【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第十四話~諦めるな、突き進め~

 時は少しだけ遡る。

 

「……――い」

 

 その時、ウォーグレイモンX抗体は何かを聞いた気がした。

 

「――……おい」

 

 だが、わからない。とてつもなく瞼が重くて、目を開けられない。そこでようやく、ウォーグレイモンX抗体は自分が目を閉じている――正確には気絶していたのだ、と気がついた。

 

「いい加減に起きんかいっ」

 

 そして、衝撃。

 まるで本の角でぶん殴られたような、ウォーグレイモンX抗体にとっては小石を投げられた程度の軽い衝撃に、ウォーグレイモンX抗体は慌てて目を覚ます。

 

「やっと起きたか寝ぼすけめ」

「アウアウ」

 

 目の前にいたのは、不機嫌そうなボコモンと呆れ気味のトコモンだ。何やらいろいろあったのだろう。彼らは土で汚れていた。

 

「っ、君たちは……そうだ、オレは……?」

「む、覚えてないのか?」ボコモンが怪訝そうにウォーグレイモンX抗体を見る。

 

 見られて、ウォーグレイモンX抗体は頭を回し、そして思い出した。

 あの時、自分のガイアフォースとブラックウォーグレイモンのガイアフォースによる衝撃によって吹き飛ばされたウォーグレイモンX抗体は、体勢を立て直してすぐに戦場へと戻ろうとした。

 その時だ。

 戦いの音を聞き分けたのか、ついにやって来たオメガモンAlter-Sを見たのは。

 逃げることもできず、ウォーグレイモンX抗体はそのまま戦いを挑んで、結果この様だ。

 

「死んでない。怪我も……そこまでじゃない? 奇跡だ」

 

 驚きを露わにするウォーグレイモンX抗体に、トコモンは何か言いたげだった。

 

「ア――」

 

 実際、何か言おうとした。

 

「やめんかっ」

 

 すぐにボコモンに口を塞がれていたが。

 

「あいつは?」

 

 ウォーグレイモンX抗体の言うあいつが誰か、そしてそれを聞いた意図など、わかりきったことだった。

 ついでに言えば、ウォーグレイモンX抗体自身、それが愚問であることなどわかりきっていた。なぜならば、遠くから聞こえてくる轟音が、その意味を端的に示していたのだから。

 

「誰か戦っている、のか……? 誰が」

「さぁのう。コータか、それともあのデジモンモドキか」

「そんな言い方はやめてくれ。……でも、そうか。ブラックウォーグレイモンか。あいつなら確かに……――」

 

 ウォーグレイモンX抗体は立ち上がった。

 

「どこに行く?」

「オメガモンAlter-Sのところだ」

「はぁ」やれやれとばかりにボコモンは大きく溜息を吐いた。「わかっているじゃろ。行ったところで勝ち目があるとは限らんし、そもそもブラックウォーグレイモンならばもうやられてるかもしれんぞ」

 

 それでも、とウォーグレイモンX抗体は行こうとする。

 そんな彼の足を、ボコモンが慌てて抱きついて止める。優しいことに、振り払われることはされなかった。

 

「待て待て待て待てぃ。考え直せ。今は引く時じゃ。散り散りになった仲間をまとめ直し、組織を立て直し、あのニセモノに対する備えをじゃな……」

「アウウウ」ボコモンの焦りようを、トコモンが笑う。

「ええい、お前さんは黙っとれっ!」

 

 一方で、ウォーグレイモンX抗体はそんなボコモンを抱え上げる。彼はボコモンを自分の目線の高さまで持ち上げ、諭すように笑った。

 

「そうだな。きっと君の言うことが正しいんだろう」

「じゃ、そうじゃろう! じゃろう!」

「アウー……」

「でも、すまない。オレは短慮な馬鹿らしいからな」

 

 自嘲しているようで、その実、全くしていないのは明らかだった。

 ウォーグレイモンX抗体の笑顔に、ボコモンは何を言われたのかわからないとばかりに唖然とする。

 

「オレには何もない。あいつのように真実を知っている訳でもなく、推理する頭もない。X抗体を得てるのに、あいつと互角の勝負しかできないようなどうしようもないやつだ。でも」

「でもぉ?」

「オレにはオレの意地がある。ここがオレの踏ん張りどころってわけだ」

 

 ウォーグレイモンX抗体はボコモンを優しく地面に下ろした。

 ウォーグレイモンX抗体(馬鹿)に唖然としているボコモンは、そのまま地面に転がって起き上がらない。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいや! そんな言葉で誤魔化されんぞ! おい、おぃいいいいい!」

 

 咄嗟に声を上げるが、もうウォーグレイモンX抗体は止まらなかった。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 そして、そんな彼らの元に飛来するのはメタルガルルモンX抗体だ。

 

「無事だったのか!」

「心配かけたな。重傷者、戦力にならない者たちを避難させていた。オメガモンAlter-Sの襲来で戦闘は中断している。引くなら今のうちだ」

 

 メタルガルルモンX抗体の言葉に、ボコモンがうんうんと頷く。「そうだ、言ってやれ」とでも言いたげだった。

 

「だが、引く気はないんだろう?」

「わかってるじゃないか」ウォーグレイモンX抗体はニヤリと笑った。

「よし。おれもいこう」メタルガルルモンX抗体も頷く。

「え」思わず、ボコモンが間抜けな声を上げた。

 

 驚いたボコモンが見れば、その時にはウォーグレイモンX抗体たち二人は空の上で。

 

「な、なんでじゃー! なんでどいつもこいつも大局を見極められんのじゃい!」

「アウアウアウ。アウーア」

「うるさいわい! あぁぁぁぁ、本来ならばこんな時に……ぬぅううううう!」

「アウ」

 

 後に残ったのは、思い通りに事が運ばずに地団駄を踏むボコモンと、そんなボコモンを呆れたように見るトコモンだけだった。

 

「アウー」

「ふん。わかっとるわい。あながち間違いでもなかろうということは」

 

 ボコモンは険しい顔をしながら、トコモンに答える。

 ああ、そうだ。ウォーグレイモンX抗体たちの愚行にしか見えない行動は、あながち間違いではないのだ。

 

「そうじゃ、それこそがX抗体なのじゃからな……はぁ」

 

 X抗体とは強き生命が獲得する、新たな進化だ。そして、進化とは誰でもできるものではなく、次の世代へと残るべき者が獲得するものだ。

 事実、X‐進化は死に臨んだ時、それでもなお生き残ろうとし、そして生き残る力を持った者たちが発現した新しい進化だった。

 X抗体は持ち主の潜在能力を引き出す。そして、それ故に従来の種よりも強い。ああ、だが、X抗体の本質はそこではない。否、それが全てではない。

 X抗体の本質の、最も強き恩恵。それは図らずも、彼らが最も望んだものにある。彼らはX抗体を獲得した時、強くなることを望んだか? 答えは否だ。そんなことでX抗体は得られない。それで得られるのは、他者からX抗体を奪う者だけだ。

 自力で発現させる者は、強さなど望まない。力など望まない。ただ、目の前にある死に対抗することを望む。ああ、そうだ。死への対抗、生存への執着、それこそがX抗体の最も強き恩恵だ。

 であるのならば、X抗体持ちたちは生き残るということに部分に対して、彼らは従来以上の嗅覚を発揮する。

 ウォーグレイモンX抗体が、メタルガルルモンX抗体が、道理を横に置いてまで行く理由が、そこにある。

 

「アウアウ」

「それがわかっているのなら、って。わかっていても腹立つものは腹立つのじゃい! なんでわしの言うこと聞かんのじゃー!」

「アウー」

 

 こいつはもうだめだ、とばかりにトコモンが息を吐く。

 やはりボコモンは地団駄を踏み続けるのだった。

 

 ********

 

 そして、時は現在に戻る。

 その時、オメガモンAlter-Sは先ほど倒したと思っていた有象無象の登場に僅かに目を見開いていた。

 

「さて、()()()の使命を優先するべきか……――」

 

 一方で、ウォーグレイモンX抗体はオメガモンAlter-Sの胸を見る。そこに付けられた傷が誰によるものかなど、彼にはわかりきったことだった。そして、この場にその誰かがいないということが、何を示しているのかも。

 

「――いや、どうとでもできるか。しかし、生きていたとはな。それでここにいるということは、そういうことで構わないな?」

「構わなくない。オレたちがここにいる理由はただ一つ、生きるため」

 

 力強い言葉だった。そこに込められた想いが、決意が、あらゆる感情が感じ取れる言葉だった。

 言葉と同時に、ウォーグレイモンX抗体は腕を思いっきり振るう。

 オメガモンAlter-Sは後退し、僅かに距離を取ることで躱した。

 

「あのモドキに対して怒っているのか? まさかあのデジモンモドキに仲間意識があるとでも言うのか?」オメガモンAlter-Sの不可解そうな声。

「ないさ。オレたちは仲間にはなれなかった。それでも……――! それだけの話だッ」

「解せんな」

 

 ウォーグレイモンX抗体の言葉の何もかもがわからないと、オメガモンAlter-Sは首を振る。

 一方で、ウォーグレイモンX抗体もわかってもらおうとは思わないとばかりに、攻撃を仕掛けた。ラッシュ。怒涛と言う他ない、連続攻撃がオメガモンAlter-Sを襲う。

 オメガモンAlter-Sは冷静に、その右腕の剣でそれを捌いていった。

 

「おれのことも忘れてもらっては困る」

 

 そんなオメガモンAlter-Sを狙って放たれた、弾丸。メタルガルルモンX抗体の兵装の一つから放たれた弾丸の数々が、ウォーグレイモンX抗体を躱し、オメガモンAlter-Sだけを狙う。

 

「……鬱陶しい」

 

 初めて、オメガモンAlter-Sが苦々しい言葉を発した。とはいえ、それは自らが劣勢になっているからではない。

 誰だって簡単にできる仕事が大量にあれば、いくら一つ一つが簡単だとは言っても面倒さに苛立つだろう。

 それと同じだ。メタルガルルモンX抗体もウォーグレイモンX抗体も、単体ではオメガモンAlter-Sに敵わない。力を合わせたところで、それは変わらない。

 それでも、時間はかかる。それがオメガモンAlter-Sには面倒なのだ。

 

「ふんっ」オメガモンAlter-Sが、同士討ちを狙うように射線をコントロールする。

「ウォーグレイモン! 気にせずいけ!」

「おうっ、その手にかからない!」

 

 だが、抜群のコンビネーションを持つウォーグレイモンX抗体たちは、オメガモンAlter-Sのそんな策など効かなかった。

 

「……!」

 

 思い通りに行かない。上手くいかない。

 オメガモンAlter-Sの苛立ちが最高潮に達する。そして、彼は一つの思考に至った。

 すなわち面倒だからまとめて吹っ飛ばせ、だ。

 

「はッ!」オメガモンAlter-Sが力尽くでウォーグレイモンX抗体を吹き飛ばす。弾丸が自身を傷つけるのにも構わずに。

 

 そして、オメガモンAlter-Sの右腕の剣が光り輝く。剣の中央に光が貯まる。

 ウォーグレイモンX抗体たちは悟った。“それ”は、自分たちをまとめて殺せるだけの技だと。

 だが、しかし。“それ”はウォーグレイモンX抗体たちにとっては自分たちを殺さんとする技ではあるが――この瞬間、オメガモンAlter-Sの頭から消えていた者にとっては千載一遇の“隙”でもあった。

 

「今だっ」

「おう! “メタル――」

 

 ああ、そうだ。

 この場にいたのはウォーグレイモンX抗体たちだけではない。

 負けそうになって、いつの間にかフェードアウトしていた者たちがいる。自分たちが混ざれない究極の戦いを前にして、役に立てないからと諦めるのではなく、逃げるでもなく、自分たちの力が必要になるその時が来るかもしれないと力を溜め続けた者がいる。

 

「いっけぇええええええええ!」

 

 ああ、そうだ。

 オメガモンAlter-Sは見逃した。彼らは敵になりえないと、彼らではウォーグレイモンX抗体の足を引っ張るだけだと、彼らがこの戦いに混ざってくるのは合理的な考えではないと、頭から消していた。

 だから、これが成る。

 

「――メテオ”!」

 

 コータの掛け声と共に放たれた、鉄球がオメガモンAlter-Sを押し潰さんとする。

 もちろん、オメガモンAlter-Sとて馬鹿ではない。その右腕の剣でもって、再び鉄の隕石を切り裂く――!

 

「“コキュートス――」

 

 そして、それはウォーグレイモンX抗体たちにとっての千載一遇の好機だった。

 

「――ブレス”!」

 

 メタルガルルモンX抗体が吐き出した氷結の息が、オメガモンAlter-Sを氷漬けにする。無論、それは一瞬で砕かれる、が。

 その一瞬で次が生まれる。

 

「“ガイアフォース――」

 

 ゼロ距離まで接近したウォーグレイモンX抗体が、次を生む。

 X抗体を得たことで可能になった、ガイアフォース(己の最大火力技)の瞬間圧縮と放出。圧縮することで一点における威力を極限まで高めた技を、()()()に向けてゼロ距離で解き放つ――!

 

「――ZERO”!」

「っぐ――!」

 

 これには、さすがのオメガモンAlter-Sも呻いた。

 だが、まだだ。オメガモンAlter-Sはまだ健在だ。

 

「この好機を逃すなっ。放て!」

「“パワーメタル”ッ!」

 

 その時、オメガモンAlter-Sは背後から声を聞いた。咄嗟に、背後に迫る気配を振り向きざまにたった切る。だが、それは隕石とは決して言えないほど小さな鉄球で。

 オメガモンAlter-Sは自分の失策を悟った。

 

「オレたちの勝ちだ――!」

「“メタルメテオ”!」

 

 三度放たれた鉄の隕石。それがオメガモンAlter-Sを押し潰さんと迫る。

 ああ、これで決着――

 

「オメガモンの名を舐めるな――!」

 

 ――とは、ならない。

 なぜならば、ニセモノとはいえこの世界で最も有名な聖騎士であるオメガモンの名を冠するものだから。オメガモンとしての矜持が彼にはある。

 

「“ガルル――」

 

 身体を無理矢理に捻じ曲げて、もう一度だけ右腕を振るう。先ほど貯めたエネルギーを解き放つ。

 

「――ソード”!」

 

 万物を寸断する剣となった右腕が、鉄の隕石を両断する。

 

「ああ、知ってたよ。お前なら、何度でもオレたちを超えることくらい」

 

 その時、オメガモンAlter-Sはコータの声を聞いた気がした。

 

「その()()()()に何度煮え湯を飲まされたと思っている――!」

 

 ああ、そうだ。コータは知っている。目の前で自分のパートナーが、あの竜の剣による()()()()()()()で殺されたことを、知っている。

 だから、ああ、そうだ。だから、コータたちはすべてが終わるまで、何度だって食らいつくのだ。

 そして、ついにドルグレモンとその背に乗ったコータがオメガモンAlter-Sに肉薄する。

 

「っ。だが、この距離ならばっ!」

 

 ドルグレモンの技は中~長距離からの殲滅技だ。だから、接近した状態で放つことはできない。

 そして、オメガモンAlter-Sの武器は右腕の剣だけではない。

 選択を誤ったな、とオメガモンAlter-Sは手ぶらだった左腕の竜砲を向ける。

 

「オレたちを――」

「――忘れたな!」

 

 否、向けようとした。

 オメガモンAlter-Sは自分の両腕を掴まれる。もちろん、オメガモンAlter-Sにとっては一瞬もあれば振り払えるだけの力だ、が、その一瞬が勝負を決める。

 

「うぉおおおおおおおお!」

 

 そして、ドルグレモンがオメガモンAlter-Sの胸に向けて頭突きする。

 抗ったすべての者たちによって積み重ねられた傷に、最後の一撃が下される。ついにその()()()()が、オメガモンAlter-Sの胸を貫いた――!

 

 




というわけで、第一章のラストバトルが終了。
決まり手はドルグレモンの頭の刃――まさか必殺技でもない、頭の角でトドメというのはなかなか珍しいんじゃないんでしょうか。
本当は頭突き(石頭)で決着のはずが、「あ、ドルグレモンの頭って……」ということでこうなりました。

さて、次回はエピローグ。そして、次の第二章へと向かいます。
それでは次回もよろしければよろしくお願いします。
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