【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第四十四話~現在位置~

D.C.2018 NEWデジタルワールド?

 

 さて、とりあえず進むことにしたコータたちだが――

 

「どうすりゃいいんだよ」

「どうすればいいんだろうねぇ」

 

 ――早くも詰まっていた。

 まぁ、自分の周囲しか見渡せないような暗闇の世界の中にいるのだから、当然である。方向を示すものは何もなく、目立つ目印もない。目印も何もない場所では、真っ直ぐに進んでいくことさえ至難の業だ。

 だから、人間の世界では毎年のように山で遭難者が出るのである。まぁ、山の場合はまだいい。星の動きや太陽の動きでまだ方向だけは分かるのだから。

 だが、この暗闇の世界ではそれもない。

 どうやって進めば進んでいけるのかさえもわからない場所な上、そもそも目的地すらはっきりとしていない。まさに八方塞がりである。

 というか、このままではこの場所を攻略することができなくて人生に詰みそうなほどだ。

 

「とりあえず進んでみる?」

「そうだな」

 

 ドルモンの提案に頷き、コータは歩き出す。

 だが、

 

「なぁ」

 

 だが、

 

「うん」

 

 だが、

 

「進めてるか?」

「わかんない」

 

 だが、どれだけ歩いても景色が変わらないから、進めているという感覚が無い。

 そうして、

 

「どうすりゃいいんだよ」

「どうすればいいんだろうねぇ」

 

 とここに戻るわけである。

 そんなことが先ほどから十回ほど続いていた。いい加減、何とかしたいとは切に願う彼らだが、未だ有効な案を思いつかないのが現状だった。

 

「こういう時こそものしりブックの出番だろうが……!」

 

 仲間が持つチート本の存在を思い出して、コータは頭を抱えて震える。実際、それを持つボコモンはここにはいなかった。

 おそらく、未だ未来世界にいるのだろう。デクスモンの脅威がある場所に。

 まぁ、ボコモンを始めとした友人たちはそんな危険地帯にいるわけだが、彼らは何だかんだと要領よく生き残っているため、あまり心配はしていない。

 というか、彼らが死ぬところなどコータには想像できなかった。

 

「そういえば、こういう時こそのボコモンだよね。いつもくっついて来てたくせに、どうしてこういう時だけいないのかなぁ」ドルモンはだらんと尻尾を垂れ下げながら言った。

「ものしりブックさえあればな。まぁ、一度も見せてくれないわけだけど。あれ、本当に便利だよな。オレも欲しいわ」

「俺だって欲しいよ」

 

 まぁ、あったところでこの暗闇の中では読めるかどうかすら怪しいのだが。

 

「仕方ない、進むか」

「うん」

 

 コータの鶴の一声で、また歩き出す。

 まぁ、数分も歩かないうちに、

 

「どうすりゃいいんだよ」

「どうすればいいんだろうねぇ」

 

 そこに戻るのだが。

 彼らが先に進むのは未だ先の話になりそうだった。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド

 

 一方その頃のことだ。

 ルーチェモン:サタンモードの“消滅の光”によって、未来世界スクルドターミナルは滅びた。

 何もかもがなくなった。街にいた数々のデジモンたちも、栄華を誇るほどに発展した都市も、それらの基盤となる大地や空も、何もかもが消滅してなくなった。

 文字通り、未来世界は滅びたのである。

 

「はっはっはっ。どんなものだ! 何がデクスだ! 何が死だ! 所詮はこの僕に勝てるものはいないんだよ!」

 

 世界の狭間、僅かに過去世界と現在世界が点として見えるその場所で――ルーチェモン:サタンモードは高笑う。

 

「気分がいい! かつてあの女が手を焼いたアレをこの僕があっさりと倒してしまった! これはもう僕がその座を簒奪するべきでは? この混沌に乗じて僕が漁夫の利を得る――……あぁ、甘美な誘惑だね」

 

 まだ生きている未来世界を滅ぼしておいてこれだけご機嫌になれるのだから、さすがは魔神と言うべきか。

 だが、しかし、そんな彼の機嫌はすぐに急降下する。

 なぜならば――

 

「――!」

 

 ――そこに未だ活動状態のデクスモンがいたからだ。

 

「……忌々しい。なるほどね。さすがにそう上手くはいかないと。さすがは偉大なる者、対策もバッチリということか」

 

 ここにはいない者を思い浮かべて、ルーチェモン:サタンモードは苦虫を噛み潰したような声を上げる。

 だが、そんな彼の様子を気にした風もなく、またそんな生物らしさもなく、デクスモンは目の前にいるルーチェモン:サタンモードに襲いかかった。

 

「――!」

「いい加減、消えろよ!」

 

 襲いかかってくるデクスモンを前に、ルーチェモン:サタンモードも応戦する。

 ルーチェモン:サタンモードが吐き出した炎をその身に受けながらも、その身が傷つくことも厭わずに迫るデクスモン。

 

「――!」

「……!」

 

 竜と死が取っ組み合う。浄化の炎に包まれながらも、それさえも決定打にならなずに炎の中で両者は取っ組み合う。

 

「こいつ、まだ出力が上がって?」

 

 だが、ルーチェモン:サタンモードには一つ不利な点がある。

 同じ世界を滅ぼす力を持った同士でも、

 

「違う、これはあれの力が後押しを――っく!」

 

 この戦いは一対一ではない。

 デクスモンに負けてもらっては、消えてもらっては困ると力を貸すものがいたのだ。

 その何者かがいるから、未来世界滅亡の際に活動を停止するはずのデクスモンは未だ活動を続けている。

 その何者かがいるから、死の化身は黙示録の竜さえ容易く殺せる。

 

「――!」

 

 デクスモンの爪が、ついに竜を切り裂く。

 

「っく、外装を剥がされた? だが、まだ!」

 

 とはいえ、ルーチェモン:サタンモードはまだ負けてはいない。

 ルーチェモン:サタンモード――黙示録の竜。竜とは力の現れ。多くの者たちが抱く強大な力としてのイメージを、ルーチェモン自身が選び、具現化したもの。だからこそ、この竜の部分は外装であり、影に過ぎない。

 その本体は、竜が抱く暗黒球体ゲヘナの中にある。

 地獄そのものであるからこそ、地獄の責め苦にも劣るあらゆる攻撃が効かないと、あらゆる攻撃を防ぐ球体。それは盾ではなく、本体を守る要塞だ。

 いくら影が削られようと、所詮は影。本体――蛹のような姿のルーチェモン:ラルバが無事ならば、いくらでもやり直しが効く。

 

「――!」

 

 だが、そんなことはデクスモン、ひいてはその後ろにいる何者かも知っていたのだろう。

 デクスモンの口に緑色の閃光が光る。

 それは、デクスモンの性質――あらゆる生命を探知し、殺し、その核を奪い、得た核を内部で分解し、二度と再構築できないようにする、その性質を集中させたもの。

 デジモンの必殺技と同じ、できることを最大でやること。皮肉なことだった。デジモンですらないものが、デジモンと同じことをするのだから。

 

「――!」

 

 放たれた緑の閃光。

 槍の如く真っ直ぐに突き進み、極光の如き美しさを誇るそれは、しかし、ただの死の光で。

 

「っく、あぁ、認めよう。憎たらしいほどに美しい光だ」

 

 だが、しかし、それ故にとても美しい。

 ルーチェモン:ラルバはその美しさを特等席で見ていた。見ていることしかできなかった。攻撃を担う竜の外装は剥がされ、修復中なのだから。

 そして、暗黒球体ゲヘナに閃光が突き刺さる。あらゆる攻撃を防ぐ要塞とあらゆるものを殺す光がぶつかり合う。

 それは矛盾の再現だった。しかし、時間の問題であることもルーチェモン:ラルバは感じ取っていた。

 

「――!」

「けど、死の美しさに心打たれるのと死を受け入れるのはまた別の話だ!」

 

 いよいよ本格的に馬鹿共の顔が思い浮かんで、ルーチェモン:ラルバは足掻く。その無様さに自己嫌悪で死にそうになりながらも、暗黒球体ゲヘナを()()させる。

 爆風によってルーチェモン:ラルバは吹っ飛んでいったのだった。

 

「――!」

 

 一方で、目の前の障害を排除したデクスモンは命からがら逃げ出したルーチェモンを追うように、あるいは他の命を目指してか、移動を開始する。命を刈るために移動する。

 次に降り立つのは――。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド?

 

 再びコータたち。

 

「……」

「……」

 

 もはや無言だった。

 別に無言になるほど疲れてなどいない。が、何も変わらぬ中を歩き続けていれば誰だってこうなるだろう。あまりの変化の乏しさに心が何も感じなくなって、言葉さえ出なくなるのである。

 

「……」

「……」

 

 というか、太陽や星という天に動くものがないから、方向どころか正確な時間さえわからない。

 どれだけの間ずっとこうして暗闇の中を歩いているのか、もはやコータたちにはわからない。

 

「……」

「……」

 

 だからこそ、

 

「……」

「……」

 

 ()()()()()()()()()()()()

 コータとドルモンは僅かに頷き合う。

 傍から見ていたのなら、歩いていることによる頭の揺れと勘違いしてもおかしくないほどの、僅かな動き。だが、彼らは互いにそこに込められた意図を読み取った。

 そして、

 

「“メタルキャノン”!」

 

 振り向きざまにドルモンが放つのは、鉄球。もはや懐かしさを感じるほどに弱々しい小さな鉄球、それがまっすぐに突き進んで暗闇の中に消えていく。

 

「んぎゃ!」

 

 声が聞こえた。苦しそうな声だ。

 この様子だと、上手いこと当たったらしい。コータたちは頷いて、方向がずれていかないように慎重に歩いていく。

 幸い、真っ直ぐに歩けたらしい。それはすぐに見つかった。

 

「っぐぅうううう!」

 

 上手いこと鉄球がクリーンヒットしたのだろう。

 地面に落ちて目を回しているコウモリ(ピコデビモン)がそこにはいた。

 第一住人発見だ。

 

「捕まえろ!」

「あいあいさー!」

 

 捕獲。

 少し手荒だったかもしれないが、まぁ、そこは気にしないことにした。

 ずっと自分たちを付け回し、時には不気味に笑い――とこのピコデビモンがよからぬことを企んでいただろうことはコータたちも何となく察していた。

 勘違いだったら謝ろう、と万が一を考えてコータたちはピコデビモンが起きるのを待つ。

 

「う、うーん」

 

 少ししてピコデビモンは目を覚ました。

 

「あれ、オイラは……」

 

 現状を確認する。

 ドルモンにがっちりと羽を掴まれ、哀れにも捕獲されている自分の現状を。

 

「うっ、うぇえええええええ!?」

「よぉ」

「やぁ」

 

 やべーやべーとでも言いたげな内心の焦りを隠そうともせず、ピコデビモンはだらだらと汗を流していた。

 何か良くないことを企んでいたことを確信しつつ、コータはピコデビモンを問い質す。

 

「いろいろと聞きたいことあるけどさ」

「なっ、何も言うことはないゾ!」

「なんでオレたちの後をつけてた?」

「言うもんか!」

 

 強情である。

 思わず、ドルモンは羽を握る力が強くなった。いや、わざとではないが。

 

「いたたたたたたたたた!」

「ドルモン、お前……そんな拷問みたいな」

「わざとじゃないよ!?」

 

 わざとやったのではないのにそんな引かれては嫌だ、とドルモンは焦って弁明する。

 まぁ、焦ったからかまた力んでしまって、

 

「いたたたたたたたたた! 言う! 言う!」

 

 ピコデビモンはさらに痛い思いをするのだが。

 何にせよ、結果オーライである。

 

「いってぇ……別にオイラは、このダークエリアに変な奴がいたから――」

「ちょっと待て」

「……?」

「ダークエリアって言ったか?」

「そうだゾ」

「ここが? ダークエリア?」

「だからそう言ってるんだゾ」

 

 ダークエリア。それは、()()()()デジタルワールドの廃棄場。

 数々の廃棄データ――さまざまな理由で存在できなくなった、あるいは残しておく価値はないと、未来に行けなかった過去の情報が記録される場所。

 また、多くの悪魔や堕天使系デジモンなど、正常なデジタルワールドから追い出された者たちの流刑地でもある。

 転じて、ダークエリアはデジタルワールドのあの世とさえ言われ、つまりはNEWデジタルワールドの外側の異世界の一つ。

 まさかの場所に、コータたちは驚愕を隠せない。

 

「えぇええええええ!」

「ダークエリアぁああああ!」

「耳がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そして、絶叫が辺りに響いたのだった。

 

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