【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

19 / 64
第十八話~赤の到達者~

 コータの言葉を受けて、ボコモンは観念したように肩を竦めて口を開いた。

 

「知っとったよ。もの知りブックに載っておったからの」

「もの知りブック万能すぎだろ」ドルグレモンの唖然としたツッコミに、ボコモンはふふんと鼻を鳴らして誇らしげにする。

 

 一方で、問いただしたコータは「……そっか」と静かに言っただけだった。

 

「む、少し意外じゃな。もう少しなんとか言われるかと思ったぞ」

「……まぁ、正直に言えば。でも、何だろう。思ったよりは冷静っていうか、むしろ、得心がいって満足したっていうか……」

 

 コータはしきりに首を傾げている。

 彼としても、それを聞いた自分にはもう少し何かがあると思っていたらしい。

 

「まぁ、あれだろ。ボコモンだってオレやドルグレモンに言わなかった理由があるんだろ?」

「まぁのう。言ってもどうしようもなく、言ったところで意味もなく、そして何より危険じゃった」

「危険?」

 

 首を傾げたドルグレモンに、ボコモンは頷く。その顔には何かを思い出しているような、後悔と未練の入り混じったような、複雑な表情が浮かんでいた。

 

「お前さんらも薄々勘づいておるじゃろうが、あのメイクーモンはいわば病気を運ぶ役目を持っていた。無意識の内に、の。そしてお前さんらと出会ったあの時が第一段階だとしたら、今は第二段階ということになる」

「それは、つまり、危険っていう意味は――」

 

 メイクーモンの役目は、広めること。

 その人畜無害そうな人格で他者に付け入り、より広く行動する。自分自身にその意識はなく、知らないうちに広め、逃げ回り、さらに広め続ける。それが役割だった。

 その役割が第一段階。

 では、第二段階は。

 

「詳しくはわからんよ。しかし、想像はできる。そうして広め続けたメイクーモンは世界の恐ろしさに触れ、自分の役割に目覚め、覚醒する。何かの切欠で次の段階へと進む」

「それが、今か!」

 

 無意識だった今までとは違い、進化したことで自分の役割を知り、その役割に染まる。自発的に、広めるようになる。

 それが現在進行形で行われている。

 

「第一段階の時点で自発的ではなかったのは、そうすることでは具合が悪かったのじゃろうな」

 

 初めから自発的に動いていては、勘のいいものに気づかれ、対処される可能性がある。だから、多少の効率の悪さは目を瞑ったのだ。

 問題は目を瞑ったのは誰であるか、という話だが。

 そこまで話したボコモンは、コータを見つめる。その表情は真面目そのもので、コータにはその瞳に映る自分が見えた。

 

「さっき、そこのトゥエニストも言っておったじゃろ。どうするのじゃ?」

「――……それは」

()()がもたらす狂気はX抗体デジモンには伝染らん。それでもアレが引き起こす事態は深刻で、X抗体デジモンさえも巻き込むじゃろうな。さぁ、どうする?」

「そ、れは……――」

「そして、もうお前さんらの知るあやつはもうアレの中にはおらんじゃろう。欠片程度は残っていたとしても。どうするんじゃ?」

「……――」

 

 コータには答えられなかった。

 ドルグレモンも答えられなかった。

 沈黙で静まり返る洞窟の中、トコモンが小さく「アウアウ」と嗤ったのだった。

 

 ********

 

 コータたちが洞窟の中で過ごしている頃。

 小さな赤い小竜(ギルモン)が草原を逃げ回っていた。

 そんな彼を背後から追い回しているのは、ティラノモンや深紅の魔竜(グラウモン)といったデジモンたち二体だ。そのデジモンたちは、血走った目をしていて、口から唾を垂れ流している。

 ああ、そうだ。狂気に殺されてしまったデジモンたちだった。

 

「うっ……誰か、誰か――!」

 

 必死にギルモンは逃げる。X抗体を持っていた彼の知り合いは、真っ先に殺された。ギルモンは何もできず、ただただ逃げていた。

 

「グルァアアアアアアアアア!」

「ひぃっ」

 

 ティラノモンから吐き出された火炎放射(ファイアーブレス)を、ギルモンは悲鳴と共に避けた。

 さて、格上二体から逃げ回ることができているのは見事だ。だが、誰もが思うだろう。ギルモンはダメだ、と。

 質が負けている。

 数が負けている。

 何より、心が負けている。

 何が何でも逃げ切るという意思がない。格上がどうした、それでもオレが勝つという意気込みもない。ただただ、怖いから逃げている。そんな者がどうしてこの危機的状況を脱せられるだろう。

 そんな者が生き延びられるほど、この世界は甘くはない――

 

「やれやれ。平時ならばそれも世界の理と見逃すところではあるが……しかし、これも何かの縁だ」

 

 ――その時、ギルモンは風の音を聞いた。

 直後、暴風が吹き荒れる。

 目の前にあるものは生き物だろうと何だろうと吹き飛ばす、という意思が感じられるほどの風が渦巻いた。

 

「う、うわぁああああ!」

 

 その風に巻き上げられて、ギルモンは天高く吹き飛んだ。

 

「ああああああああ……ぐへっ」

 

 そして、地面に叩きつけられる。

 

「うぐぐ……」

 

 痛みにうめきながら目を開ければ、その瞬間にギルモンは痛みを忘れた。それほどの光景が目の前にあった。

 渦巻く風が天高く昇っている。土を巻き上げ、空を捻り、陽の光さえも巻き込んで、上空へと上がっていく風――微かに金色に輝く竜巻。

 それほどの奇跡の光景が目の前にあって、さらにはどうなったのかティラノモンとグラウモンの姿はない。

 風と共に上空に巻き上げられたのか、風で吹き飛ばされたのか、はたまた風によって――。

 

「嘘。なんで」

 

 ギルモンにはわかってしまった。

 いつの間にか目の前に立つ背中、その人物がこの奇跡のような光景を引き起こしたのだと。そして、その人物こそはこの世に数人といない存在の一人であることを。

 ギルモンの目の前に立つは、黄金の槍を携えた中世の騎士だった。

 

「哀れなるかな、呼ばれてしまった者たちよ。我にはもはやどうすることもできず」

 

 中世の騎士がその黄金の槍を振るう。

 風は止み、その一瞬で世界に静寂だけが残った。

 

「あ、あの……た、助けてくれて……ありがと、うございました」

 

 未だ眩む中、それでも礼をとギルモンが頭を下げる。

 そんな彼を中世の騎士は見ていなかった。

 

「……」

「あの?」

「……ああ。礼は受け取ろう。しかし、我によって其が助けられたのは唯の幸運に過ぎず。二度と無い事である」

「それは、はい」

 

 ギルモンは俯いて答えた。

 もちろん、彼もわかっているのだ。彼は逃げ出した者だからこそ、逃げ出した者に未来はないことをわかっている。今回のような幸運が何度も続くほど、世界は甘くない。どうしなければならないか、彼もわかっている。

 だが、それでも。

 

「僕は……」

「まぁよい。我には関わりのないことなれば。しかし、見殺しにするのも良くはない。これだけは言おうか。未だ安全は来ず。故に」

「え?」

「逃げよ」

「え。逃、げ?」

「二度は言わぬぞ」

「ッ――!」

 

 中世の騎士に睨まれ、ギルモンは駆け出した。一目散に、どこにあるかもわからない安全地帯を目指して走り出した。

 そんな子供を横目に見ながら、中世の騎士はギルモンの向かった先とは反対の方向を向く。

 そして、黄金の槍を構えた。肩より上に、自分の身体を弓とするように。

 

「フッ!」

 

 一陣の風が吹いた。

 風を引き連れて、黄金の槍が砲撃もかくやといった様子で突き進む。

 そして、草原の遥か先にある森、その入口に着弾する。土煙や瓦礫と共に、凄まじい轟音と衝撃が撒き散らされた。

 

「さて、会うのは初めてか。伝達者」

 

 風と共に声が来る。風と共に土煙が晴れる。

 そこには中世の騎士が立っていた。そこは先ほどいた場所からずっと遠く離れていたはずなのに。

 そして、粉々になった地面に突き刺さったままの槍を引き抜く彼は、先ほどの投擲を上手いこと躱すことができた者を見る。

 

「到達者ァ!」

 

 そこにいたのは、メイクラックモンVMだった。

 一歩間違えれば殺されるところだったとあってか、騎士を睨んでいる。だが、実力の違いを知っているのだろう。襲いかかるなどという軽薄なことはしなかった。

 

「ここで其を殺しても事態は解決せず。しかし、見逃す意味もなし」

 

 中世の騎士がその黄金の槍を構える。

 今度はその両手で柄を持っている。それは先ほどのような投槍などという間違った使い方ではない、本来の使い方で使用されるのは明らかであった。

 そしてその時、標的となるのが誰であるのかも明らかである。

 

「ガァァァァ……オノ、レ……!」

 

 逃げられないし、逃げられるはずもない。勝てないし、勝てるはずがない。

 メイクラックモンVMは悟ってしまう。

 だって、いくら特殊な能力があろうと、メイクラックモンVMはスペックとしては平均的な完全体デジモンだ。

 対して、目の前の中世の騎士は到達者。究極体の中でもひと握りの伝説。その武を持ってして、歴史に名高き“偉大なる者”の領域に踏み込んだ者。

 力という一点において偉大なる者と同格の、端的に言えば歴代最強の一角――!

 

「む」

 

 風が吹いた。まるで微風のような、柔らかい風が。

 

「……! ナ」

 

 自分に何をされたのかわからなかった。メイクラックモンVMは、ただ微風を感じただけで。そして、たったそれだけで吹っ飛ばされた。

 

「ガッ、ックゥ、ニャガ……グッ!」

 

 遠くまで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。何度も何度も。

 数秒と経ってようやく止まったが、その時にはメイクラックモンVMはもはや死にかけだった。

 

「今の一瞬で獲る気だったのだが。……新手という事か」

 

 少し驚いたような、中世の騎士の声。

 

「カカカ! そうとも! まさか、かの到達者の一人とやりあえるとは。まさに光栄の極みだ!」

 

 それに相対するのは、メイクラックモンVMが知らない声だった。否、知っている。この声の主は知らずとも、身体が、本能が、この声の主がどういう存在なのかを知っている。

 メイクラックモンVMは顔を上げた。そこには自分を庇うように立つ、身の丈ほどの鞘に封じられた大太刀を持った武者がいて。

 

「ガァアアアアアアア!」

 

 そして、メイクラックモンVMは武者に頷かれて逃げ出したのだった。

 その後を追おうとする中世の騎士は、しかし、武者に道を塞がれる。ならば仕方ないと風を飛ばせば、それは大太刀によって防がれる。

 僅かに騎士は瞬きした。

 

「是非もなし。然し、魔剣を鞘に収めたままとは」

「失礼は承知。だが、なかなか戦に恵まれんのでな」

「成程。舐められたものだ。戦う気はないと」

「そういうことだ。今しばらくこの遊びに付き合ってもらうぞ。到達者――否、メディーバルデュークモンよ」

 

 そして、黄金の槍と鞘に収められた大太刀がぶつかり合う――!

 




補足。
独自設定:到達者。
デジモンにおいてその名前が指すのは個体ではなく種族である。
アグモンは一匹だけではないし、究極体で有名なオメガモンも(同時代に何体もいるかは別として)一体だけではない。
幾多もいるその種の中でも、強さはピンキリ。
オメガモンを例えに出せば、X抗体を得なければ覚醒しないはずの能力に通常種で目覚めた個体(漫画版クロウォ)もいるし、どこぞの相手に剣を折られた個体(01、クロニクル)もいる。
ある程度の保証はつくとはいえ、環境や経験で大きさも強さも個体ごとに変わるのがデジモンである。
そんな中で、明らかに限界を超えた強さを持つ者、その種の代表となるほどの実力に至った者、偉大なる者の領域に踏み込んだ者――それが到達者と呼ばれ、伝説となる。
簡単に言えば、超強い個体。
メタ的に身も蓋もない言い方をすれば、公式設定に書かれるようなやつ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。