【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
戦火はコータたちさえも巻き込んでいた。
「トコモンはしっかりオレに捕まってろよっ」
「アウッ!」
トコモンを抱えるコータはメイクーモンと共にドルガモンの背に乗って、戦場にいた。
もちろん、彼らも初めは観戦していた。だが、その最中で抗体を持たないデジモンたちに襲われ、仕方なく戦い始めたのだ。
コータたちはウォーグレイモンX抗体たちほど強くない。殺す気で来ている相手に余裕など持てるはずもない。生きるため、生き残るために、彼らは必死に戦い続けるしかなかった。
「右と左の前方! その次に後ろだッ」
「おう! “パワーメタル”連打ッ!」
コータの指示に従って、ドルガモンが攻撃する。
ドルガモンは攻撃に専念し、コータは索敵に専念する。この乱戦状況ではそれが
だが、それでも。
「っち。キリがない。……右斜後ろだっ」
「おう!」
次から次へと増える通常デジモンたち。彼らはX抗体デジモンに思うところがあるから、ここにいる。このベルサンディターミナル中に存在する、X抗体デジモンに思うところがある者たちが集まってきている。
対して、レジスタンス以外のX抗体デジモンはいない。X抗体デジモンに通常デジモンを狙う理由はない。つまり、参戦する理由がない。
増えるデジモンたちと、増えないX抗体デジモンたち。これが示すのは、このままでは数の差で押し切られるということだ。
「アウアウ?」
その時のトコモンが何と言ったか、コータには珍しくわかった気がした。
「逃げたくても逃げ道はない。逃げてる間にやられちまうよ」コータは苦笑い気味にそう言った。
「アウー」
「正面! その後ろにもう一体!」
「おらぁっ!」
ドルガモンの鉄球が正面から突撃してきた
モノクロモンが倒れ込む時には、ドルガモンは既に別の相手に攻撃していた。
……この場では、敵の生死を確認している余裕すらない。次から次に来る相手を捌き続けることしかできないのだ。
「……っ」
そしてその時。
コータが、いや、この場にいた全員が状況も忘れて空を見上げた。
********
その時、ウォーグレイモンX抗体は遥か上空でブラックウォーグレイモンと戦いを繰り広げていた。
「らぁらああああああ!」
「ふんんんんんんんっ!」
ラッシュ。
ドラモンキラーとドラモンキラーのぶつかり合い。目に見えないほどに腕が動く。相手を貫くべく動かされた腕は、しかし、相手に防がれて届かない。
時折、蹴りが出される。それも蹴りで返される。
似た容姿に似た動き。高速で繰り返される技の応酬。もはや傍からではどちらがどう攻撃しているかさえわからない。
「なるほど。やはりX抗体とは名ばかりだな。抗体を持たないオレと互角とは」
「はっ。やっぱりお前は変わらないなっ。オレとしてはお前がX抗体を得てない方が意外だった、よっ」
「ふん。強くなれるなら確かにX‐進化も悪くない。だが、アレの思惑に乗るのは癪だ。そもそも強くなると言われても、今のお前を見ると疑問が残る」
「言ってくれるなぁっ。嘘つきめ」
ウォーグレイモンX抗体の言葉に、ブラックウォーグレイモンは嘲笑って返した。もちろん、彼とてわかっているのだ。
ウォーグレイモンがX抗体を得て強くなっていることは。
「ふん。身体だけ強くなったところでどれだけの意味がある」
ウォーグレイモンX抗体の場合、X抗体を得て強くなったのはあくまで純粋な身体能力だ。ブラックウォーグレイモンはそれを知っている。
だから、言えるのだ。ウォーグレイモンX抗体は強くなっていない、と。
「オレがお前とどれだけ戦ったと思っている」
「……!」
「少しばかり姿形が変わった程度で、少しばかり動けるようになったところで、オレがお前に引けを取ると思うな――!」
ブラックウォーグレイモンのそこには長年の友情にも似た、しかし、それでいて全く違うものが垣間見えた。
変わってしまった世界で、変わってしまった自分で、しかし、変わらないものがそこに確かにあって。
思わず、ウォーグレイモンX抗体もニヤリと凶暴に笑った。
「ふん。やっと上辺が剥がれたか。相変わらずの優等生詐欺だな」
釣られて、ブラックウォーグレイモンもニヤリと凶暴に笑った。
示し合わせたように、どちらからともなく、二人は距離を取る。そして、その手に生み出したのはその身体の何倍はあろうかという超巨大の火球。
「“ガイア――」今この時だけは、ウォーグレイモンX抗体は状況も忘れた。
「“ガイア――」今この時だけは、ブラックウォーグレイモンは目論見を忘れた。
そして、同じ名を冠する技が、彼らが戦いと共に磨き上げた
「――フォース”!」
「――フォース”!」
大気中のエネルギーを凝縮した一撃が、負のエネルギーを凝縮した一撃が、ぶつかり合う。
威力は互角だった。
「っう――!」
「っく――!」
ぶつかり合って、弾ける。
その衝撃に吹き飛ばされて、二人は遥か上空から地上へと落ちていったのだった。
********
究極体の全身全霊のぶつかり合い。
その余波は戦場にも届いていた。平常時ならともかく、X抗体としても、通常デジモンとしても、疲労と怪我に塗れた今の状況でその余波に耐え切られる者などそう多くはなく。
その一瞬で、戦場が崩壊する。
紙吹雪のように、敵味方問わず吹き飛んでいく。
その中には、コータたちの姿もあった。咄嗟に全員で固まったのはいい。だが、全員がバラバラにならないことを優先する余り、彼らは踏ん張ることができなかった。
「ぐへっ」
そして、墜落。
コータたちはアジトの入口があった岩壁に叩きつけられ、そこでようやく止まることができた。幸か不幸か、ドルガモンがクッションになってくれたおかげで、メイクーモンを除く脆い面々が大変なことになることはなかった。
「いてて……大丈夫かー?」コータが声をかける。
「うぐ、うぅ、おう」
「アウー」
ドルガモンとトコモンが弱々しく声を上げた。だが、メイクーモンだけが返事をしない。
もしかしてはぐれたか、とコータたちが驚いて見るとそこには普通にメイクーモンが立っていた。
「何だ。いるじゃんかぁ。心配させるなよ」
ドルガモンがメイクーモンに声をかける。だが、応えない。
コータたちは首を捻った。そう言えば、確か戦場に出てからはずっと静かだったな、と思い返して。
「にゃぁー……」
その時、メイクーモンはか細く鳴いた。悲しそうに鳴いた。……寂しそうに、
その意味をコータたちが察することはなく。
「コロス」それがメイクーモンの声だとは、コータもドルガモンも思えなかった。
次の瞬間、メイクーモンの身体が怪しく光る。それは、進化の光だった。
メイクーモンが進化する。猫獣人の女戦士とでも言うべき姿に。メイクーモンの面影があるが、人型になったが故か、足や腕に僅かに装着する禍々しい鎧が故か、全くの別人のようにさえ見えて。
彼女こそが、メイクーモンの進化体――メイクラックモン
「……コロス」
メイクラックモンVMはコータたちに目もくれなかった。
一心不乱に駆けていく。その先にいるのは、先ほどまで戦場だった場所で動く者――ブラックウォーグレイモンだ。
「なっ」
驚きで目を見開き、ブラックウォーグレイモンはドラモンキラーでメイクラックモンVMの爪撃を防ぐ。
その時、彼は確かに見た。メイクラックモンVMの顔に、涙があったことを。
「ナンデ……ナンデ……!」
「なんだ?」
「ナンデ、殺ス。ナンデ、殺サレル。ナンデ、恨ム。ナンデ、怒ル。ナンデ、死ヌ。イヤ。ナンデ、オ前タチハ生キル――!」
「っち」
ブラックウォーグレイモンにとって、この場にメイクラックモンVMがいたのは予想外だった。だが、彼は思う。これは好機ではないのか、と。
そこに思い至った瞬間、驚きと思考で鈍っていたブラックウォーグレイモンの動きが精錬されたものになる。そしてそれは、メイクラックモンVMの動きを軽々と超える。
「ック、ヌウ……アァアッ!」
メイクラックモンVMは死なないように耐えるので精一杯だった。
「ふんッ!」
一方で、ブラックウォーグレイモンの攻撃は苛烈さを増していく。
その腕のドラモンキラーの動きはどんどん速くなり、やがてメイクラックモンVMの身体に多くの傷を残し始めた。
「――!」
「トドメだ」
ついにブラックウォーグレイモンが押し切る。
振り上げたドラモンキラーがメイクラックモンVMの顔面を貫く――
「ドルガモンッ」
「“パワーメタル”!」
――その瞬間、ドラモンキラーに走る僅かな痛み。ほんの少し、軌道がブレる。
ほんの少しだけだ。だが、そのほんの少しが明暗をわけた。
「ッ――!」
メイクラックモンVMが対応する。暴れるようにして、無理矢理にブラックウォーグレイモンから距離をとった。
「テイマーとパートナーデジモン、か」
ブラックウォーグレイモンは睨みつける。メイクラックモンVMを守るように立つ、コータとドルガモンの姿を。
「何も知らない癖にそれを庇うか」
「何も知らないとか、教えないくせに言うなよ」コータが吐き捨てる。
「なるほど。それも最もだ。しかし、真実はお前たちが背負うには重過ぎる。耐えられないのに背負われても困る。後で尻拭いする羽目になるのはオレたちなのだからな」
ブラックウォーグレイモンの言っていることは、コータたちにも何となくわかる。コータたちだって好き好んで面倒を背負う趣味はないし、実際に自分たちが生き抜くので精一杯な自分たちが背負い切れないものを背負えば自滅するだけだということもわかっている。
だが、やはり勝手に測られ、決めつけられるのも癪に障るものだ。
「コータ……」
「わかってる。どうにかしてこの場を超えるぞ」
何とかして鼻を明かしてやる、とコータたちは意気込んでいた。
まぁ、ブラックウォーグレイモンの鼻を明かしてやらなければ
何にせよ、コータたちだけでは万に一つにしか可能性はない。であれば、メイクラックモンVMの力が必要だ。
「メイクーモンもいいよな?」
コータはメイクラックモンVMに声をかける。彼はメイクラックモンVMという名称がわからないので、そのままメイクーモンと呼んだが。
「……」
メイクラックモンVMは答えなかった。少し驚いたように悲しそうにしていただけで。
「……ゴメン、ニャ」
それはどういう意味だったのだろう。
そう言ったメイクラックモンVMは次の瞬間、コータを蹴り飛ばした。
「っ、コータ!」思わず、ドルガモンが叫ぶ。
蹴り飛ばされたコータは真っ直ぐにブラックウォーグレイモンの元に飛び――
「だから言っただろう」
――冷たい目を向けるブラックウォーグレイモンにキャッチされた。
一方で、メイクラックモンVMはその隙に逃げ出していた。ブラックウォーグレイモンは眉を顰め、コータを地面に落とす。
「いてぇっ」思わず声を上げるコータ。
「大丈夫かぁっ」
そんな彼の元に、ドルガモンがやって来る。
ブラックウォーグレイモンはそんな彼らを気にすることなく、メイクラックモンVMが逃げ出した方角を見ていた。
「逃げられると思っているとは」
メイクラックモンVMを追う気なのだろう。ブラックウォーグレイモンは足を動かし、しかし、すぐに止めた。驚いたように明後日の方角を見ている。
「このタイミングか――!」
直後。
争いの音を聞きつけて、来る。
絶望が、空から来る。
「……なるほど。少し遅れたか」
降り立ったのは、白き聖騎士。
この世界で最も有名な聖騎士の一人――と、同じ名を冠する者。
「まぁいい。我が使命、果たす時」
――オメガモンAlter-S、襲来。
「いつから白き聖騎士がただのオメガモンと錯覚していた?」
「ナ、ナンダッテー!」
……と、そんな虚しい冗談はさておいて。
あんだけわかりやすく書いてましたからね。まぁ、皆さんわかってましたよね。
そういう訳で、第一章のラスボスであるオメガモンAlter-Sの登場です。
戦争は某馬鹿共が好き勝手やった結果、吹っ飛びました。描写してませんが、あの余波で死亡者も出ています。
まぁ、馬鹿共が何もしてなかったら、ラスボスの攻撃でまとめて吹っ飛んでいたんですが!
というわけで、いよいよ第一章も佳境です。
それでは、次回もよろしかったらよろしくお願いします