【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第二十五話~武者~

 落武者に刀を向けられて、コータたちも臨戦態勢となる。

 敵はあの到達者ほどではなくとも、オメガモンAlter-Sには並ぶほどの実力者だろう。つまり、格上だ。勝ち目は少ない。

 自然と、コータたちの顔が強張る。数の利はある。だが、どうしようもなく質で劣りすぎていた。

 

「臆したか」

 

 挑発だ。乗れるはずもない。

 コータとドルグレモンは悟っていた。踏み出しただけでたった斬られてしまう、と。

 とはいえ、だ。覆し得ない実力差があっても勝つというのなら、せめて戦いの主導権くらいは握っていなければならない。

 思い通り、実力通りの戦いをする敵ほど怖いものはないのだから。誰だって思い通りに戦い、実力通りに戦う時が一番強い。そうさせたら、手がつけられなくなる。

 コータたちは決して戦上手という訳でもなく、頭が良いという訳でもない。相手を思い通りに動かして戦いをコントロールするなんてことはできない。どちらかといえば力と簡単な小細工で押し切るような、脳筋タイプだ。

 だから、格上相手で、相手から動かれては堪ったものではない。

 

「……」

 

 だから、この場合は自分たちから動かなければならない。

 一歩間違えれば、死ぬ。その恐怖を、振り払う――!

 

「いくぞ!」

 

 そうして、駆け出そうとしたその時だった。

 

――ニャガァアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 叫びが聞こえた。まるで大陸中に届かせるとばかりの、音が。

 それが誰のものか、わからないはずがない。

 

「このタイミングで――!」コータは苦い顔を抑えられなかった。

 

 音の方角からして、出処は大凡だがわかる。だが、行けない。目の前の強敵相手から逃げ出し、そこに行くことはできない。

 

「コータ……」

「今は、目の前の相手に集中するぞ」

「……おう」

 

 コータとドルグレモンは苦々しい想いを振り払って、落武者を睨みつけた。

 一方で、そんな二人を見て落武者は笑った。今までの冷徹な顔とは違う表情に、誰もが一瞬だけ眉を顰める。

 

「では、行こうか」

 

 そして、刀の柄を握る落武者の手に力が込められる。

 傍目には気づけないほどの、僅かな動き。だが、その僅かな手の動きを目ざとく見つけた者がいる。

 ライズグレイモンとワーガルルモンだ。

 

「はぁっ」

「ふぅっ!」

 

 二体は同時に、落武者へと襲いかかった。

 それは、力の差を正しく認識しているからこその行動だ。後手に回れば地力の差によって為すすべもなく負ける、と悟ってしまったからこその、余裕のない行動だった。

 だが、彼らのそんな決死の行動すらも、落武者は対応する。刀が動いた。

 一突き、ワーガルルモンの腹に吸い込まれるように。

 一閃、ライズグレイモンの身体を切り裂くように。

 それだけでライズグレイモンたちは宙を舞った。鞘に収められているために致命傷ではないものの、相当の衝撃だった。弱いデジモンならば、それこそこれだけで死んでしまうだろう衝撃だった。

 

「っ、ライズ――!」コータが声を上げる。

 

 そんなコータに、よろよろと立ち上がったライズグレイモンが叫んだ。

 

「ボクたちが引き受ける!」

「は?」

「コイツは俺たちが倒す」唖然とするコータたちに、ワーガルルモンも頷いた。

 

 置いていけるわけがない。全員でかかっても勝てるかどうかわからない敵なのに。

 だが、それを承知でライズグレイモンは笑った。

 

「キミたちには助けられた恩があるからね。仲間なんだろう? だったら、行ってあげないと」 

「……すまん、ありがとう!」

「死ぬなよっ!」

 

 瞬間、ドルグレモンがコータを背に乗せたまま飛び上がる。あの叫びの聞こえた方へと飛んでいく。

 この場に残ったのはライズグレイモンとワーガルルモン、そして落武者だ。

 

「……まさか、すんなり行かせてくれるとは思わなかったよ」

 

 ライズグレイモンの少しの驚きの含まれた言葉。

 それに、落武者は肩を竦めた。

 

「使命を果たすのは某だろうとあの獣天使だろうと関係ないからな。少々残念ではあるが、私情は挟めん」

「……? 何を言って――」

「某はさっさと貴様らを殺し、次へ向かうのみよ」

 

 そうして、落武者は再び刀を持ち上げる。

 ライズグレイモンとワーガルルモンも、銃と拳――各々の武器を構えた。

 

「“トライデントリボルバー”!」

 

 ライズグレイモンの銃撃が開戦の合図となる。

 飛んできた三連の銃弾を、落武者は素早く切り伏せる。だが、無論、それくらいはやってのけるだろうとライズグレイモンたちもわかっている。

 彼らが思い出すのは、つい先日。あの到達者のこと。彼は強かった。あの少しで、文字通り次元の違いを見せつけられた気がした。何をしても対応される、そんな気にさせられた。

 これは、あの時と同じだ。

 相手は格上、何をしても対応される。であれば、ただただ全力で叩き込む。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 

 ワーガルルモンが必死に拳を繰り出した。自分に迫る大太刀を、必死に拳で弾いていく。

 鈍い音と共に刀が弾かれる度、銃声が聞こえた。その度に鈍い音がして、また刀が振り回された。そして、やはりワーガルルモンは必死に拳を繰り出して、鈍い音と共に刀を弾くのだ。

 戦えていた。バケモノみたいに強い相手に、ライズグレイモンとワーガルルモンは戦えていた。だが、

 

「フンッ!」

 

 だが、

 

「ぐっ――!」

 

 だが、戦えているだけだった。

 決して手加減されているという訳ではない。ないのだが、それでもやはり落武者は本気ではなくて。

 故に、落武者がほんの少し力加減を間違えただけで、容易く戦況が変わる。

 

「まだまだぁっ!」気合と共に、ワーガルルモンは何度目になるかもわからない拳を突き出す。

 

 だけど、繰り出した拳はどこにも届かない。顔面を逸しただけで躱され、代わりに自分の身体に鈍い衝撃が食い込むのを、ワーガルルモンは感じた。

 そして、彼は空を舞った。

 

「ワーガルルモンッ!」

 

 ライズグレイモンの悲鳴を遠くで聞いたワーガルルモンは、地面に叩きつけられる。叩きつけられて、初めて彼は自分の身に起こったことを察した。

 

「ぉおおおおお! “トライデントリボルバー”ァ!」

 

 三度の銃声。

 それは、ワーガルルモンには遠くで聞こえた。いや、それだけではない。ありとあらゆる音が、彼には遠く聞こえた。

 

「少しは期待した某の失策か。貴様らならばあるいは快い戦いになると思ったのだが、間違いか。我らが主に選ばれた個体の力は、こんなものか」

 

 失望を隠さない、落胆の声が遠く聞こえた。

 

「ぐぁっ!」

 

 ライズグレイモンの苦悶の声、そして地面に何かが叩きつけられたような重い音が遠く聞こえた。

 ああ、何もかもが遠くに聞こえて。それでも、何かが聞こえた。

 

――『……来い』

 

 音量としては、わずか。蚊の声のように聞き取り難く小さい。だが、ワーガルルモンには雷鳴にも似た大音量に感じていた。

 

――『使命を果たせ』

 

 耳を潰したい。聞いていたくない。そう感じて、そして不意に彼は思い出した。いつか似たようなことがあった気がする、と。

 それはつい先日に到達者と戦った時、ともう一つ。ああ、そうだ。この新世界に来たばかりの頃に。

 

――『お前は死すべきを是としないはずだ』

 

 だが、それを思い出したところで、関係ない。

 

――『故に立ち上がれ』

 

 そうだ。この声の言う通りだった。

 

――『力が足りぬなら、貸してやる。故に、戦え――!』

 

 だから、ここで地に伏せる場合ではない。

 

「あぁあああああああああああああ!」

「むっ」

 

 だから、ワーガルルモンは駆け出した。

 勢いのままに、胸の中に熱いものを感じて、堪らず駆け出して落武者へと向かう。

 一方、落武者はワーガルルモンのその奇行に何とも思わないようだった。いや、少し呆れているか。反応としてはそれだけで、その手の刀を振り上げてすぐに振り下ろす。ただただ突っ込んできたワーガルルモンめがけて、振り下ろす。

 そして、鈍い音がした。

 

「何――」

 

 今度こそ、落武者は驚いたような声を上げた。

 それは本気で殺す気だった自分の一撃が思いも寄らずに弾かれたからで、同時に、そこにいたのが先ほどまでとは違う、()()()()()()()()()だったからだった。

 ああ、そうだ。ワーガルルモンは進化した。黄金の装甲に身を包み、その手に持つは黄獣偃月刀。獣騎士型の究極体デジモン――クーレスガルルモンに。

 

「カッカッカッ! そうか、ようやくか!」

 

 落武者が愉快そうに笑った。

 

「少し足りぬが、是非もない。そこは諦めよう。しかし、これでようやく良き戦いができそうだ。私闘は良くないが、うむ! これも使命の一貫と考えれば多少は通るだろう!」

 

 先ほどまでとは打って変わって、楽しそうな気配を落武者は纏わせる。

 それが、なぜかクーレスガルルモンには酷く気に障った。

 

「では、やり合おうか。某はタクティモン! 我が主に形作られし、傀儡の武士である!」

 

 そして、落武者――タクティモンは笑う。

 

「クーレスガルルモンだ」

 

 その名乗りに、クーレスガルルモンは簡単に返し――そして、その手の黄獣偃月刀を振りかぶった。

 そして、刀と刀がぶつかり合う。タクティモンの刀とクーレスガルルモンの黄獣偃月刀がぶつかり合う。偃月刀という長物と身の丈ほどの大物の刀が、普通ならば小物と比べて素早い連撃には向かぬ大きさを誇る武器同士が、常識など知ったことではないとばかりに荒れ狂う。

 音が鳴った。大気が震えた。まるであらゆるものを切り裂く竜巻のように荒れ狂うクーレスガルルモンの斬撃が、まるであらゆるものを呑み込む雪崩のように押し寄せるタクティモンの斬撃が、敵を喰らわんと繰り出される。

 

「カッカッカッ! いいなぁ!」

「っく……!」

 

 一、十、百――何度もぶつかり合っては、しかし、致命的な傷には繋がらない。

 だが、ああ、クーレスガルルモンは感じていた。このまま行けば押し負ける、と。進化した。進化できた。だが、それでも届かない。

 今は勢いでギリギリ互角になっているだけで、勢いが衰えれば地力の差で負ける。それが、理解できた。

 

「残念だったな」

 

 そして、それはタクティモンもわかっていた。

 

「貴様らの先であれば、某とも互角だったろうに。いや、それでは戦う理由がなくなるのか。むぅ、上手くいかんものだ」

「っく、もう勝った気になっているのか!」

「カッ。それは失敬!」

 

 そして、タクティモンは迫り来る黄獣偃月刀を弾く。

 その時、クーレスガルルモンは笑った。

 タクティモンは怪訝そうに顔を顰めた。

 

「何がおかしい?」

「いや。今、自分で言ったばかりだろうに」

「……? っ――!」

 

 驚いたように、タクティモンは振り返った。だが、遅い。

 ああ、そうだ。タクティモンは自分で言った。貴様ら、と。それは、タクティモンの相手はクーレスガルルモンだけではないということで。

 

「“プラズマステーク”!」

「ガァッ、ぐぅうううううう!」

 

 自分の身体に流し込まれた電流が、己を壊そうとしているのをタクティモンは感じた。まるで自分の中に龍がいて、内側から食い破って来そうな、そんな感覚。

 苦しみに焼かれながら、見る。雷でもって自分を焼き殺さんとする、敵。赤き機竜戦士――ライズグレイモンが進化した、ブリッツグレイモンを。

 

「っく、まだだぁあああああああ!」

 

 タクティモンの初めての苦悶の声。それに手応えを感じ、ブリッツグレイモンは電流を流し込んでいる両腕の“プラズマステーク”をタクティモンの身体から離さない。

 だが、当然ながら、タクティモンも黙ってやられているわけがない。ブリッツグレイモンを振り払おうともがき、そして、見た。

 

「獲った――!」

 

 黄獣偃月刀を振り上げる、クーレスガルルモンの姿を。

 そして、一瞬だった。

 

「かはっ」

 

 ついに、タクティモンの身体から力が抜ける。

 

「やった――っ?」

 

 だが、クーレスガルルモンたちが感じたのは勝利の興奮ではなく、敗北の悪寒だった。だから、即座にトドメを刺すべきと再度の攻撃を仕掛ける。

 振り上げた黄獣偃月刀が、突き出されたプラズマステークが、タクティモンを殺す――!

 

「……是非もなし」

 

 そして、その直前、タクティモンの刀から発せられたとんでもない力の衝撃によって、クーレスガルルモンたちは吹き飛ばされる。

 

「今のは、効いた。ああ、うむ。本当に是非もない。後で我が主には許しを請おう。だが、今は」

 

 吹き飛ばされながら、クーレスガルルモンたちは見た。タクティモンが、その刀の柄に手をかけ力を込めていたのを。

 

「今は、この戦いを。封印、解放」

 

 刀を鞘に縛り収めていた鎖が千切た。

 

「抜刀――」

 

 そして、刀が引き抜かれる。

 鞘に収められたままだった、封印の刀が。

 

「行くぞ、戦だ。付き合ってもらうぞ。――……蛇鉄封神丸!」

 

 蛇鉄封神丸。それは星さえ砕く、刀――!

 

 ********

 

 そして、時は少しだけ遡る。

 

――いいですか? 私の力で、貴方を再起動させます。どうか、どうか、どうか。武装伝説に語られる武器の力を、存分に。

 

 遠く、声が聞こえた。

 その声に惹かれるように、ズバイガーモンは目を覚ます。直後、彼は自分の中に流れ込んでくる活力が、自らの段階を押し上げるのを感じた。

 




連日投稿二日目、第二章のラストバトル開始です。
というわけで、ラスボスその1のタクティモンです。まだ終わってはいませんが。

というわけで、次回もよろしければよろしくお願いします。
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