【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
ライズグレイモンに助けられたコータたちは、万が一を考えて少し慌て気味にズバイガーモンたちの下へと戻って行っていた。
そして、木々を潜り抜けた先で――
「おー。遅かったのう」
「アウ」
――呑気そうにくつろいでいるボコモンとトコモンを見た。
その姿を前にして、コータとドルグレモンの間にあった緊張感が一気に抜け落ちる。「はぁ」という溜息を吐き出した。
「だから言っただろ?」己の言葉が信じられなかったことを不満そうに、ライズグレイモンは口を尖らせる。
まぁ、信じられなかったことは事実なのでコータたちは「悪い」と素直に謝った。
なおも不機嫌そうなライズグレイモン。そんな彼を「まぁまぁ」となだめるようにやって来たのは、ジーパンを履いた人狼――完全体のワーガルルモンだ。ライズグレイモンと同じ、あのオメガモンAlter-Sの片割れだろう。
その隣には、土に汚れたズバイガーモンがいる。
「お前、なんでそんなに汚れてるんだ?」ドルグレモンが羽ばたきで土汚れを落としてあげながら、聞いた。
「更なるトゥエニストになるために、特訓をつけてもらってたんだぜ」
少し疲れた様子ではあったが、ズバイガーモンはまだまだ元気そうだった。
一方で、そんなズバイガーモンに苦笑いしつつ、ワーガルルモンがコータたちの下に来る。
そして、
「俺たちだっていろいろとやらかしちゃってるみたいなんだから、信じられないのは無理もないよ」とワーガルルモンがコータたちを擁護した。
「それはわかってるけどさ。覚えてないからどうしても納得できないんだよ」とライズグレイモンは答える。
未だ彼らはオメガモンAlter-Sだった頃のことを思い出せていないのだろう。自分たちが謎の存在であることを、わかっているのだ。
だから、ワーガルルモンは自分たちに信用がないことをわかっている。
だけど、ライズグレイモンはそんな自分たちを信じて欲しいと思っている。
「俺たちもいろいろと頑張ってるんだ。でも、やっぱりどうしても俺たちはおかしくてね」
「おかしい?」コータが聞き返す。
ワーガルルモンは「ああ、見ていてくれ」と頷いた。すると、その瞬間にワーガルルモンが光り輝いた。ああ、その光は進化の光と同じ――だが、起きた現象は
光が収まった時、そこにいたのは
「は?」
「え?」
思わず、コータとドルグレモンはアホのように口を開けて驚いた。
そんな彼らを見て、ボコモンとトコモンが何か頷き合っている。そして、トコモンがトコトコと歩く。コータの足元まで行って、その足に「アウッ」と噛み付いた。
「いてぇっ」
その痛みに、コータは現実に引き戻される。
「進化じゃなくて、退化? 退化ができるなんて、聞いたこともないぞ……!」
驚いたようにコータは言い放った。そんなコータに頷いて、ガブモンは話す。
「ああ。普通、進化したら退化なんてできるはずもない。でも、俺たちにはそれができる。まるで、この状態を基本として調整されているように。だから、進化したままでいると疲れるし、不意に戻ってしまう。あんな風に」
「あんな風……?」
ガブモンが指した方を見れば、そこには「疲れたぁっ」と言って倒れ込む
「なんだよ、だらしねぇな。お前らトゥエニストじゃねぇんだから、そういうところで気張ってろよ!」
「うぅ、トゥエニストって何なんだよ」
「トゥエニストはトゥエニストだ!」
いかにも私疲れてます! と言いたげなアグモンに食ってかかるズバイガーモンを他の面々は見ないふりする。話を続けたいのもあるし。
だから、ボコモンの「まぁ、名と力のある者なら退化くらいできる者もそこそこ……全くいないわけではないがの」という呟きも聞いてはいなかった。
「俺たちの前のことはおおっぴらには知られてはないけど、まぁ、薄々と勘づいている者もいる。でも、俺たちには覚えがないんだ。怪しいのも信じられないのもわかるけど、信用して欲しいし信頼を得たい。覚えのないことで迫害されるのは嫌なんだ」
「……そりゃあ、まぁ」
言っていることはわかる。わかるのだが、やはりあの絶望の騎士が変化した存在と考えれば、コータたちとしても少し警戒してしまう部分がある。
「だから、まぁ、行動で示すしかないって思って、レジスタンスでこの数日頑張っていたんだ、けど」
「けど?」
「まぁ、やっぱりちょっとね。いろいろと他人の目もあるし、そういう目で見られてると……」
そう言ったガブモンの目は不安で揺れていた。
他人に不審がられる余り、自分の過去が不明ということもあって、彼ら自身も自分がわからなくなってしまっているのだろう。
「だから、ウォーグレイモンたちに言って休暇をもらって、ここに来たんだ」
「いや、その思考が訳わからないんだけど」
ドルグレモンが首を傾げて聞いた。まぁ、こんな地獄の真っ只中に来る理由がわからない上に、先ほどまでの話とだからで繋がる気がしないのだ。
「ああ、今の状況はここに来て初めて知ったよ。目的は別。噂を聞いたんだ」
「噂?」
「そう。このウルドターミナルに到達者がいるって噂さ。目撃者もいるらしい」
「とっ」
「到達者――!?」
まさかまさかの存在に、この場にいた全員が絶句する。
到達者という存在は、それこそ伝説の中だけの存在だという噂もあるくらいなのに。かの偉大なる者たちのように存在していたという証拠もない、名前だけ知られるあやふやな存在。
その目撃情報があったというのだから、驚くのも当然だった。
「到達者なら、俺たちのこともわかるかもしれない」
つまり、ガブモンたちは到達者に自分たちの正体を聞きに来たのだ。それだけの力を持つものならば自分たちのこともわかるだろうと、藁にもすがる気持ちで来たのだ。
ガブモンたちの事情はわかった。
なるほど、とコータたちは納得の声を上げる。
「というわけで、到達者のこと知らない?」
「知らないな」
ガブモンの質問に、コータは首を振った。同じようにして、ドルグレモンも首を振る。
彼らだって、何かを知っていたのならガブモンたちに教えてあげたいとは思う。助けられたことであるし。
ただ、こんな状況の世界でまともに情報収集ができるはずもなく、到達者の噂どころか
「そっか……」
残念そうに、ガブモンは肩を落とす。
見れば、話を聞いていたらしいアグモンも肩を落としていた。そして、突進してきたズバイガーモンに吹き飛ばされていた。
「でも、到達者か」
「気になるのか?」
コータの呟きを、ドルグレモンが拾う。コータは頷いた。
「到達者は凄いんだろ。もしかしたら、メイクーモンのこともどうにかできるかもしれないって思ったんだ」
そうだ。今のコータたちには、
だが、いろいろな意味でとても凄いだろう、到達者に話を聞けたのならばあるいは光明が見えるのではないか――と、コータはそう思ったのだ。
「あいつを探すのと同時に、到達者も探してみるか」
コータはそう言った。
********
そして、次の日。
目的に新しく到達者を探すことを追加したコータたちは、同じ目的を持つアグモンとガブモンと一緒に行動することにして、森を越えた先にある山を登っていた。
「こんなところの先に到達者がいるのか?」ズバイガーモンは言う。
「いないとは思うけど」コータは自信なさげに答えた。
まぁ、山を登る必要性はない。どちらかといえば、山を登りつつ、迂回して反対側に移動している感じである。ある程度の高さまで山を登れば、遠くまで見通せることであるし。
「しっかし、到達者かぁ。トゥエニストだと思うか?」
「うーん、わからんのう。たぶん、違うんじゃないか」
「かーっ! ボコモンは夢がねぇなぁ!」
ズバイガーモンとその背に乗ったボコモンが先頭を行きつつ、アグモンとガブモンが真ん中を歩く。その後ろを、ドルグレモンの背に乗ったコータとトコモンが行く。
それぞれが前、左右、後ろと警戒をしつつの行進だった。
それぞれが話し続けていても、警戒を怠っていなかった。それなのに。
「ほう。不穏な風を感じて来てみれば。最近の我は妙に当たりが良いらしい」
それなのに、その風はいつの間にか彼らの周りを逆巻いていた。
「っ――!」
それは、本能の行動だった。頭で考えるよりもずっと早く、身体が動いていた。ドルグレモンが羽ばたく。その翼が引き起こした突風が、周囲に逆巻く風を吹き飛ば――
「っく!」
――せなかった。
格下のデジモンならば堪えさせずに吹き飛ばすほどの突風は、しかし、逆巻く風に呑まれて意味を成さない。
そして、逆巻く風が収縮する。コータたちは為す術もなく、風に呑まれて巻き上げられる――!
風にもみくちゃに振り回され、体勢を立て直す暇もない。
「ぐへっ」
「ぐはっ」
「ア、ウ~」
やがて、コータたちは地面に叩きつけられた。目が回って、上手く立ち上がれない。身体が言うことを聞かない。
それでも、コータたちは何とか立ち上がる。やはり目が回っていて、立ち上がった瞬間に身体が揺れて倒れそうになる。
それでも、コータたちは何とか堪える。気持ち悪くて吐きそうになる中、辺りを見れば同じように他の者たちも立ち上がっていた。
そんな彼らの目の前に、いた。
「どこかで見た方もいる。どこかで聞いた者もいる。然し、ふむ」
かの到達者――メディーバルデュークモンが。
有名な聖騎士と同じ名を冠する、風を纏った騎士が。