【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第十話~止まらぬ争い~

 その惨劇は、昨日の夜に起こった。

 そこは森の中の集落。今という危険な時勢に対抗すべく、元来森林地帯に住む植物系や昆虫系のデジモンたち以外にも多くの種が集まって作られた集落だった。

 彼らは力を合わせて暮らしていたのだ。

 一瞬先に誰かが、それこそ己が死ぬかも知れないという時代。そんな時代においては、我が身可愛さにX抗体を奪いに行こうと単独行動する者は多い。そんな中でこの集落に集まった者たちは、自分たちは穏やかに細々と生きようとしている変わり者なのだ。

 悪い言い方をすれば、この集落は変化した時代についていけなかった者たちの集まりだった。

 そんな、いずれ時代に適合できずに飲まれて消える定めを持つだろうその集落で、惨劇は起こった。

 それは集落中の反対を押し切ってレジスタンスとの話し合いに出かけた長老(ジュレイモン)が帰ってきて、しばらくしてからのことだった。

 

「う、がぁああああああああああ!」

 

 ジュレイモンが豹変したのだ。理性を失くし、ただただ暴れるだけの機械になってしまったのだ。

 

「な、え、どうしたんですかっ、長老! う、うわぁっ」

「正気に戻ってください! お願いします! いつもの優しい――あ、がっ」

「た、助けてくれっ」

「長老がぁ、長老がぁっ」

 

 集落中の誰もがどうしたらいいかわからなかった。

 だって、そうだ。こんなことは知らない。Xウィルスで死ぬのではなく、誰かに殺されるのでもなく、狂ってしまうことなんて誰も知らない。だから、戸惑い、逃げ惑う。

 集落でもトップクラスの力を持つジュレイモンから逃げられる者など多くない。暴れるジュレイモンの攻撃によって、死傷者が多く出た。

 

「っぐ」

「お、い? どうし――」

「ぐがぁああああああああ!」

 

 しかも、悪いことは続くものだ。

 それはまるで病気が感染するように。

 ジュレイモンと同じように理性を失くして暴れ始める者が出始めたのだ。ついさっきまで共に暮らしていた仲間が、自分を殺そうと暴れ始める。

 逃げ惑うことができた集落の者たちは、必死にその身の理不尽を呪う。

 敵に殺されたのならまだいい。どうしようもないこと(Xウィルス)で死ぬのなら、まぁ、諦めもしよう。

 

「っく……」

 

 だが、何のせいで、仲間が狂ってしまうのか。

 

「う……」

 

 誰のせいで、仲間に殺されなければならないのか。

 

「うわぁあああああ――!」

 

 どうして、自分たちは仲間を殺さなくてはならないのか。

 事態が収拾したのは、あと少しで夜が開けるかという時間帯だった。生き残ったのは、全体の二割にも満たない。暴走した者たちの破壊と戦闘行為で、集落は完全に崩壊していた。

 

「……ふざけるな」

 

 共に生きた仲間たちを手にかけ、醜く()()()()()()()()()者たちはもはや理不尽を呪うことしかできなかった。

 そして、立ち上がる。何のせいでなど、わからない。どうしてなど、わからない。だが、誰のせいなのかだけは、わかる。

 レジスタンス(X抗体デジモン)だ。ジュレイモンは彼らに会うまで、いつも通りだった。彼らに会って帰ってきて、それでこうなった。

 疲労と怪我に苦しみ、理不尽を呪うばかりの彼らには、それしか思いつかなかった。

 生き残れた者たちの中には怪我と疲労で死のカウントダウンが始まっている者もいる。今、この怒りと憎しみをぶつけなければ、理不尽に狂ってしまいそうな者もいる。

 だからこそ、彼らは動いた。湧き上がった感情を一刻も早く清算したいと。このいつ死ぬかもしれない時代、自分たちが死ぬ前に殺してやると。

 焦りと憎しみと怒りと――さまざまな色が綯い交ぜになった激情を原動力に、彼らは突き進んだ。

 幸いにして、場所だけはジュレイモンから聞いているのだ。詳しい入口がわからなくても、どうとでもなる。

 

「抗体を得ただけで生きられると勘違いしたあの死に損ないどもを討つ――!」

 

 誰かが言ったその言葉と共に、生き残った者たちがどこかにアジトがあるだろう岩壁に向けて攻撃する。

 誰もが予期しなかった戦争が、無意味に終わる戦争が、そこで始まったのだ。

 

 ********

 

 そして、現在。

 事態は思いの外悪くなっていた。

 この事態に関係のない、さまざまな通常のデジモンたちがこの場に集まり始めていたのだ。

 それは、純粋に風の噂で話を聞いたX抗体を憎む者たちであったり、X抗体を奪おうとする者が火事場泥棒を働こうとしていたり、さまざまな理由でこの場に現れ始めたためであった。

 そのために、場が混沌とし始めた。

 

「っく……!」

 

 もはや、ウォーグレイモンX抗体の手だけでは足りず、他のX抗体デジモンも参戦している。

 最悪のパターンだ。あの手加減はウォーグレイモンX抗体だから出来たのだ。他のデジモンたちにそれはできない。

 これでは死傷者も出始めてしまうだろう。

 そうすれば本当にX抗体と通常のデジモンの溝が深まることになる。その果てに待つのは、この世界を巻き込んだ戦争だ。

 それだけは避けなければならない。この状況を引き起こした何者かの思い通りには絶対になってたまるものか! ウォーグレイモンX抗体はそう誓う。

 だが。

 

「っあ、ガ……」

 

 だが。

 

「あぁ……い、や、死にたく――!」

 

 だが、もはやウォーグレイモンX抗体(たった一人)だけでは事は止まらないところまで来てしまった。

 ついに死亡者が出る。

 最初に死んだのは、パルモンX抗体だった。

 

「やった! やったぞ! オレたちでも勝てる! あのちょっと強くなっただけで調子の乗ってる連中に勝てるんだ!」

 

 それが、通常デジモンたちを調子づかせる結果となった。

 

「お前らァああああ!」

 

 それが、リーダー格に言われてしぶしぶと防戦していたX抗体デジモンたちの空気を変える。

 

「殺す――!」

「殺せ――!」

 

 通常デジモンたちとX抗体デジモンたちが、本気でぶつかり合う。

 これを、どう見るか。

 憎悪と憤怒に駆られた戦争、生存闘争から最もかけ離れた行為だと見るか。それとも、これこそが世界の覇者たる種族を賭けた、真の生存闘争だと見るか。

 

「っ、やめろっ!」

「やめるんだっ!」

 

 ウォーグレイモンX抗体やメタルガルルモンX抗体の声も届かない。

 偏っていた戦線は引き戻され、敵味方問わず多くのデジモンが倒れた。命が、まるで水に濡れた和紙のように破れていく。

 

「この世界から出て行け――!」

「この世界はオレたちのものだ! お前たちは選ばれてないだろうが!」

「不法侵入する狼藉者がっ。潔く消えろ!」

「お前たちのいるべき居場所は旧世界だろう!」

 

 X抗体を持たない、この世界の正当な住人たちが正論を感情任せに叫ぶ。

 

「僕たちは生きるんだ! 死んでたまるか!」

「お前らは俺たちに死ねというのか! お前たちは俺たちの立場だったら死ぬのか!」

「この世界に来て何が悪いんだ!」

「ここが我々の新たな居場所だ――!」

 

 X抗体を持つ、この世界に来た侵略者たちが暴論を感情任せに叫ぶ。

 感情任せの言葉は善悪正誤をかき消して、ただただ言葉の本懐を成さずに戦場に溶けて消えていく。

 

「この――わからず屋ども――!」

 

 誰かが叫ぶ。果たして、それはどちらの誰の言葉だったのか。

 もはやそれすらもわからないほどに、事態は混沌としていた。

 

「っく。いい加減に――」

 

 そして、こうなってしまった事態に対して、ついに強者(ウォーグレイモンX抗体)が折れた。

 その手に出したのは、巨大な火球。それは、彼の必殺技。

 

「――しろーっ。“ガイアフォース”ッ」

 

 投げられた火球が、空を裂く。

 誰もがその火球に呆然とした。特に、敵側である通常デジモンたちはその威力に正気に戻る。冷静な部分が勝てないと、その事実を思い起こさせ――

 

「そんなこと知るかっ。あれを殺すためにここに来たんだっ。命なんて惜しいもんか!」

 

 ――その冷静な部分を、誰もの中にある感情の部分が押し潰した。

 あれ()でも止められなかった。

 今、ウォーグレイモンX抗体とメタルガルルモンX抗体というこの場の二大強者は選択を迫られていた。

 すなわち、自分たちも参戦するか否かだ。今は敵の攻撃を防ぎ躱すだけの二人だが、これ以上は時間の問題であることもわかっていた。

 

「っどうする――!」

 

 残された時間を使い切るまで諦めないと、ウォーグレイモンX抗体たち二人は必死に考える。

 だが、その時(タイムアップ)は意外な方向から飛んでくることになる。

 

「“ガイア――」

「なっ」

「――フォーッス”」

 

 漆黒の火球がウォーグレイモンX抗体に向けて放たれた。

 それを、その技を、ウォーグレイモンX抗体は知っている。自身の技と同じ名前を関する技を、ウォーグレイモンX抗体は()()()()

 空の向こう側へと消えていった火球を横目に、ウォーグレイモンX抗体は攻撃を仕掛けてきた相手を睨みつけた。

 

「ふん。どうした。X抗体を得て弱くなったか? 噂に聞くX抗体がこの程度とは」

「ブラックウォーグレイモン――!」

 

 そこにいたのは、漆黒の竜人。

 ブラックウォーグレイモンと呼ばれるウォーグレイモンの亜種だった。

 

「まさかお前が来るとは思わなかったよ」

「それはオレも同じだ。こんなくだらん場所に来る気はなかった」

「くだらない、だと……?」ウォーグレイモンX抗体が険しい表情で見る。ブラックウォーグレイモンはさも当然そうに答えた。

「ああ。くだらない。だろう? どいつもこいつも戦うべき相手すら見定められない、馬鹿しかいない」

「それは――」

 

 ウォーグレイモンX抗体が口を開こうとする。

 

「っ、ウォーグレイモンッ」

 

 瞬間、メタルガルルモンX抗体の叫びに、ウォーグレイモンX抗体は慌てて対応した。

 迫り来る漆黒のドラモンキラーを、彼は何とか自身のドラモンキラーで防いだ。そして、すぐに睨みつける。

 だが、

 

「どうやらお前も知らないらしい。オレはお前のことを買いかぶり過ぎていた……いや、これはオレだからわかったことであるから、それも仕方ないのか」

 

 ブラックウォーグレイモンの目には、失望だけがあって。

 ウォーグレイモンX抗体は呆気にとられる。

 

「まぁいい。ここに来たのも何かの縁。何の役にも立てぬ、何も成せぬ、為すべきことの前で行動すらせずに思考だけ巡らせる愚か者。そんな愚鈍さを示すことしかできぬというのなら、ウォーグレイモンでいるなッ!」

「っ」

「さぁ、積年の決着を……否、オレがお前にトドメをさしてやる」

 

 そして、ブラックウォーグレイモンがウォーグレイモンX抗体に向かって攻撃を仕掛けた――。

 




というわけで、なんかごっちゃごっちゃとした結果、戦争。
Xプログラムのせいで、死ぬのが遅いか早いかくらいの違いしかない通常デジモンは死という結果では止まりません。
死ぬのが怖いとか言ってもどうせ死ぬので、それなら最後にスッキリしようくらいの気持ち(実際はそんなに簡単に言える感情ではありませんが)で戦ってます。

さて、それでは次回もよろしかったらよろしくお願いします。
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