【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第三十六話~合流~

 タイガーヴェスパモンを倒した。

 しかし、倒した当人であるドルゴラモンは疲労があり思うところがあって、その場に立ち尽くしていた。

 

「で、移動した方が良いと思うのじゃが」

 

 そんなドルゴラモンに話しかけるのは、戦闘中ずっとドルゴラモンに必死でへばりついていたボコモンだ。

 というか、あのタイガーヴェスパモンの猛攻の中でよくもまぁ無傷でいられたものである。

 

「うん、移動しようか。っていうか、それはいいんだけど――」

「なんじゃい? 何か気になることでもあるんか?」

「いや。なんかさ、揺れてない?」

 

 ドルゴラモンは、この地面の微小な揺れを感じとっていた。

 戦闘中は感じられていなかったし、戦闘後すぐは疲労による気のせいだと断じていたのだが、戦闘後しばらくした今もなお続いているとあれば、勘違いでは済まない。

 有り体に言えば、何かが来ると彼は予感していたのだ。予感していたからこそ、下手に動けない。

 

「いや、わかっとるなら早く逃げた方が良いと思うがのう」

「でも……っ」

 

 揺れが酷くなった。

 いや、まるで揺れそのものがドルゴラモンたちをロックオンしたかのように、彼らの周囲を震源としてどんどん酷くなっていた。

 ここまで来れば、確定だ。何かが来る。

 

「飛ぶよっ」

「え、は、ちょっと待ってくれぇぇぇ!」

 

 攻撃だったら堪らない。そう考えたドルゴラモンが飛翔する。

 そして、滞空するドルゴラモンが見守る中、すぐにその時は来た。地面を突き破って、異臭と汚水が街に放たれる。異臭と汚水に乗って、彼が来る。

 

「はっはっは! 外だ!」

 

 いろいろと汚いものの流れに乗って現れたのは、ドルゴラモン以上に巨大なデジモン――ギガシードラモンだ。

 

「っ、このデジモンは――!」

「やはり水中の方がずっと良いが、あの汚水の中と比べるならば、多少息苦しくとも外の方が良いな。あぁ、大海を泳ぎたいものだ」

 

 何やら感慨に耽っているギガシードラモンを前に、ドルゴラモンはどうしたものかと考える。

 いきなり襲いかかって来ない辺り、タイガーヴェスパモンたちのような敵ではないのだろう。しかし、何となくそう予測が付くだけだ。

 それ以外がさっぱりで、だからこそ、行動に悩む。

 

「触らぬ神に祟りなしと言うがのう」

「でも……」

「お前さん、あの異臭塗れのやつと知り合いになりたいんか?」

「……」

 

 ボコモンの一言がすべてを決した。ドルゴラモンはそーっと逃げることを選択する。

 まぁ、

 

「あぁ、貴様がドルゴラモンか」 

 

 もう遅いのだが。

 

「そうだよ。俺がドルゴラモンだ」

「なるほどやはりそうか。吾輩はレジスタンスのギガシードラモンだ」

「レジスタンス!?」

「うむ。貴様の相棒を連れて来てやったぞ」

「えっ、コータを!」

 

 驚くドルゴラモンを前にして、ギガシードラモンは「うむ、ほれ」と大口を開ける。

 

「ドルゴラモン!」

「アウ!」

 

 その中には、未だ身体も乾いていない濡れたままのコータとトコモンがいた。

 すぐさま彼らはギガシードラモンの口から飛び出した。

 

「コータ!」

「無事じゃったか!」

 

 ドルゴラモンとボコモンも喜び、コータたちの下へと向かう。

 

「臭い」

 

 が、ドルゴラモンはすぐに立ち止まった。コータたちの身体に染み込んでいる異臭を感じ取ってしまったからだ。

 

「コータ、お前すごく臭いぞ」

「うるさいわっ!」

 

 コータの飛び蹴りがドルゴラモンにヒットする。

 まぁ、コータの脚が痛くなるだけなのだが。

 そして、そんな彼らの感動(笑)な再会の一方で――

 

「ぶはははははははは! トコモンお前さんっ。あのお前さんがっ! あのお前さんがっ、くさっ、臭い! ぶはははははははは!」

「ガウ~!」

 

 ――異臭に塗れているトコモンを、下品に笑い飛ばしていて噛み付かれているボコモンの姿があった。

 

「っていうか、ここどこだ?」

 

 そう言えば、と辺りの惨状に気づいたコータがドルゴラモンに聞いた。

 コータの認識ではこの未来世界はどこまで行っても都会ばりの都市が続いていたのに、こんな過去世界もびっくりの更地があったとはまさに驚きであった。

 

「……あはは」

 

 一方で、ドルゴラモンはバツが悪そうに笑う。

 そんなドルゴラモンを、コータは首を傾げながら見て――

 

「ここって、まさかZ地区ぅー!」

 

 ――その答えにたどり着いたのは、この街をよく知るワームモンだった。

 いつの間にかギガシードラモンの体内から出てきていた彼は、ここが街の変わり果てた姿だと気づいたのだ。

 

「え? Z地区ってオレとワームモンが出会ったところだよな? ……まさか」

「いやいや! 座標的にはZ地区だよ! ねぇ!」ワームモンがギガシードラモンに聞けば、

「そうだな。Z地区だ。一体何があったのやら」とギガシードラモンが返す。

 

 そんな彼らが次に視線を向けるのは、ここで戦っていたというドルゴラモンだ。

 

「必死だったんだよぉ!」

 

 情けなく、ドルゴラモンは白状した。

 

「ドッ、ルゴラモン、お前悪い奴だな! いくらなんでも街を壊すか! いや、壊すってレベルじゃねぇけど!」

「だから、必死だったんだよ! 強かったんだってば! コータだってわかるだろ? なりふり構ってられない気持ちは!」

「……まぁ、わかる。もちろん、わかる。わかるけど、それでもこれは……――」

 

 まぁ、すべては終わったことだからこそ言えることであるのだが。

 そうして、一通りコータにからかわれることになるドルゴラモンだった。

 

「まぁ、吾輩も似たようなことはできるが」

「究極体って怖い――!」

 

 一方で、ワームモンはドルゴラモンの想像以上の実力にどん引きしていたのだが。

 

「でも、そうだね。まさかタイガーヴェスパモンを倒していたとは思わなかった。これはいよいよチャンスだ」

 

 立ち直ったワームモンはタイガーヴェスパモンの死骸を見つつ、ギガシードラモンに視線を向ける。

 ギガシードラモンは頷いた。

 

「そうだな。ベーダモン部隊は地下に閉じ込めていて、しばらくは地上に来られまい。であれば、確かに今こそが好機」

「攻める? その気で来たわけだけども」

「彼らの協力は得られないのだろう? こちらの人員はまともなのがいないぞ」

 

 ギガシードラモンはそう言って、厳しい顔をした。未だギガシードラモンの体内に格納されているレジスタンスメンバーはいる。いるのだが、あまり力のあるデジモンはいない。

 最も力のあるデジモンはギガシードラモンで、それ以下しかいないのだ。しかも、排水路システムに思うところがあったのか、割と力の弱い汚物系が多い。

 とはいえ、チャンスを逃すのはもったいなく、また()()()()に来たというのも事実である。

 

「どの道退路は断たれている、か。よし」と、覚悟を決めたようにギガシードラモンの表情が変わる。

 

 そんな彼に頷いて、ワームモンはコータたちを見た。

 

「コータ、ここの住人なんかおかしいよ。あのトゥエニストみたいな?」

「うーん、でも、あいつとは何か違う気がするんだよな。同じ行動をとっているとしても、その理由が違うっていうかさ。なぁ、もしここにあいつがいたとして、こいつらはトゥエニストだって言うか?」

「……言わないね!」

 

 コータたちは何かよくわからない会話をしていた。

 トゥエニストとかいう意味不明単語に興味は惹かれたものの、ワームモンはコータたちの前に行って用件を話す。

 

「僕らはこれから、天を落とす」

「天?」

「天っていうのは、この未来世界の管理者のことだよ」

 

 天の面々がこの未来世界に秩序を制定し、秩序を守っている。実質的なこの世界の支配者なのである。

 ちなみに、管理者とは言うが、NEWデジタルワールドの(イグドラシル)がそこにいるということではなく、この未来世界部分の代表――要するに、便宜上の名として管理者がいるというだけの話である。

 

「空中秘蜜基地“ローヤルベース”。そこにすべてがある。だから、僕らはそこに乗り込んで、落とす。そうすればこの街を変えられる」

「なるほど。で?」コータが半目で聞いた。

「うっ。だから、助けて欲しい。手伝って欲しい」

 

 コータはドルゴラモンたちを見る。

 ドルゴラモンは困ったように笑っていた。助けを請うてきたのだから助けてあげたい気もするけれど攻め入るというのは……――という感じだろう。

 ボコモンはふんすと鼻息荒くしていた。天や管理者なんて名乗る傲慢な奴らを倒しに行くのだ……――と言いたげだった。

 トコモンはどうでもいいといった様子だった。逆にボコモンを見てメシウマとばかりに嗤っていた。

 

「……うん、それでもごめん、断るよ」

 

 もちろん、悩ましい部分はある。

 命は生きるためにある――そんなコータたちの考えに、言うなれば信念と反対なのがこの街だからだ。

 だから、悩ましい。だが、それでもコータには何が何でもこの社会を良くしたいとまでは思えなかった。だから、自分の中にモヤモヤとした嫌な気分は残るものの、この街の在り方を見逃すのだ。

 

「うー。残念」

 

 本気で残念そうにワームモンは言う。

 

「うむ。それでいい」

 

 一方で、ギガシードラモンはそんなコータの選択を良しとしていた。

 

「外の者が中のことに本気になれないのは当然のことだ。自分たちとは関係のないことなのだから。それなのに些細な動機で無理矢理に踏み込めば、無駄に命を散らすことになる。後悔しか残らん」

「……ギガシードラモン」

「だから、良い。これは吾輩たちの問題だ。吾輩たちが解決する。だから、貴様らは関わらなくても良いし、関わらないことに何かを想う必要はない」

 

 そう言って、ギガシードラモンは気にするなと言う。

 コータもドルゴラモンも、そんなギガシードラモンの様子に救われたような顔をした。彼らは問題を知りながらもその問題を見過ごす、そのことに罪悪感にも似た感情を抱いていたのである。

 

 ********

 

「それじゃあ、ワームモンたちが上手くいくことを祈ってるよ」

「ああ、今までありがとうな」

 

 結局、コータたちはそこで別れることになった。

 

「なんでじゃーい!」

「アウアウ」

 

 グダグダ言っているのはボコモンだけである。

 

「うむ、貴様らも達者でな」

 

 ワームモンを体内に格納したギガシードラモンが、コータに別れを告げて――

 

「え?」

「なっ」

 

 ――その瞬間のことだった。

 それに気づいたのは、ドルゴラモンとギガシードラモンだ。彼らは揃って上を見た。

 

「そう来たか……! 吾輩としたことが、無駄な時間を過ごしすぎたか」

 

 そう言ったギガシードラモンは、険しい顔をしていた。

 その視線の先にあるのは、空だ。だが、どこか違和感がある。まるで、そこに見えない何かがあるような。

 

「申し訳ないが、貴様も否応なしに巻き込まれることになるらしい」

 

 ギガシードラモンがそう言う。

 その言葉の意味を、コータたちは過不足なく察した。

 

「あれだ。あれが、天だ」

 

 視線の先、模倣の空の壁をまとった見えぬ基地。

 それこそが、この世界の(管理者)。空中秘蜜基地“ローヤルベース”――!

 

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