【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第三十話~アポイントメント~

D.C.2018 NEWデジタルワールド――スクルドターミナル――

 

 そこは巨大な部屋だった。

 空中投影スクリーンのパソコンらしき端末がいくつもあり、分割した街の様子をそれぞれ映し出したスクリーンが壁一面にあって――まさに、街中を監視しているような部屋だった。

 そして、その壁のスクリーンの中でも一番巨大なスクリーンに映し出される、影。

 

「何? ウルドターミナルからの侵入者だと?」

 

 その影に向かって報告しているのは、コータたちを追い掛け回したあのデジモンだった。

 

「ハ、ハイ」

「ふむ。今更か」

「今度コソ排除シマスノデ、監視システムノ使用許可ヲ願イマス」

 

 先ほど撒かれたこともあって、何か処罰を受けると思っているのか、あのデジモンは少し震えている。

 一方、影は少し考え込んだ後、「いい。捨て置け」とそう言った。

 

「ハッ? 放置、デスカ? シカシ……」

「分かっている。だが、これは好機だ。我々が侵入者共に何も出来ないと民衆に思われぬ程度に、追いかけ回せ。だが、決して捕まえるな。放置しろ」

「……ナ、何故デスカ?」

 

 その瞬間、部屋の中にいた同種のデジモンたちが、焦ったようにそわそわと落ち着かない様子を見せた。

 まぁ、上官の命令に疑問を問うなど、正気の沙汰ではない。上司如何によっては下手すれば罰則もありうるし、それこそ連帯責任を問われることがあれば周りごと破滅だ。

 それに気づいたのだろう。それをつい口走ってしまった報告中の者は真っ青な顔で、今にもぶっ倒れそうな様子を見せていた。

 

「聞かなかったことにしてやる」

「……!」

「この理想郷を穢がしかねない異分子。だが、異分子の行く場所など決まっている。くれぐれも目を離すな」

 

 それだけを言うとスクリーンのチャンネルが変わり、そこに映っているものが影から街の光景へと変わる。

 

「……」

 

 そんな中で、命が抜け出たとばかりに固まっている報告者がいたのだった。

 

 ********

 

 同時刻、コータとトコモンは誰もいない街をひたすら歩いていた。

 

「どこに行ってもどこまで行っても街、街、街、街!」

「アウ~」

「しかも誰もいない! 気が狂いそうになる」

 

 あれからコータたちは街を探索してみたのだが、相変わらず現地住民は誰一人として見当たらなかった。

 景色は代わり映えのしないビル郡。確かにこの近未来感はなかなか楽しいが、どこまでも同じ光景が続くといっそ飽きるし気が狂いそうにもなる。

 というか、ここまで同じだと何らかの規格で統一されているのだろう。

 

「自然の一つもないし!」

「アウ」

 

 そう、完全に文明が自然を征服したとばかりに、木の一本どころか雑草の一本すらも見えない。環境問題とか大丈夫なんだろうかと思えるほどだが、近未来ということで何とかなっているのだろう、おそらく。

 

「建物の中には入れないし!」

「アウ」

 

 高いところから景色やこの街の全貌を見てみればいいと思ったのだが、それすらも出来なかった。

 ビルの入口自体は現代にもある自動ドアだったのだが、何らかの認証システムがあるのか、単に電源が落ちているのか、コータたちを前にしても開く様子はなかった。

 

「ここ本当に未来世界のスクルドターミナルか? 間違って別の世界に来ちゃったとかないかな?」

「アウ~?」

 

 確かに未来的だが、この何とも言えない感じを前にコータはどこか違和感を覚えていた。しかし、それだけだ。どこに違和感があるのかがわからない。

 

「うーん」

「アウアウ」

 

 そうして、探索開始から数時間が経過した後のことだった。

 

「えっ」

「アウー?」

 

 突如として街全体に響き渡る、音。機械的なメロディが大音量で鳴り響いたのだ。

 

「何だと思う? 敵襲? 異常事態? それとも……?」

「アウアウ」

 

 まぁ、敵襲だの異常事態だのそういうのを知らせる音にしては多少軽快が過ぎる。では、一体何の音だというのか。

 コータはトコモンを抱え、いつでも逃げ出せる準備をしつつ、周りを伺う。

 

「……」

「アウアウ」

「しっ。静かに!」

「アウー」

 

 そして、音が止んだ。

 すると――

 

「やっと終わったー!」

「いやぁ、緊急事態による外出制限なんて久しぶりだねぇ」

「ピピ。ナニガアッタンデショウカ」

「まぁ、こうして外出の許可が出たってことは問題ないってことなんでしょう」

「さー、仕事仕事!」

「取引先に行かなきゃなー。あいつら仕事遅いけど、終わってるかなぁ? 今の時間に終わらせておいてくれるとありがたいけど、無理なんだろうなぁ」

 

 ――出るわ出るわ、彼方此方のビルの中からデジモンたちが大量に。

 一分もすれば、辺りは人間の世界の大都会レベルに人口密度が高くなり、デジモンたちで溢れかえった。しかも忙しいのか、あるいは他者には無関心なのか、彼らは人間であるコータには目もくれずに街を行き交っていた。

 機械デジモンもいれば、生物デジモンもいて、大きさも大小さまざまだ。コータよりも小さなデジモンもいれば、コータの倍以上の大きなデジモンもいる。

 特定の種や類似の種がいるということはなく、さまざまな種のデジモンたちがいた。

 

「アウアウ。アーウ」

 

 トコモンが吐き捨てるように、呟く。その顔は嫌いな食べ物を見た時にように、僅かな嫌悪感によって彩られていた。

 

「どうした?」コータがびっくりして聞くが、

「アウアウ」とトコモンは首を振って答えない。

 

 まぁ、聞いたところでコータではトコモンの言葉を理解することはできないのだが。

 

「……うーん、やっぱりなんかおかしいんだよなぁ」

「アウ」

 

 違和感がある。

 

「なぁ」

 

 とコータは何の気なしに身近にいた植物のような爬虫類型デジモンに話しかけた。コータも見たことのある、パルモンX抗体だ。

 

「何でしょうか?」

 

 一方で、話しかけられたパルモンX抗体は、無表情に近い顔で対応してきた。

 だが、コータたちはわかってしまった。その無表情は努めてされているだけで、その下には警戒と迷惑の感情があることに。

 

「あ、いや。ここってスクルドターミナルでいいんだよな?」

「……? 当然でしょう」

 

 何馬鹿なことを言っているのですか、とでも言いたいような顔だった。

 まぁ、そんな顔になるのも当然だろう。人間の世界で言えば、東京のど真ん中でここは日本ですか? と聞くようなものだ。

 しかし、まぁ、それでもコータにとっては重要な質問だった。この違和感のある世界はやはりスクルドターミナル――未来世界で間違いがないらしい。

 

「もういいですか?」

「あ、あぁ、ごめん、ありがとう」

 

 最後に迷惑そうな表情が出てきて、パルモンX抗体は雑踏の中に消えていった。

 

「アウア?」

 

 トコモンがコータに言う。何となくだが、コータもトコモンの言うことがわかった。すなわち、これからどうするのか、という類の意味だ。

 

「ドルゴラモンたちを探そう。別れた場所が場所だから、ここにいるかどうかわからないけど」

「アウ」

 

 どうするにせよ、コータとトコモンだけでは人数も力も明らかに足りない。もし荒事になった場合、確実に終わる。

 早いうちに合流しておきたかった。

 

「ドルゴラモンはデカい方だから、目立つと思うんだけど……」

「アウ~」

「まぁ、探そうか」

 

 とりあえず道のど真ん中にいたからだろうが、邪魔という視線ばかり向けられることに辟易としたコータは道の隅へと行く。

 

「アウ! アウアウ!」

「ん?」

 

 トコモンが思いついたように声を出した。そして、その小さな前足である方向を指している。

 その方向にあるのは――

 

「ビルか?」

「アウ」

 

 ――ビルだ。

 そこでトコモンの言わんとしていることはコータにもわかった。先ほどまでは入れなかったが、デジモンたちが出入りできるようになった今ならば入れるのではないか、ということだ。

 

「じゃあ、言ってみるか」

「アウ」

 

 街にあるビルは高さも外観もすべて同じだ。

 だから、適当に目に付いた目の前のビルにコータたちは入った。

 

「ピピ。侵入者――!」

「……」

「……アウ」

 

 そして、すぐさま中にいたデジモンたちに囲まれることになる。

 歯車やドリルが組み合わさったデジモン(ハグルモンX抗体)が大半だが、中には帯電する球体に手足が生えたデジモン(サンダーボールモンX抗体)もいる。

 

「ちょっと待ってくれ! オレたちは別に――」

「黙レ。ドコノ企業ノ手ノ者ダ」

「いや、別に企業とかそんなんじゃないって――」

「戯言ヲ」

「いや、だから――」

 

 どれだけコータが言葉を尽くそうとも、わかってくれない。

 というか、聞く耳を持っていないようだった。

 

「アウウウウウウ!」

「お前笑うなよ!」

 

 何がツボにはまったのか、トコモンはコータの腕の中で笑いまくって助けになりそうになかった。

 まさに孤軍奮闘状態だ。これはやばいな、とコータは逃走を視野に入れた――

 

「待テ」

 

 ――その瞬間のことだった。

 奥からやって来たのは、金属の球体に手足が生えたデジモン。完全体デジモンの、マメモンX抗体だ。

 

「マメモン社長!」

「ソレハ客人ダ。通セ」

「ピピ。ワカリマシタ」

 

 マメモンX抗体の言葉に従って、ハグルモンX抗体たちやサンダーボールモンX抗体たちが引いていく。

 何とか助かったようで、コータはホッとした安堵の息を吐いた。

 

「失礼シマシタ、過去カラノ旅人ヨ。私ハコノマメモン電磁社ノ代表取締役ヲシテオリマス、マメモンX抗体デス」

「取締役、ってもしかして社長!?」

「……マァ、似タヨウナモノデスガ。ヨロシクオ願イシマス」

「あっ、ご丁寧にどうも。オレはコータ、で」

「アウ!」

「こっちはトコモンです」

 

 握手、と差し出されたマメモンX抗体の手をコータとトコモンは受け取った。

 そして、彼らはそのままマメモンX抗体に「ドウゾ、コチラノ応接間ヘ」と案内される。

 

「へぇ」

「アウー」

 

 応接間はなかなか豪華だった。座り心地の良いソファーに、何か分からないが高そうな装飾や家具があって、気合が入って作られた部屋だというのが分かる。

 

「先ホドハ部下ガ手荒ナコトヲ。誠ニ申シ訳アリマセンデシタ」

「いやっ、頭を下げなくとも――」

「シカシ、貴方方モ悪イノデスヨ。アポイントメントモ無シニ立チ入ルナド、警備隊ニ突キ出サレテモ文句ハ言エマセン」

「うッ」

 

 どうやら、この未来都市は現代人間世界以上にいろいろと厳しいらしい。

 その辺まで未来的なのか、とコータは内心で呆れとも感心ともつかない息を漏らした。

 

「何故、我社ニ?」

「あ、いや、ちょっと高いところから見たいな~って思いまして」

「……」

「ごめんなさい」

 

 どこの何ともわからぬ施設にそんな理由で立ち入るなど、軽率以外の何者でもない。

 呆れたような目で見てくる偉い人に、コータは平謝りするしかなかった。まぁ、企業を騒がせ仕事を止めさせたのだから、謝るのは当然なのだが。

 

「マァイイデショウ。私ガ何カヲ言ウノハ間違イデスシ」

「う、ありがとうございます」

「イエイエ。礼ヲ言ワレルマデモアリマセン」

 

 とりあえず許してくれたらしい。

 怒られたり責任追及されたりすることもなく、厄介事にもならなかったことにコータは安堵の息を漏らした。

 

「アウ」

 

 ただ、トコモンが小さく呟いて――

 

「通報ヲ受ケマシタ。捕縛ヲ開始シマス」

「……そういうことかぁあああああ!」

 

 ――その瞬間、昨日の宇宙人っぽいデジモンがこの部屋に踏み込んできたのだった。

 

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