【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
夜。誰もが寝静まる時間帯。
そんな時間にあって、しかし、コータはアジトの中で横になったままながらも起きていた。一人、物思いにふけっていたのだ。
「……」
考えるのは、メイクラックモンVMのことだ。
そのことはコータにとって、簡単に答えの出ることではなかった。いっそ
眠ろうと目を閉じても、彼の頭の中は今の彼を悩ませるものが占領していて、とても休むことなどできなかったのだ。
「……はぁ」
横になった状態で、何度目になるかはわからない寝返りを打つ。すると。
「いい加減にしろよぉ、コータ!」
小声で怒鳴るという器用なことをしたドルグレモンの尻尾がコータの頭を打った。鈍い音が響き渡った。
「ぐ、ぉおおおお……」
ドルグレモンの尻尾は槍がくっついている。地味に痛い。というか、頭が割れるかと思えたほどの痛みだった。
そして、痛みに悶えるコータをドルグレモンは咥えて、入口の方へと引っ張っていく。先ほどの小声といい、眠っている他の者たちに気を使っているらしい。
入口の辺りに着いて、ようやくコータは離される。
「なんだよいきなり」
コータは不満を露わにドルグレモンを睨みつけた。
対して、ドルグレモンも同じように不満げにコータを睨みつける。それはこっちのセリフだ、とばかりに。
「いきなりでも何でもないしっ何回寝返り打つんだお前はっおかげで起きちゃったよオレだけでよかったな起きたのボコモンが起きたら説教の嵐だぞきっとそんなにうるさくするなら付き合ってやらんこともないぞおい聞いてんのか!」
ドルグレモンは顔を迫らせて一息で言い切った。とても聞き取り難い。
その勢いに、思わずコータも「お、おう……ごめん」と唖然としてしまう。
「いや、っていうか、起きたというか起きてた――」
「起きちゃったんだ!」
「いや、そんなギンギンに充血した目で言われても――」
「起きちゃったんだ!」
「いや、だから――」
「起きちゃったんだってばぁ!」
涙目ながらに牙を剥かれれば、コータはまたも「お、おぅ……なんか、ごめん」と言うしかなかった。
「ごほんっ」話を変えようと、ドルグレモンが咳を一つ。
「わざとらしいな」
「うるさいわっ」
ガァッ、っと牙を剥かれたからコータは大人しく聞き役に徹することにした。不器用な気遣いに、その口は軽く弧を描いていたが。
「悩んでいるなら話してくれよ。パートナーだろ」
直球だった。気を遣って、遠まわしに聞くためにいろいろと言ったくせして、そのすべてを自分で台無しにする馬鹿がそこにいた。
「……ま、そうだよな」
その
そして、星を見上げながら彼は話し始めた。
「メイクーモンのことだよ」
「……それは、まぁ、そんな気はしてたけど」
「ならわかってるだろ。どうするのがいいんだろうな」
「えぇ、俺だってそのことで悩んでんのに、わかんねぇよぉ……」
羽と首をだらんと力なく下げて、ドルグレモンは情けなく言った。
役に立たねぇなぁ、とコータは笑う。だが、まぁ、コータもドルグレモンも悩んでいるだけあって、二人にとっては簡単に結論の出せる話ではなかった。
メイクーモンはメイクラックモンVMに進化し、世界を汚している。メイクーモンの時は無意識だから仕方ないと詭弁もできた。だが、それもメイクラックモンVMに進化したことで故意となっている。
「メイクーモン……今は、メイクラックモンVMだったっけ? あいつのやってることは許せない。いたずらに命を踏み躙って、狂わせて、命で遊ぶ行為だ」
「俺たちもそこまで正義感のある方じゃないけど、それでもなぁ」ドルグレモンが溜息を吐いた。
ああ、そうだ。メイクラックモンVMの行いは正しく悪で、人並みの正義感しかないコータたちでも許せないものだ。
だから、悩ましい。
「命は、あんなもんじゃない。もっと輝かしくて、強くて、一生懸命なもんだ。オレたちの生きる世界は、決してこんな世界なんかじゃない」空に輝く星を見て、コータはそう言った。
「そうだよなぁ」ドルグレモンも同意する。今の、Xプログラムの時以上に狂わされたこの世界は決して認めたくないという思いが、二人にはあった。
……この世界を元に戻すことはできなくても、これ以上の拡大を防げると考えられる方法はある。だが、それは。だからこそ、悩ましい。
「でも――」
正義だ何だので、仲間を手にかけるのか。手にかけなかったところで、それはメイクーモンのためになるのか。
そもそもコータたちとメイクーモンとの仲は何だと問えば、仲間あるいは友人と彼らは答えるだろう。だから、思ってもいない理想論やら正義感やらで切り捨てられないほどの絆はある。だが、一方で、その絆のために一緒に死んでやれるのか、殺されてやれるのかというとそれはできなかった。
「――どうすればいいんだろうな」ポツリとコータが言う。
コータたちは今まで、ただただ生きていた。この弱肉強食の世界で、生きたいという本能――獣の戦いをしていたのが、彼らだった。彼らの今までは、たったそれだけの話だった。
だが、これは。
同じく生きるためではある。だが、本質が違う。彼らがメイクラックモンVMと戦うということは、自分の命を守るための、生存のための戦いではなくなってしまう。言うなれば、理性による善悪の生き方――人間の戦いで。つまるところ、正義のための行いだ。
「そういやブラックウォーグレイモンも言ってたよな」
ドルグレモンが思い出したように言った。
言われて、コータも思い出す。
あの時、ブラックウォーグレイモンは言った。
――「しかし、真実はお前たちが背負うには重過ぎる。耐えられないのに背負われても困る。後で尻拭いする羽目になるのはオレたちなのだからな」
ああ、それはこのことだったのだろうか。
確かに、コータも思ってしまった。自分が背負うには、重過ぎると。
「本当、どうすればいいんだろうな」
何度目になるかもわからない、同じ言葉。
選択から逃げ出して、事を誰かに任せる? それこそコータには出来そうもない。だが、選択したとして、結果を出すには足りないものが多すぎる。
メイクラックモンVMをどうにかする能力があれば、あるいはどうにかする信念があれば、それでいいのだろう。
しかし、そのどちらもがコータにはなくて。堂々巡りで悩んでいる。
「はぁ」
そんなコータを見て、ドルグレモンは溜息を吐いた。
そして、彼は思いっきり身体を揺らして――次の瞬間、勢いに乗った尻尾がコータを吹っ飛ばした。
「ぐはっ!」
壁に叩きつけられて、コータは虫の息になる。
「あ、やべぇ。加減間違えた」とは犯人の言である。
何とか息絶え絶えに起き上がって、コータはあっけからんとしている犯人を弱々しく睨みつけた。
「な、に、するんだ……!」
「いや、だってウジウジ……ではなくて、ぐるぐると鬱陶しいから」
「死ぬわっ」
コータは怒りと共にドルグレモンをぶん殴る。まぁ、それは自分の拳を痛めただけで終わったのだが。
「コータは考えすぎなんだよ。それこそ本能で生きていいと思うぞ」
「本能で、って。それで取り返しのつかないことになったらどうすんだよ。目の前にある問題を考えず、場当たり的に望むなんて、それこそ――」
「別に適当にやれなんて言ってないぞ」
ドルグレモンは真っ直ぐにコータを見た。そこにはふざけている色はなくて、コータは自分が冷静になっていくのを感じた。
そして、わかった。
「答えはいつでも自分の中にしかないくて、自分の中から生まれるもんだ。自分で考えて作り出すもんじゃない。俺たちはいつだってそうやって生きてきただろ」
ああ、そうだ。
死にたくない、からここまで来た。生きていたい、からここまで来られた。たったそれだけの動機で、彼らは幾つもの自分たちと同じ“生きていたい命”を踏み越えて生きてきた。
その動機は彼らが自分で考えるよりもずっと先に生まれていた。それに従って、今まで生きていた。
「あぁ、なるほどね。確かにオレたちらしいか」
「俺はどんな選択をしてもコータを見捨てない。嫌いにならない。だから、安心して行ってもいいぜ?」
「その言い方はオレがお前がいないとダメみたいでムカつくんだけど」
「違うのか?」ドルグレモンは真顔で言った。
「……違わないな」
コータは思わず晴れやかに笑った。
「じゃあ、とりあえずメイクラックモンVMをぶん殴ろう。それでどうにもならなかったら、ふん縛って、その後考えようか」
「いきなり過激になったなっ!」
答えは初めからコータの中にあった。
コータは
それだけの話だった。
「ああ、ちょっと今までと違うからって変に考えちまった。そうだな。あれこれ難しく考えたって意味はないんだ。考え事するなら、もっと建設的に行かないとな」
「そうそう」
どんな選択をしようと、どんな結果になるかはその時にならなければわからない。選択の答えと物事の結果が違うことなんてことはよくあることで。
それをわかった上で、コータは本能で行くことを決めた。
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そして、翌日。
「……眠い」
「眠たい」
落ちそうになる瞼を必死にこじ開けながら歩くコータとドルグレモンの姿があった。
そんな彼らを呆れたように見るのは、ボコモンたちだ。
「夜更ししとるからじゃ。いいか、ちゃんと睡眠は取りなさい!」
「アウアウ」
「そういうボコモンたちだって隈ができてるじゃんかー」
「誰のせいじゃと思っとるんじゃー! お前さんの寝返りがうるさかったからじゃい!」
両手を挙げて威嚇するボコモンを、コータは笑って済ませる。
しかし、少し気になるのはボコモンが乗っている者――そう、ズバイガーモンだ。
「どこまでついてくるんだ?」とコータが聞けば、
「このご時世には珍しく、トゥエニスト集団と出会えたんだからな! せっかくだしついてくぜ!」とズバイガーモンは勢い良く答えた。
まぁ、別についてくること自体に否はない。
そこはいいのだが。そう言えばと気になることがあって、ドルグレモンが声を上げる。
「そう言えば、さ。俺やコータ、あとボコモンはトゥエニスト? って言われたけど。トコモンは?」
一人だけズバイガーモンから何も言われていないトコモンがトゥエニストであるかどうか、ドルグレモンはそれが気になったのだ。
「うーん。あんまりトゥエニストって感じじゃねぇなー」とズバイガーモンが頷いた。
「あははは!」
まさかの一匹だけ仲間外れ。それがちょっと面白くて、ドルグレモンは笑ってしまう。
「あははっは――痛いっ」
「ガウッ! アウアウ」
そして、ドルグレモンは罰だとばかりに剥き出しの歯に噛み付かれたのだった。