【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第四章:NEWデジタルワールドの死
第四十二話~終末の時~


D.C.2018 NEWデジタルワールド?

 

 不意に、コータは気づいた。

 

「……――!」

 

 自分が何者かに声をかけられていることに。

 そこで初めて、彼は自分が目を閉じていることに気がついた。気絶していたのか、はたまた眠っていたのか、それくらいしか起き上がりのぼんやりとした頭では思いつかない。

 とりあえず危機的状況ではないらしい、とそこで彼はゆったりと目を覚まそうとした。

 目を覚まそうとして、

 

「……――」

 

 彼は感じた。

 自分は誰かに揺すられている、と。

 よほど自分を起こそうとしているらしい、とコータは目を開く。

 開こうとして、

 

「……――」

 

 彼は腹部に鈍い衝撃を感じた。

 誰かに腹を殴られている。いつだったかこんなことがあったな、と腹立たしさを覚えながら、彼は意識を覚醒させた。

 腹に感じる痛みを無視して、目を開ける。

 

「またか」

 

 彼の目の前は、目を開けたというのに真っ暗だった。

 頭が万力で締められたかのようにギリギリと痛い。身体が金縛りにあったかのように重い。

 そこまで認識して、彼はやっと気づいた。

 

「ふっ」

 

 笑いが堪えられない。

 いつかと同じようなこの状況に笑えてしまったのだ。

 だから、いつかと同じように彼は全身全霊で――。

 

「おらぁっ」

 

 ――目の前をぶん殴った。

 

「ぐへらっ」

 

 鈍い声が彼の耳に届く。

 彼の視界が開ける。頭にあった痛みが引く。身体に乗っていた重さがなくなる。

 自由になった身体を彼は享受した。まぁ、見える光景は夜と見間違うほどに暗いのだが。

 

「おはよう」コータは目の前の馬鹿(ドルモン)に言う。

「……痛い」

 

 ドルモンは相変わらず痛みを堪えるように蹲っていた。

 

「お前、起き抜けに何してんだよ」

「うるせー、だって起きなかったんだから仕方ないだろー」

 

 そう言って軽く牙を剥くドルモンの姿に、コータは笑いを隠せなかった。

 もちろん、可笑しいから笑えるのではない。悲しいから笑えるのではない。

 彼は嬉しいから笑えたのだ。もう二度と会えることもないはずだったのにまた会えたことが、目の前にドルモンが生きていると実感できることが、嬉しくて仕方なかったのだ。

 

「無駄に怖がらせやがって!」笑い過ぎて涙さえ出てきた。コータはぐしゃぐしゃにドルモンを撫で回す。いっそ痛いくらいに、その身体を触りまくる。

「ぬわぁっ、痛い痛い!」

「うるせぇっ、オレの方が痛いわ!」

 

 そう言って笑うコータが落ち着いたのは、この数分後のことだった。

 

 ********

 

 コータが落ち着き、改めて状況を確認することになる。

 

「お前、どのくらい覚えてるんだ?」

 

 コータのその問に、ドルモンは首を傾げて腕を組んだ。そして、探るようにゆっくりと口を開く。

 

「えっと、……それが……うーん……確か……」

 

 だが、記憶が混乱しているのか、それとも忘れてしまっているのか、口からは具体的な言葉は出てこない。

 そんな頭の中を必死に掘り進んでいるようなドルモンを前に焦れったく思ったのか、コータも手伝う。

 

「あの偉大なる皇帝と戦ったことは?」

「覚えてる」

「じゃあ、その時、お前は?」

「ドルガモンになった」

 

 旧世界で、あの偉大なる皇帝(インペリアルドラモンPM)と戦ったことは覚えているらしい。確信を持ってドルモンは頷いた。

 

「オメガモンAlter-Sを倒したことは?」

「覚えてる。その時にドルグレモンになったよね。瞬殺されたけど」

 

 現在世界で、ウォーグレイモンたちと共闘してオメガモンAlter-Sを倒したことも覚えているらしい。同じく確信を持ってドルモンは頷いた。

 

「赤の到達者と戦ったことは?」

「覚えてる」

「……メイクーモンのことは?」

「それも、覚えてる。究極体に進化できたけど、その後はずっと後味が悪かったよね」

 

 過去世界での出来事、到達者やメイクーモン、タクティモンにあのトゥエニストとのことも覚えているらしい。思い出して顔を歪めているドルモンの姿からも、それは伺えた。

 

「じゃあ、スクルドターミナルでのことは?」

 

 いよいよ本題だ。

 

「スクルドターミナルにいたことは覚えてる。でも――」

 

 そこまでしか覚えていない、と。

 深く聞けば、ドルモンはローヤルベースに突入した辺りまでしか覚えておらず、そこから先は朧げながらにしか事態を覚えていないらしい。

 何かと戦った、くらいしか言葉が出てこないようだった。

 

「どうなったんだ?」

 

 ドルモンは何があったか、聞いた。

 アグモンたちという例外はあるけれど、基本的にデジモンは退化することはない。なのに、ドルモンはドルゴラモンから退化している。

 それだけでも何かあったことだけは明白。

 ドルモンはその何かは決して良いことではなかったと理解していたが、聞かずにはいられなかった。

 

「そうだな。えっと――」

 

 そして、コータは話し出す。

 ローヤルベースでタイガーヴェスパモンを倒したこと、あの悪魔が現れたこと、悪魔との戦闘でドルモンが死んだこと、死のバケモノが生まれてしまったこと、そしてトコモン(ルーチェモン)が逃がしてくれたこと。

 その一切を話した。

 

「俺が死んだ……」

 

 その中でも、やはりドルモンは自分が負けた――自分が死んだということにショックを受けたらしい。その恐怖を想像しているのか、彼は身体を震わせた。

 

「あの悪魔が企んでいたことがなかったら、俺はそのまま……ってことだよね」

「ドルモン――」

「複雑だなぁ」

 

 生き返ることができて、死んだままでなくて良かったという気持ちもある。

 負けたことや相手の思うツボになってしまったことが悔しいという気持ちもある。

 それらが複雑に湧き上がっては、ドルモンを震わせるのだ。

 

「コータ」

「ん?」

「もう二度と負け(死な)ないよ」

「当たり前だろ」

 

 何もできなかったコータも、為すすべなかったドルモンも、心の中は同じだった。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド――スクルドターミナル――

 

 コータたちが目を覚ました頃のことだ。

 彼らがいなくなった後も、未来世界では未だ何も解決してはいなかった。

 

「――!」

 

 デクスモンが爪を振るう。爪が振るわれる度に、多くの命が失われる。世界が崩れていく。

 そんな中で、閃光が走った。ルーチェモンの攻撃だ。

 

「――!」

 

 一瞬。

 攻撃に反応したデクスモンの爪を躱すようにして、その閃光はデクスモンに突き刺さった。だが、効いていない。

 

「これもダメ、と。小手先の技じゃ通じない。かと言って大技は打ち消される。面倒だね」

 

 既にルーチェモンは何度も攻撃をしていた。だが、未だ有効打を与えられてはいない。

 無論、デクスモンもそれは同じ。だが、デクスモンの攻撃は即死も同然の能力を備えている。

 相手の攻撃に当たってはいけないルーチェモンと、相手の攻撃が当たっても倒れないデクスモン。その両者の違いはかなり大きい。

 

「あれは僕のアレと同じ、いわゆる影法師――というわけでもないだろうけれど、それに類している。闇雲に攻撃したところで通じないか。僕を見下すほどのその図体、能力。気分が悪くなるな」

 

 もはや見上げるほどの大きさまで巨大化したデクスモンを、ルーチェモンは睨みつける。

 

「……力がいるね。理を壊すほどの力が」

 

 例えば、到達者。

 例えば、偉大なる者。

 そういった普通のデジモンとは一線を画する者たちならば、あるいはこのデクスモンを真正面から打倒できるかもしれない。

 だが、無いものねだりだ。

 ルーチェモンは普通のデジモンよりも強いが、そういった位にいる訳ではない。

 

「本当、僕を下す能力を持つ者がいるってだけで苛立つのに」

「――!」

「おっと危ない」

 

 振るわれた爪を、ルーチェモンは躱す。

 躱された爪はその先で何体か逃げ惑っていたデジモンたちを殺したようだったが、ルーチェモンは気にせずにデクスモンを伺っていた。

 

「幸い、あれは到達者でも偉大なる者でもない、法則(プログラム)の類。であれば、攻略法はある。見つける必要があるな。全くこの僕がそんな狡いことをしなければならないなんて。そういうのは三下の役目だろうに」

 

 ルーチェモンは頭上から迫る爪を飛んで躱した。そのまま飛行して、回避に専念し出した。

 一方で攻撃されなくなったことで攻撃しやすくなったのだろう。デクスモンの爪撃が激しさを増す。

 激しくなる中、それをものともせずルーチェモンは素早く回避していく。上下左右縦横無尽に飛び回り、華麗に躱す。

 だが、

 

「あっ、僕の羽が……!」

 

 荒い回避を続けているからだろうか。何度となく羽が舞い散った。

 その度にルーチェモンは顔を歪ませる。

 

「……!」

 

 しかし、相手の力がわかっているからこそ、ルーチェモンは怒り狂って攻撃することはない。これがどこぞの有象無象であったのなら、彼は一秒と立たずにその相手を塵に変えてしまうのだが。

 だが、やはり怒りによって行動が単純となってしまったのだろうか。

 右から来た爪を避けるべく急降下したルーチェモンのその先に――

 

「――!」

 

 ――もう片方の爪が迫る。

 躱すには、遅過ぎる。

 

「っくぅ!」

 

 こんなところでこんなやつにやられることを、ルーチェモンは自分のプライドが許さなかった。

 だから、彼は無理矢理に動く。彼はそのまま地面に激突することで、爪を躱した。

 

「っ。こういうのは僕のキャラじゃないんだけどな。あいつらの醜さが伝染ったか……!」

 

 怒りを滲ませながら、息絶え絶えに立ち上がる。

 今の回避は、どんな形であれ助かれば良いという優雅さの欠片もないものだった。言うなれば、彼が嫌うみっともない躱し方だ。

 ストレスが限界に近づいていた。

 

「我慢も限界だね」

 

 というか、限界だった。

 正直なところ、ルーチェモンは気がついていた。デクスモンの攻略法――デクスモンの在り方、あるいはその法則とでも言うべきものに。

 ただ、それがあんまりにもあんまりなものだったから、いずれのことも考えて別の方法を探していたのだ。それをやれば、下手をすれば自分がデクスモンの立場にすげ替えってしまうが故に。

 

「この僕がここまで我慢してやったんだ。あいつら後で絶対に殺してやる――!」

 

 デクスモンの攻略法は実に単純なものだ。

 生物の存在する(生きる)ために他者を犠牲にする(喰らう)在り方の具現、それがデクスモンだ。だからこそ、デクスモンは存在する限りデジモン()を喰らい続ける。他の命がある限り、デクスモンは存在し活動を続ける。

 だが、しかし、それは逆に言えば。

 

「まだしぶとく生き残ってる連中もあれを倒すための贄となれるんだ。他の世界の平和の礎となれるんだから光栄だろう?」

 

 他者がいなければ生命は生きられないという生命の当たり前を、デクスモンもそのまま受け継いでいることになる。

 つまり、喰らうべき命がなければデクスモンは存在できない。

 そこから導き出されるデクスモンの攻略法、それは――

 

「さぁ、覚悟してもらうよ」

 

 ――その世界に生きるすべての命を滅ぼすことだ。

 だからこそ、世界に終末が訪れる。

 黙示の竜が顕現する。

 




というわけで第四章が始まりました。
今章ではコータたち側とNEWデジタルワールド側が同時進行で進んでいきます。

それでは、第四章もよろしければよろしくお願いします。
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