【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第二十八話~Legend-Arms~

 へいこらへいこら必死に昇った高高度より落下してきたドルゴラモンの拳が、タクティモンをぶち抜く。

 ブリッツグレイモンたちに蛇鉄封神丸を押さえつけられているこの一瞬、タクティモンには避けられない!

 

「っぐ!」

 

 大地が割れた。

 その凄まじい衝撃のすべてを受けて、タクティモンは地面に倒れる。

 

「コータ! と、誰だ!」

「なんで俺だけそんな感じ!?」

 

 降り立ったドルゴラモンと、必死にくっついていたのだろう、息絶え絶えになっているコータの姿にデュラモンは驚いたようだった。

 だって、彼らが戻って来たということは。

 

「そっちはもう大丈夫なのか?」

「ああ。……終わった」

「そっか」

 

 何かあったのだろう。それを感じつつも、デュラモンもブリッツグレイモンたちも何も言わなかった。

 

「それより今は――」

「“弐の太刀”!」

「っ!」

 

 聞こえてきた声に、全員が苦々しい顔をした。見れば、タクティモンは倒れたまま、しかし、何らかの技を使ったのだろうか、辺り一帯の雰囲気に変化が起きていた。

 具体的にどうとかは言えないが、気温が僅かに下がったような、そんな感じがしていた。

 

「しかし、好機に攻撃して来ないとは。運が良いと言うべきか、その嗅覚に優れると言うべきかな」

 

 少しフラつきながら、タクティモンは立ち上がる。全くの無傷ではないようだったが、それでも戦闘続行が可能なようだった。

 

「その姿……なるほど。獣天使は使命を半分しか果たせなかったのか」

「使命? 半分? どういう意味なんだ……!」

「知る必要はない。もう半分は某がやらねばならぬか。面倒だが、ある意味では楽な仕事でもある」

「……?」

 

 コータたちを見て、タクティモンは蛇鉄封神丸を構える。ドルゴラモンは険しい顔をして拳を構え、一人で戦わせないとばかりにブリッツグレイモンたちもドルゴラモンの横に立った。

 

「某と戦う余裕が有るのか?」

「何!?」

 

 言われて、気づいた。ブリッツグレイモンとクーレスガルルモンは攻撃の気配を察知して、躱す。一瞬後、彼らの居た場所を黒い半透明の何か――何か、としか言えないものが通り過ぎた。

 

「今この世界に満ちる、我が主の欠片を呼び出した。さぁ、貴様らは死霊と共に踊っているといい」

 

 黒い半透明の存在――死霊が、ブリッツグレイモンたちに襲いかかる。一体一体には大した強さはない。だが、死霊という名は伊達ではないのだろう、この世界の悲劇の数だけ存在するかの如き数だった。

 その数すべてがブリッツグレイモンたちを襲うのだから、彼らはその数を捌くのに必死になるしかなかった。

 

「……さて、あとは貴様らだ」

 

 場を整えたとばかりに、タクティモンはコータたちに向き合う。

 険しい顔で、しかし、諦めないとばかりにコータはドルゴラモンに頷いた。

 

「良い顔だ。では、行くぞ。“壱の太刀”」

 

 振り下ろされた蛇鉄封神丸、それをドルゴラモンは迎撃しようとして――

 

「オレを忘れるんじゃねぇっ!」

 

 ――直後、黄金が黒を弾いた。

 甲高い音がなって、黄金が僅かに世界に散る。

 

「トゥエニストか……!」

「そうだ、トゥエニストだ!」

 

 見れば蛇鉄封神丸を弾いたデュラモンの剣は傷だらけの姿を晒していた。後一歩動けば、それだけで崩れそうなほどの見た目だった。

 

「おい、デュラモン!」

「うるせぇ、黙ってろっ!」

 

 思わず心配の声を上げそうになったコータを、デュラモンは黙らせた。

 

「ここだけは負けちゃなんねぇ」

「……!」もはや言葉すら発するのも忌々しいとばかりに無言で斬りかかってきたタクティモン。

「だから、こうをするんだ!」それを、デュラモンは身体を砕けさせながら弾く。

 

 そして、デュラモンの身体が変化する。

 背中の大剣を中心に、身体が折りたたまる(鍛え上げられる)

 一瞬後、そこにあったのは――

 

「本当は嫌だったんだけどな」

 

 ――剣だった。

 ああ、これこそがデュラモンの真の力。“天使が持てば世界を救い、悪魔が持てば世界を滅ぼす”と言い伝えられる、Legend-Armsの力。武具へと姿を変える、デジモン。彼らは個のデジモンでありながら、武器でもある。しかしながら、その真の力は武器とならなければ発揮されない。

 だから、デュラモンはこれを嫌っていた。自分は自分であり、武器として他人に使われるなど冗談ではないからだ。

 だが、それでも。

 

「オレはトゥエニストとして、アイツを認められない。アイツを斬らなきゃなんねぇ」

 

 彼はタクティモンに、そして蛇鉄封神丸に負けたくなかったのだ。

 剣となったデュラモンはドルゴラモンの前に降り立った。

 

「でも……」

「だけど……」

 

 コータもドルゴラモンもわかっている。雰囲気だけ凄まじい、見た目ボロボロのこの剣を振るうということは、デュラモンにとってどういう結果になるかは。

 

「笑止。戦場で迷うか!」

 

 そして、その迷いの隙にタクティモンはつけ込んでくる。

 咄嗟にドルゴラモンは動いて、蛇鉄封神丸を拳で弾く。

 ドルゴラモンはそのままタクティモンと戦闘を始めた。剣となったデュラモンを放置したのは、それを使うことに迷っているからだろう。迷ったままで隙を作るくらいなら、すっぱりと放置して戦えばいいとそう考えたのだろう。

 コータを巻き込まないように、ドルゴラモンはなるべく遠くに引き離すようにタクティモンと戦う。タクティモンはそんな彼の思惑をわかった上で、見過ごしているようだった。

 そして、そんなドルゴラモンの一方で。

 

「な、なんでそんなことができるんだよ」

 

 コータは死に向かうことを良しとするデュラモンに疑問をぶつけていた。

 彼の姿に、コータはいつかのブラックウォーグレイモンを見た気がした。あの時は生きることに必死で、あの後もいろいろとあって、考えられなかった。

 だが、よくよく考えれば不可解でしかない。

 

「これがオレの輝き、オレの命の在り方だからだ」

 

 ああ、それこそはコータたちの知らない命の在り方だった。生きるために生きるのではなく、生かすために死ぬ。誰かの命を守るために、自らの命を投げ出す。

 コータたちには理解できない、在り方だった。

 

「命は、受け継がれるもんだからだ。過去から未来へと受け継がれていくもんだからだ。積み重ねられた過去を愛して積み上がっていく未来を夢見る者――それが、トゥエニストだからだ!」

「……!」

 

 コータは、そんなデュラモンの輝きに圧倒されていた。

 

「だから、アイツだけは許せない。どんな歴史でも愛すのがトゥエニスト。なのに、アイツらは今の歴史を否定している。未来を汚そうとしている。みんなが作った歴史を、自分勝手な理由で壊そうとしている! だから、トゥエニストとしてオレは負けられねぇんだ!」

「……!」

「だから、遠慮なくオレを使ってくれ。オレを、振るってくれ」

「……あぁ、もう! どいつもこいつもこっちの気も知らないで! ドルゴラモンッ!」

 

 ドルゴラモンは飛びずさりながら、頷く。

 無言で、彼はデュラモンを両腕でしっかりと握った。そして、タクティモンへと向ける。

 

「ふん。恥を知るがいい」

 

 そんなドルゴラモン――の手にある剣を忌々しそうに、タクティモンは蛇鉄封神丸を構えた。

 そして。

 

「ハァッ!」

「ふゥッ!」

 

 一瞬後、ドルゴラモンとタクティモンが蛇鉄封神丸と剣と化したデュラモンで鍔迫り合う。

 単純な鍔迫り合いだ。武器を振るう技は関係ない、より強い力によってねじ伏せる状況だ。これならば、技量で劣るだろうドルゴラモンにも勝機はある。というか、そこしか勝機がないからドルゴラモンは鍔迫り合いに持っていった。

 だが、力は互角。

 

「……!」

「っぐぅううう!」

 

 いや、僅かにドルゴラモンの方が押しているのか。

 タクティモンの方が必死に食らいついている。ああ、だが、

 

「残念だったな――!」

 

 だが、

 

「っ」

 

 だが、技量の差の関係ない力勝負に持ち込んでも、それで力で押していても、それでもドルゴラモンには負けているものがある。

 そうだ。

 

「デュラモンが……!」

 

 振るう武器の、差。

 蛇鉄封神丸に比べ、デュラモンは今にも砕けそうだ。このままドルゴラモンが押し続ければ、砕けて折れてしまうだろう。

 

「ぬぁあああああああっ。真のトゥエニストを舐めんなぁあああああ!」

 

 それは、断じて認められない。ドルゴラモンも、コータも、デュラモンも、全員の想いが一致した。この極限状態での奇妙な一致が、道を開く。

 

「ぬ、まさかこの状態で――!」

 

 タクティモンが驚いた。

 

「いっけぇえええええええ!」

 

 コータが叫んだ。

 

「行くぞっ!」

「おうさ!」

 

 ドルゴラモンの声に、()()()()()()()が意気込んだ。

 ああ、それこそは伝説の完成形。先ほどよりも輝かしく、大きい、黄金を纏う剣。完全を越えた、究極の剣。

 剣を持つ両腕の拳を力強く、ドルゴラモンは一歩を踏み込んだ。そして。

 

「おらぁっ――!」

 

 ゆっくりと、だが、確実に。

 ついに黄金が黒に打ち勝つ。

 伝説の武器を振るう空想の化身が、武者を斬る。星さえ切り裂く力(蛇鉄封神丸)夢想の力(デュランダモン)が押し切って、剣が刀の上から武者の肩を斬っていく。

 

「がぁっ」

 

 そして、ついにドルゴラモンがタクティモンを切り裂いた。深々とした傷をつけられ、タクティモンはついに倒れる――

 

「“無の太刀、六道輪廻”!」

 

 ――ああ、だが、それこそは最期の反抗とばかりの一撃だった。

 無数に放たれる斬撃が、技後硬直のドルゴラモンを襲う。ドルゴラモンに躱す術はない。

 まぁ、あくまでドルゴラモンには、だが。

 

「そっちに夢中で――」

「――死霊たちが消えてったぞ!」

 

 その瞬間にブリッツグレイモンとクーレスガルルモンが来る。

 黄獣偃月刀とプラズマステークが斬撃を砕く。

 その一瞬の時間で、再び動き出したドルゴラモンが剣を振りかざす。その光景を、もはや動くだけの力がないタクティモンは笑って見ていた。

 

「カッ。是非もなし。まっこと、忌々しくも輝かしいトゥエニストよ」

 

 そして、黄金の剣がタクティモンを両断した。真っ二つになったタクティモンの死体、傍に音を立てて落ちていく蛇鉄封神丸。

 それを前にして、ドルゴラモンの腕にあった剣が声を上げた。

 

「ああ、クソ。勝てなかったぜ……――」

 

 満足そうに、それでいてどこか悔しそうに。

 戦いの中で限界が来たのか、それとも無理な進化のツケか、あるいはその両方か。デュランダモンの身体はひび割れと共に朽ちていた。

 それの意味するところは一つしかない。

 

「……お前は」

「あーばよっ」

 

 そして、笑いながらデュランダモン()は死んでいったのだった。

 

 ********

 

 タクティモンとの決戦から一日後。ゆっくりと休んだコータたちは、未だ疲れた身体を引きずって話し合っていた。

 ちなみに、いつの間にかボコモンとトコモンはいた。まぁ、戦いの余波に巻き込まれたらしく、泥だらけだったのだが。

 

「コータたちはこれからどうするんだ?」

 

 ブリッツグレイモンがそう聞く。

 そうだな、とコータは考える。

 

「ウォーグレイモンたちと合流するのはどうだ?」

 

 意外にも声を上げたのはドルゴラモンだった。

 そうだな、とコータは返す。いろいろと気になることもあったし、それならばいろいろと協力できるウォーグレイモンX抗体たちと行動を共にすれば、活動の選択肢の幅も広がるだろう、と考えたのだ。

 

「とりあえずそうするか」

「じゃあ、まだまだ一緒だな!」

 

 嬉しそうに手を差し出してきたクーレスガルルモンの手を、コータは握り返す。ドルゴラモンも同じように握手した。

 

「そうと決まれば、早速帰るか! 懐かしいベルサンディターミナル(現在の世界)へ!」

 

 そして、悲惨な状況のウルドターミナルの報告がてら、ウォーグレイモンX抗体たちのいる現在世界へ向かうことで意見が一致した、のだが。

 

「むぅ、もっと休んでいたい気もするんじゃがのう」

「アウアウー」

 

 文句を言う生ものが二匹。

 

「じゃあここでさよならか。寂しくなるなぁ」とコータが笑って言えば、

「うそうそうそじゃーい!」ボコモンは手を激しく振って前言を撤回した。

 

 ボコモンは「お前さん意地悪じゃのう。あれか、好きな子に意地悪したくなるタイプか?」と唇を尖らせた。

 

「ア? アウア、アウアウアーウ?」

「うるさいわっ。なんで冗談でそこまで言われないといかんのじゃい! わしは十分乙女じゃろーがい!」

 

 空気が凍った。

 その最中、搾り出すように「え?」と言ったのは誰だったのだろうか。

 

「みんなひどいわー!」

 

 そうして、ボコモンの叫びを最後に、コータたちは過去世界を脱出して現在世界へと突き進む。

 

 ********

 

 それは世界と世界をつなぐ時空の通り道でのことだった。

 

「おやおやぁ。これは意外。まさかあのタクティモンを以てしても事態が進まないとは。役立たずですねぇ。本来の役割の前の使命すら果たせないなんてねぇ」

 

 ――聞こえてきたのは、覚えのある声だった。

 

「私の仕事が増えてしまうんですよねぇ……やれやれ。ま、仕方ありませんねぇ。いいでしょう!」

 

 そして、気づいた時にはコータたちはどこかへと引き寄せられていて。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド――スクルドターミナル――

 

 それはあまりに近未来的な場所だった。

 ビルとビルが立ち並び、舗装された道路があり、空中投影スクリーンなどの現代の人間世界にも見ないようなものさえある都市だった。

 そんな場所の片隅で。

 

「ここは……」

「アウ」

 

 コータとトコモンは目を覚ましたのだった。

 




というわけで、第二章は終了。
次回からは第三章『スクルドの悪魔』が始まります。

また感想や評価、批評批判アドバイス、誤字脱字の指摘などは随時お待ちしておりますので、そちらもよろしければよろしくお願いいたします。

それでは第三章もよろしくお願いします。
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