【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第二十三話~魔法世界の英雄~

「どこかで見た方もいる。どこかで聞いた者もいる。然し、ふむ」

 

 メディーバルデュークモンはその手に持った黄金の槍を、地面に軽く突き刺した。たったそれだけの動作なのに、一挙手一投足から目を離せない。

 

「コータ、ファイトじゃ!」

「アウ!」

 

 いつの間に合流したのだろうか。

 ボコモンとトコモンは、いつの間にか合流して離れたところの岩陰で様子を伺っていた。そして、気楽そうにコータに向けて声援を飛ばすものだから、普段のコータなら腹立たしさの一つも覚えたことだろう。

 あくまで普段のコータならば、だが。今のこの状況で、関係のないところまで意識を回せる余裕はコータにはなかった。

 

「……」

 

 一方、メディーバルデュークモンは一瞥する。遠くから様子を伺うボコモンたちを、呆れたような目で一瞥する。

 

「ぬわっ」

「アウッ」

 

 一瞥されて、思わずボコモンは地面にあった大きな石を持ち上げて顔を隠した。トコモンはそんなボコモンの背に隠れた。

 まぁ、そんなボコモンたちなど知ったことではないと、すぐにメディーバルデュークモンは残りの者たち――正確にはアグモンとガブモン、コータとドルグレモンに目を向けたのだが。

 

「さて」

 

 まるで蛇に睨まれたカエルのように、圧倒的強者の気配にコータたちは凍りついていた。

 だが、それでも、相手がわざわざ来てくれたのだ。このチャンスを不意にするわけにはいかない。

 

「貴方に聞きたいことがある――!」

 

 まるで針で縫い付けられてしまったかのように、固く閉ざされた自分の口。それを、コータは頑張ってこじ開けた。それは逆に言えば、頑張らなければ口さえ開けないということだ。

 

「メイクー……メイクラックモンVMのことについて」

「メイクラックモン。あの伝達者のことか」

「あいつは俺たちの仲間なんだ。仲間で、だから――」

「その問に意味はない」

「――だから、え?」

 

 メディーバルデュークモンはコータの言葉を遮った。

 そんな彼の視線は、どこか哀れみのあるもので。彼は一体誰を、あるいは一体何を哀れんでいるのか。コータか、メイクラックモンVMか、それとも別のものか。

 

「あの伝達者の性質に変化は望めず。故に。あれは世界の敵でしかない」

「っ、そうかもしれない。でも――!」

「主観的事実がどうであれ、客観的事実に変わりはない。あれは其のように()()()()()であるが故に」

 

 その言葉を、コータは否定したかった。

 メディーバルデュークモンの言葉はつまり、メイクーモン(メイクラックモンVM)の問題をどうにもできないということだ。

 

「行き着く先は決まっている。生まれ変わりでもしない限り何も変わらない。真逆、仲間だからと手を出せずに殺されてやるとでも」

「……そ、れは」

「仲間だと言うのならば、もう少し考えることだ」

 

 冷たく、メディーバルデュークモンはコータを突き放す。

 コータは目を伏せた。

 そして、一方でそんなコータを気遣わしげに見ながらも、声を上げる者がいた。アグモンだ。

 

「今度はボクから質問だ」

「……質問の多いことだ。然し、其れも頷けるか。良いだろう。予想はつくが、言ってみるが良い」

「ボクたちは、いや、ボクとガブモンは一体何だ? わからないんだ。ボクたちは普通じゃない。どうして、ボクたちはこんなことになってるんだ?」

「その答、知りたいか。その為に此処まで来たのか」

 

 メディーバルデュークモンの言葉に、当たり前だとアグモンは力強く彼を見た。ガブモンも、同じように見る。

 相手との力の差だとか、自分たちの正体に対する不安だとか、彼らはそういうものすべてを自分たちの心の中に檻を作って閉じ込めた。

 当然、檻が蹴破られそうになるほどに、それらは大きくなっている。でも、負けないように彼らは前を向く。

 先ほどのコータと同じだ。そんなことのために好機を不意にするわけにはいかないのだ。

 彼らはこのために、ここまで来たのだから。

 

「自らを知るための行程という訳か。然し、其は答を持っているはずなのだが」

「え――」

「成程。未だ答に気づけず、という事か。ふむ」

 

 メディーバルデュークモンは何かを考えるように目を閉じる。そして、次の瞬間、地面に突き刺してあった黄金の槍を引き抜いた。

 え、と。その最小の動作に誰もが気付けなかった。いつの間にか手に持たれた槍を見て、そこで初めてその動作があったことに気がついた。

 

「答を知ることを望む者よ、答を知りたくば自ら行動せよ」メディーバルデュークモンはその槍をアグモンに向けている。

 

 その意味を、この場の全員が理解した。

 

「我は其の答を知っている。然し、其の問題に対して言葉による教示を是としない。我の持つ答を知りたくば、力を示せ。力で奪い取れ。其れが最も良き過程となる」

「……」

 

 アグモンはガブモンを見る。ガブモンが小さく頷いたのを見て、彼は頷き返した。

 答えを知っているのなら、言葉で教えてくれればいい。わざわざ戦う必要はない。そう、思わなくもない。だが、アグモンもガブモンもそう思いながらもメディーバルデュークモンの言葉に従った。

 彼らは何となく思ったのだ。きっとこれは必要なことである、と。言葉で教えられては意味のないことなのだ、と。

 

「其達は離れていろ。手出しは許さず」

 

 アグモンたちがやる気になったことを感じて、メディーバルデュークモンはコータたちに釘を刺す。ギクリと肩を震わせて、コータたちは離れた。

 まぁ、到達者の戦いともなれば、離れたところで意味はないとこの場の全員がわかっているのだが。

 

「っふ――!」

「はァーッ!」

 

 気合を入れたような、掛け声。瞬間、アグモンとガブモンは進化する。本来あるべき成熟期を超えて、完全体としての姿に。

 これが、今の彼らの全力。どうだとばかりに、彼らは見る。だが、しかし、そんな彼らを見るメディーバルデュークモンの目は冷めていた。

 

「真逆、終わりか」

「っ」

「――!」

 

 わかっている。メディーバルデュークモンの言った、力を示せという言葉の意味がこんなことではないことくらい。

 力で示せとは、即ち行動しろということだ。アグモンとガブモン――ライズグレイモンとワーガルルモンにできることは力という部分が大きいからこそ、彼はそう言ったのだ。

 だから、ライズグレイモンはその左腕の銃口を迷わず構えた。

 

「“トライデントリボルバー”ァ!」

 

 三度、銃声が鳴り響く。銃身が耐えられる限界ギリギリの速さで連射された銃弾が、棒立ちのメディーバルデュークモンに直撃する。

 

「“カイザーネイル”ッ」

 

 すぐさま距離を詰めたワーガルルモン。彼は両腕の鉤爪でメディーバルデュークモンを切りつける。両腕の爪撃と腕の勢いで、僅かにメディーバルデュークモンはよろめいた。

 それを、どう認識したのか。

 ワーガルルモンが腕を振り終わるよりも早く、その背後から声が飛んできた。

 

「退けっ! “ライジングデストロイヤー”!」

 

 ライズグレイモンの翼にある三連ビーム砲、そして彼の胸部発射口から放たれたビーム弾幕が着弾する。土煙が舞い上がった。

 ああ、それは危険な攻撃だった。ワーガルルモンが攻撃し終わる前に放たれた攻撃だった。一歩間違えなくとも、フレンドリーファイアになる可能性が高い攻撃だった。

 だが、それをわかった上でライズグレイモンは攻撃した。それは、ワーガルルモンへの信頼故か、はたまた――()()()()()()()()()()()()()()という認識故か。

 それに気づかず、ライズグレイモンは左腕の銃を構えたままで警戒する。

 そして、土煙の中から飛び出してきたのは――

 

「げほげほっ。どうかな?」

 

 ――土煙で汚れ、僅かに傷を被ったワーガルルモンだった。メディーバルデュークモンは攻撃していない。であれば、その傷が誰によるものか、明らかだった。

 だが、それを責めずに、ワーガルルモンはライズグレイモンと並び立つ。

 

「まさか、到達者がこんな程度で終わるはずがない。でも、攻撃して来ない……一体、何を企んでいるんだろう?」

 

 ライズグレイモンは警戒を怠らない。

 ワーガルルモンも、警戒を怠らない。

 だが、それでも。

 

「其達の力は、この程度か」

「っ」

 

 土煙から現れたのは、無傷のメディーバルデュークモンだった。

 その事実に、ライズグレイモンたちは落胆しない。だって、到達者なのだ。伝説なのだ。このさまざまな種族のいる世界において、最強の一角なのだ。

 それが、自分たちの攻撃程度でどうにかなると思ってはいない。

 

「力を示せ」

 

 メディーバルデュークモンはライズグレイモンたちを睨みつけた。

 竦み上がりそうになって、ライズグレイモンたちは困ってしまう。力を示せと言っても、先ほどの攻撃が自分たちの手抜きの一切ない全力だったのだから。

 

「笑止。自らに怯え、自らを恐れ、自らを信じず、それで全力を語るとは笑わせる。未だ其達の全力は程遠く。其れを示せずというのなら、此処までだ」

 

 メディーバルデュークモンが黄金の槍を構える。

 風が吹いた。

 この場にいる誰もがそれを認識する間もなく、風と共に黄金の槍が振り抜かれる――!

 

「あ――」

 

 斧のような刃先が、ワーガルルモンに向かう。

 それをワーガルルモンは静かに見ていて、瞬間――

 

――『思■出■。■■ち■、■■なのだと。故■。■々は』

 

 ――何かを聞いた。彼は納得する。ああ、確かに自分は全力ではなかった、と。

 無意識で感じていた恐怖を、生への生存本能が上回る。いや、あるいはその時に聞こえた声こそが原因なのか。

 甲高い金属音が響いた。それは、メディーバルデュークモンの槍が弾かれた音だったのだが、何によって弾かれたのかがわからない。

 それを成す者は誰もいない。ワーガルルモンも、ライズグレイモンも、それができる状態にない。

 

「――グ、アぁア……!」

「……ぐ、あァあ――!」

 

 その時、彼らは頭が割れるほどの痛みに襲われていたのだ。

 もはや、戦闘とかそういう段階ではない。気を抜けば、ショック死してしまいそうなほどの痛みだった。

 

「おい、大丈夫かっー!」

 

 様子を見ていたコータたちが遠くから叫ぶ。だが、それは彼らには届かない。

 心配だ。近寄るべきだろうか、とコータたちが逡巡したその時のことだった。彼らは、信じられないものを目にする。

 

「――!」

 

 それは、ワーガルルモンに重なるように見えた黄金の装甲を纏う狼戦士だったのか。

 

「――!」

 

 それは、ライズグレイモンに重なるように見えた赤き機械の竜戦士だったのか。

 

「――――!」

 

 いや、違う。それは、この世で最も有名な聖騎士と同じ名を冠する、あの絶望の聖騎士だった。

 

「――!」

 

 ああ、今この場で起こっているのは、聖騎士の再誕だ。

 ベルサンディターミナルの絶望の再来、その序章――

 

「これが、答だ」

 

 ――とは、ならなかった。

 一筋の黄金の風が世界を断つ。次の瞬間、再誕しかけていた聖騎士は崩れ落ちる。まるで幻のように、アグモンとガブモンの二匹が地面に落ちる。

 

「其達は伝達者や落武者と同じ、遥かな深よりの呼び声に選ばれた者。然し、彼らとは違う、作られた者ではなく調整された者なれば。()()()()を大事にすると良い」

 

 苦痛の中、僅かに目を開くアグモンたちにそれだけを告げたメディーバルデュークモンは彼らに背を向ける。

 そんな彼にコータたちが声をかけるよりも早く。

 

「コータ、か。此処に来て我はすべき事を見つけたり。故に、こうしている場合ではなく」

 

 彼は、さっさと風と共に消えたのだった。




メディーバルデュークモンが何をするのか、それは以降で。
というわけで、中ボス戦も終わり、次回から二章のラストに向けて話が進みます。

それでは次回もよろしければよろしくお願いします。
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