【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第二十話~乙女(笑)~

 ズバイガーモンという少し鬱陶しい仲間ができて、はや数日。元凶のメイクラックモンVMに何かあったのか、初期の頃の勢いが嘘のように狂気の感染は緩やかになっていた。

 そのことに首を傾げながらも、コータたちは誰かが事を終わらせたなどとは考えず、メイクラックモンVMを探して大陸を彷徨っていた。

 まぁ、毎日の行動は似たようなものである。

 例えば、今のように――

 

「がぁあああああああああああ!」

「ぉおおおおおおおおおおおお!」

「らぁあああああああああああ!」

「うぉおおおおおおおおおおお!」

 

 ――奇声を上げながら迫り来る狂気デジモンたちを、毎日のように蹴散らしたりする。

 ちなみに、最後の「うぉおおおおおおおおお!」はドルグレモンである。別に狂気に落ちたとかそんなんじゃなくて、それはただ単にいきなり地面の下から飛び出たことにびっくりして回避した時、思わず出た奇声だ。

 まさか地面の下から三体のモグラ(ドリモゲモン)が現れるなんて、ボーッと飛んでいたドルグレモンには予想できなかったのだろう。

 

「がぁー!」

「オァアアア!」

「ラァアア!」

 

 というか、振動も音もなくいきなり地面から強襲してきたことを考えるに、この三体は地面の下でずっと獲物が来るのを待っていたのだろうか。

 狂ったデジモンにそれだけの知能があるとは思えなくて、地味にコータたちは気になった。まぁ、気になったところでやることは同じなのだが。

 ちなみに、真実は散々地中で暴れた結果ぶっ倒れて強制的な休憩をしていたところにコータたちが通りかかった、というだけの話である。

 

「あー……」

 

 何はともあれ、現れた三匹のモグラを前に、コータがこれから起こる面倒を思って天を仰いだ。

 いや、戦闘自体は面倒なことはないのだが。なにせ、これはもはや十何度目かという戦闘で、もはや慣れたものだからだ。しかも、相手は通常デジモンの成熟期だったり成長期だったりと雑魚ばかりであるし。

 では、何が面倒なのかというと。

 

「トゥエニストじゃないお前らがトゥエニストのオレを襲うとか片腹痛いぜ! いっくぜぇええええ!」

「待て待て待て待て、お前さん背中にわしが乗っておるのを忘れ、って、うわぁああああああ!」

 

 戦闘が始まるや否や突っ込んでいくトゥエニスト馬鹿(ズバイガーモン)がいるからだ。

 面倒なことこの上ない。だって、そうだろう。ドルグレモンの必殺技“メタルメテオ”は中距離射程の範囲技だ。だから、ドルグレモンが相手をしている間にズバイガーモンがボコモンたちを連れて距離を取り、その上でドルグレモンが必殺技でまとめて殲滅するのが一番楽だ。

 それなのに、わざわざ接近戦で戦いを挑んでいって一体一体相手にしていくなんて。

 

「おぉおおおおお! オレが! 真のトゥエニストだぁああああああ!」

「コータぁあああああああ! 助けてくれぇええええええ!」

 

 そして、悲鳴を背に今日も元気にズバイガーモンは駆ける。

 そんな中で、もはや慣れたものだとドルグレモンが余った相手を蹴散らしていったのだった。

 

 ******** 

 

 そんなこんな、で。

 

「ま、何だかんだでやることは変わってないよな。相手が変わっただけで」

「そうだな。楽に勝てるくらいの力を得たのに、わざわざ面倒な倒し方をしていることは納得いかないけどな」

 

 コータの言葉に返したドルグレモンは、目の前に積み上がったドリモゲモンの死体を見て溜息を吐いた。

 とはいえ、楽になっていることは確かであった。実力が上がっていることもそうだが、狂気に感染したデジモンたちは()()からだ。

 彼らにはX抗体の奪い合いをする者のような、何が何でも自分が生き残るという意思がない。ただただいたずらに暴れまわっているだけで、だからこそドルグレモンは倒しやすく感じるのだ。

 

「……まだかな?」コータが問う。

「まだだろうなぁ」ドルグレモンが答えた。

 

 仕方ない、と溜息を吐いてコータたちはまた死体を見たり景色を見たりとボーッとして過ごす。

 まぁ、辺り一面の荒野だ。面白いものなど、せいぜいが空にある変わった形の雲くらいである。というか、そんな場所だから、遮蔽物がなくて周囲からは丸見えなわけで、コータたちとしてはさっさと移動したい。

 だが、それができない訳があった。

 

「うぉ、うぇえええええええええええ」

 

 その訳とは、背後から聞こえてくる奇声と異臭である。

 

「はぁ。毎度のことだけどさ。どうしてこうなるんだろうな」コータが肩を落とした。

「ズバイガーモンの背中に乗っているのが悪いんじゃないかなぁ?」

「でも、ズバイガーモンは率先して背中に乗せようとしてるしな」

 

 どちらからともなく「はぁ」とコータたち二人は溜息を吐いた。

 その背後で――

 

「アウアウアウアー!」

「うごごご、これ頭の上に乗るな揺するなまた気持ち悪くなるじゃろがー! うぷっ」

 

 ――何度目になるかもわからない奇声と異臭。

 加害者は「だらしねぇな。それでもトゥエニストかよ!」と言っていて、被害者は口から異臭と汚物を吐き出しながら、お前さんのせいでと睨みつける。

 結局、そんな被害者(ボコモン)が口から汚物を出し切るまで、かれこれ一時間くらい移動が止まるのだった。

 この間に再び襲われないのは奇跡と言ってもいい。

 まぁ、汚物の異臭のせいで狂気のデジモンとしても近づいてこないのかもしれないが。

 

「そう言うのは酷過ぎるじゃろー! これでも乙女なんじゃが!」

 

 そう、被害者は毎度のように語る。

 

 ********

 

 そして、撒き散らした汚物と異臭から逃げるように移動するコータたち。

 ボコモンは毎度のごとくドルグレモンの背中に乗ろうとするのだが、その度に押し切られてズバイガーモンに乗せられている。

 なぜ押し切られているのか、とはコータとドルグレモンの疑問である。

 ちなみに、トコモンはそんなボコモンを面白そうに見ている。ある意味、この状況を一番楽しんでいるのはトコモンであるかもしれなかった。いや、きっとトコモンだろう。

 

「アウ~? アウアウ! アウア!」

「っく、お前さんいつか覚えとけよ……!」

「アウアー? アウアウーア!」

「お前さんはぁぁぁぁ!」

 

 このやり取りも恒例となっていた。

 毎度毎度繰り返すものだから、何となくコータたちにも意味合いがわかって来たような気がした。

 訳すのなら、

 

――「あれ~? また乗るなんて無様を晒すのが好きなんだね! さっすが!」

――「っく、お前さんいつか覚えとけよ……!」

――「えぇー? 何言ってるか聞こえませーん!」

――「お前さんはぁぁぁぁ!」

 

 といった具合だろうか。

 まぁ、コータたちの予想だが、あまり違ってもないだろうと彼らは確信していた。

 

「ははは。仲がいいんだな!」

 

 一方で、そんなトコモンの言葉を理解しているのかいないのか、理解している上でその皮肉を理解していないのか、ズバイガーモンは呑気に笑っている。

 やはりズバイガーモンを殺るしかない! とそんな思考にボコモンがたどり着くのも時間の問題であった。

 

「お、コータ見てみろよ!」

 

 そんな不毛な状況が続く中、ドルグレモンが思わず声を上げた。

 言われて、コータも気づく。仲間との会話以外の意識は周囲の警戒に充てていたから気付かなかったが、ドルグレモンの言葉で気づくことができた。

 かなり遠くだが、見えた。

 

「山、か!」

 

 小さくだが、確かに山が見えた。周囲に何もない荒野から見ているせいで距離感がまだ掴めないから、どれほどの大きさかどうかはわからないが、確かに山だ。丘とかそんなこともないだろう。

 その光景の変化に、コータは僅かにテンションが上がった。さすがに、何もない荒野をずっと行くのは気が滅入ってくるからだ。

 

「ほう、あの山は――」

 

 ボコモンがもの知りブックを取り出して調べている。

 そして、言った。

 

「飛ばせば今日中に麓までたどり着けそうじゃな。山そのものは自然豊かとは言えないかもしれんが、周りを森で囲まれた山じゃ。隠れる場所の一つや二つはあるじゃろ。休むにも持って来いじゃ。どうする?」

 

 どうする、とは即ち疲労覚悟で飛ばして安全な場所で休むか、体力を保ちつつこの荒野という危険な場所で今日を終えるか、という二択である。

 少し考えて、コータはドルグレモンと頷いた。

 

「よし、行くか!」

「おう!」

 

 コータとボコモンを背に乗せたドルグレモンが飛び上がる。

 低空ながらも、勢いづけて突き進んでいく。

 

「オレも負けてられねぇぜ! いっくぜぇええええ!」

 

 そして、それに触発されてズバイガーモンも駆けていく。しかし、やはりドルグレモンと違って他人を乗せるのに慣れていないのだろう。

 ゆっくりと進むならともかく、全力ダッシュで背に乗る他人に良い乗り心地を提供するなど、性格も相まって出来ないのだきっと。

 

「うぉおおおおおおおお!」

 

 結局、またボコモンの悲鳴が響き渡ることになったのだった。

 

 ********

 

 そんなこんなで、山の麓の森にたどり着いたコータたち一行。

 全力で飛ばしてきた結果か、夕方には到着することができていた。

 そして、森は酷く静かだった。狂気に陥ったデジモンたちがいる気配がない。

 だが、気になるのは理性あるデジモンの気配もないということだ。隠れているのか、そもそもいないのか。何となく嫌な予感を覚えながらも、どうこうするという案もなく、コータたちは適当な場所を探す。

 ちょうど良い場所が見えた。

 ちょうど上手く木々が入り組んだがあって、あの物陰なら遠くからは見えないだろう。

 

「よし、じゃ行ってみようぜ」

 

 ドルグレモンがそう言って、歩き出す。

 コータたちもその後について行って――

 

「っ、な――!」

 

 ――驚愕することになる。

 


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