【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第四十五話~ダークエリアの事情~

D.C.2018 ダークエリア

 

 ダークエリアなどという、ほとんどの者が伝聞でしか聞いたことのない世界に来てしまった。そのことにコータたちは驚きは隠せなかった。

 一通り騒いで、コータたちがようやく落ち着いた――

 

「きゅう……」

 

 ――頃には、ずっと耳元で騒がれていたピコデビモンは瀕死だった。

 

「おーい、起きろー?」

 

 ゆさゆさと振って、ドルモンはピコデビモンを叩き起こす。

 その何が何でもな行動にコータは少し引いた。

 まぁ、そんなドルモンの行動の甲斐もあって、割とすぐにピコデビモンは起きるのだが。

 

「んあぁ……やっぱり外の連中は碌でもないんだゾ」

「まぁまぁ。仲良くし、なくてもいいけどいろいろと教えて欲しいだよ。オレたちとしては」

 

 コータがそう言って笑えば、それが悪魔の笑みに思えたらしい。

 ピコデビモンは震え上がって観念して、「何でも話すんだゾ」と言った。その様子は、大口を開けたドラゴンの前に放り出された生贄の娘の如く、といった感じだ。

 

「ここがダークエリアなのはわかった。オレたちはいろいろと知りたくて、いろいろと知ってるやつを探してるんだけど」

「あやふやすぎて何とも言えないんだゾ」

「その言い方じゃダメじゃない、コータ? とにかくたくさんのことを知ってる人に会いたいんだ」

「あんまり変わってないんだゾ!」

 

 コータたちとしては説明が面倒だったから端折ったのだが、それで伝わるほどピコデビモンは理解能力に特化していない。

 しかしながら、コータたちとしても自分で何かを知ろうと思ってここに来たのではなく、ルーチェモンによっていろいろを知れとここに来させられたわけで、具体的に何を知りたいのか説明しろと言われても難しかった。

 

「あのさ、オレたちも言われて来たんだ」

 

 だから、とりあえずコータは端折った部分を改めて説明する。

 

「言われて? 誰に言われたんだゾ」

「ルーチェモンに」

「ルルルルルルル、ルーチェモン!?」

 

 その名前を聞いた途端、ピコデビモンは面白いくらいに震え出した。携帯電話のマナーモード時の着信の如く震え上がる彼は、ルーチェモンの恐ろしさを正しく知っているのだろう。

 一方で、トコモン=ルーチェモンなコータたちはその恐ろしさを正しく認識できていない部分がある。

 彼らはピコデビモンがどうしてそんなに震えているのか、よくわからなかった。

 

「だって、ルーチェモンだゾ。ルーチェモン! その名があらゆる場所に伝わる、最初の暴君! 堕天の姿は七大魔王に数えられ、最後の姿は世界を滅ぼすと伝えられる、あのルーチェモンだゾ!」

「おぉ、意外と詳しいな……」

「ダークエリアじゃ情報は必須なんだゾ!」

「それはどこでも同じだと思うけど……――」

 

 まぁ、ダークエリアには我の強い者たちが多くいる。ついでにさまざまな権力者もいる。

 それらがある種の勢力を作っていて、しかし、それらの中には国やテリトリーを持たない者もいるものだから、どこに地雷があるかわからない。少し歩けば、同じ空間にいるだけで死刑などというような理不尽に見舞われる、理不尽を見舞ってくる暴君に出くわす、それがこのダークエリアだ。

 だから、ここにいる者たちはそのほとんどが権力や実力を持つ者の動向に詳しい、と自認している。

 もちろん、どこの世界でも多かれ少なかれそういう面はあるのだが、ピコデビモンは無意識的に他世界よりもここの方がそういった面に厳しく、その面では自分たちよりも勝るものはないと考えている。まぁ、この冷徹な世界に生きる者としての一種の自慢、プライドのようなものだ。

 

「ルーチェモンと知り合いなんて、お前ら何者なんだゾ……」

 

 疲れたように呟かれた。ピコデビモンはこんな奴らに捕まってしまった自分の不運を嘆いたのだ。

 一方で、思った以上に情報を知っていそうなことに運が良いと笑い合ったコータとドルモンは、尋問を続けた。

 

「へぇ。じゃあ、ルーチェモンの言っていた“すべてを知る者”って誰かわかるか?」

「すべてを知る者ぉ? そんな抽象的過ぎてわかんないんだゾ。というよりも、魔王レベルならいろいろと知っていて当たり前なんだゾ」

「……まぁ、そりゃそうかもしれないけど」

 

 コータが困ったように頭を掻いた。見れば、ドルモンも困ったような曖昧な笑みを浮かべている。

 やはり情報が足りない。

 

「つーか、お前らどこから来たんだゾ?」

 

 そう言えば、と思い出したようにピコデビモンが聞いてきた。

 

「新世界……――NEWデジタルワールドからだけど」

「NEW、ってことはイグドラシルのデジタルワールドからか!」

 

 驚いたようにピコデビモンは声を上げる。

 そう、それが重要だった。このダークエリアは廃棄場という役割上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、ピコデビモンとしてはコータたちがどんな世界から来たのかわからないのだ。

 

「イグドラシルのデジタルワールドは確か異変があったって聞くが……?」

「あ、あぁ、Xプログラムの件だな」

「……」

 

 ピコデビモンは考え込むように黙り込んだ。

 小さなことで何か、「イグドラシルの暴挙――七大魔王の一人が知らないことを知る――とくれば――」と呟いている。

 酷く聞き取りづらくてコータたちには少ししか聞き取れなかった、が、

 

「……オイラ、その“すべてを知る者”が誰かわかったかもしんねぇ」

 

 ピコデビモンは答えを出したようだった。

 

「え、本当か!?」

「ああ。けど……――」

 

 だが、わかったにしては、歯切れが悪い。

 一体誰だというのか。少し様子のおかしいピコデビモンの姿に、コータとドルモンは訳がわからなくて顔を見合わせた。

 

「おかしいと思ってたんだゾ。“あの”ルーチェモンが寄越すなんて。でも、そう考えれば辻褄が……あぁぁぁ、厄介事なんだゾー!」

「おい?」

「大丈夫?」

 

 何だか錯乱した様子のピコデビモンは、やがて諦めたように落ち着きを取り戻した。

 そして、その者を口にする。

 

「ルーチェモンが言ったのは、たぶん、グランドラクモン様なんだゾ」

 

 グランドラクモン――それは、七大魔王でさえ手を出せない怪物。

 そして、偉大なる者の一人。偉大なる吸血鬼。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド――ベルサンディターミナル――

 

 その時、レジスタンスは緊急会議を開いていた。

 

「一体どうなっているんだ!」

 

 この緊急事態で声を荒げるのは、レジスタンスのメンバーの一人――灰色のクワガタ(オオクワモンX抗体)だ。

 

「わからない」

 

 一方で、それに対して力なく首を横に振ったのは、このレジスタンスのリーダーの一人――ウォーグレイモンX抗体である。

 

「分からないで済むわけねーだろ! スクルドが滅びたんだぞ! スクルドの次はこのベルサンディかもしれないんだぞ! 何か情報はねぇのか!」

「すまない、ないんだ。突然、スクルドは滅びた。何かがあったのはわかるけど、何があったのかはわからないんだ」

 

 オオクワモンX抗体だけじゃない。最近レジスタンスに参加してくれるようになった何匹かの通常デジモンも、元々レジスタンスにいたX抗体デジモンたちも、全員が不安そうにしていた。

 それも当然だろう。

 既に廃棄された世界である旧世界が崩壊したのとは訳が違う。絶賛稼働中の世界が滅びたのだ。誰もが何か起きていると感じ取るには十分な出来事だ。

 

「っ、だから何かしなけりゃいけないんだろうが! えぇ!? オレ様たちがテメェらに力を貸してやってる理由くらいわかってんだろうが!」

「もちろんだ」

「なら、わかんねぇとかで済ませんなよ! 何か案を出せよ!」

 

 オオクワモンX抗体は不安と焦りのあまり、滅茶苦茶なことを言っている。誰もがそれをわかっていたが、しかし、指摘しなかった。

 指摘できなかったのではない。不安と焦りに押し潰されそうになる気持ちが理解できたから、しなかったのだ。

 

「落ち着いてくれ」

 

 その時、第三者の声が響き渡った。

 魔術によって全員に聞かせるように声を響かせたその者は、最近レジスタンスに参加したデジモン。魔術師のような人形姿の成熟期デジモン――ウィザーモンだ。

 

「アグモンとガブモンからの報告を受け取った。彼らはまた情報収集に向かっているが……」

「あいつらか。信頼できる情報なのかよ!」

「今はそれしか情報がない。彼らは命懸けで情報を得て来てくれたのだ。情報の精査は我々の役目ではないのか?」

「そういうことを言ってるんじゃねぇよ!」

「では、どういうことだ?」

 

 ウィザーモンの言葉に、オオクワモンX抗体は黙り込んだ。口喧嘩で負けたことがあって、それから彼はウィザーモンを苦手としているのだ。力で劣っているくせに、それ以外で自分に勝るウィザーモンがオオクワモンX抗体は嫌いなのである。

 

「では、伝えよう。ウルドに向かっていたアグモンとガブモンだが、先日帰還したのは皆も承知していると思う。彼らは現地でスカウトした者が何者かによって攫われたと、ベルサンディに辿り着けたもののすぐにスクルドに向かったらしい」

「は? ほっとけよ」オオクワモンX抗体が茶々を入れるが、ウィザーモンは気にしない。

「スクルドに到着する直前、彼らはスクルドが滅びる瞬間を見たとのことだ」

「……!」

 

 誰もが息を呑んだ。

 今から聞く情報は重要なものであるということが、否応なしにわかった。

 

「スクルドを滅ぼしたのは、竜だそうだ。そして、それが戦っていた相手が――」

「相手が?」

「死の化身、だと彼らは言っていた。彼ら曰く、スクルドを滅ぼした竜よりも死の化身の方が危険とのことだが……」

「はぁ? 死の化身だぁ?」

 

 オオクワモンX抗体が意味がわからないとばかりに声を上げる。

 いや、オオクワモンX抗体だけではない。この場の誰もが同様の思いを抱いていた。死の化身。実に抽象的な表現だ。その前の竜という方がまだ脅威に思える。

 

「そうか、その死の化身はどうなったか聞いたか?」

 

 ウォーグレイモンX抗体が聞いた。

 ウィザーモンは首を振る。

 

「アグモンたちはそのヤバさからそこで現在世界に退避したらしい」

「っち。使えねーな」オオクワモンX抗体の再度の茶々を、もう誰もが無視していた。

「だが、世界一つ滅ぼしても両者は争っていたということだ」

「……!」

 

 誰もが震えていた。世界を滅ぼす何者かが、争っている。そして、実際に世界が一つ滅んでいる。

 死の化身とやらが万が一この世界にも来ることがあれば、それを追って竜もこの世界に来るかもしれない。世界を滅ぼすような相手と戦えるだけの戦力は、さすがにない。

 

「……ウォーグレイモン」

 

 誰かが、不安そうに呟いた。

 ウォーグレイモンX抗体は目を閉じ考えて――

 

「ウォーグレイモンはいるかい!」

 

 ――だが、考えはまとめられなかった。

 その場に来たのは、焦った様子のメタルガルルモンX抗体だ。よほど飛ばしてきたのか、息が荒くなっている。

 

「アグモンとガブモンの報告にあった、あれが!」

「っ!」

「死の化身が来た――!」

 

 死は往々にして唐突に訪れる。であれば、これも当然の話。

 やって来た死が、現在を蹂躙する。

 

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