【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
それはまるで、映画のワンシーンのようだった。
放たれた光線を華麗に――あくまでコータの主観だが――躱したコータが、光線によって傷ついた壁をぶち抜き逃走を開始する。
「アウアウ」
「いや、呆れてないでナビゲート頼むわ!」
「アウ? アーウ」
「だから、早く!」
そんなこんなで、またダッシュ&ダッシュ。
まぁ、この会社のデジモンたちが参戦してこないのは幸運だった。この街の警備隊であろう、背後から追いかけてくるあの宇宙人っぽいデジモンに任せようというのだろう。
コータはそのまま駆け抜け、ビルから飛び出した。
「自動ドアがロックされてなくて助かった――!」
「アウアウ」
そうして、十数分後。コータは何とか逃げ切れたのだった。
「くそぅ、まさか通報されるなんて。これじゃあ下手に大通りを歩けないぞ」
「アウアウ、アウア」
「こいつ捨ててきてー」
仕方ないね、頑張って。そう言いたいかのようにアウアウと笑っているトコモンの姿に、コータは腹が立つ。
まぁ、本当に捨てていける訳もないのだが、戦闘に巻き込まれた今までも何だかんだと無傷で合流している辺り、仮に捨てたところで元気にやってけそうである。
それがコータにとってはなおのこと腹が立つのであるが。
「さて、どうするかなぁ」
路地裏に蹲り、疲れを癒しながら、コータは考える。
どのみちここでジッとしている訳にもいかないのが辛いところである。結局、動くしかないのだ。
「慎重に行くしかないか。オレも覚えておくけど、トコモンも路地裏の道を覚えておいてくれ」
「ウ~?」
「いや、頼むから」
「アウ」
まぁ、先ほどまでのコータは軽率に過ぎた。彼はそこを反省して、路地裏からこっそりと表通りを観察する計画に切り替える。
とはいえ、路地裏から表通りを見ていれば、目立つほどではないが全く見えないほどでもない。表通りを行き交うデジモンたちの中には、コータを視界に収めるものもいた。
「……相変わらずデジモンが多いな」
「アウ」
それでも通報しないのは、視界の端に映った誰かしらなどに興味を割くことはないからだろうか。
この調子なら直接会話したり相対したりしなければ意外といけるかもしれない、とコータは脳内にメモする。
まぁ、それはそれとして周囲を観察を続ける。
忙しそうに街を行き交うデジモンたち。
「……?」
だが、やはりどこか違和感がある。
「……」
どこに違和感があるのか、必死に見定めようとする。
「……ダメだ」
まぁ、結局、見つけられなかったのだが。
「ア? アウアウ」
「どうかしたのか?」
「アウアウ」
トコモンが何かに気付いた。後ろを見ろとばかりに、前足を振る。
言われた通り、コータは後ろを振り向いた。そこには日光が届かないジメジメとした路地裏が相変わらず広がっていて――
「ピッ。コチラZ-102地区、対象発見」
――その物陰から、あの宇宙人っぽいデジモンが現れた。
「っく!」
すぐさまコータは駆け出した。
路地裏の通りは塞がれているため、表通りとか関係なく駆けていく。地味にデジモンたちの多さが逃走の上で邪魔だった。
「っていうか、もっとちゃんと言ってくれよ!」
「アウアウ」言ったよ、と言いたいのだろう。どうでもよさそうにトコモンは言う。
「もっと危機感を抱かせるようなテンションで言ってくれって言ってるんだ!」
「アウ~。アウアウ」
やる気なさそうにアウアウと言うトコモンには、反省の色は見えない。というか、その口は軽く緩んでいて、今のコータが逃げ回っている様子を見て楽しんでいるのが分かる。
どう見ても確信犯だった。
「むっ。人混みなら光線は飛んでこない! しめた!」
「アウア~ア」
警備の者が住民に対して攻撃するわけにはいかないのだろう、その致命的な弱点を把握できて、コータは希望の光が見えた。
一方でトコモンはつまらないとばかりに不満を露わにしていたのだが。
「うぉおおおおおおおお!」
そうして、今回は数分程度で逃げ切ることができたのだった。
********
そんなこんなで、またも路地裏で息を整えているコータ。
「くそ、しつこい。今日三回目だぞ」
「アウ」
「……まさか、監視カメラとかで監視されてるとかないよな?」
近未来都市だ。それくらい有り得る、とコータは肩を震わせる。辺りを見渡す。だが、監視カメラのようなものは彼には見つけられなかった。
まぁ、近未来的な監視カメラがどのような形をしているかわからない以上、見つけられるはずもないのだが。
「でも、監視されてるとなるとお手上げだぞ」
今が逃げられているからといって、いつまでも逃げ切れるとは限らない。
なぜ追われているのか、どうやったら安全を得られるのか。無事に生きるためにも、コータはその辺りを知らなければならなかった。
この謎に満ちた未来世界、その情報の早期獲得の重要性が増したのだ。
「動くに動けない。でも、動かないといけないんだよな」
「アウ~」
「ドルゴラモンがいなくて良かったのか悪かったのか。アイツ目立つからなぁ。でかいし」
「アウ!」
トコモンと話していないようで話しながら、コータは辺りをもう一度見渡す。
人混みの中にあの宇宙人っぽいデジモンの影はない。
「人混みに紛れて行こう。木を隠すのなら森の中、人を隠すのなら人混みの中だ」
「アウ」
まぁ、その論理でいくとここにはコータが隠れられる森はどこにもないのだが。
何はともあれ、意を決してコータたちが表通りに出た、その瞬間のことだった。
「これは……――」
「アウ?」
また、街中に音が鳴り響いた。しかも、先ほどの音とはまた違う音だ。
音が違うということは、何らかの意味があるのだろう。どんな意味があるのだろうか。そんなことをコータが考えていると、気づけば街中のデジモンたちが立ち止まっていた。
「どうしたんだ?」
「……アウ」
こっそりと観察すれば、街中のデジモンたちは上を――正確に言えば、空中に投影されているスクリーンを見ている。
さらに、心なしか雰囲気が暗い。緊迫した様子がそこにあった。中には震えている者もいる。
一体何だというのか。コータはトコモンを抱え、いつでも逃げられるように準備をしながら、固唾を呑んで事を見守った。
そして――
――『皆様、今月の情報をお伝えします』
――それは、空中スクリーンから聞こえてきた。
今までは当たり障りのない光景しか移していなかったスクリーンが、突如として何らかの思惑があるだろう、円グラフや折れ線グラフなどのデータ推移がわかる映像が映し出されたのだ。
見れば折れ線グラフは右肩上がりになっていて、円グラフも八割ほどが同一の項目によって埋まっている。
一見すると、何のデータかはわからない。が、その答えはすぐにアナウンスされることになる。
――『現在、スクルドターミナルのデジモンのX抗体化は八割達成。同時に従来種のデジモンは全体の二割弱となっております』
「それは――」
それは、驚くべきことだった。
現在の世界でも過去の世界でも、数という面においてX抗体デジモンは従来種に比べると少数だった。もちろん、希少というほどではないが、それでも比較的少なかった。
それはX抗体獲得に必要な、“死に面しても生存を望む強い本能”を発揮できる者が総数に比べて少ないため、生まれるX抗体の数が少ないからだ。
自発的に発現させられないから、他から奪おうとする者が多かった。だから、総数に対するX抗体デジモンの割合は増えなかった。
なのに、その数の差がこの未来世界では逆転しているというのだ。
――『これは、皆様の弛まぬ努力の結果であると、天は述べており……』
そこで、コータはこの世界に来てから自分が覚えていた違和感の正体に気がついた。
いないのだ。通常種のデジモンがどこにも。過去世界にも現在世界にもいた者たちが、どこにもいなかったのだ。
「これは……さすがは、未来っていうだけあるってことかな?」
「アウ」
白々しい言葉だと、コータはわかっていた。
X-進化は闘争本能とはまた別の、生存本能の進化だ。それが起こるには、この未来世界は社会的過ぎる。都市がある。企業がある。住民が行き交う。
そんな社会的世界で、誰がどうやったら生きるためのX-進化できるというのか。いや、出来るのかもしれないが、それにしても抗体持ちが総数の八割などという結果になりうるのか。
コータにはその辺が理解できなかった。もしかしたら抗体持ちが増えた結果、戦闘自体がなくなってこのような社会になったというのかもしれないが……。
「……いや。増えたんじゃなくて、減ったのか?」
あるいはX抗体を持つものが抗体を持たない者を狩った結果が、この世界なのか。
情報が少な過ぎる。こういう面での経験の少ないコータがあれこれと推測するには、証拠も情報も足りなかった。
――『では、次に今回の栄誉賞受賞地区を発表します』
コータが思考を巡らせる一方で、スクリーンでは次の報告へと進んでいた。
「栄誉賞受賞者?」
その名前から察するに、何かしらの行いをした者に賞が与えられるということなのだろうが。
――『ランダム当選の結果、今回の受賞地区はZ-100地区に決まりました!』
その瞬間、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
歓声。
どうやら、コータたちのいるこの場所がZ-100地区らしく、コータたちの周囲にいたデジモンたちはこぞって声を上げた。
いや、違う。
「トコモン」
「アウ?」
「逃げるぞ――!」
これは、悲鳴だ。
何かマズイことが起こる。本能的にそれを理解したコータは、悲しみに暮れるデジモンたちを押し退けて逃走を開始する。
その瞬間のことだった。
空から降ってくる。破壊のために作り出された、破壊のための無慈悲な機械が――
「っ――!」
「アウ!」
咄嗟に、コータは建物を盾にする。
幸いにして、このミサイル爆撃は特定の誰かを対象としたものではなかったらしい。数秒もすれば、収まった。コータたちは、何とか助かった。
辺りを見渡せば、ミサイルを受けて大半は死んでいたが、それでも生きている者はいた。
「うぅううううう――」
「いてぇ、いてぇよっ」
「なんだって、ちくしょう」
「どうして俺たちなんだよぉ」
啜り泣くような、理不尽を呪う声が聞こえる。だが、そこは諦めの色しかなかった。
X抗体デジモンが、生存をこうも簡単に諦めるなんて。それが、コータには信じられなかった。
「アウ!」
トコモンがコータに聞こえるように言った。
コータが言われて、上を見る。
そこには、いた。
「まだ生き残っている者がいますね。では、死んでください!」
そこにいたのは、天からの使いだった。
蜂のような、デジモンたち。百ではきかない、空を埋め尽くすほどのおびただしい数だった。
生物的な蜂デジモンが大半で、四分の一くらいがその尾にレーザー砲を持つ機械蜂デジモンだった。そしてリーダーなのだろう、重兵装を装備した機械蜂デジモンが一匹だけいた。
「これは栄誉なこと。貴方たちの犠牲がこの世界を盤石なものとするのです。ウルドにもベルサンディにもない発展と栄光をこのスクルドターミナルに与えるのです」
機械蜂デジモンたちが、その尾から放つ死のレーザーによって生き残ったデジモンたちを殺していく。生き残ったデジモンたちは、やはり諦めているのだろう、抵抗もなく死んでいく。
そして、その死骸から必要なものを剥ぎ取っているのか、機械蜂よりも小さく生物的な蜂デジモンたちがせっせと何かを運んで空の向こうへと消えていく。
「こちらにも生存者が! 別働隊から報告のあった、ウルドからの侵入者です!」
どこからか声が上がった。
見れば、運搬作業をする蜂デジモンの一匹がコータを見つめている。
「やべっ」
「アウ~」
下手に動けば見つかるから動けなかったのだが、下手に動かなくても見つかってしまったコータたちは、もうどうすることもできない。
「よくやった、ファンビーモン。運搬に戻れ。あとは実働隊のワスプモン部隊に任せておけ」
リーダーなのだろう、重装備の機械デジモンが
すると、ファンビーモンは頷いて去っていき、代わりに生存者を殺して回っている、ワスプモンと呼ばれた機械蜂たちがやって来る。
「トコモン、戦えるか?」
「アウ、アウッアア~」
何と言ったのかはわからないが、それは無理だと言ったのだろう。
まぁ、コータとしても期待していない。
絶体絶命のこの状況下で、コータは逃走ルートを探す――
「こっちだよ!」
――聞こえてきたのはこの場にいる誰でもない声で。
瞬間、辺が煙に包まれる。濃い煙だ。すぐ目の前も見えない。
「む。我々の探知能力さえも無力化する煙幕だと――」
あのリーダーデジモンが、納得したように呟いて。
その時、コータは自分の手に糸が絡みついたのを感じた。そして、その糸が引っ張られる。どうやら、その方向に来いということらしい。
「……!」
誰だか知らないがこの状況から脱せられるのなら、とコータはその提案に乗る。
そうして、この場から逃げること数分。煙の晴れた場所に来て、コータとトコモンは自分たちを助けてくれたデジモンと向かい合っていた。
「やぁ、危なかったね」
そのデジモンは成長期なのだろう、緑色のイモムシのようなデジモンで――
「僕はワームモン。レジスタンスのメンバーだ」
――この未来世界においての、レジスタンスだった。
というわけで、薄々と勘づいた方もいらっしゃるとは思いますが、今作の未来世界は未来世界らしくディストピアです。
念の為言っておきますと、原作と今作の未来世界の世界観は違います。たぶん。
それでは次回もよろしければよろしくお願いします。