【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第三十四話~地下水路大疾走~

 ドルゴラモンが暴れている――。

 その報告を聞いた瞬間、コータはトコモンを引っ掴んでアジトを飛び出していた。

 

「ちょ、待ってよ! どうしてのさ!」

 

 その後ろから、ワームモンの声が飛んで来ていた。

 モニュモニュとした足跡も聴こえてくる。どうやら、ワームモンと汚物組はコータを追いかけてきているらしかった。

 

「そこで暴れてるのはオレの相棒だ! なら、オレも行かないと!」

「ちょ、えぇぇええええええ!」

 

 驚いた様子のワームモンを放っておいて、コータはなおも脚を動かすスピードを上げる。

 

「いやいやいやいや、落ち着こうよ!」ワームモンが吐き出した糸が、コータの足に絡まる。

 

 ビタンッ、という盛大な音を立ててコータはすっ転んだ。腕から抜けたトコモンが吹っ飛んだ。

 

「いてぇ……何するんだよ!」

「だから、落ち着こうよ。君が行ったところで君の相棒は死んでいるんだよ!」

「縁起でもないこと言うな!」

「事実だよ!」

 

 ワームモンはそう言って怒鳴った。

 その事実に、コータは腹を立てる。

 だが、一方でワームモンも本気で言っていた。彼はドルゴラモンを知らない。今の今まで生き抜いてきたその強さを知らない。だけど、彼は知っている。この未来世界を管理する、天の強さを知っている。

 天は、個人でどうこうできるものじゃないことも。

 

「君の相棒は――」

 

 だから、そう言うのだ。

 だけど、

 

「生きてるに決まってるだろ」

 

 コータはわかっている。理屈も何もなく、ただ信じられることが。

 

「生かすに決まってるだろ」

 

 だから、行くのだ。

 一方で、ワームモンは物も言えなかった。その隙に、足に絡みついた糸を引きちぎって、コータはまた走り出す。

 

「あ、ちょっと待って――!」

 

 なおも追い縋ろうとするワームモン。

 そんな彼に、コータは足を止めずに声を投げた。もう、彼が自分たちを気にして追って来なくていいように。

 

「さっきの返事だけど断るわ!」

「えっ」

「パッと考えたけど、この社会をどうこうするだけの理由()はオレにはない! オレはオレのことだけで精一杯だ! 悪いなっ」

 

 自分が良ければいい。自分さえよければ良い。

 それは、ある意味で生物の真理だ。しかし、理性と知性を持つ人間として公言するのはどうかと思われる理屈ではあるが。

 

「っ。そうだね。君はここの人たちとは違うんだよね」

 

 そう、理性と知性に溢れる生物はその真理を徹底することはない。そこに他者を加える。他人を慮り、集団を組み上げる。

 ……この未来世界は、それが行き着くところまで行き着いた先だ。集団を重要視する余り、個人を見なくなった場所がここだ。

 公正と平等の世界。一部の強者しか生きられないのではなく、誰もが平等に未来を持てる世界。ああ、きっと良いことなのだろう。素晴らしいことなのだろう。集団として種族として見るならば、ここはまさに理想郷だ。毒とさえ気づけぬ、甘い菓子のような場所だ。

 無論、個人を見た場合、ここは全く別の世界となる。誰も個を見ることも見られることもなく、歯車としてしか存在できない地獄。

 誰もが歯車としてしか存在できない中、しかし、外から来たコータたちだけが違う。

 

「でも、君は君の相棒を信……ちゃんと他人を見てる。きっと君くらいの塩梅がちょうどいいんだろう。だから、そんな君にはレジスタンスに入って欲しかったな」

 

 遠くに離れていくコータを見つめながら、ワームモンは静かに独白する。

 

「信頼かぁ。僕にもこの世界にも縁がなかった概念だけど。でも、やっぱりその概念が実際に現れた今こそがタイミングかな。本当はもっと準備が整ってからが良かったけど。ま、準備万端で事が進むなんてありえないしね」

 

 ワームモンは目を閉じて、数瞬の後にまた開く。

 次に開かれたその目には、覚悟の炎が灯っていて。

 

「仕方ない。革命の時だ」

 

 そして、レジスタンスが動き出す。

 

 ********

 

 ワームモンを振り払って走っていたコータ。

 

「迷った」

 

 彼は今、迷っていた。

 まぁ、当然である。この地下排水路は、街中から排水を集めるように構成されている。つまり、街中の地下を走る水路に合わせるように、若干の迷路となっているのだ。

 来た時はワームモンに案内されたために無事だったのだが、ワームモンを振り払ったばかりにこれである。

 

「アウアウー」

 

 呆れたような、馬鹿にしたようなトコモンの言葉がコータの耳に届く。

 とても腹立たしい。

 

「道分かるか?」

「アウアウ、アーア」

 

 わかるわけねーだろばーか、とでも言いたいかのようにトコモンは嗤う。もちろん、コータの偏見が入っているが。

 しかし、八方塞がりだ。

 このままではドルゴラモンのところに行く前に、野垂れ死にしてしまいそうである。

 

「っく、何かないか。目印とか、音とか――!」

 

 そこで、はたとコータは思い至った。パワーバカなドルゴラモンが暴れているのなら、その音は地下まで響いてきているのではないかと。

 トコモンが思わず無言になるほどの阿呆な考えだったが、今のコータには何ものにも代え難い名案のように思えて、彼は耳を澄ませる。

 

「アウアウ」呆れた様子のトコモン。

「ちょっと静かにしてろ」コータはそんな彼を黙らせた。

 

 そして、改めてコータは耳を澄ませて――

 

「むっ」

 

 ――聞こえてきた音に目を見開いた。

 聞こえてきた音はこの地下を震わせるような凄まじい音、ではもちろんない。

 

「何か嫌な予感が」

「アウ」

 

 つい最近、聞いた音だった。それが目的があるように近づいてきていて、しかも、一つではない。

 先の展開が読めて、コータは天を見上げた。もちろん、見上げた先には汚れた天井しか見えないのだが。

 まぁ、だからといってこのままボーッと突っ立っているなんて愚行は犯さない。

 

「逃げるぞ」

「アウ」

 

 咄嗟に振り返り、コータは駆け出す。

 すると、彼の頭のすぐそばをどこかで見たような閃光が通り過ぎた。

 

「……」

「……」

 

 一瞬止まってしまったものの、再び駆け出す。

 またコータの頭のすぐ側を閃光が通り過ぎた。

 

「逃走ハ、オススメシマセンヨ」

 

 背後から投げかけられた声。

 コータたちは恐る恐る振り返れば、姿が見えない。否、通路の奥の暗闇にいるのだろう。

 ゆっくりと暗闇の中から生まれ出てくる。

 

「イーバモン率イル、ベーダモン部隊ヲ前ニ逃ゲラレルトハ思ワナイコトデス」

 

 現れたのは、宇宙人っぽいデジモン(ベーダモンX抗体)()()。そして、そんな彼らのリーダーであり、進化体なのだろう、機械化されている宇宙人っぽいデジモン(イーバモンX抗体)

 

「報告通リ、発見。シカシ、レジスタンスノ存在ヲ確認デキマセン。ドウシマスカ?」

「奴ラノ隠レ家ガ此処ニアルノハ突キ止メタ。コイツラハ用済ミ。始末シロ」

「ラジャ」

 

 彼らは等しく、その手の玩具みたいな光線銃をコータたちに向けていた。

 

「最悪だ」

 

 見る限り、手下が五体とリーダーが一体。しかも、全員が遠距離攻撃持ち。

 ついでに言えば、コータは知らないがベーダモンX抗体は完全体であり、イーバモンX抗体に至っては究極体である。

 数でも負けて、質でも負けて、リーチでも負けている。トドメとばかりに、場所が入り組んだ迷路とはいえ狭い。一斉掃射されたのならば、即座に蜂の巣だ。

 

「……っ」

「アウゥ」

 

 まさに、絶体絶命な状況だ。

 

「サテ。レジスタンスノ下マデ案内シテ貰イマショウカ」

「うーん……」

 

 コータが悩むふりをすれば、即座に足元に光線が飛んでくる。

 どうやら、あまり気の長いタイプではないらしい。コータは冷や汗を流し、トコモンを見る。トコモンが頷いた。

 だから、コータは覚悟を決める。これほど意思疎通が出来ないアイコンタクトは他にないだろう。

 

「こっちだ……よっ!」

 

 コータは投擲。投げたのはもちろん、トコモンだ。

 

「アウゥウウウウウウ!」投げられた彼は、必死に空中で飛んでくる光線を避けていた。むしろ、どうやっているんだという話である。

 

 何はともあれ、憎しみと恨みの声が飛んでくる中、コータは構わずに駆け出す。

 

「トコモン、かみつけ!」

「アウ!」

 

 こうりゃヤケだ! そう言いたいかのように、トコモンは着弾したベーダモンX抗体の脳みそに噛み付いた。何とも言えない、柔らかくて固い、微妙に歯応えのいい食感にトコモンは泣いた。

 

「ウガッァァァァ!」

 

 一方で、脳みそを噛まれたベーダモンX抗体は堪ったものではない。

 いくら、デジモンにとっての外見は人間と全く同じ意味と機能を持つことはないとはいえ、それを差し置いても泣き所だったのだろう。

 痛みに暴れ回り、光線を乱射する。イーバモンX抗体は堪えていないが、その他のベーダモンX抗体は慌てている。

 

「役立タズデスネ」

 

 そんな中で、イーバモンX抗体はその手の光線銃を構え――

 

「まさかこれほど幼き者でさえ、これほど勇ましいとは。未来が過去に負けるとは、情けない。我々は進歩と引換えに堕落と怠惰を抱いてしまったのかもしれんな」

 

 ――瞬間、声がした。

 汚水が溢れ出し、まるで通路を襲う。

 

「何――!?」

 

 イーバモンX抗体の焦ったような声がした。

 一方で、状況がよくわからないものの、コータにとっては好機だ。

 

「ぶはっ。トコモン!」

「アウ!」

 

 汚水に流されながらも、彼は何とかトコモンを回収する。

 そして、口直しとばかりに噛み付かれながらのコータが向かう先は、この場で唯一の逃げ道。すなわち、吐き気がするほどの臭いを放つ排水路の中――!

 

「潔い!」

 

 そして、またあの声がした。

 瞬間、地下が震える。

 かつて人間の世界のとある国では、地震とは地下に住む大鯰が暴れることで起きたという。もちろん、人間の世界では御伽噺だ。

 だが、ここにおいては。

 

「吾輩はレジスタンスのギガシードラモン!」

 

 大地を震わせて現れたのは、コータが今まで見た中では最大級のデジモンだった。

 まるで洞窟がそのままデジモンになったかのような巨大さを誇る、機械水龍。彼こそ、ギガシードラモンと呼ばれる究極体デジモンだった。

 

「さぁ!」

 

 さぁ! とギガシードラモンが大口を開ける。

 一方で、コータたちは「さぁ!」と言われても、と固まってしまう。

 

「急いで!」

 

 だが、そんな彼らの前に現れたのは、ギガシードラモンの喉の方から走ってきたワームモンだ。

 

「早く!」

 

 届かない小さな前足を伸ばして、ワームモンが叫ぶ。

 その顔は、泣きそうなくらい必死だった。

 

「っ!」

 

 だから、コータはギガシードラモンの口の中に飛び込む。

 

「撃てー!」

 

 汚水から立ち直ったのだろう、イーバモンX抗体の声。飛んでくる光線。それを背に、コータはギガシードラモンの体内に行き――

 

「ははは!」

 

 ――再び地下を震わせながら、ギガシードラモンは排水路の奥深くに消えたのだった。

 




モチベーションの低下や日々の忙しさといろいろあって難航してましたが、ちまちまと書いていたおかげで最終話まで書き終わりました。
あとは細かい部分の推敲や校正をしつつ、ほぼほぼ完成しているのでちょっと投稿スピードを上げるかもしれませんが、まぁぼちぼちのんびりと投稿していきます。
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