【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第十二話~ニセモノの戦い~

 現れたオメガモンAlter-Sを前に、ブラックウォーグレイモンは苦々しい顔を隠せなかった。

 いずれ相対し、倒すべき相手ではあったが、今はその時ではない。それに目の前の相手よりも優先度が高くて、なおかつ手軽に倒せる相手が近くにいる。

 

「闇の塔から生まれたデジモンモドキ、か……――」

 

 だが、オメガモンAlter-Sにはそんなことは関係なかった。

 彼はブラックウォーグレイモンを見、次にコータたちを見て、メイクラックモンVMが消えていったのだろう方角を見て、そして最後にブラックウォーグレイモンに視線を戻す。

 

「所詮は悪ぶっているだけのチンピラか。我が主の意にはそぐわない。削除する」

 

 オメガモンAlter-Sが肩を竦める。

 その姿に、ブラックウォーグレイモンは「仕方ない」と小さく呟いた。

 同時に、オメガモンAlter-Sが動く。

 

「ふっ!」

 

 オメガモンAlter-Sが大地が割った。凄まじい速さで踏み込んで、突き出した右腕。狼の籠手がブラックウォーグレイモンをぶん殴る。

 ブラックウォーグレイモンは抗うことなくそれを受け――吹き飛んだ。

 

「逃げる気か」

 

 あまりの手応えのなさに、オメガモンAlter-Sは冷静に分析した。

 事実、それは正しい。

 わざと攻撃を受けることで距離を取り、その勢いを利用して撤退の道を選んだのだ。

 しかも、ブラックウォーグレイモンは吹っ飛ばされながらもコータたちを引っ掴んでいた。

 

「ッ、おいぃいい!」

「あがががががが!」

 

 突然に高速でぶっ飛んできた相手に身体を掴まれ、一緒に吹っ飛ぶことになったコータたち。彼らは凄まじい空気抵抗にさらされて今にも飛びそうだった。いや、物理的に飛んでいるのだが、この場合は意識が飛びそうだったのだ。

 

「追ってくるか。だろうな。ふんっ」

 

 ブラックウォーグレイモンは思いっきり足を振り下ろす。

 その先にあったのは、地面だ。しかも、ただの地面ではない。その下にあるのは、レジスタンスが使っていたアジトだ。

 さて、中に空洞がある場所に上からとんでもない衝撃を加えればどうなるか。それは火を見るよりも明らかである。

 崩落していく地面。足を器用に使って、ブラックウォーグレイモンはその砕け岩塊となった地面を蹴り飛ばしていく。もちろん、そんなのは子供騙しだ。攻撃にはならない。

 鬱陶しさの余り、オメガモンAlter-Sはその背のマントを振るう。

 超高速で振り回されたマント。粉砕される岩塊。オメガモンAlter-Sの視界が塞がれたのは一瞬。しかし、その一瞬で十分だった。

 

「は。姿形がオメガモンに類似し、本物と同等の力を持とうと、オリジナルとは天と地の差だな。経験が足りん。所詮は敗北者の浅知恵だ」

 

 勝ち誇ったブラックウォーグレイモンの言葉。

 岩塊を蹴飛ばしたのは目くらまし。その一瞬で、ブラックウォーグレイモンはオメガモンAlter-Sの前から姿を消していた。

 咄嗟に掘った穴の中、岩塊と岩塊によって出来た隙間、そこにブラックウォーグレイモンたちは入り込むことで隠れたのだ。

 

「うう……頭いてぇ……」

「うわぁ……目が回るぅ」

 

 一方で、究極体の超高度な駆け引きに巻き込まれたコータたちは目を回してる。

 そんな彼らの姿に、情けないとブラックウォーグレイモンは溜息を吐いた。

 

「時間がない。いい加減にしろ」そう言って、コータたちを睨みつける。

 

 コータたちは痛む頭を押さえて、ブラックウォーグレイモンを睨みつけた。

 

「喚かないか。状況把握は悪くないようだな」

「……お前はあれに勝てるのか?」

 

 コータの言葉に、ブラックウォーグレイモンは忌々しげに「単純に考えれば無理だな」と答えた。

 

「基本スペックが違う。先ほどは経験が足りないと言ったが、あくまでそれは逃げの経験値だ。直接的な戦闘においての経験は腐るほどある」

「でも、負ける気はないんだろう?」コータがそう聞けば、

「わかってるじゃないか」とブラックウォーグレイモンは答えた。

 

 格上だから勝てないと決めつけ、諦めるような軟弱さを持つ者はここにはいないということである。

 

「お前たちを助けたのは、お前たちが必要となるかもしれないからだ」

「なるほど。共同戦線ってことだな!」合点がいったとばかりにドルガモンが頷く。

「違う」

 

 だが、ブラックウォーグレイモンは否定した。

 

「へ」

「徒党を組むのは合わない」

「そ、そんな理由――!」

 

 コータたちの驚きを、ブラックウォーグレイモンはひと睨みで鎮める。

 そして、忌々しそうに、本当に忌々しそうに話し始めた。

 

「お前たちが必要となるかもしれないのはこの先だ。この先に待つのは力ではどうにもできない。それこそ、偉大なる者や到達者どもの領域。業腹だが、今のオレではどうにもできん」

「……?」

「ふん。わからないか。だが、残念だが……オレでは、お前たちに()()()()()()。自分たちで気づくか、それか教えられる者に出会うんだな」

「いやいやいやいや。散々思わせぶりなことを言っておいて勝手な――!」コータはそう言いかける。その言葉は、途中で言えなかった。

「だが、お前たちもいつか出逢う。オレがそうだったように」

 

 そう言ったブラックウォーグレイモンは、思いっきり腕を振るう。

 僅かな穴が吹き飛び、瓦礫が上空に舞い上がった。それが向かうのは、今まさに無差別攻撃を仕掛けようとしていたオメガモンAlter-Sの下だ。

 

「行け。多少の時間は稼いでやる」

 

 それが、ブラックウォーグレイモンの最後の言葉だった。

 ブラックウォーグレイモンはコータたちを引っ掴んで、思いっきりぶん投げる。

 

「ああ、全くらしくない。が、力と強さこそがオレのすべてであるからこそ。――負けられん」

 

 そして、一方の自身はオメガモンAlter-Sへと向かっていった。

 

「死にに来たか」

 

 突撃してくるブラックウォーグレイモンを、オメガモンAlter-Sが迎え撃つ。

 ブラックウォーグレイモンが繰り出したドラモンキラーを、難なく右腕の狼の籠手で防いだ。

 

「解せんな」オメガモンAlter-Sが呟けば、

「だろうな」とブラックウォーグレイモンが嘲笑う。

「貴様の行動は不可解だ。貴様はすべてを知っているのだろう? 知っていて、このような行動をするというのか」

「……」

 

 ブラックウォーグレイモンは答えなかった。

 代わりに、作り出した小さめの火球を投球する。凄まじい速さで迫ったそれを、オメガモンAlter-Sは軽く躱した。

 

「なるほど弱い。貴様は闇の塔の残骸。カスデータによって心を持っただけのニセモノ。ニセモノに与えられた役割すら果たせない、失敗作。失敗作は失敗作らしく、屑らしい弱さだ」

 

 心底どうでもいいとばかりに、オメガモンAlter-Sは左腕で殴る。

 迫る左腕を、ブラックウォーグレイモンは屈んで躱した。

 そして、

 

「ふん。否定はせん」

 

 すぐさま蹴りを繰り出した。やはりあっさりと躱されたが。

 

「しかし、掘り起こされるのは不愉快でしかないぞ。オレの問題はもうケリはついている。世界にとっても、オレにとっても」

「だろうな。身に余ることを企てた愚か者が失敗したことだけは聞き及んでいるぞ。そのような創造主だから、貴様のような失敗作も産まれるのだろうな」

「……」

 

 ブラックウォーグレイモンは、やはり答えない。

 だが、まぁ、代わりに繰り出された腕――正確にはそこに込められた、オメガモンAlter-Sを打倒せんとする純粋な感情が答えではあるか。

 

「一つ言えるとしたら。オレはオレ自身をさほど嫌ってはいない。同じように、オレはオレの大元もさほど嫌ってはいない。ライバル心はあるがな」

 

 その両手に巨大な火球を作り出しつつ、ブラックウォーグレイモンは言う。

 

「……ほう?」それは意外だ、とばかりにオメガモンAlter-Sが笑った。

「だから、オレはあいつらを助けるんだろう。悪から生まれたものが悪であるとは限らない。オレはそれを知っている。オレを肯定してくれた、オレに向かい合ってくれたやつを覚えている。だからオレはオレの道を往ける」

「……」

「どうしたオメガモンAlter-S。ずいぶんな顔をしているぞ?」

「――貴様」

 

 ブラックウォーグレイモンはオメガモンAlter-Sを嘲笑う。まるで同族嫌悪が込められているような、無知な幼子を馬鹿にするような、笑いだった。

 

「ずいぶんとらしくないな、ニセモノ。同じニセモノのオレに感じ入るところでもあったか?」

「……確かにそうだ。私は我が主の想い、為すべきことに共感している。だが、ああ、認めよう。それはそれとして、私は貴様が――」

 

 オメガモンAlter-Sはその両手の籠手から、それぞれ武器を出す。持ち主のやる気を反映したのだろう、その剣と砲塔は強い威圧感が込められていた。

 

「私は所詮、ニセモノにすぎず。その在り方を良しとするが故に、貴様が気に食わない。創造主に逆らった、貴様が」

「は。それはオレも同じだ。()()()が気に食わん。だから、オレはここにいるッ」

 

 言い切りながら、ブラックウォーグレイモンは巨大な火球――“ガイアフォース”をぶん投げる。

 一方で、オメガモンAlter-Sはその左腕の砲塔を静かに向けた。

 

「グレイキャノン――!」

 

 放たれたプラズマ弾が、火球にぶつかる。

 そして。

 ブラックウォーグレイモンのガイアフォースは、呆気なくグレイキャノンの前に敗れ去る。だが、そんなことは両者共にわかっている。

 であれば、次だ。

 ブラックウォーグレイモンはその背のブレイブシールドを、投擲した。

 

「む」

 

 当然、オメガモンAlter-Sもそれに対応する。投げられたブレイブシールドを、右腕の剣(ガルルソード)で両断する。

 ああ、だが、その瞬間にブラックウォーグレイモンは次の行動に移っている。

 

「“ブラックトルネード”ッ」

 

 超高速で回転しながらの突撃。さながら竜巻のようなその攻撃は、ブラックウォーグレイモンの全力が込められていた。

 疾い。周囲の空気を巻き込み、引き裂き、突き進む竜巻。

 そのあまりの速さに、オメガモンAlter-Sは僅かに瞠目する。彼は咄嗟に反撃できなかった。

 ガルルソードにぶつかった竜巻を、オメガモンAlter-Sは力尽くで弾く。

 

「うぉおおおおおおお!」

 

 だが、即座に次が来る。二度目の竜巻。しかも、突撃し続けているせいで、スピードが上がっている。オメガモンAlter-Sは悟る。

 躱しきれない、と。

 

「なるほど強い。X抗体持ちだった貴様の大元よりはずっと。だが、それでも――」

 

 竜巻がオメガモンAlter-Sに激突する。聖騎士を貫かんと、その胸を削る。

 だが、

 

「――貴様も敗者(こちら側)になることに変わりはない」

 

 だが、

 

「さらばだ、偽物(ホンモノ)

 

 だが。

 オメガモンAlter-Sには一手届かない。

 次の瞬間、ブラックウォーグレイモンは衝撃と共に上空に叩き上げられる。彼が気を取り直すよりも、彼の身体が両断される方がずっと早かった。

 

「届かない、か。まぁ、だろうな。だが、覚えておけ。貴様らの思い通りにはならんぞ。世界は、勝者のものだからな」ブラックウォーグレイモンは嘲笑う。オメガモンAlter-Sを、その彼をして主君と崇める者を、嘲笑う。

 

 負け犬の遠吠えのようにしか聞こえない言葉と共に、彼はこの世を去ったのだった。

 




補足:本作において、ブラックウォーグレイモンは02と似通った背景を持ちます。
すなわち、本物のデジモンとしてのブラックウォーグレイモンではなく、ウォーグレイモンを模して作られたデジモンモドキというわけです。
彼には彼の物語があり、今に至るワケですが、まぁ、その辺はこの物語には関係はないのでカットです。
というより、時系列的に本編のずっと前の話なので入れようがありませんでした。

それでは、次回もよろしければよろしくお願いします。
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