【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
遥か上空でブラックウォーグレイモンとオメガモンAlter-Sが戦っている。それを理解しながらも、コータたちは逃走していた。
自分たちは勝てないと、わかっているから。
「ドルガモン! もっと急げって」
「わかってるよっ」
ドルガモンは全速力で駆けていた。実際、この十分足らずで数キロは移動できている。
戦場だった場所からはそこそこの距離がある。だが、それでも、コータたちは移動を続けていた。この程度の距離を移動したところで、あの白い聖騎士相手には意味がないと。
「って言ってもどこまで行けばいいんだろうなぁっ!」
「隠れられる場所までだ! 近くにいると思われて長距離から面攻撃されたら終わりだ。逃げられたと思わせなきゃいけない!」
「それ結構無茶だろ!」
ドルガモンは必死に足を動かした。足を動かすことだけに専念した。余計なことを考えて足が遅くなるくらいならば、その余計なことはコータに任せるべきだと理解していたからだ。
ああ、だからこそ。自分のパートナーがそう思ってくれているからこそ。
コータは焦っていた。この場を切り抜ける案が思いつかない。この場をやり過ごせる場所が見つからない。あの偉大なる皇帝の時のような、悪足掻きの一つすらも見つからない。
何かをしようとしても、何もできない。何かすることこそが役目なのに。
「――タ」
「っく……!」コータは苦悶の声を漏らした。
「――ータ!」
「どうすればっ!」必死に辺りを見渡し、頭を回転させる。
「――コータッ!」
「っ、ドルガモン?」
そこで、コータはようやくドルガモンに呼ばれていることに気がついた。
「大丈夫。リラックスしていこう! ……気楽にな」
もちろん、それは全力を尽くさないということではないし、生存を放棄するということでもない。当然だが、命のかかった状況で気楽にいけるはずがないし、ここからリラックスなどできるはずもない。
それはドルガモンもわかっている。だが、それでも、ドルガモンはあえてそう口にした。
「……はは。無茶言うなよ」
だから、コータも笑って返す。
その時、彼らは身体が強張っていくのを感じていた。
彼らはこの感じに覚えがあった。圧倒的なまでの力。自分たちよりも遠く離れた実力を持つ強者の雰囲気。つまり、オメガモンAlter-Sだ。
当たり前だが、今までで一番の強敵だ。弱っていない分、あの時の偉大なる皇帝よりもずっと強いだろう。
「ほう。逃げないのか」
目の前に降り立った死神を前に、コータたちは震えを押さえて立ち向かう。
「逃げるのは無駄だからね」
「なるほど。潔い」
「ブラックウォーグレイモンはどうしたんだ?」
時間稼ぎとして自分たちを逃がした彼のことを、ドルガモンは聞いた。わかりきったことではあったが、なんだかよくわからなくても助けられたということもあって、聞かずにはいられなかった。
「
「――そっか」
コータもドルガモンも、何となく分かっていたからか。驚きはなかった。怒りのような激情も沸かなかった。いや、目の前の強者を前に、そんな無駄な感情を覚えられなかったのか。
「削除する」
「っ、来るぞコータ!」
「おう!」
迫り来るオメガモンAlter-Sを前に、ドルガモンは飛びず去る。
実力差がありすぎるから、視線を外すなどという愚行は犯さない。視界に収め続けられるように、何があっても対応できるように、動く。
ああ、でも。
「遅い」
「ぐ、あ――!」
「ぐっ」
速さが違う。
「弱い」
「ドルガモンっ!」
力が違う。
「脆い」
経験が違う。
ドルガモンがどれだけ回避行動を取ろうと、どれだけ防御行動を取ろうと、オメガモンAlter-Sはその尽くを上から捩じ伏せることができる。
「有象無象よりはマシという程度か」
オメガモンAlter-Sの右腕の剣が、ドルガモンの翼を両断する。
ドルガモンは見ていた。ちゃんと見ていた。それなのに防御するという行動も、躱すという行動も取ることができなかった。気がついた時には、自分は切られていたのだ。
コータも見ていた。だが、見ていたがわからなかった。オメガモンAlter-Sの速さを前にしては、何が起こっているのかを後追いで知るのが精一杯で、指示を出すのが間に合わないのだ。
「……!」
コータは拳を握り締める。初めの一撃で振り落とされたコータは、オメガモンAlter-Sの蹂躙を見ていることしかできなかった。
必死に躱し、防ぐ、ドルガモンだが、やはり遅い。躱すよりも早く、防ぐよりも早く、攻撃が捉えてくる。一秒ごとに、致命傷が増えていく。
「ドルガモン――!」
ああ、そんなだから、ドルガモンが地に伏せるまで数秒と経たなかった。
その時の光景を、コータは見ていることしかできなかった。当然だ。それは、
いつか、いつか来ることではあった。わかっていても、コータは悔しくて仕方がない。憎くて仕方がない。
「――――か」コータは呟いた。
その呟きに、オメガモンAlter-Sが反応する。
「――たまるか」
しかし、すぐに興味を無くして、オメガモンAlter-Sはその右腕の剣をドルガモンめがけて振り上げる。
「負けて……ッ、
その時、奇跡が起きた。
コータの願いに呼応するように、ドルガモンが進化する。
生き物が最短で進化する時、そこには
だから、これは奇跡ではあっても、必然ではあったのだろう。
「まだだぁっ“メタル――」
現れたのは、獣竜。頭に刃の角を生やし、赤と白の体毛、鋭い槍の尾を持つ、獣竜。身体と一体となっている数々の武器、何よりその巨躯。それ故に、最後の敵の異名を持つ者。
ドルグレモンという名の、完全体デジモン。
「――メテオ”ォ!」
そして、放たれるのはその巨体の十倍以上の超高質量かつ超巨大な鉄球。その様はまさに
すべてを押し潰す鉄の星が、空より落ちる――!
「ああ、まだだな」
鉄の星が敵を粉砕する。最後の敵が放つ技にふさわしい、圧倒的なまでの破壊と衝撃が辺りを吹き飛ばす。即座にドルグレモンが来て庇ってくれなかったのならば、コータは吹っ飛んでいたことだろう。それこそ、いつかのように頭をぶつけて記憶喪失になりかねない。
それほどの威力のすべてが、もはや広範囲攻撃に含められるだろう技が、たった一人に向けられる。それが、オメガモンAlter-Sを襲う。
ああ、だがしかし。
「――な」
今の時代は弱肉強食の死が当たり前にある時代だ。そんな時代においては生きていることが、生きられることが、奇跡と言える。
であるのならば、世界はそこに生きる誰かの奇跡が集まって出来ていて、それ故に。
「この程度か、異分子」
奇跡の一つ程度でどうにかなるほど、世界は安くはない。
オメガモンAlter-S、健在。
「……これは」
「コータ……」
ドルグレモンの進化できたのはいい。
だが、完全体になっても、目の前の究極には届かない。この期に及んでもう一回進化できるなどという馬鹿な妄想のようなことはありえないし、つまり、詰みに近い。
「……」
「コータ」
「……行こう」
コータはドルグレモンの背中に跳び乗った。ドルガモンよりもだいぶ背が高くなって上り難くなったその巨躯に、コータは笑った。
気づけば、震えは止まっていた。
「万に一つの可能性が生まれたって思って、さ。いくぞ、ドルグレモンッ」
「ああ、そうだな。勝つぞ! コータッ」
絶望も喉元を過ぎた。感覚は麻痺した。何もできることはない。
ああ、それでも何かする気は、諦めない気だけはある。だから、コータたちは最期に無謀をするのだ。
「最後の話はついたようだな」
ご丁寧に、オメガモンAlter-Sは待っていてくれた。
まるで観察するように、いや、あるいは何か狙いがあるかのように、この数分で彼は使命とまで言った
「さて……では、私の使命を果たすとしよう」
「ドルグレモン――!」
「おぉおおおおおおお!」
ドルグレモンが駆ける。
オメガモンがその左腕の砲塔をドルグレモンに向ける。適当に死を向ける。
そして。
「“ガイアフォース”ッ」
「“コキュートスブレス”ッ」
また一つ、奇跡はここに起きる。
というわけで、完全体進化回。しかし、まぁ、当然ですが勝てず。
原作においては究極体状態でロイヤルナイツのオメガモンを圧倒し、グレイソードを折るなんていう前代未聞(実は前例有り)のことをやらかしたコータたちですが、この物語においてはこうなっています。せっかく進化したのに世知辛いですね。
原作であったのなら■-■■■■で完全体状態でもワンチャンあったかもしれませんが――まぁ、究極体状態でも原作では結局逆転負けしてますしね。ワンチャンあったところで、という話ですね。
一章も佳境ですね、それでは次回もよろしければよろしくお願いします。