【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
見間違いだと思った。だが、見間違えるはずもない。
木々に隠れるようにしてそこにいるのは、メイクラックモンVMだ。
「メ――!」驚いてコータは声を上げた。……上げてしまった。
その声によって、接近に気づいたのだろう。メイクラックモンVMは驚いたように顔を上げて、すぐさま立ち上がった。そして、大きくジャンプ。逃走を開始する。
「逃がすかっ。ドルグレモン!」
「おうっ」
コータはすぐさまドルグレモンの背に乗って、追跡を開始する。
「ちょいと待たんかーい」
「アウー」
「待てよー!」
ボコモンたちを置き去りにして。
まぁ、ボコモンたちも置いていかれるつもりはない。ズバイガーモンの背にボコモンが乗って、その背中にトコモンがしがみついて、彼らはメイクラックモンVMを追う、コータたちを追跡する。
「待てやー!」
「まてぇ!」
一方で、先行するコータとドルグレモンがメイクラックモンVMを追いかける。
だが、先に行くメイクラックモンVMは一回も後ろを振り返ろうともせず、ただただコータたちから逃げていっている。
それが、コータたちには気に食わない。
「こうなったら――」コータは苦々しげに呟いた。
この森の中では小回りの利くメイクラックモンVMに対して、巨体のドルグレモンはあまりに不利。このままでは距離を取られる一方だろう。
そんな状況だから、目の前に迫る木々の枝を避けるの手間すら惜しい。
だから、これは、そう。仕方ないのだ。少し申し訳なく思う気持ちもない訳でもないが、そこはそれ、コータはその感情に蓋をした。
そして、ドルグレモンに言う。
「薙ぎ払えっ!」
腕を掲げての号令。
ドルグレモンは「えぇー」と引いていた。
「いいから、やれっ」
「“メタルメテオ”ォ!」
まぁ、そんな彼としても焦れったい気持ちがあったのだろう、素直に指示に従って必殺技を放ったのだが。
轟音、轟音、轟音、轟音、轟音――!
ドルグレモンの巨体を遥かに超える鉄の隕石が、森の木々を次々に薙ぎ倒していく。
「負けるかぁああああ!」
「ぬわぁああああ! 馬鹿者共ぉ!」
「アウアウー!」
下から聞こえてきた悲鳴二つと幼い笑い声は、コータたちには聞こえなかった。
一方で、順調に木々を薙ぎ倒していく鉄の隕石は、そろそろメイクラックモンVMに迫ろうとしていた。
まさか森の木々ごと吹っ飛ばしてくるとは思いも寄らなかったのだろう。初めて後方を振り返ったメイクラックモンVMの頬は引き攣いっていた。
だが、メイクラックモンVMとしてもこのままで何もしないつもりはない。躱す、のはリスクが大きい。すでに巨大な鉄球が壁のように眼前に迫っているのだから。
であれば。
「ガァアアアッラシャアア!」
確かに“メタルメテオ”は威力という一点においては高威力。超重量かつ超巨大な鉄球が超光速で迫るのだから。
だが、その技の勢いも幾つもの木々を薙ぎ倒し、それらがクッションになっていることで減衰している。だから、これができる。
振るった腕が鉄球を殴る。
腕が砕けそうな痛みを感じながらも、メイクラックモンVMは踏ん張った。
そして――
「ガァッ、ガァッ……」
――吐き出された荒い息と共に、鉄球は止まった。
好機だ。メイクラックモンVMにとっては。
なにせ、“メタルメテオ”はデカイ。威力に全振ったために、その大きさは巨体であるドルグレモンでさえも遥かに凌ぐ。
つまり、先ほどまでは眼前の障害を消し飛ばしてコータたちの道を作っていた鉄球は止まってしまったために、今度はその巨大さでもって彼らの眼前を塞ぐ障害となっているのである。
「回り込むぞ!」
「わかってる! コータしっかり掴まってろよ!」
同時に、コータとドルグレモンの焦るような声が聞こえた。
メイクラックモンVMは笑って、逃走を再開する――。
「逃がさんのじゃい!」
「アウ!」
――のだが、メイクラックモンVMは忘れている。追跡者はコータたちだけではないことを。
「いっけぇえええ!」
「アウー!?」
その時、メイクラックモンVMは見た。とても綺麗な投球フォーム。人間世界のプロ野球投手もかくやといった動きで、
「ニャーッ!?」
次の瞬間、
威力は大したことはない。顔を振れば、すぐさまボールもどこかに吹っ飛んでいく。だが、どれだけ弱くても、大したことなくても、その一瞬を稼がれてしまった。
その一瞬、たった一瞬、それだけでメイクラックモンVMは負けた。
「捕まえたぞ……!」
直後、背中に衝撃。
メイクラックモンVMは先ほどとは比にならないほどの衝撃に襲われ、前のめりに倒れこむ。立ち上がろうにも、とんでもない力で押さえつけられていて起き上がれなかった。
メイクラックモンVMは首だけを動かして後ろを見る。そこには、
「よぉ」と笑うコータと、
「ぬぐぐ……!」メイクラックモンVMが動けないように、両前足を使って全力で押さえつけているドルグレモンの姿があった。
逃げ出そうとしているのだろう、メイクラックモンVMはもがいて暴れる。だが、全力で押さえつけてくるドルグレモンと完治していない身体がそれをさせなかった。
「さて……」
一方で、コータはどうしたものかと考えていた。
出会うという目的以上の捕獲まで出来たのは良い。だが、この後をどうするべきか。ドルグレモンだって体力に限りがある、いつまでも抑えられる訳はない。できるだけ早く、メイクラックモンVMをどうにかしないといけないのだ。
差し当たっては、まぁ、会話だろうか。コータはメイクラックモンVMの眼前に移動し、その顔を見る。醜く歪んでいる酷い顔だ、とコータはそう思った。
「なぁ、どうしてお前はそんなことになってんだよ。もうメイクーモンじゃないのか? お前が世界をこんなにしているとか、その面倒臭い特性とか、本当なのか? 本当だとしたら抑えられないのか?」
何をどうやって聞いていいかわからなくて、コータは矢継ぎ早に思いついたことを聞いていく。
その後ろでボコモンが呆れたように肩を竦め、トコモンに怨みを晴らすとばかりに噛み付かれていた。
「……」
メイクラックモンVMは答えない。
答えないのだろうが、しかし、答えられないのではないかとも思えてしまって。
「……言葉、通じてるよな?」
コータは少し自信なさげにドルグレモンを見る。
ドルグレモンだってわかりはしない。だから、何とも言えずにボコモン――は、トコモンに噛み付かれて忙しいからズバイガーモンを見た。
「喋れるんだから、通じてると思うぜ。つーか、お前だってトゥエニストだろ。気にせず突っ走れ! そうすればきっと通じる!」
そして、訳のわからない激励をされた。
コータは溜息を吐きたくなる。だが、それを抑えてメイクラックモンVMに向き合い直した。真っ直ぐに見つめる。すると、メイクラックモンVMはバツが悪そうに目を逸した。
「……お前」
その姿にコータは何となく確信を抱いて、だが、その瞬間のことだった。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
突然に、メイクラックモンVMが咆哮する。
すると、遠くから地響きが聞こえてきた。同時に、木々が倒れる音も聞こえる。
コータたちは嫌な予感を抱いた。恐る恐る、前を見る。木々が、吹き飛んだ。
「げ――!」
そう言ったのは、誰だったか。
現れたのはティラノモンに似た傷だらけの灰色の恐竜――マスターティラノモンと呼ばれる完全体デジモンで。さらに、取り巻きにティラノモンが五体。その後ろに、トリケラトプスのような
トドメとばかりに、全員が狂っている。
「コータ!」
ドルグレモンの行動は早かった。
メイクラックモンVMよりもコータを優先し、即座にコータを咥えて背中に乗せ、飛び上がる。ズバイガーモンも同じようにしてボコモンとそれに噛み付いているトコモンを背中に乗せ、迫り来る群れから逃げた。
「……」
自由になったメイクラックモンVMはニヤリと笑って、逃走を開始した。
「っ、待て――!」
コータが声を上げるも、無駄だ。メイクラックモンVMは森のどこかへと消えていった。
追うにも、メイクラックモンVMが呼んだのだろう狂気デジモンたちが立ち塞がる。しかも、完全体が三体もいて、そもそも楽観できる戦闘になりそうもなかった。
コータたちは即座に意識を切り替える。メイクラックモンVMに逃げられたのは残念だが、今は目の前のことが重要だからだ。
「仕方ない。やるぞ――!」
「おう!」
見れば、ズバイガーモンが元気にマスターティラノモンに突撃していた。
ズバイガーモンがマスターティラノモンを引きつけてくれるなら、それはそれでいい。残りをやるだけだ。コータは右前方を指した。
ドルグレモンは頷いて、そちらに向けて飛ぶ。わざとトリケラモンの前に出て、彼らを引き付けるようにして飛んでいく。
「うぉおおおおおお!」
「だぁああああああ!」
幸いにして、彼らに遠距離攻撃はないらしい。狂気でろくに働かない頭のせいで、彼らにできることは突撃することだけだ。木々を粉砕するほどの高威力、喰らえばひとたまりもないことは明らか。
だが、それも、当たらなければ意味がない。
「しゃあ、いっくぞ! “メタルメテオ”!」
ズバイガーモンたちからずいぶんと距離を取った。ここならば、余波はそこまで届かないだろう。
放たれた“メタルメテオ”がトリケラモンたちを押し潰す。
ああ、だが、目の前に死があったとしても。
「うぉおおおおおお!」
「だぁああああああ!」
狂気に感染した彼らには、前に突撃することしかできない。
単純にして、故に全力。
完全体二体による無我夢中の突撃。それがドルグレモンの技を迎え撃つ――!
「がぁっ、うぉあぁぁぁ……」
そして、鉄球が砕ける。その段階で片方が力尽きた。
だが、もう片方は。
「上昇しろっ」
コータの指示が、遅い。ドルグレモンがさらに高度を上げるよりもずっと早く、勢いで跳び上がったトリケラモンがドルグレモンに届く方が早い。
「まず――!」
そして、その時に銃声が響いた。
「は?」
「え?」
思わず、コータたちは呟く。
目の前で、トリケラモンが崩れ落ちた。
「ドルグレモンッ」惚けてはならない、とコータが声を上げる。ドルグレモンは慌てて銃声が鳴った方角を見た。
「ちょ、待ってくれ! ボクは味方だ!」
「……?」
慌てたように、銃声を鳴らした主は両腕を上げて味方であることをアピールしている。
コータたちは首を傾げて、その者を見た。左腕に巨大な銃を持つ、半機半竜。見慣れないデジモンだ。
「えっと、わからないか?」
わかるはずもない。見たことも聞いたこともないデジモンだからだ。
そんなコータたちの様子に若干ショックを受けたように肩を落として、そのデジモンは名乗った。
「キミたちに助けられたアグモン――今は、ライズグレイモンだ。安心してくれ。キミたちの仲間の元にもワーガルルモン、あのガブモンが行ってるよ」
そう、彼こそはあのオメガモンAlter-Sから分離した片割れだった――。