【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
空が揺らめいた。
「むっ」
即座にギガシードラモンは行動を開始する。咄嗟にコータたちを飲み込み、先ほど突き破ってきた地中へと退避した。
「俺は!?」
「貴様ならどうとでもできるだろう!」
まぁ、大きさの関係で飲み込めなかったドルゴラモンは置き去りなのだが。
そして、その一瞬後のことだ。空から爆弾とミサイルが雨霰と降り注ぐ。
「う、うぇぇぇっ! “ドルディーン”!」
いきなりの攻撃に、ドルゴラモンはそれはもう必死だった。破壊の衝撃波を放ち、もろとも破壊する。が、数が多い。質で劣っていても関係なく、数で衝撃波を押し切るとばかり。
その数、万は超えていただろう。
「ぜぇっ、ぜぇっ」
爆撃は数分もの間、続いた。その間、ドルゴラモンはずっと必殺技である“ドルディーン”を打ちっぱなしである。
疲れるというレベルの話ではない。
「まさか全部迎撃するとは。いや、いいから降りて来い!」
地下へと続く穴の中から、ギガシードラモンの声が飛んでくる。ドルゴラモンは自分の後を追ってくるものだと、彼は思っていたらしい。
じゃあここまで疲れる必要はなかったんじゃん! とドルゴラモンは自分の下手な行動にツッコミを入れつつ、穴に飛び込む。
数十メートル下った場所にギガシードラモンはいた。ドルゴラモンは滞空しつつ、彼と向き合う。
「臭い」
「我慢しろ」
まぁ、ギガシードラモンの行進のせいでシステムが逝かれたらしく、排水路の異臭がずいぶんと漂っていたのだが。
「ともあれ、見たな?」
ギガシードラモンが確認する。
ドルゴラモンは頷いた。
そうだ、彼らは見たのだ。あの攻撃が始まる一瞬前に空が揺らめいた時、そこに巨大な島のような何かが浮かんでいたのを。
あれが、ローヤルベースなのだろう。ステルスか、それに類似する機能で隠れていたのだ。
「もはや、貴様らは吾輩たちと同じく奴らにロックオンされている」
「……結局そうなるのかぁ」
ドルゴラモンはがっくりと肩を落とした。コータもドルゴラモンもいろいろと考えて関わらないことを選んだのに、結局その選択は無駄となったのだ。
「無駄ではないぞ」
「無駄ではないって、無駄にしか思えないんだけど」
「いや。選んだその事実だけは忘れてはならない。例え、世界や社会によってその選択がなかったことにされても、選んでないのと選んだのとでは大きく違う」
そんなドルゴラモンに対して、そして自分の中にいるコータに対して、ギガシードラモンはそう言う。
事態に流される結果となっても、信念による選択があったことは本人たちの中にあるのだから。
「その違いが、いざという時に生きることもある。どうして自分たちがそれを選んだのか、その理由こそが自分のアイデンティティなのだから」
そう言って、ギガシードラモンは口を開ける。
そこには、コータとボコモンたちがいた。彼らはそのまま、ドルゴラモンに飛び移る。
「ま、こうなったからには仕方ない。降りかかる火の粉は全部払うつもりで行く」コータがそう言えば、
「それだけでもありがたい」とギガシードラモンは頷いた。
そして、ギガシードラモンは再び外に出ていく。
それを見届けて、ドルゴラモンは気合を入れるように短く息を吐き出した。
「俺たちも行こう」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「……どうかした?」
「ワームモンに話を聞いたけど、この攻撃は患部切除のようなものらしい」
つまり、街の運営上で邪魔になった場所や者を諸共消し飛ばすことでなかったことにするつもりなのだ。
「総力戦だってさ」
「うげ」嫌そうに、ドルゴラモンはうめいた。
一方で、コータもその気持ちはわかるとばかりに頷いた。
彼はレジスタンスのメンバーを知っている。先ほど、ギガシードラモンの体内にいた時に見た。まぁ、この社会の少数派が集まっているだけあって、質としても数としてもないに等しい戦力だ。
というか、ほぼほぼギガシードラモン頼みの部分さえ見えた。いや、当人たちは十分やる気なのだろうが。
「総力戦ってことはつまり、この街の警備隊も参加してくる」
「警備部隊?」
「あれ? 出会ってないか? ベーダモンとかいうデジモンなんだけど」
「ああ、あの……」
ケルベロモンX抗体と出会った時のことを思い出して、ドルゴラモンは頷いた。
「あいつら、この地下にいるんだよな」
「え?」
「で、多分、オレたち――というか、ギガシードラモンを追ってきてるんだよな」
そこで、何となくドルゴラモンはコータの言わんとしていることがわかった。
「この穴塞いじまえ」
そう言って、コータは笑う。
ドルゴラモンは頬を引き攣らせた。
「過激じゃのう。ま、理には適っておるが」
「アウアウ」
呆れたように言った彼らは、コータに引っ付く。こうすれば最悪、振り落とされることはないと考えたからだろう。
「わかったよ」
何はともあれ、ドルゴラモンは飛ぶ。穴の出口まで飛翔する。
そして、
「“ドルディーン”ッ!」
破壊の衝撃波を放つ。
放たれた衝撃波が地面をぶち抜き、ギガシードラモンが通る上で作り出した穴を、そして地下排水路を、まるごと崩落させる。
轟音が鳴り響き、土煙が舞い踊る。
「これでよし。次は……っ!」コータが何かに気づいて、
「危ない!」そのコータの気づきに気づいたドルゴラモンが、回避行動を取る。
レーザー光線がドルゴラモンのすぐ側を通り過ぎた。
それは、空高くのあの基地から放たれたもので。
「ばっちりロックオンされてるな」
「逃げられないね」
否応なしに巻き込まれていることを、実感する。
見れば、ギガシードラモンが海を泳ぐように空を飛び、何とかステルス状態のローヤルベースに突入しようとしていた。
ミサイルやらレーザーやらの攻撃によって、突入に苦戦しているようだったが。
「……ドルゴラモン、
コータがそう聞いた。
その意味を、ドルゴラモンは察する。
「やってみる」
敵の本拠地が空の上にある以上、不利だ。
あのギガシードラモンは飛べるが、見た目通り本分ではないのだろう。少し苦戦している様子が見える。
ドルゴラモンも飛べるが、コータたちがいる以上は無茶な動きができない。
そんな彼らが状況を打破するには、敵の本拠地の能力を奪うか、それか隙を作れるくらいに敵を混乱させる必要がある。
そして、ドルゴラモンに出来ることなど一つしかない。
「“ドルディーン”ッ!」
放たれた衝撃波が突き進む。空に座す空中基地を落とさんと突き進む。
だが、しかし。
「あれは」
ステルスから飛び出してきたのは、大量の蜂デジモンたちだ。ファンビーモン、ワスプモン、キャノンビーモン――……成長期から完全体までの数々のデジモンたちが、盾となって破壊の衝撃波を防ぐ。
彼らによって威力を減衰さられた衝撃波は、届くことなく消えた。
「……!」
「……」
コータもドルゴラモンも、その光景に何も言えなかった。
彼らは基地のために死んだのだ。自分の命よりも、自分“たち”の目的のために死んでいったのだ。彼らもまたこの社会の者たちだった。
「……」
ボコモンは何も言わなかった。
「アウアウ」
ただ、トコモンだけが馬鹿らしいと嗤っていた。
「コータ……」
「ああ、行こう」
生存闘争ではない、ただの弱い者いじめをしているような気分になりながらも、コータたちは止まれなかった。だって、ここで逃げ出せば背中を撃たれる。
だけど、戦えば集団でしか生きられない弱者を、それこそアリの巣穴に殺虫剤を巻くように、簡単に殺していくことになる。
「……戦わないでくれ、って言って止まってくれれば楽なんだけどな」とコータは言う。
「それは難しいよ。あいつらにだって、戦う理由があるんだから」とドルゴラモンは返した。
もちろん、ドルゴラモンの言うことはコータもわかっている。
今のコータの言葉や願いは、ある意味で傲慢そのものだ。彼ら弱き者は強き者に従えと、強き者の道理や感情を優先して弱き者は何もするなと、そう言っているようなものだからだ。
「気分悪いな」
「そうだね」
だけど、弱者に譲れない想いがあっても、それは強者も同じ訳で。
だからこそ、強者による弱者の蹂躙が起こる。
実に理不尽だ。理不尽で、胸糞悪い。
「……行こうか」
「うん」
身体にまとわりつく嫌な気分を振り払うように、ドルゴラモンは進み出した。
「“ドルディーン”!」
再度放たれる、破壊の衝撃波。先ほどと同じように、多くの蜂デジモンたちがその身を犠牲に防ぐ。
ああ、だが、その瞬間こそが隙だ。蜂デジモンが盾になっていて、それが終わる瞬間だけはそこに隙間ができる。
そこを、超える。
衝撃波の後ろを飛ぶドルゴラモンは、そうして、蜂デジモンたちの亡骸を抜ける。
ステルスの壁を越えて、基地の中に突入する。
「突入した――!」
入って初めて、コータたちはローヤルベースの姿を視認する。
そこは、機械で出来た場所だった。だが、見た目としては取り分けて変わった部分はない。強いて言えば、とても広いということだろうか。
空に浮かんでいるという一点を除けば、人間の世界にもありそうな光景ではある。いや、まぁ、攻撃状態にある兵器が多いという部分はあるが。
「入ってきたか」
そして、突入したコータたちを迎え撃つのは、ドルゴラモンが見覚えのあるデジモン――タイガーヴェスパモンだ。
「なっ、アイツってドルゴラモンが倒したんじゃないのかっ!?」
「倒したよっ!」
まさか、同一種がいるとは思わなくて、コータたちは混乱する。
なにせ、究極体の同一種である。成長期や成熟期の同一種がいるのとは訳が違う。
究極体に辿り着ける個体は、全体の一パーセントにも満たないレベルである。それなのにその一パーセントが同一種に辿り着く確率など、どれだけ低いことか。
「我らの理想、技術を舐めてもらっては困る。これはシステムだ」
誇らしげに、タイガーヴェスパモンは語る。
「本来出てはならない総指揮の立場の者が出撃し、そして敗北した時点で、その穴を埋めるべく別のものが総指揮の立場に新たに進化する」
「……!」
それは、常に究極体デジモンのリーダーが途切れぬようなシステムが組み立てられているということである。
究極体という希少種を絶えず生み出す――そんなところにさえ、個人主義にならないようなシステムが組み上げられているというその事実に、もはやコータたちは逆に感嘆するばかりだった。
「以前の戦いのデータは揃っている。もはや貴様に勝ちはない!」
タイガーヴェスパモンがドルゴラモンに急接近する。
なるほど、確かに強敵だ。システムによって、死んだ者が復活したようなものだ。そこに解析された以前の戦闘データを加えれば、弱点を見抜かれたのも同然。
「“マッハスティンガーV”!」
タイガーヴェスパモンは剣で刺突する。
ああ、だが、彼はわからない。自分たちの技術の凄まじさを正しく認識し、だからこそ、見下している彼にはわかるはずもない。
確かに、解析という手段はない。
確かに、タイガーヴェスパモンたちの技術ほどの精巧さはない。
それでも、精度は低くとも、拙くとも、ドルゴラモンたちだって同じことはできるのだ。
「わかってるよ」
そうだ。ドルゴラモンはわかっていた。何となくだが、わかっていた。
「きっとお前は、最短があるのなら必ずそこを突く。一番弱いところを突くと――!」
そう、タイガーヴェスパモンは合理に突き抜けている。どうあっても、最短の道や確実な道を行く。
つまり、
だからこそ、ドルゴラモンはそれに合わせる。合わせられる。
「おらぁっ!」
そして、コータを狙ったタイガーヴェスパモンに見事なカウンターが決まった。
個人という個人が認められない究極のブラック企業、それがローヤルベース。