であるウォーグレイモンX抗体が外に出て適当にあしらっているらしいが、あしらわれてもなおここに攻めるのを止めようとしないらしい。
つまり、彼らは本当に
「まずいのう」
「アウ……」
ウォーグレイモンX抗体一人で、敵側に怪我もさせずにあしらえるほどなのだから、戦力は大したことはないのだろう。だが、時間をかければかけるほど、あの白い聖騎士に見つかる可能性が高まる。
面倒な事態だった。
「いっそ殺るべきじゃないか?」コータの言葉に、ドルガモンも頷く。
「アタシもそう言った、っていうか、ここにいる大半はそうなんだけど……」
パルモンが言うには、メタルガルルモンX抗体とウォーグレイモンX抗体がその気がないらしい。
なぜ、とコータたちは首を傾げる。
「抗体持ちと従来のデジモンたちは、元々殺し殺されの仲だったでしょ」
意図してなかったとはいえXウィルスの散布、そこからのX抗体の奪い合い――抗体持ちと通常のデジモンたちの溝は深い。
そんな中でのあの白い聖騎士による無差別削除は、多少とはいえその溝を埋める事態だった。
だが、ここで両者が争えばその溝はまた深まることになるだろう。
そうなると困るのは誰で、得するのは誰だ。
「つまり、ウォーグレイモンたちはこの襲撃の裏に抗体持ちと普通のデジモンたちが仲良くするのを阻止したいやつがいると考えているんだな?」
「思い通りにはならないぞってことか」コータの言葉に、ドルガモンが頷く。
なるほど、経緯はわかった。予想以上に難しい事態になっていることもわかった。
「そうなるとどうするべきか……」
「まず、なんであいつらが襲ってきているのかを知らなきゃ……」
コータとドルガモンは考え込む。
そして、「あ」と顔を見合わせた。その視線は――
「ん? な、なんじゃお前さんらっ!」
――その視線は、ボコモンに向いていた。
「ボコモンは抗体持ちじゃないだろ?」とコータが言えば、
「じゃあ、聞き出してきてくれよ」とドルガモンが迫る。
「う、なんでじゃ。や、やめ、い、いやじゃ、いや、……なんでわしがぁぁぁぁああ!」
「アウッ」
結局、ボコモンはトコモンに蹴り出されて行くことになった。
コータたちが入口のところへ行くと、酷かった。入口を塞いでいた大岩は奇襲だった初撃によって完全に壊れていて、もはやこのアジトの入口が丸見えだ。
「ほら、行ってこい!」
「うわーん」
ドルガモンがボコモンをぶん投げる。ボコモンは少し離れたところに見えた通常デジモンたちの波の中に消えていった。
「大丈夫かな」
「大丈夫だろ……あ、ウォーグレイモンの出した火球がちょうど――」
コータたちは見て見ぬふりをした!
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一方、ウォーグレイモンX抗体。
「ふっ、やぁっ」
ウォーグレイモンX抗体は向かってくるデジモンたちをひたすら投げ飛ばしていた。それが一番相手に怪我をさせない方法だからだ。
あとは、時折威嚇で技にもならないほど小さな火球を投げつける程度である。
「さっきから言っているだろう! これは罠だ! 誰かがオレたちを嵌めようとしているんだっ」
「うるさい!」
ウォーグレイモンX抗体の言葉に聞く耳を持たないとばかりの反応だった。
最前列にいた
そんな彼を狙うのは、
「“ファイアーブレス”!」
吐き出された火炎を、ウォーグレイモンX抗体は左手で払う。
厄介だった。勝ち筋も終わりも見えないこの状況そのものが。
「だから、聞いてくれっ。このままじゃあのバケモノが来る! そうしたら、君たちだって危ないんだぞ!」
「うるさいうるさい! お前らが始めた戦争だろうが! お前たちがおいらたちの帰る場所を奪ったんだろうが!」
「は?」その言葉に、思わずウォーグレイモンX抗体が固まる。
「お前たちが消えるのなら、別においらたちは死んだって構うもんか――!」
マッシュモンの叫びと共に、一瞬だけでも固まったウォーグレイモンX抗体に攻撃が殺到する。
大岩が、炎が、雷が、キノコ爆弾が、水流が、彼らの放つあらゆる攻撃がウォーグレイモンX抗体を襲った――!