【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
その日、ウォーグレイモンX抗体は山の前で佇んでいた。
小さな山だ。山というよりは、丘というレベルか。まるで土を積み上げて固めたような、自然には決して生まれないだろう色と形だった。
「……」
まぁ、それも当然だろう。その山は、今日作られたものだからだ。
そうだ、言ってしまえば、それは墓だった。
一応、この世界においてデジモンの死体は放置が当たり前だった。やがて朽ちて何処かに消えるまで、ずっと死体は放置される。それが、常識だった。
そんな常識を打ち崩したのは、コータだ。死んだ者に対する供養、生きている者が死者と向き合う場所――墓の存在を、教えたのである。
結果、あの戦闘で亡くなった者たちの死体を、そしてオメガモンAlter-Sに殺された者たちの死体を埋葬するため、レジスタンスの生き残り全員でこの山を作ったのだ。
一日で墓のための山を作るスケール感に、教えたコータは頬を引き攣らせていたのだが。
「……」
そして、この墓が完成したのはちょうど今から一時間前のことだった。
作っていた者たちは近くの場所に行って休んでいる。今ここにいるのは、ウォーグレイモンX抗体だけだ。彼は彼なりに思うところがあって、ここに残っていた。
「お前は、何を知っていたんだ?」
コータに教えられた通りのことをウォーグレイモンX抗体は実感していた。墓は生者が死者と向き合う場所だということを。
そう、ここにはブラックウォーグレイモンの死体も埋葬されているのだ。
彼と深い関わりのあったウォーグレイモンX抗体だからこそ、気にかかる。彼が何を知っていて、何のために現れたのかが。
おそらく表層的にわかっている事実は、真実には程遠いのだろう。
「まだ終わっていないんだな?」誰に確認するでもなく、ウォーグレイモンX抗体は呟いた。ずっと考えていたが、彼ではそれくらいのわかりきったことしかわからなかった。
ああ、そうだ。あのオメガモンAlter-Sさえ、途中に過ぎないのだから。
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あの時。オメガモンAlter-Sを倒した時。
疲労困憊なコータたちの目の前で、オメガモンAlter-Sの死体が消えた。光となって。
そして、後に残ったのは――
「君たち、誰?」
「俺たちは……?」
――後に残ったのは、記憶喪失のアグモンとガブモンで。
「君たちは……オメガモンAlter-Sの?」ウォーグレイモンX抗体が聞いても、彼らは首を傾げるだけだ。
「わからない。何か、夢を見てた気がする……」
「でも、何の夢だったか……それに、夢の中で俺たちは……?」
アグモンもガブモンも何もわからないようだった。嘘をついている様子は、ない。
この二匹がオメガモンAlter-Sだっただろうことは疑いようもない。だが、彼らとオメガモンAlter-Sが結びつかない。
結局、記憶喪失の彼らを見捨てることもできずに、レジスタンスまで連れて行くことしかできなかった。
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何だかんだで、先行き不安でしかない。
おそらくは尖兵でしかないオメガモンAlter-Sを倒すだけで、これだけの犠牲が出ている。黒幕に勝てるかどうか以前に、そこまでたどり着けるかすらわからない。
でも、それでも。
「お前は、そのためにここに来たんだろう?」
ウォーグレイモンX抗体はそれだけはわかっていた。
具体的に何をどう考えていたかはわからないにせよ、ブラックウォーグレイモンはその黒幕に至るまでの道のために来たということだけはわかっていた。
だから。
「……オレたちも止まらないからな」
だから、ウォーグレイモンX抗体は宣言する。
それから、彼は振り返らずに仲間の下へと帰っていった。
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ウォーグレイモンX抗体が仲間の下へと戻った時、全員が疲れ切った感じで休んでいた。まぁ、それでいて誰もが警戒を解いていないのは流石と言うべきか。
「さて、この後についてだが」とメタルガルルモンX抗体が口火を切った。
「……」
「……」
雰囲気が暗い。まぁ、祝勝ムードとはいかないのが悲しいところであった。
当面の脅威だったオメガモンAlter-Sを倒せたのは大きい。が、状況は依然として悪い。今回の一件で、多くの仲間を失った。通常デジモンとX抗体デジモンの間にあった溝はさらに深まってしまった。
今回の件はやがてこのベルサンディターミナル全域に広がるだろう。
そうすれば、また戦争の焼き直しになる確率も高い。レジスタンスが悪いと決めつけて、レジスタンスに所属していないX抗体持ちが敵に回る可能性すらある。
しかも、それだけが問題ではないというのが、何とも言えない恐怖を掻き立てる。
「オレとメタルガルルモンは、まだ戦いを続ける。誰が敵なのか、どうすればいいのか、何もわからない。ただ、何も終わっていないことだけはわかる」
ウォーグレイモンX抗体の言葉に、誰もが不安そうな顔をした。
当然だ。あのオメガモンAlter-S以上の脅威、あのXウィルス並の天災、その再来が来る可能性が高いというのだから。
それこそが、最も大きな問題の一つだった。
「レジスタンスはほぼほぼ瓦解寸前だ。また、オメガモンAlter-Sに対抗するために組織にいたという者も多いだろう」ウォーグレイモンX抗体がそう言った。
「だからこそ、そのオメガモンAlter-Sを倒せた今だからこそ、ここで皆に問う」メタルガルルモンが言葉を引き継いだ。
彼ら二人の言いたいことを、生き残った者たちはわかっていた。
つまり、抜けるのなら今だと。
「……」
「……」
しかし、誰も何も言わなかった。それを言わなくても構わないとばかりに。ここで自分たちも逃げる気はない、とばかりに力強い目でウォーグレイモンX抗体たちを見た。
あの戦いを生き残った者たちが――恐竜が、半機半竜が、獣人が、狼が、力強く頷いた。
「ああ、戦いを続けよう。その先に何が待つのかはわからないけど。オレたちが生きられる世界を目指して、オレたちが否定されない世界を目指して――X抗体が要らない世界を、オレたちデジモンの元に取り戻そう」
その言葉に、力強く全員が頷いた。
********
話がまとまったところで、メタルガルルモンX抗体の先導の下、レジスタンスの面々はあのアジトが壊滅した時における避難場所へと移動を始めていた。
そんな中、ウォーグレイモンX抗体はコータたちと話していた。
「これからオレたちはみんなと協力しながら、探る」
ウォーグレイモンX抗体の言った“みんな”。それはレジスタンスの仲間だけを指しているのではないと、コータたちは気がついた。
「さっきもそう言ってたな。でも、普通のデジモンたちは……――」
「わかってる。でも、だめだ。きっとオレたちだけでは解決できない。難しくても、厳しくても、やるしかないんだ。それができなきゃ、オレたちに未来はない。きっとこれはX抗体とか関係ない、デジモンの問題なんだ」
「そうか」
ウォーグレイモンX抗体の決意に、コータたちは何も言わない。
ただ――
「アウアウ」
「うんうん。いいのう」
――ただ、薄ら笑いをしているトコモンや感極まった様子のボコモンがいただけで。
ちなみに、そんなボコモンたちにコータたちとウォーグレイモンX抗体は引いていた。
そして、話の邪魔をするなとばかりに、ドルグレモンに咥えられて離れたところに連れて行かれたのだった。
そんなドルグレモンたちを横目に、ウォーグレイモンX抗体はコータに向けて口を開く。
「それで、コータたちはどうするんだ? もし、行くアテがないのなら――」
わかりきったことを、ウォーグレイモンX抗体は聞いた。
彼にとってコータたちは一緒にオメガモンAlter-Sを倒した仲だ。生き残ったレジスタンスメンバーにとってはウォーグレイモンX抗体たちと並んで英雄扱いされている上、その人となりもわかっている。同じ目的のために一緒に行動してくれるのなら、これほど心強い話はない。
「ごめん。行くところがあるから」
だが、コータは断った。
まぁ、わかりきった話ではあった。だから、ウォーグレイモンX抗体は少し残念そうに「そうか」と言うだけだった。
「……もし、君たちのことが終わったなら、いつでも来てくれて構わない。君たちと過ごしたのは少しだけだけど、オレたちは仲間だ」そう言って、ウォーグレイモンX抗体は手を差し出した。
「ああ、ありがとう」差し出された手を、コータは握る。
「おいおい、俺を忘れるなよ」その手の上に、戻ってきたドルグレモンが前足を置いた。
「忘れないさ。君のその頭突きはね。オメガモンAlter-Sさえ倒す頭突き! ってね」
「そこは忘れろっ!」
笑いが起こる。
そして、いよいよとなった別れ際――
「おそらく、メイクーモンは過去に跳んだ」
――ウォーグレイモンX抗体はそう言った。
ボコモンたちと共にドルグレモンの背に乗ったコータは、その言葉に「過去? ってことは、ウルドターミナルか?」と聞き返す。
「そうだ。あの戦いに参加できなかった面々がウルドへと跳ぶ瞬間を見たらしい」
「……わかった。ありがとうな」
「礼を言うのはこっちだ。健闘を祈る」
「そっちもな」
コータたちはウォーグレイモンX抗体と別れた。
ドルグレモンが「いくぞ!」と力強く地を蹴る。空を駆け昇る――!
「本当にこれでいいんだな?」ドルグレモンが問えば、
「もちろんじゃい! 空の向こう、彼方の世界――壁を越えるつもりで昇り続ければベルサンディを出られる! 最も簡単な行き方じゃい!」とボコモンが力強く返答する。
そうして、コータたちはこの現在世界を出る。
ウォーグレイモンX抗体、メタルガルルモンX抗体、あのアグモンとガブモン――レジスタンスの面々に見送られて、彼らは次の世界へと向かう。
向かうは、新世界の内の一つ。過去世界“ウルドターミナル”だ。
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D.C.2018 NEWデジタルワールド――ウルドターミナル――
荒野の道なき道を、小さな黄金の騎士が行く。
「うぉおおおおおおおおお!」
居ても立ってもいられずに、走り抜ける。
「俺は、トゥエニストなんだぁあああああ!」
音だけを残して、ただひたすらにまっすぐ前へと進んでいく。
その頭上を、猫のような獣の悲しき叫び声が駆けていった。
さて、これで第一章が終了。
次回からはいよいよ第二章、『ウルドの感染源(仮)』が始まります。
あ、感想や評価、批評などありましたらよろしければどうかよろしくお願いします。
それでは、第二章もよろしければよろしくお願いします。