【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
D.C.2018 NEWデジタルワールド――スクルドターミナル――
事情を知らない者たちは、それこそ悪夢としか言えなかった。
突如として現れた
「た、助け――!」
「逃げろっ、遠くに逃げろ!」
「何なんだよぉ!」
「退けっ、さっさと前に進めよ!」
悲痛で、醜悪な、声が響き渡る。
いかに集団を良しとする社会を営んでいた者たちとはいえ、社会そのものが存亡の危機に陥ったせいだろう。集団の在り方を良しとして生死まで集団に任せた者たちが、この極限状態に及んでその自らの選択を見失った――。
結果、個人にも集団にも依らない、どっちつかずの者たちの集まりとなっている。
烏合の衆と同じだ。
さらに、平和な世界で公平かつ公平な安寧を享受していた弊害だろう。
誰もが、戦おうとしない。
誰もが、抗おうとしない。
この社会の誰もがこの理不尽を認めずに、ただただ嘆いているだけだった。
「――!」
そんなだから、この
僅かにデクスドルゴラモンを思わせる頭部、爪や肩などが宙に浮くのみのそのバケモノは命を喰らっていく。その命を刈り取る爪に傷をつけられた者はデジコアを残して消滅し、デジコアは引力に引かれるようにしてデクスモンに吸い込まれていく。
その度、その姿は徐々に大きくなっていき、一度に刈り取る命はさらに増える。
「――!」
この未来世界にいたデジモンたちが逃げ場を求めて逃げ惑う。だが、必死に逃げ惑う彼らは嘲笑われるかのように、死に追いつかれた者からその命を刈り取られるのだ。
「――!」
デジモンたちが消え、建物は崩れ、後には際限なく肥大していくデクスモンしか残らない。
時間が経てば経つほど、その腕が届く範囲が増える。破滅の手が届く範囲が増えていく。それが救いの手だったのならば、どれだけ良かったことか。
命が失われて、築き上げられた街が失われて、そしてそれに終わりは見えない。まさに絶望するに相応しい、世界の終わりのような光景だった。
そんな命が消え、ビルが消え、街が崩壊していく光景の中で、
「コータ! 早くするのじゃ!」
「わかってるよ!」
コータとボコモンたちは死に追いつかれないように必死に逃げていた。
未だドルゴラモンが健在だったのならば、あるいはどうにか出来たのかもしれない。だが、現実にはドルゴラモンは敗北し、紆余曲折の奇跡の末にドルモンにまで退化してしまっている。
いや、生きているだけで良いと喜ぶべきなのだろうが、この状況だとそれも素直に喜べない。必死が喜びを打ち消してしまう。
「ぬぐぐ……!」
「コータッ、どうしたのじゃ! さっきよりも遅くなっとるぞ!」
「ぐががあああああ!」
というか、今のドルモンは生きているだけで絶賛気絶中なので、コータが背負っている。何というか、重い。走り難い。
だから、この状況にあって物凄い足でまといというか、邪魔な荷物であった。
もちろん、コータにはドルモンを置いていくつもりは全くないのだが。しかし、重いものは重いし、逃げにくいことは逃げにくいのだ。
「うっ、腕が来とるぞ! 走れぇ!」
「お前はいいよなぁ!」つい、コータは言ってしまった。
まぁ、コータがそう言うのも無理はない。
なにせ、今のボコモンは彼らの中で一番楽をしているのだから。
「わしだって十分キツいんじゃぞ」
「どこがっ!」思わず、コータはツッコミを入れた。何度目かの危機ということもあってか、彼もだいぶ余裕がある。いや、状況的な余裕は全くないのだが。
「どこがって、……こやつ慣れてないからか、全然走れんのじゃい。せっかくわしが
「……」
コータは哀れみを込めて、ボコモンの下を見た。
ボコモンの下にいるのは、そう――トコモンである。
トコモンのその触覚を手綱のように握り締めたボコモンは、まるで馬にでも乗るように小さな背中に跨っている。
見た目には、それこそ小さな子を虐めているようにしか見えない。だが、この極限状況で逃げるという選択肢しかない
「ハイヤーっ、ハイヤーっじゃ!」
「アウア、アウアアウ!」
そのうろ覚えの掛け声か、あるいは馬扱いされていることか、トコモンの機嫌は下降の一途を辿っていた。というか、後でボコモンを殺しそうな雰囲気さえある。
だがしかし、生死がかかっているため、文句しか言えない。振り落とそうにも、頭の触覚が手綱のようにしっかりと握られているため、振り落とせない。
だからこそ、仕方なくトコモンは頑張って走る。
これは、それほどの光景だった。
「っく、割とキツ……」
そうやってコータは余所に気を回して少しは気を紛らわせられたが、それでも身体から聴こえてくる体力の悲鳴はうるさく耳に届いていた。
普段の彼ならばもう少し速い速度で走っても、もうちょっとは保つだろう。だが、ドルモンという荷物を背負いながらでは、体力の減りも早い。
「コータぁ! しっかりせんか! お前さんが死んだら背負ってるやつも一緒に死ぬぞ! お前さんの生きる意志はその程度のものなんかぁ!」
「ぐぐ、わかってるよ!」
ボコモンの叱責も飛ぶ中、必死にコータは脚を動かす。
ゆっくりとだが、しかし、確かに景色が流れていく。
一瞬だけ、コータは周囲の景色が歪んで見えた。いや、景色が揺れた。
違う。ついに、
「のわっ」
限界が来たのだ。
足を縺れさせてしまい、コータは盛大に転ける。ほんの少しの衝撃が彼を襲う。普段ならば即座に立ち上がれるほどのこの状況でも、今の彼では難しい。何とか即座に立ち上がっても、一度止まってしまった身体は上手く動かなかった。
ドルモンを何とか背負い直し、再び足を動かす。
だが、
「……っく!」
周囲の景色は、まるで動かない。亀の歩みのようにしか、動いていかない。
「コータ!」
今までにないほど焦った、ボコモンの声がコータの耳に届いた。
それと同時に、彼は悪寒を感じる。
後ろを振り向くまでもない。そこに、ある。あの死をもたらす爪が。
「っ!」
だけど、コータは足を動かす。
その相棒を背負う手を離さず、無駄な足掻きをする。その手を離せば、あるいは別の結果があるかもしれないのに。
「まだ……」
コータは足を動かす。
もはや体力も底をつき、火事場の馬鹿力などの介入する余地もなく、その行為は無意味であることは明白なのに。
「まだ――!」
コータは足を動かし続ける。
希望は儚い。諦めなければ奇跡が起こると、そんなはずはない。世界は、現実は、そんな甘いものではない。それを知っているはずなのに、彼は諦めない。
「……」
生きていたいから諦めない? 実に愚かしいことだ。目の前に死があって、事を諦めなければならない段階にあって、諦めなければどうなるというのか。死ぬだけだ。
奇跡は起きないし、
「……」
死は訪れる。
「……」
何もかもが無意味であるし、
「……」
無駄に終わる。
「アウ」
それでもいつだって、その
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その時、コータは光を見た。
「“グランドクロス”!」
十個の超高熱球が十字を作り、自分の背後へと高速で飛来したのだ。
爆風と光が世界に走り、コータは吹き飛ばされる。何が起こっているのか理解することもできず、彼は地面に叩きつけられた。
「ぐへっ」
それでも、痛み、疲れた身体を押して周りを観察すれば――
「さて」
――そこには、光が降臨していた。
そこにいたのは光、否、天使だった。十二枚の羽根を持つ、金髪の少年だ。
「君は――」
唐突な登場に唖然とするしかないコータの前で、その天使は名乗る。
「……僕はルーチェモン。ま、君たちには楽しませてもらった借りもあるし、特別に助けてあげるよ。ルーチェモン様と呼んでくれて構わないよ」
「ルーチェ、モン?」
「それとも何かな? アウアウ言わなきゃいけないかい? 君たちは阿呆だけど、そんな虫ケラみたいな脳みそしか持ってないのかな?」
そう言ったルーチェモンはどこかで見たような、その容姿に似合わない嘲笑を浮かべた。
その意味を、コータは余さず理解する。
「お――」コータが口を開いた、その瞬間のことだった。
「さすがにこれくらいじゃどうにもならないか」
ルーチェモンの表情が苦渋に満ちたものになる。彼は遠くより迫り来るあの爪を見た。
「忌々しい。世界を滅ぼす? それは僕の役目なのに」
再度、ルーチェモンは超高熱球を作り出し、放つ。
「“グランドクロス”!」
並みの究極体の必殺技を軽く凌ぐ威力のそれも、しかし、デクスモンには通じない。今度は先ほどのようにはいかないとばかりに、爪が十個の超高熱球をまとめて切り裂いた。
「ほんっとうに忌々しいな……!」
軽く苛立った様子で、ルーチェモンは霧散していく自分の技を見る。
だが、彼はやるべきことを思い出したのだろう。すぐさまコータたちを抱き抱えると、飛んだ。
「……ま、あの女の思い通りになるのは癪だけど」
「おい、トコモン!?」
「ルーチェモン様と呼べ」
言いながら、ルーチェモンは空間に
そして、何処か遠くに繋がっているのだろうそこに、彼はコータたちを投げ入れた。
「この先にすべてを知る者がいる。ま、彼に殺されなければだけど……君たちは知るべきだ。あらゆる何故の原因を。そして、君自身の存在を。そうしなければ、答えには辿り着けない」
「トッ――」
「時間稼ぎはしてやる。この僕に時間稼ぎをさせるなんて、全部済んだら殺してやるからな」
穴が閉じていく。コータの視界からルーチェモンの姿が消えていく。
最後に彼が聞いた声は、
「ああ、あの女には気をつけるんだね。あのババアは手足をもがれたくせに頭だけ使って状況を整える性悪女だからね」
軽蔑の感情を隠そうともしない、心のこもった声だった。
********
D.C.2018 地球――日本・東京――
世界でも有数の大都会、人々が忙しなく行き交うその都市の片隅、
「っく、会議まで時間が……!」
カフェの席を陣取って仕事をする茶髪の青年がいた。
パソコンを使って必死に資料作成している彼は、それはもう忙しそうだった。
「こういう時アイツが羨ましいなぁ!」
何度目になるかもわからないブラックコーヒーを胃に流し込んだ彼は、脳裏に外国に居る銀髪の友人を思い浮かべる。
起業して大成功した“らしい”友人は一流企業の社長となっている“らしく”、自分のように下っ端業務などしてないのだろう、と彼は内心で涙を流す。
ちなみに、曖昧な表現なのは彼自身よく知らないためだ。まぁ、それでも嘘をつくような友人ではないので、ほとんど真実なのだろうと彼は確信していた。
「って、そんなこと考えてる場合じゃない! あと一時間で資料を……メール……?」
そんな彼の下に、一通のメールが来る。
「まっ、まさか会議の時間が早まったとかっ?」
まぁ、差出人不明という時点でそんな訳はないのだが。
怪しいメールではあるが、ウィルスなどはないようで、青年は恐る恐るメールを開く。
「っ」
瞬間、彼が絶えず持ち歩いている“手のひらサイズのカードのような小型機械”が熱を持った。
その意味を、彼はすぐさま理解した。
「っ、ああもう! クビにならないといいなぁ!」
メールを見る。文字化けしていて読めたものではないが、何故か彼はそれが読めた。
――黒の到達者のパートナーよ。今再び、助力を願いたい。この世界の為に、未来の為に、命の為に。
「呼ばれてる、んだよな。アイツは……無理かな?」
このことを唯一話せるあの銀髪の友人に、行方不明になるが心配しないでくれという旨のメールを送った。
そして、彼は確かめるようにその小型機械をギュッと握り締めた。壊れるくらい、ギュッと。
――「感謝する。人間の子よ」
パソコンの画面から風が吹いた。
風と共に声が聞こえた。
聞き覚えのない声だ。それでも、青年はその声に返す。
「もう子供って歳じゃないよ。でも」
あの時から十五年は経っている。いろいろあった。あの頃の自分と今の自分は違う。しかし、それでも呼ばれたというその意味を彼はわかっている。
「子供だろうと大人だろうとオレはオレ。もう一度、アイツと共に生きられるのなら――!」
彼は笑う。
不安はある。だが、それ以上に友達に会えることが楽しみだから。
「行こう!」
だから、彼は笑って向かうのだ。
自分の世界とは全く違う、命の危険さえある世界へ。
そうして、風に連れられて一人の青年がこの地球上から消えた。
というわけで、人によってはふざけんなって怒鳴りたくなるような最後で第三章完結。
いや、一応弁明させていただきますと、伏線は貼ってました。
ゼヴォの彼には似合わない表情だったり、嘲笑だったり、性格だったり――と。
これは初期から決まっていたことで、ハカメモの進化ルートを見ていて思いつきました。実はトコモンは○○だった! という案は。
え? そちらではない?
う、はい。そっちもちゃんと伏線は貼ってありました。わかりにくかったのならば申し訳ありません。
一番わかりやすい伏線を言いますと、タグですかね。オリ主タグ。
あと、これはクロニクルの二次創作なのに、クロニクルにあって然るべきものが登場していなかったという点ですかね。
ここら辺がわかりやすい伏線だったと思います。
……はい、わかりにくいですね。申し訳ございません。
何はともあれ、次回から最終章につながる第四章“NEWデジタルワールドの死”が始まります。
感想、評価、批評批判アドバイスなどは随時お待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします。
それでは、次章もよろしければよろしくお願いします!