【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第四十六話~絶望の騎士、再来~

D.C.2018 ダークエリア

 

 予想だにしていなかった大物の名前の登場に、コータたちは怯む。

 まぁ、すべてを知るなどという大層なことを言われているのだから、その時点である程度は予測できるのだが、のほほんとした阿呆のコータたちには気付けなかった。

 

「コータ、どうする?」

 

 気づけなかったから、こうして怯んでる。

 

「どうするって……――」

「だって、死にに行くようなもんでしょ。だったら、逃げるのが吉だよ」

「まぁ、確かに」

 

 そう、グランドラクモンは偉大なる者の中でも世界を害した側の存在。神と戦争をしたとか、神の兵の多くを堕天させ配下としたとか、そんな逸話が事欠かない。

 のこのこと会いに行って、知りたいことを簡単に教えてくれるような存在だとは到底思えないのである。

 これが、コータたちが以前出会った偉大なる皇帝のような世界を守護する側の存在であれば、また話は違ったのだろうが。

 

「……」

「……」

 

 さすがに死ぬ確率が高いとわかっていて、あまり気は進まない。悩む。黙って考える。

 そんな沈黙の中で、

 

「なぁ、いい加減にオイラを離してくれよ……」

 

 疲れを隠そうともしないピコデビモンの言葉だけが、暗闇に溶けて消えていったのだった。

 

 ********

 

「ま、結局行くんだけどな」

 

 数分後、かどうかはわからないが、そこそこの時間の後にコータは明るく笑って言った。

 

「行くのかよっ」この先の展開が読めたのか、ピコデビモンが悲鳴と共に叫ぶ。

 

 一方で、ドルモンは穏やかな様子でコータに尋ねた。「それでいいの?」と。

 

「ああ、いいよ。覚悟はさっき決めた」

「っていう割には長く悩んでたみたいだけど?」

「うるさい。ちょっとビビっただけだよ」

「素直でよろしい」

 

 コータとドルモンは笑い合って、そして、ニヤリと悪い顔で笑い直してピコデビモンを見る。

 ピコデビモンは内心で、悪魔に捕まってしまった……と己の軽率さを悔いることになった。

 

「で、案内して欲しいんだけど」

「嫌だゾ!」

「却下だぞ!」

 

 ドルモンがピコデビモンの真似をする。まぁ、ピコデビモンもわかっている。どうあがいても逃げられないことは。

 それでも、ピコデビモンは自殺願望はない。傍から見て自殺志願者としか思えないコータたちに付き合う気はないのだ。

 だから、

 

「どうしたって案内なんかしないし教えもしないから離して欲しいゾ!」

 

 頑なに彼は何も言わない。

 こうなると困ったのはコータたちだ。

 

「じゃあ、案内しなくてもいいから行き方だけを教えてくれよ」

「それも嫌だゾ」

「なんでだ?」

「だって、教えたのがオイラってバレたら後々困るかもしれないじゃないか!」

 

 ピコデビモンからしたら、変に教えたり案内したりして後で報復されたら堪ったものではないのだ。

 というか、グランドラクモンは偉大なる者ということを差し引いてもその種族のレベルは究極体。例え偉大なる者ではないグランドラクモンが相手でも、ピコデビモンは鼻息で殺されるほどにレベル差があるのだから、それはもう恐ろしいことなのだろう。

 とはいえ、一方でコータたちも引けない。だって、このダークエリアに来てから出会ったのはピコデビモンしかおらず、しかも、出会うまで暗闇の中をずっと彷徨っていたのだ。ピコデビモンを逃したら、それこそ最悪の場合は詰みかねない。

 

「頼む! グランドラクモンの居場所を教えてくれ!」とコータは手を合わせる。

「嫌だったら嫌だゾ!」

「頼むよー!」とドルモンは大口を開けて叫ぶ。

「だから、嫌なんだゾ!」

 

 二人の勢いに少し恐怖を感じないでもなかったが、ピコデビモンは折れなかった。

 

「……困った」

「困ったねぇ」

 

 無理矢理連れて行くという手もあるが、無理矢理連れて行ったところで、という話である。そもそもコータたちとしても好まない。

 八方塞がりだ。

 

「うーん……なぁ、本当にグランドラクモンの居場所教えてくれないか?」

 

 ダメ元で、コータは聞く。

 

――「隠しているわけでもありませんし、教えてくださって構いませんよ」

 

 だが、どこからともなく聞こえてきた声はピコデビモンの声ではなくて。

 

「っ」

「コータ!」

 

 ドルモンはすぐさまピコデビモンを手放し、コータを守るように立つ。

 辺りを見渡す。だが、暗闇ということもあって見えない。

 

――「そう警戒しなくても、私はそこにはおりませんよ」

 

 一体どう言うことなのか。一体誰の声なのか。

 コータとドルモンは警戒しつつも声を聞いていた。

 一方で、心当たりがあるのだろう、ピコデビモンは死が間近にあるかのように恐怖に震えていた。

 

――「ピコデビモン」

「はっ!」

――「ちょうどいいですね。そちらの方々は私の客人です。案内していただけますか?」

「つっ、謹んでお受けいたします……!」

――「では、お願いします。ドルモンと、コータ……でしたね」

「……!」

――「待っています。貴方方の言う、すべてを知る者として」

 

 声が消えた。

 コータとドルモンは何故か安堵を覚えながらも、ピコデビモンを見る。彼は間違って死刑を言い渡されてしまった無実の人間のような、「なんで、こんな……――」と絶望の顔をしていた。

 

「今の声、は、まさかグランドラクモンか?」

「たぶん」

 

 証拠はなかったが、二人は確信していた。

 声がなくなった瞬間の謎の安堵。それは裏を返せば、声がしている間は絶えず何かを感じていたということだ。自分たちが気づけないほど無色で、しかし、なくなった瞬間に安堵を感じてしまうほど強大な何かを。

 押し潰されそうなほど強大な圧を感じさせる者は腐るほどいる。だが、それ以上に強大ながらも何も感じさせない圧――そんなものを放てる相手など数えるくらいしかいない。

 まぁ、とりあえず目的地は出来た。案内もできた。

 万々歳だ。一応。

 

「何か悪いことしちゃったかな?」とドルモンがコータに耳打ちする。

「……」

 

 とりあえずコータは何も言わずに待つ。

 

「こっちだゾ……」

 

 しばらくして、ピコデビモンは哀愁を背負って歩き出した。

 その姿はまさに唐突にリストラされてしまった仕事人間のお父さん。

 何となく哀れみを感じなくもなかったが、その後ろをコータたちはついて行ったのだった。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド――ベルサンディターミナル――

 

 それは未来世界に起きた悲劇の再来だった。

 現在の世界に降り立ったデクスモンは、すぐさま行動を開始した。その機能しかないが故の、即時行動だった。

 

「――!」

 

 どこまでも伸びる爪が世界を切り裂く。森を切り裂き、大地を切り裂き、海を切り裂き、そこにいるデジモンたちを殺していく。

 未来世界の崩壊という事実くらいしか知らず、デクスモンという脅威を知らなかった彼らには逃れる術も対抗する術も、またその時間もなかった。

 

「――!」

 

 だから、こうして殺される。

 何が起きたのか、と何故を問う間もなく殺される。

 どうして殺されるのか、と何故を問う間もなく死んでいく。

 何事もなかったかのように、一瞬で多くの命が消されていく。

 そうして、未だ殺されてはいない者たちがデクスモンの脅威を正しく認識できたのは、既に多くの命が犠牲になった後だった。

 ……デクスモンがこの現在世界に降り立って数分後のことだ。そのたった数分で、現在世界の0.2パーセントの命が消えていた。

 その数字をたかが0.2、と見るか。それとも0.2も、と見るか。

 それは人によるだろうが、

 

「止めるぞ」

「おう!」

 

 ここにいる二人――アグモンとガブモンは後者だった。

 あの絶望の騎士だった者の責任として、償いとして、またウォーグレイモンX抗体たちへの恩返しとして、何より生きるために彼らはここに立っていた。

 この現在世界ではあの絶望の騎士による爪痕も未だ癒えてなく、そしてデクスモンの脅威に対する逃げ場もない。正しく脅威を認識できた者たちは、絶望的な状況に陥っていた。そして、その絶望を前に諦める者もいれば、諦めずに道を模索している者もいる。

 だが、決定的に時間が足りない。

 アグモンたちは、その時間を稼ぐつもりだった。

 

「行こう!」

 

 そして、アグモンたちは進化する。

 ブリッツグレイモンとクーレスガルルモン――二大究極体に。進化した彼らは単純スペックならともかく、この現在世界屈指の実力者であるウォーグレイモンX抗体とメタルガルルモンX抗体にも引けを取らない。

 それだけの力を持って、彼らは死の脅威に立ち向かう。

 

「――!」

 

 だが、

 

「“激・氷月牙”」黄獣偃月刀を模した無数の氷がマシンガンの如く投擲される。

 

 だが、

 

「“サンダーバーニア”!」前方に転回した背中のバーニア(噴射装置)から放たれた雷が突き進む。

 

 だが、脅威は止まらない。

 クーレスガルルモンが無数に作り出した氷刀も、ブリッツグレイモンの雷撃も、死を越えるには至らない。

 デクスモンの腕のひと振りで、霧散する。

 

「っ、立ち止まるな! 捕まる!」ブリッツグレイモンの叫び。

「わかってる!」焦りと共に、クーレスガルルモンは答えた。

 

 そして、デクスモンの腕が迫る。

 デクスモンの爪は一撃でデジモンたちを殺していく光景をブリッツグレイモンたちは見ている。それが、即死系の能力なのか、実質的な即死威力なのかは彼らにはわからなかったが、とにかく捕まってはいけないことだけはわかっていた。

 

「っく――!」

「ぬぉおおお!」

 

 だから、彼らは必死に逃げる。

 爪の動きはすでに生物ができる範囲の軌道を超えている。予測も成り立たない。だから、体力で逃げ切るしかない。

 だが、足止め役の彼らが逃げるということは、

 

「い、いや……!」

 

 他の誰かが代わりに犠牲となるということだ。

 その時、また一つの命が消えた。幼年期デジモンだろう。X抗体もない、小さなデジモンだった。

 

「……!」

「……!」

 

 それを見た時、ブリッツグレイモンたちの心の中に湧き上がったのは怒りだった。

 とても強い怒りだ。理不尽に対する、いや、責任だの償いだのいろいろと考えておきながら、結局は恐れや嫌気によって何もしなかった自分への怒りだ。

 

「ブリッツグレイモン」全力を尽くさず、それで何かを成そうなどと笑わせる。

「クーレスガルルモン」何かを成すのは、いつだって目の前の事に真面目に取り組んだ者なのに。

 

 だから、彼らはこの選択をするのだ。

 

「大丈夫、行こう」ブリッツグレイモンが言えば、

「ああ。それに例え俺たちが自分を見失っても――」クーレスガルルモンも頷いた。

「うん。あれが真実、生あるものをすべて殺す死の化身なら何とかなる」

「最悪の場合でも、何とかなるよ。俺たちは一度、負けてるんだから」

 

 ブリッツグレイモンが「ここでそれを言うかぁ」と笑って、次の瞬間には気持ちを切り替えた二人は覚悟を決めて頷き合った。

 

「行くぞ!」

「行こう!」

 

 そして、二つの力が束ねられる。束ねられた力が進化する。互いを補い合って、二つの存在が一つの存在へと進化する。

 その進化の名こそ、ジョグレス進化。合体進化。

 故に、ここに現れるのは、ブリッツグレイモンでもクーレスガルルモンでもなく。

 

「削除する」

 

 現れたのは、最も有名な聖騎士と同じ名を冠する者。かつて、この現在世界を襲った脅威。

 絶望の聖騎士が再来する。

 

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