【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
「かはっ」
ドルゴラモンの見事なカウンターによって殴り飛ばしたタイガーヴェスパモンは立ち上がれたもののダメージで動きが鈍い。
チャンスだ。
「今だ!」
コータの声すら置き去りに、ドルゴラモンは駆ける。
そして、ダメージによって自らの長所を失ったタイガーヴェスパモンに、思いっきり拳を叩き込んだ。
「っぐ!」
「まだまだ、もう一発!」
「がァ!」
「もう一発!」
「……!」
「トドメにもう一発だぁ!」
ドルゴラモンの拳が、何度もタイガーヴェスパモンの腹に吸い込まれていた。
パワーバカのドルゴラモンの拳を、何発もまともに喰らったのだ。耐え切れない、とばかりにタイガーヴェスパモンは地に沈んで動かなくなる。
「っしゃぁ! 完勝!」
ドルゴラモンが勝利の雄叫びを上げた。
「……早く移動した方がいいな」
「アウ」
「じゃのう」
一方で、コータたちは冷めていたのだが。
「勝ったのにひどい!」
「いや、だって、どうせまた出てくるし」
そうだ。このローヤルベースのシステム的に、また誰かがタイガーヴェスパモンに進化する。そして、また襲われる。
そうなればジリ貧である。こちらは次はないが、彼らには次があるということなのだから。
しかも、進化する度に彼らは戦闘データを解析・蓄積しているようだから、もしまた戦うことになれば先ほど以上の苦戦は必至。少なくとも、先ほどのような単純なカウンターは通じなくなると考えていいだろう。
「とりあえず、移動しよう」
戦闘の音を聞きつけた誰かしらがここに駆けつけるだろう。その時、コータたちがこの場にいればまた戦闘することになってしまう。
だからこそ、移動しなければならない。
「まぁ、監視カメラの一つや二つはあるじゃろうし、逃げたところで居場所はバレバレな気もするがのう」
「……怖いこと言うなよ!」
ボコモンの言葉に、ドルゴラモンが身体を震わせる。いくら彼でも、タイガーヴェスパモンクラスのデジモンとの連戦は堪えるのだ。
「まぁ、その辺りは考えずに行こう。それで――」と、コータが何かを言おうとしたその瞬間のことだった。
辺りに爆音が響き渡った。まるで至近距離で雷が落ちたかのような轟音だ。
「っ、なんだ!?」
見れば、青白い光線が基地に突き刺さっている。やがて薄れて消えたものの、一瞥しただけでかなりの威力を持つことは明白な攻撃だった。
そんな攻撃ができるものなど、この未来世界に来てからコータたちは一体しか出会っていない。
「
その時、コータたちに遅れたギガシードラモンがこのローヤルベースに突入してきた光景が見えた。
というか、ものすごい強引に突破してきたらしい。その周囲に攻撃状態のファンビーモンとワスプモンを引き連れている。
「革命の時だ!」
ギガシードラモンが大口を開ける。すると、中から現れたのはレジスタンスのデジモンたちだ。
「総員、中枢システムの管理室まで前進だぁ!」
やたらと勇ましい表情で指示を出したのは、ワームモンだ。
そして、それに従うのは数々の汚物系デジモン――……。
「本当に人手不足なんだな」
「そうだね」
「アウ」
「何というか、いや、あやつらが悪いというわけじゃないのじゃが、あんなやつらに社会が変えられると思うと……のう」
それを見たコータたちは何とも言えない気持ちになったのだった。
ちなみに言うと、汚物系デジモンが大半を占めているだけで、
しかし、今度は微妙に水棲系が多い。まぁ、レジスタンスの行動範囲的に地下排水路の周辺にいた者たちなのだろう、きっと。
水辺が地下排水路しかなくて、そこに恨みを感じたとかそんなことではないはずである、きっと。
「……まぁ、戦う理由は人それぞれでいいと思うけど……けど……!」
ファンビーモンやワスプモンを相手に戦うレジスタンスたち。
方や水や雷が、方やミサイルやレーザーが、ひっきりなしに飛び交っている戦場。その中で一際戦果を挙げているのは、汚物系の技である――ウンコだ。機械の大敵ということで特攻が入っているのか、妙に敵を倒している。
水が舞い、雷が行き、ミサイルが飛び、レーザーが進み、そして大量のウンコが散らばる。
何というか、酷い。絵面が酷い。水と雷のせいでウンコが微妙に柔らかくなることもあるのが、もっと酷い。
「……何だろうね」
「……うん」
「……じゃのう」
「アウ」
彼らを見ていると、巻き込まれている自分たちに釈然としないものを感じるコータたちであった。
********
何はともあれ、気を取り直したコータたち。
「こっからオレたちはどうするべきかな?」コータはこういう時に強そうなボコモンにアドバイスを求めた。彼にはこの基地を壊し尽すとか、そういう心情的にも効率的にもよろしくない案しか思い浮かばなかったからだ。
ちなみに、当然だが、そんなコータたちにも基地を守護する者たちは迫る。が、大半がファンビーモンやワスプモンといった成長期成熟期の面々なので、ドルゴラモンが片手間に倒していた。
「とりあえず殲滅とかを考えないのなら、システム面を落とせばいいんじゃないかの? そうすれば追跡用のデータもなくなるじゃろうし。システム復旧までの間に逃げ切ればよかろうて」
「なるほど」
とすれば、図らずも目的地はレジスタンスと同じということになる。先ほどワームモンが言っていた、中枢システムの管理室とやらだ。
「ドルゴラモン!」
「うん!」
ドルゴラモンが尾を横薙ぎに振るう。
迫っていたワスプモン数匹を諸共に吹き飛ばしたドルゴラモンはコータたちが自分にしっかりと掴まったことを確認すると駆け出した。
「で、それがどこにあるかわかるか!?」
「さすがに知るわけないじゃろ」コータの問いに呆れたようにボコモンは返した、のだが、
「ものしりブックは!」とすぐさまドルゴラモンに怒鳴られる。
「おぉ! 忘れておったよ。こりゃうっかりうっかり」
どうやら本気で忘れていたらしい。ボコモンはものしりブックを取り出して、ページをめくり始めた。
まぁ、トコモンは「アウア、アアウ」とそんなボコモンを阿呆を見る目で見ていたりするのだが。
「うむ、わかったぞ! このローヤルベースはおおよそ円形で、その中心部にあるぞ!」
「言って難だけど、それ本当に凄くないか?」
「当然じゃ。だって、これは――と、ごほんっ。何でもないぞ! いいからさっさと行け。それからトコモン、誰がババアじゃい!」
何はともあれ、目的地がわかり、その場所もわかった。
ドルゴラモンは
「ちょ、待て待てぇっ!」
飛んでくる壁の破片を前にして、コータは悲鳴を上げた。
一方で、
まぁ、ドルゴラモンの言うことにも一理あるというか、壁が飛んでこなければ諸手を挙げて賛成できるので。
「もう少しオレに気を遣って壊せよ!」
コータはそう言うことしかできないのだ。
「今更じゃが、もう基地そのものを壊した方が良い気がしてきたのう。儂らにとっても、相手にとっても」
「アウ? アウアウ」
********
そうして、壁を何十枚とぶち抜きまくったドルゴラモンたちは、目的地へと到達する。
そこは、中央に一本の柱のような何かの機械が置かれている部屋で――
「ずいぶんと大事にしてくれたものだ。この社会を、基地を、作るのにどれだけの時間と労力をかけたと思っている……!」
――そこにはやはり、タイガーヴェスパモンがいた。
「コータ、コータ!」
こっそりとボコモンが指を指し示すその先には、パネルがあった。
あれが操作パネルなのだろう。
「オレがあれを弄りに行く。その間、タイガーヴェスパモンを任せられるか?」
「もちろん! コータこそ気をつけてよ!」
「よしっ」
方針は決まった。すぐさま、ドルゴラモンはタイガーヴェスパモンめがけて駆け出す。
コータもまた、そんなドルゴラモンを見送って操作パネルに向けて走り出した。
「させん!」
だが、そんなことはタイガーヴェスパモンにもわかっているのだろう。彼はドルゴラモンを放っておいて、コータを優先して攻撃を仕掛ける。
その瞬間、コータの頭の真上をドルゴラモンの拳が通過した。
「させんのをさせないよっ!」
ドルゴラモンが攻撃しながら庇ったのだ。
ちなみに、彼がもう少し下を攻撃してたら、コータの頭が吹っ飛んでいたりする。
そんなことが数回、地味に味方からによる自らの命の危機に晒されながらも、コータは操作パネルにたどり着いた。
「着いた……! よし、早速……――。……。…………」
コータは動けなかった。というか、操作パネルの操作の仕方がわからなかった。
こんな時は、困った時の
「えっと、操作パネルの操作方法は簡単じゃな。自動翻訳されてくるらしいから、それに従ってパネルを入力していけば良いのじゃ」
「だけど、反応がないんだけど!」
コータが何度も触っても、叩いても、操作パネルは反応しない。
操作以前に、電源自体が入っていないようだった。
「起動方法じゃな。まずパスワードを入力するんじゃ」
「パスワードは! それにどうやって入力するんだ!」
「……えーっと……あ」
「あ? あ、って言った? あ、って何だよ!」
嫌な予感が抑えられなかったが、コータは聞いた。
すると、ボコモンは笑って言う。
「予め登録されたデジモンがここに立たなければ、そもそもパスワード入力状態にすらならないらしいぞい?」
「……詰んでるじゃないか!」
もはや、最も温和な解決は望めなくなったということである。
こうなれば、この基地を破壊し尽くすくらいしか案がない。ハッキングやクラッキングができる能力など、コータにはないのだから。
そうして、そんなコータたちの背後で――
「っぐ」
「獲った――!」
――少し手こずったとばかりに目立つ傷を負ったドルゴラモンが、それでもしっかりとタイガーヴェスパモンを殴り飛ばしていた。
それが三度目の決着となった。
「っぐぅ、がぁっ」
苦しそうに、タイガーヴェスパモンは這い回る。
その時が近いのは、誰が見ても明らかだった。
「総指揮たる我が……――三度も――だが、これで終わらん。この社会を混乱させる貴様らだけは絶対に――!」
だからだろう。苦し紛れの言葉を、彼は言う。
そう、この基地のシステムがある以上、タイガーヴェスパモンは何度も復活する。何度もリトライできる。だから、彼はこの敗北を最後の敗北にすべく、死――!
「な、システムが壊れているだと?」
だが、次に彼が呟いたのは、混乱の言葉だった。
「次の個体が見つからない? 進化できない、我が死ぬ?」
そして、その混乱の言葉の中に恐れが交じる。
彼はその混乱の中に見つけた結論を、恐れていた。タイガーヴェスパモンは死んだところで別個体が同じ役割として進化する。幾度も幾度も。
それは集団の中の一として残り続けるという、個の超越であり死の超越だ。ある意味では、個人ではたどり着けない、命の極致だ。
だが、それが壊れてなくなってしまった。自分たちの極みが失われた。それにより、集団の中の一どころか、個としても消えてなくなってしまう――気にしなくて良かった死に直面して、彼の中に恐怖が
「……! 我は――、まだ……!」
彼は死んだ。最期の最後まで、生まれて初めての恐怖を味わったまま。
「っくっくっく。無様ですねぇ」
そして、そんな彼に変わって聞こえてきた声は、コータたちがどこかで聞き覚えのある声だった。
「ああ、個としてしか生きられない生命が他者を思いやる余り、種族全体の自己崩壊の道へと進んでく様、実に面白かったですよ?」
そうだ。その声の主こそ、
「やぁやぁ。直接会うのは久しぶりですかねぇ。皆さん、私の思い通りに動いてくださってありがとうございますよ」
あの悪魔――!