【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

23 / 64
第二十二話~風の噂~

 ライズグレイモンに助けられたコータたちは、万が一を考えて少し慌て気味にズバイガーモンたちの下へと戻って行っていた。

 そして、木々を潜り抜けた先で――

 

「おー。遅かったのう」

「アウ」

 

 ――呑気そうにくつろいでいるボコモンとトコモンを見た。

 その姿を前にして、コータとドルグレモンの間にあった緊張感が一気に抜け落ちる。「はぁ」という溜息を吐き出した。

 

「だから言っただろ?」己の言葉が信じられなかったことを不満そうに、ライズグレイモンは口を尖らせる。

 

 まぁ、信じられなかったことは事実なのでコータたちは「悪い」と素直に謝った。

 なおも不機嫌そうなライズグレイモン。そんな彼を「まぁまぁ」となだめるようにやって来たのは、ジーパンを履いた人狼――完全体のワーガルルモンだ。ライズグレイモンと同じ、あのオメガモンAlter-Sの片割れだろう。

 その隣には、土に汚れたズバイガーモンがいる。

 

「お前、なんでそんなに汚れてるんだ?」ドルグレモンが羽ばたきで土汚れを落としてあげながら、聞いた。

「更なるトゥエニストになるために、特訓をつけてもらってたんだぜ」

 

 少し疲れた様子ではあったが、ズバイガーモンはまだまだ元気そうだった。

 一方で、そんなズバイガーモンに苦笑いしつつ、ワーガルルモンがコータたちの下に来る。

 そして、

 

「俺たちだっていろいろとやらかしちゃってるみたいなんだから、信じられないのは無理もないよ」とワーガルルモンがコータたちを擁護した。

「それはわかってるけどさ。覚えてないからどうしても納得できないんだよ」とライズグレイモンは答える。

 

 未だ彼らはオメガモンAlter-Sだった頃のことを思い出せていないのだろう。自分たちが謎の存在であることを、わかっているのだ。

 だから、ワーガルルモンは自分たちに信用がないことをわかっている。

 だけど、ライズグレイモンはそんな自分たちを信じて欲しいと思っている。

 

「俺たちもいろいろと頑張ってるんだ。でも、やっぱりどうしても俺たちはおかしくてね」

「おかしい?」コータが聞き返す。

 

 ワーガルルモンは「ああ、見ていてくれ」と頷いた。すると、その瞬間にワーガルルモンが光り輝いた。ああ、その光は進化の光と同じ――だが、起きた現象は()()

 光が収まった時、そこにいたのは獣の皮をかぶった爬虫類(ガブモン)だった。

 

「は?」

「え?」

 

 思わず、コータとドルグレモンはアホのように口を開けて驚いた。

 そんな彼らを見て、ボコモンとトコモンが何か頷き合っている。そして、トコモンがトコトコと歩く。コータの足元まで行って、その足に「アウッ」と噛み付いた。

 

「いてぇっ」

 

 その痛みに、コータは現実に引き戻される。

 

「進化じゃなくて、退化? 退化ができるなんて、聞いたこともないぞ……!」

 

 驚いたようにコータは言い放った。そんなコータに頷いて、ガブモンは話す。

 

「ああ。普通、進化したら退化なんてできるはずもない。でも、俺たちにはそれができる。まるで、この状態を基本として調整されているように。だから、進化したままでいると疲れるし、不意に戻ってしまう。あんな風に」

「あんな風……?」

 

 ガブモンが指した方を見れば、そこには「疲れたぁっ」と言って倒れ込む小さく黄色い恐竜(アグモン)がいた。ライズグレイモンから退化してしまったのだろう。

 

「なんだよ、だらしねぇな。お前らトゥエニストじゃねぇんだから、そういうところで気張ってろよ!」

「うぅ、トゥエニストって何なんだよ」

「トゥエニストはトゥエニストだ!」

 

 いかにも私疲れてます! と言いたげなアグモンに食ってかかるズバイガーモンを他の面々は見ないふりする。話を続けたいのもあるし。

 だから、ボコモンの「まぁ、名と力のある者なら退化くらいできる者もそこそこ……全くいないわけではないがの」という呟きも聞いてはいなかった。

 

「俺たちの前のことはおおっぴらには知られてはないけど、まぁ、薄々と勘づいている者もいる。でも、俺たちには覚えがないんだ。怪しいのも信じられないのもわかるけど、信用して欲しいし信頼を得たい。覚えのないことで迫害されるのは嫌なんだ」

「……そりゃあ、まぁ」

 

 言っていることはわかる。わかるのだが、やはりあの絶望の騎士が変化した存在と考えれば、コータたちとしても少し警戒してしまう部分がある。

 

「だから、まぁ、行動で示すしかないって思って、レジスタンスでこの数日頑張っていたんだ、けど」

「けど?」

「まぁ、やっぱりちょっとね。いろいろと他人の目もあるし、そういう目で見られてると……」

 

 そう言ったガブモンの目は不安で揺れていた。

 他人に不審がられる余り、自分の過去が不明ということもあって、彼ら自身も自分がわからなくなってしまっているのだろう。

 

「だから、ウォーグレイモンたちに言って休暇をもらって、ここに来たんだ」

「いや、その思考が訳わからないんだけど」

 

 ドルグレモンが首を傾げて聞いた。まぁ、こんな地獄の真っ只中に来る理由がわからない上に、先ほどまでの話とだからで繋がる気がしないのだ。

 

「ああ、今の状況はここに来て初めて知ったよ。目的は別。噂を聞いたんだ」

「噂?」

「そう。このウルドターミナルに到達者がいるって噂さ。目撃者もいるらしい」

「とっ」

「到達者――!?」

 

 まさかまさかの存在に、この場にいた全員が絶句する。

 到達者という存在は、それこそ伝説の中だけの存在だという噂もあるくらいなのに。かの偉大なる者たちのように存在していたという証拠もない、名前だけ知られるあやふやな存在。

 その目撃情報があったというのだから、驚くのも当然だった。

 

「到達者なら、俺たちのこともわかるかもしれない」

 

 つまり、ガブモンたちは到達者に自分たちの正体を聞きに来たのだ。それだけの力を持つものならば自分たちのこともわかるだろうと、藁にもすがる気持ちで来たのだ。

 ガブモンたちの事情はわかった。

 なるほど、とコータたちは納得の声を上げる。

 

「というわけで、到達者のこと知らない?」

「知らないな」

 

 ガブモンの質問に、コータは首を振った。同じようにして、ドルグレモンも首を振る。

 彼らだって、何かを知っていたのならガブモンたちに教えてあげたいとは思う。助けられたことであるし。

 ただ、こんな状況の世界でまともに情報収集ができるはずもなく、到達者の噂どころか自分たちの目的(メイクラックモンVM)を探すのにも苦労しているコータたちだ。協力できそうになかった。

 

「そっか……」

 

 残念そうに、ガブモンは肩を落とす。

 見れば、話を聞いていたらしいアグモンも肩を落としていた。そして、突進してきたズバイガーモンに吹き飛ばされていた。

 

「でも、到達者か」

「気になるのか?」

 

 コータの呟きを、ドルグレモンが拾う。コータは頷いた。

 

「到達者は凄いんだろ。もしかしたら、メイクーモンのこともどうにかできるかもしれないって思ったんだ」

 

 そうだ。今のコータたちには、メイクーモン(メイクラックモンVM)の問題を解決するための案はない。

 だが、いろいろな意味でとても凄いだろう、到達者に話を聞けたのならばあるいは光明が見えるのではないか――と、コータはそう思ったのだ。

 

「あいつを探すのと同時に、到達者も探してみるか」

 

 コータはそう言った。

 

 ********

 

 そして、次の日。

 目的に新しく到達者を探すことを追加したコータたちは、同じ目的を持つアグモンとガブモンと一緒に行動することにして、森を越えた先にある山を登っていた。

 

「こんなところの先に到達者がいるのか?」ズバイガーモンは言う。

「いないとは思うけど」コータは自信なさげに答えた。

 

 まぁ、山を登る必要性はない。どちらかといえば、山を登りつつ、迂回して反対側に移動している感じである。ある程度の高さまで山を登れば、遠くまで見通せることであるし。

 

「しっかし、到達者かぁ。トゥエニストだと思うか?」

「うーん、わからんのう。たぶん、違うんじゃないか」

「かーっ! ボコモンは夢がねぇなぁ!」

 

 ズバイガーモンとその背に乗ったボコモンが先頭を行きつつ、アグモンとガブモンが真ん中を歩く。その後ろを、ドルグレモンの背に乗ったコータとトコモンが行く。

 それぞれが前、左右、後ろと警戒をしつつの行進だった。

 それぞれが話し続けていても、警戒を怠っていなかった。それなのに。

 

「ほう。不穏な風を感じて来てみれば。最近の我は妙に当たりが良いらしい」

 

 それなのに、その風はいつの間にか彼らの周りを逆巻いていた。

 

「っ――!」

 

 それは、本能の行動だった。頭で考えるよりもずっと早く、身体が動いていた。ドルグレモンが羽ばたく。その翼が引き起こした突風が、周囲に逆巻く風を吹き飛ば――

 

「っく!」

 

 ――せなかった。

 格下のデジモンならば堪えさせずに吹き飛ばすほどの突風は、しかし、逆巻く風に呑まれて意味を成さない。

 そして、逆巻く風が収縮する。コータたちは為す術もなく、風に呑まれて巻き上げられる――!

 風にもみくちゃに振り回され、体勢を立て直す暇もない。

 

「ぐへっ」

「ぐはっ」

「ア、ウ~」

 

 やがて、コータたちは地面に叩きつけられた。目が回って、上手く立ち上がれない。身体が言うことを聞かない。

 それでも、コータたちは何とか立ち上がる。やはり目が回っていて、立ち上がった瞬間に身体が揺れて倒れそうになる。

 それでも、コータたちは何とか堪える。気持ち悪くて吐きそうになる中、辺りを見れば同じように他の者たちも立ち上がっていた。

 そんな彼らの目の前に、いた。

 

「どこかで見た方もいる。どこかで聞いた者もいる。然し、ふむ」

 

 かの到達者――メディーバルデュークモンが。

 有名な聖騎士と同じ名を冠する、風を纏った騎士が。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。