【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第三章:スクルドの悪魔
第二十九話~未来世界~


D.C.2018 NEWデジタルワールド――スクルドターミナル――

 

 ふと、コータは目を覚ました。

 周りを見れば、現在位置は建物の間らしい。が、その建物が問題だ。ビルである。正確に言えば、高層ビルである。

 路地の向こう側に僅かに見える光景に目をやれば、そこにあるのは正に近未来都市。巨大なビルの群れに、素材はともかくとして舗装された道路に、空中投影式スクリーンに……。

 

「……夢だな!」

 

 コータはまた目を閉じた。

 

「アウッ!」

 

 がぶり、と。頭に激痛。

 

「いてぇえええええええええええええええ!」

 

 あまりの痛みにコータは飛び起きることになる。下手人を引っ掴めば、しかし、頭に噛み付いているままでなかなか離れない。

 

「離れろっ!」

「アウ」

 

 数分の格闘の末、コータはようやく下手人(トコモン)を頭から引き剥がすことに成功したのだった。

 ちなみに、その時にガリガリという、頭から聞こえてはいけない音が聞こえた気がしたのだが、コータは全力で気にしないことにした。

 

「で、ここどこだよ」

「アウアウアー?」

 

 見て分からないのかよ、とでも言いたげなトコモンをコータは睨みつける。

 もちろん、ここがどこだか予想は付いている。ついているのだが、それはそれとしてお約束的に言ってみただけだ。予想が間違っている可能性だってあるのだし。

 

「スクルドターミナル……未来世界とは聞いていたけど、まさかこんなに未来だなんてな」

「アウ」

 

 そう、ここはスクルドターミナル。NEWデジタルワールドの三つの世界のうち、未来を担当する世界だ。しかし、それはそれとして変わり過ぎである。

 過去世界と現在世界は住んでいるデジモンの種類くらいしかパッと見の違いはなかった。いや、大気成分とか大陸の形とかデジモンたちの性格の違いとか、そういう環境面等での細かい部分の違いはあったのだろうが。

 しかし、ここはそんな二つとは全くとして違う。砂漠と海くらい違う。

 

「発展し過ぎというかさ。なぁ、未だここのデジモン見てないけど、ちゃんとデジモンが住んでるよな?」

「アウ~?」

「なんかさぁ、ここまで違うとエイリアンみたいな未来人が出てきてもおかしくないというか、そんな気しかしないというか」

 

 コータが思い出すのは、人間の未来予想図だ。

 固いものを食べずに柔らかいものを食べるようになったせいで顎の部分が退化していき、最終的には頭がでかくて顎が小さい、一昔前の宇宙人のような顔に人間はなるというアレである。

 この未来世界の発展といい、デジモンもそんなことになっているのではないかとコータは思ったのだ。

 

「なんか怖いような……見てみたいような……」

「アウ~」

 

 微妙な顔で考え込むコータを、トコモンはアホを見る目で見ていたのだった。そんな訳無いだろ、とでも言いたげである。

 だが、

 

「侵入者発見。付着成分ヨリ、ウルドターミナルカラノ侵入者ダト推測サレル」

 

 しかし、

 

「補足。X抗体持チデハナイ模様。ヨッテ、排除スル」

 

 不穏な言葉と共にやって来たのは、タコのような脚を持つ、サングラスをした巨大に発達した頭部を持つデジモンで。

 

「まさかの進化の果て説!?」

「アウ! アウア! アウ!」

 

 冗談が本当になってしまった驚愕に止まってしまうコータを、トコモンが噛み付くことで正気に戻した。

 

「っ、そうだな。逃げる――!」

「アウ!」

 

 頬に巨大な歯型をつけながらも、コータは駆け出した。

 

「対象ガ逃走。追走開始」

「って、うわっ! なんか撃ってきたぞ!」

 

 追走開始とか言いながらその手のおもちゃみたいな光線銃をぶっぱなして来たのだから、コータは慌てるしかない。

 幸いにして、視力は良い方ではないらしい。放たれた光線はコータの足元にあたって霧散した。まぁ、着弾した地面は僅かに融解しているのだが。当たったらどうなるかを如実に示している。

 

「ダッシュ!」

「アウ!」

「つーか、ドルゴラモンどこ行ったんだよ! アイツならひと捻りだろ!」

「アウ~?」

 

 トコモンを頭に乗せたまま、というか、トコモンが頭に引っ付いたまま、コータはひたすら駆け出した。その後ろから光線がビュンビュンと飛んでくるのだから恐ろしい。

 時折、頭上を掠めるのだから、生きた気さえしない。

 

「アウアウッ! アーウ!」

 

 今の言葉はコータにも何となくわかった。多分、掠ったからもっと当たらないように走れ、だ。

 

「気を遣えるわけないだろ! うわっ! また掠った!」

「アウ! アー!」

「うぉおおおおお!」

 

 そんなこんなで、掠ったり掠らなかったり、喧嘩したり喧嘩しなかったりしながら、コータたちは路地裏を飛び出して道路を飛び出した。

 

「おぉう」

 

 間近で見る、近未来都市。コータは別段SF好きという訳でもないが、この光景には感動を覚える。

 まぁ、すぐさま後ろから飛んできた光線によって現実に引き戻されるのだが。

 

「っああ、車とか走ってないのはいいな! 轢かれる心配がない!」

「アウ?」

 

 幅十数メートルはあろうかという巨大な道路を、光線から逃げ出すようにして縦横無尽にコータは走る。

 誰もいないという点、道路が整備されているくせに乗り物の一つも走っていないという点、そこに奇妙な想いを抱かなくもなかったが、そんな想いは抱いた瞬間に飛んでくる光線によって打ち消されていた。

 

「どこまで追ってくるんだよ!」

「アウアウアウ?」

「いい加減しつこい!」

 

 大通りを走るコータは、このままでは埒が明かないと考えて、イチかバチかで路地裏に突入した。

 狭い路地裏では逃げ場も少ない、が、視界も狭いため、そこに賭けて撒くことを考えたのだ。 

 

「こういう時にゴミ箱とかあったらなぁ!」

 

 まぁ、ゴミ箱があったからといって、それを使っての足止めが成功するなんていう映画みたいなことにはならないだろうが。

 というか、ゴミ箱がないところを見るに、さすがは近未来都市と言うべきか。ゴミというあまり視界に収めたくないものについて、しっかりと都市のゴミ捨て機能を整備して対応しているらしい。

 

「っくぅ、そろそろ足が限界……!」

 

 かれこれ十数分は走り続けているか。全力疾走に近い速度でこれだけ走り続けていれば、さすがのコータも体力の限界が近づいてきていた。

 だが、後ろを見れば、しつこいくらいに追いかけてきている。ついでに光線も飛んできている。逃げられる気配は微塵もない。

 

「アウ! アウ!」

 

 そんな時、ペシペシと前足を使ってコータの頭を叩くトコモン。

 

「どうした?」

「アウ!」

 

 トコモンは連続で右前足をコータの頭に叩きつける。右の前足だけを、使って。

 それの意味するところを、コータは察した。

 いつぞやの、現在世界での戦争の時と同じだ。あの時、未だドルガモンだったドルゴラモンとコータは自分の役割を分担することで乗り切った。

 トコモンはそれと同じことをしようと言うのだ。まぁ、強いて言えばデジモンと人間の役割が逆転しているのだが。

 

「よし、行くぞ!」

「アウ!」

 

 最後の力を振り絞って、コータは全力を出す。

 

「アウ!」

 

 トコモンが左前足をコータの頭に叩きつけた。

 それに従って、コータは曲がり角を左に曲がる。

 

「アウアウ!」

 

 今度はトコモンが右前足をコータの頭に叩きつけた。

 それに従って、コータは曲がり角を右に曲がる。路地裏からまた表通りに出た。

 

「アウ!」

 

 急げ、とばかりにトコモンはコータの頭に左前足を二回叩きつける。

 それに従って、コータは左の方向に進んで、さらに左に曲がる――ビルを一つ通り過ぎたところにあるビルの間の部分へ入り込む。

 再び路地裏に入った。

 

「次はっ?」

「アウ!」

 

 右前足が叩きつけられた。

 コータは一番初めにある角を、右に曲がった。

 そして――

 

「ぜぇっ、ぜぇっ」

「アウッア!」

「ぜーはー」

 

 ――それを繰り返すこと数分。

 コータは何とか撒けたのだった。かれこれ二十分近くも逃げ続けていたのだから、コータの足は生まれたての子鹿のよう。

 そんな中で、トコモンは元気だった。というか、その得意げな顔を見るに、よくやった、とでも言っているようだ。

 ……コータはとても腹が立った。まぁ、疲れ果てた今の彼にその苛立ちを発散するだけの気力はないのだが。

 

「アウアウーウ」

 

 コータがそんな感じなのに、トコモンはさらに油を注ぐ。

 トコモンの言葉がわからないコータだが、何となく馬鹿にされているというニュアンスだけは伝わってきた。さすがに限界だった。

 コータは息を整えながら、トコモンを引っ掴んでわちゃくちゃと、ぐにぐにと、さながら消しゴムのカスでネリケシを作る小学生のように、弄る。

 

「アウー!」

「痛い!」

 

 噛み付かれて終わった。

 

「お前なぁ……!」

「アウアウ」

 

 体力はともかくとして、荒れた息はだいぶ元通りになってきたコータは、トコモンを睨みつける。一方でトコモンは気にした風もなく、彼を鼻で笑っていた。

 

「ぐぐぐ!」

 

 見た目に合わない小生意気な様子に、お前そんなやつだったのかよ! とコータは内心で叫ぶ。が、まぁ、思い返すまでもなく、元からこういうやつである。

 見た目と性格の良さは同じではないのである。人間と同じだ。見た目が良いやつほどアレなやつも相応に多いのだ。

 まぁ、トコモンのような幼年期なのにというタイプは珍しいと思われるが。

 

「可愛くねーガキだな」

 

 幼年期といえば、人間でいうと小学校に上がる前の幼子にも等しい。というか、場合によっては赤子レベルの場合もある。

 それなのに、そんな時期からこんな性格とは先が思いやられるだろう。大きくなった時に周りが被る迷惑を考えて、コータはげんなりした。

 

「アウアウ」

 

 そんなコータを知ってか知らずか、まぁ、半分くらいは知ってやっているのだろうが、トコモンはテンションの低いコータの頭に飛び乗った。

 

「アウ!」

 

 そして、出発進行とばかりに声を上げる。

 どことなく小馬鹿にされているように感じるのは、コータの考え過ぎか。少しだけコータは頭が痛くなった。

 とはいえ、だ。

 

「行くか」

「アウアウ!」

 

 いつまでもこうしている訳にもいかないだろう。先ほどのデジモンも近くにいるだろうし、何よりもドルゴラモンたちと合流しなければならない。

 警戒を保ちつつ、コータたちは未来世界の探索へ歩き出したのだった。




というわけで、今回から第三章が始まります。
しばらくはトコモンと二人きりですが。そのうち別れたドルゴラモンサイドの話も展開します。

今回の未来世界は今までとは少し違う感じになる予定です。

それでは第三章もよろしければよろしくお願いします!

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