【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

28 / 64
第二十七話~蛇鉄封神丸~

 ラグエルモンを倒した――と言っていいのかどうかは彼ら自身もわからなかったが、とにかくその後のコータたちはその場に静かに佇んでいた。

 目の前にあるのは、ラグエルモンの死体だ。

 

「……生きるって難しいよなぁ」

「そうだね」

 

 ドルゴラモンはコータの独白に静かに相づちを打つ。

 

「生存闘争はそりゃ確かにキツイ。今のこの時代は過酷だよ。言葉なんてほとんど意味を成さずに、ただ力でのみ解決するんだから。言葉なんか放っていたらその隙に、死んでしまうんだから」

「うん」

「それでも、そこには善悪も正誤もなくて単純明快で。辛くて苦しいけど、楽なんだよな。……本当に難しいよ」

「でも、さ。最期の最後、メイクーモンは笑ってたよ。それだけは覚えておかないといけないんじゃないかな」

 

 苦しみの中から捻り出すようにして、ドルゴラモンは言った。

 それこそ難しい話だ、とコータは思う。あれこれ理由づけて自分を楽にするのは簡単だ。それでも、楽になる代わりに選択の責任を転嫁していいはずがない。いや、そもそもそれには意味がなく、そんなことができるはずもない。

 それを、何となくコータたちはわかっていた。

 

「生きなきゃなんないんだよな」

「うん」

 

 生きたいから生きるのではなく、生きなければならないから生きる。今回の“殺し”の結果は、そこにある。

 初めての決意を、コータたちは胸に抱いた。

 そして、決着から数分経った今になって、彼らはようやく動き出した。

 

「……墓くらい作ってもいいかな?」

 

 思い立ったように、コータは言った。

 

「どうだろう? 死んでるけど、特性が残っているなら埋めたら不味い気がする」

「火葬……できるやつなんかいないか。でも、このまま放置ってわけにも」

 

 ドルゴラモンとコータは腕を組んで考え込む。

 だが、結果としてその思考は無駄に終わった。

 

「っ――!」

 

 瞬間、驚いたようにコータは顔を上げた。すぐさま、ドルゴラモンは行動を開始していた。

 彼らが感じたのは、未だかつてないほどの力の波動。あの到達者さえ凌ぐのではないか、と思えるほどの威圧感。

 ドルゴラモンは咄嗟にコータを握り締めて空を飛ぶ。

 その瞬間のことだった。

 大地が、両断された。

 

「な――!」

「っく!」

 

 それは、地平線の彼方からやって来た。黒く、黒く、黒い、這い回る蛇のようなナニカ。それが大地を切り裂いたのだ。

 

「今のは、まさか」

「斬撃、だよね」

 

 コータとドルゴラモンは戦慄と共にその事実を正しく認識していた。

 斬撃の爪痕は凄まじい。大地に巨大な断層を刻み込んでいた。

 

「っ、メイクーモン――!」

 

 思わず、コータは声を上げた。その視線の先で、ラグエルモンの死体は裂け目に呑まれて地下深くへと消えていく。

 やるせないことだらけの中で、ひとしおのやるせなさがコータたちを襲ったのだった。

 

 ********

 

 同時刻、クーレスガルルモンとブリッツグレイモンは荒い息と共にタクティモンを睨んでいた。

 先ほどの大斬撃を、何とか辛うじて躱した彼らは極度の緊張と共にあった。タクティモンの持つ刀から、目が離せなかった。

 

「そ、その刀は……!」

「ああ、うむ。これか。蛇鉄封神丸と言う。これは我が主が偉大なる破壊神の権能とその武器を模して作り上げたもの。さすがに彼らそのものには一歩譲るが、単純な威力だけならばこの刀は彼らにも通じる」

「――!」

 

 偉大なる破壊神と言えば、このイグドラシルの管理する世界とはまた別の世界、東方世界の伝説だ。

 曰く、破壊と再生をもたらす者。

 曰く、雷を放ちて世界を留め、刃を振りて世界を両断する者。 

 曰く、既存のシステムを無にし、新たなるシステムを創造する者。

 その神威を模した武器。真実かどうかはクーレスガルルモンたちには判断がつかないが、その曰くを嘘だと断じられないだけの力があった。

 

「さぁ、せっかく抜いたのだ。もう少し愉しもうではないか!」

 

 テンション高く、タクティモンは蛇鉄封神丸を構え直す。

 巨大な蛇のような刀が少し動く。あまりの強大さ故か、普通ならば聞き咎めないその僅かな瞬間の音さえ、クーレスガルルモンたちには聞こえてしまった。そして、だからこそ、悟ってしまう。次にあれが振り下ろされた時、その時こそが自分たちの最期だと。

 蛇鉄封神丸――ああ、それは、クーレスガルルモンたちが勝つ上では絶対に抜かせてはいけない武器だった。

 

「……」

「……」

 

 だが、もう言っても仕方がない。クーレスガルルモンたちは頷き合う。もはや、賭けるしかない。

 そして、一瞬後。

 

「行くぞ――!」

「おぉ!」

 

 クーレスガルルモンとブリッツグレイモンが、覚悟を決めて駆け出した。

 

「その心意気やよし!」

 

 タクティモンが、いい笑顔で刀を振る。

 そして、クーレスガルルモンたちの耳に届いた音は――

 

「とぅりゃぁああああああああ! トゥエニストォオオオオオオ!」

 

 ――うるさいくらいの、声だった。

 

 ********

 

 死角から放たれた斬撃を、タクティモンは軽々と回避する。突撃を仕掛けてきていたクーレスガルルモンたちからも軽く距離を取って、斬撃を仕掛けてきた者に目を向けた。

 そして、視線を鋭くする。その雰囲気がまた変わった。

 

「貴様は……――」

 

 一方、タクティモンに睨まれたデジモンは、不敵に笑った。

 

「おう、そうだ! トゥエニストだ!」

 

 ああ、そうだ。そこにいるのはズバイガーモン――ではなかった。

 両腕を剣に変え、背中に剣を背負った、二足歩行の黄金の武器型デジモン。ズバイガーモンが進化した、完全体のデュラモンだ。

 

「トゥエニストか。その耳障りな単語を某に言い放つとは、よほど斬られたいらしいな」

「どうかな。斬られるのは、お前だぜ! 今のオレはサイッコーに絶好調だ!」

 

 デュラモンは自信満々に言い放つ。その言葉の節々から活力が感じられて、なるほど彼自身の言うことは間違いではないのだろう。

 だが、それが、余計にタクティモンの気に障った。

 

「たった斬る」

 

 感情を染み込ませられた、短い言葉。だが、それだけで十分だった。そこに込められた感情が端的に伝えていた。

 十分に伝わった。

 だから、デュラモンも凶暴に笑う。

 

「斬る」

 

 そして、デュラモンは駆け出した。

 その前に迫る、黒の刃。無数の斬撃。

 

「“悟の太刀、五稜郭”」

「っくぅ!」

 

 デュラモンはその両手代わりの大剣で、必死に斬撃を迎え撃った。

 

「なめんなよっ。今度はこっちの番だぜ! “グラン――」

 

 彼は大剣と化している両腕を振りかぶる。

 だが、その視線の先は。

 

「遅い」

 

 振り下ろされた、蛇鉄封神丸――!

 

「っく!」

 

 正に流星の如き、一閃。

 それを、デュラモンは両腕で受け止める。その瞬間、彼は自分の腕に走る痛みを感じた。

 

「ぐ、うぅうううううう!」

 

 力を緩められない。逃げられもしない。耐えることに必死になるしかない。

 彼はわかっていた。それ以外をしようとした時にこそ自分は両断されると。

 

「ひと時でもこの蛇鉄封神丸を防ぐか。だが!」

 

 タクティモンの腕に力が入る。

 僅かに音が聞こえた。

 金属が擦れる耳障りな音、とひび割れのような小さな音。それの意味するところを、デュラモンは自分の腕に走る痛みと共に感じ取っていた。

 

「誰が斬られる、かぁあああああ! オレはトゥエニストだぁああああああ!」

 

 それでも、デュラモンは声を上げる。それこそが自分だと。

 だから、ここで諦められない、と。

 

「黙れ。その耳障りな単語を言うな」

 

 しかし、一方でタクティモンはより表情を歪ませる。

 

「ぬ、おぉおおおおおおお!」

 

 音が大きくなる。痛みが大きくなる。

 もはや、どちらも無視できるレベルではない。見て見ぬふりをしていたが、もはや無理だった。デュラモンの腕――大剣に、罅が入っていた。

 いや、罅どころではない。蛇鉄封神丸の刃が大剣に食い込んでいた。

 このまま行けば、デュラモンは()を斬られる。斬るための(自分)が、逆に斬られる。ぽっと出の訳がわからないやつに。

 

「斬られろ。死ぬがいい。トゥエニストだと? 戯言を。自力では何もできず、何かがある他力に甘える者が格好つけてよくも言う」

「な、舐めんなっ、誰が他……力本願、野郎だ――!」

「は。()()で進化した貴様に何が言えるものか。自ら道を切り開いたのではなく、他者と力を合わせたのでもなく、他者に用意された貴様に。そうでなくとも貴様は使()()()()者なのに。武器とは振るい手がいてこそ。振るう者がいないから自分で動くなど、鈍ら以前の話だ」

「……!」

 

 苦しそうにしただけで、デュラモンは言い返せなかった。事実だからだ。彼は気づいたら進化していた。何者かに進化()()()()()()()。そして、彼は本当の力を受け入れていない。

 ああ、それで何を言い返せよう。今の彼に、言い返すだけのものはない。

 だが。

 

「オ、レは……トゥエニストなん、だ」

「まだ言うか」

 

 だが。

 

「それが、なんだってんだぁ!」

 

 だが、誰にどのような思惑があったとしても、それに甘んじるかどうかを決めるのはデュラモンだ。用意されたもので何を為すのかを決めるのはデュラモンだ。

 彼は、それを信じている。

 

「例えどうな思惑があろうと、オレはオレだ。トゥエニストの道を貫く!」

 

 運命とは選ぶことのできる、希望に満ちたものであると。

 

「よく言ったね!」

 

 声が降ってきた。それは、忘れてはならない声で。

 タクティモンは舌打ちと共に引き下がった。

 今まで自分を押さえつけていた力がなくなり、疲労と共にデュラモンは自由となる。

 

「ごめん、遅くなった!」

「待たせたなっ!」

 

 デュラモンと共に立ち塞がるのは、タクティモンがデュラモンに夢中なのをいいことに全力で体力回復していたクーレスガルルモンたちだった。

 

「そうか。貴様らもそこの味方をするのか」

「当たり前だろう! ここにおいて敵なのはお前だけだ!」

 

 ブリッツグレイモンの言葉に、タクティモンは「是非もなし」と諦めたように首を振った。彼としては、ブリッツグレイモンたちとは愉しく戦いたかったのだ。

 それでも、こうなってしまったのなら仕方ない。そう、タクティモンは気持ちを切り替える。

 

「ふっ」

 

 そして、横薙ぎの一閃。蛇鉄封神丸が天と地を切り分ける。

 その天地開闢の如き斬撃を、デュラモンは飛び上がってギリギリで回避する。

 一方、ブリッツグレイモンとクーレスガルルモンは――

 

「なっ」

 

 ――それは、誰の驚きだったか。

 見れば、ブリッツグレイモンたち二人は蛇鉄封神丸を二人がかりで掴み取っていた。まるで真剣白羽取りのように。

 奇跡のような光景だ。だが、所詮は曲芸。徒労に終わる。受けに全力なあまり即座に反撃に転じられていない。正気を取り戻したタクティモンの再度の攻撃で沈むだろうし、今度は奇跡は起きないだろう。

 そんな無駄な行動を、どうして彼らは取ったのか。

 ああ、答えは分かりきっている。

 

「“ブレイブメタル”!」

 

 無駄な行動ではないからだ。

 直後、破壊の権化が空より来る――!

 




というわけで、GWの連日投稿もこれで終わり。
次から通常通りに戻ります。
二章は残すところ、ラストバトル&エピローグの一話のみ。
次回投稿で二章は終わり、次々回投稿から三章が始まります。

それでは、次回もよろしければよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。