【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第四十七話~偉大なる吸血鬼~

D.C.2018 ダークエリア

 

 どれだけ歩いたことか。

 慣れることもない、先が何も見えない真っ暗闇の中をずっと歩いていたのだ。すでにコータたちの時間感覚は失われていた。

 永遠を思わせる暗闇の地獄――まさにあの世と例えられるのは伊達ではないということである。

 もしここに人が一人でいたのならば、すぐに狂ってしまうだろう。事実、コータたちだってお互いという話し相手がいたから、この無限地獄のような中を耐えることができたのだ。

 もっとも、それでもだいぶ精神的に苦しかった時間であったのだが。

 

「着いたゾ。グランドラクモン様の城だ」

 

 しかし、彼らの苦痛な時間も終わりを告げる。

 ついに、たどり着いたのだ。

 

「けど、真っ暗で全然何も見えないんだけど。城があるのか? それとも城の中なのか?」

 

 まぁ、何も見えないのだが。

 相変わらずの見渡す限りの闇。強いて言えば、地面は舗装されているようにも感じるということくらいか。

 

「真っ暗って、そりゃあダークエリアなんだから当たり前なんだゾ。今ちょうど城の門の前にいるんだゾ」

 

 門がでかすぎるのか、門のもの字も見えない。

 本当に着いたのか、疑わしいほどだった。まぁ、案内人のピコデビモンを見れば屈伸運動もかくやといった様子で震えが大きくなっているから、間違いではないのだろうが。

 

「城も領地も真っ暗とか」コータが哀れみを込めて言う。

「……もしかして、ダークエリアってずっとこうなの?」ドルモンがそう聞けば、ピコデビモンは頷いた。

 

 そりゃあ七大魔王を始めとしたここの住人たちが何かにつけて通常の世界に侵攻するはずだ、とコータたちはズレた感慨を抱く。

 まぁ、ここの世界にいる者たちはその大抵が自業自得の要因で通常の世界にはいられなくなった者たちなのだが。

 

「とりあえず行くか」

「そだね」

 

 コータとドルモンが歩き出す。

 すると、ピコデビモンだけは止まったままだった。

 

「お、オイラはここまででいいんだゾ! さすがに無理なんだゾ!」

 

 断固として進もうとはしない。案内人としての役目は果たしたので今すぐにでもこの場を離れたい、という気持ちが嫌なほど伝わってきた。

 まぁ、コータたちとしてもここまで連れてきてくれただけで充分ではあった。

 だから、

 

「そっか。じゃあ、元気でな」

「いろいろとありがとうねー」

 

 あっさりと別れる。

 そうして、可哀想になるほどに萎縮したピコデビモンと別れて、コータたちは真っ直ぐに歩き出した。

 

「……!」

「これは!」

 

 違いはすぐに表れた。

 地面が変わったのだ。先も見えない暗闇は変わらない。だが、地面だけが自然そのままに体裁だけ整られただけの“道”から、誰かのこだわりによって敷かれたような“床”へと変わっていた。

 そこはまるで、氷やクリスタルのような床だった。薄く儚く輝く、土足で踏み入ることが申し訳なく思えるほどの美しい床。

 こんな場所が、荒野のど真ん中にあるはずがない。間違いない。ここは誰かの城だ。

 

「グランドラクモン、様いますか?」

 

 コータは声を上げる。慎重に、恐る恐る、一言一句に気を遣って発言する。

 気を悪くされれば、その瞬間に殺されてもおかしくないのだから。

 

「えぇ、いますよ」

 

 そして、声が聞こえた。静かで物腰柔らかそうな、声だけ聞けば優しそうな誰かだと勘違いしてしまうような声だった。

 だが、わかる。そんな単純な存在の声ではないことが。

 理解できないほどの強大な格とこの穏やかさな雰囲気がどうやったら同居できるのか、と。

 ここに来て、この規格外の存在を前にコータたちは震えが止まらなかった。

 

「そこまで震えなくとも結構。さて、はじめまして。私がグランドラクモン――」

 

 そして、この城の主が姿を現す。

 それは、王だった。魔獣だった。獣のような四足に吸血鬼らしい人型がくっついている。シルエットだけ見れば、ケンタウロスに近い。が、そんなレベルではない。さらに四足の内の前足二つには口が付いていて、おどろおどろしい。

 まさに魔獣。しかし、くっついている人型が纏う高貴な雰囲気が、ただの魔獣として終わらせない。

 本当に何から何まで規格外の存在だった。

 これが、健在の偉大なる者。

 

「――皆様には偉大なる吸血鬼と呼ばれる者です」

 

 すべてのデジモンの道標。

 デジモンの歴史に深くその名を刻んだ、歴史の作成者。世界の管理者()をして畏怖を抱き、敬意を払わずにはいられない存在――!

 

「楽にしてくださって結構。敬語も敬称も不要です」

「そ、うか……」

 

 物腰が柔らかなのに、強制的に従ってしまうようなものがそこにはあって、コータも逆らえなかった。

 

「それで、オレたちを呼んだけど……」

「はい。呼びました。あれだけ人の名前を叫んでいれば誰だって気づきますからね」

 

 遠く離れているところで自分の名前を呼ばれていたとしても、普通は気づけない。

 

「無視しても構いませんでしたが、傲慢の魔王の差金でしたし、これからを考えれば乗るのも一興と思いまして」

「トコモンが。そうだ、知れって――」

「はい。初めに言っておきますと、彼が彼女ではなく私のところに寄越したのは、さしずめ彼女の思い通りに動かされたくなかったからなのでしょう」

「彼女?」

「事態の黒幕、とは少し違いますが、そうですね。この事態に深く関わっている者ですよ。貴方方も聞いたことはあるでしょう? イグドラシルの名前くらいは」

 

 イグドラシル。それは、あのNEWデジタルワールドのホストコンピュータ()にして、世界の元凶。

 

「元凶……まぁ、そうですね。しかし、それだけではない。初めから話していきましょうか」

「初めから?」

「えぇ。何故Xの悲劇、プロジェクト・アークが行われたか。イグドラシルの真意、それをお教えしましょう。すべてはそこから始まった。そこから始まり、貴方の存在まで来る」

「……!」

 

 そうして、グランドラクモンは語り始めた。

 

 ********

 

 D.C.2018 NEWデジタルワールド――ベルサンディターミナル――

 

 時は少しだけ遡る。

 デクスモンは目の前に現れた強大な命――オメガモンAlter-Sに釘付けだった。先ほどの黙示の竜には及ばない。だが、それでも、特上の命であることには変わらない。

 命とは眩いものだ。

 デクスモンはその熱のような眩さを感知して命を喰らう。

 だから、あの黙示の竜やこの聖騎士のような命を前にすれば、眩さに目が眩むようにそれしか見えなくなる。無論、攻撃範囲の広さから見えなくても被害者は出るのだが。

 

「大丈夫。私は私だ」

 

 言い聞かせるような、オメガモンAlter-Sの呟き。彼は自分を見失いそうになりながらも、彼らだった時のことを覚えていた。

 どこからかうるさく聞こえてくる声を空耳だと押し退け、彼は自分を必死に保っていた。

 

「行く――!」

 

 そして、オメガモンAlter-Sは突き進む。

 

「――!」

 

 対抗するように、デクスモンが爪を振り回す。

 迫り来る爪を、オメガモンAlter-Sは軽々と躱す。爪が空ぶって、その上にオメガモンAlter-Sは飛び上がっていた。

 そして、躱した彼が向けるのは左腕の竜砲。

 

「“グレイキャノン”ッ!」

 

 放たれたプラズマが走る。線引きでさっと引いたように、世界に一筋の光が走る。 

 だが、

 

「――!」

 

 だが、デクスモンには通じない。もう片方の爪が、プラズマ砲を防いでいた。

 

「……これではダメか。ならっ!」

 

 防がれるのならば、叩き込めばいい。

 オメガモンAlter-Sは駆け出した。飛翔し、空を駆け、突き進む。

 

「――!」

 

 デクスモンの右爪が迫る。

 弾丸のように突き進むオメガモンAlter-Sはその勢いを止めることなく、それをギリギリで躱す。

 デクスモンの左爪が迫る。

 弾丸のように突き進むオメガモンAlter-Sはその場で急停止、上空に飛び上がることで躱した。

 

「――!」

 

 再度、デクスモンの右爪が迫る。

 オメガモンAlter-Sはマントを振り回してそれを防いだ。だが、防ぎ切れるものではない。音がしてマントが破れ、その勢いで彼は回転しながら落ちていく。

 そこに向けて、デクスモンの左爪が迫った。

 だが、それこそがオメガモンAlter-Sの狙いだ。右爪を躱し、左爪が迫っている今、そこだけに僅かに生まれた隙間。

 

「“グレイキャノン”!」

 

 そこを狙う。

 放たれたプラズマが突き進む。爪と爪の間を縫って、真っ直ぐな光がデクスモンの顔に到達する。

 

「――!」

 

 だが、無傷だ。デクスモンの顔には傷一つない。

 

「……! っく!」

 

 倒せるとは思ってはなかったし、無傷である可能性も考慮していたが、こうも目の当たりにすると顔が歪む。だが、顔を歪ませている場合ではない。

 オメガモンAlter-Sは状態を起こすようにして飛び上がった。

 その彼のすぐ下を、先ほど放置した左爪が通過した。

 

「こうなれば――!」

 

 オメガモンAlter-Sは再度始まったデクスモンの爪撃を躱す。

 上から迫る爪を前に出て躱す。

 下から迫る爪を前に出て躱す。

 何もかも、それこそ敵の攻撃さえも置き去りに突き進む。

 

「う、おぉおおおおおおお!」

 

 前から迫る爪――正確には、その五指の間を縫うようにして躱す。勢いを殺さないように。

 後ろから迫る爪――自らを握り殺そうと追いすがるそれを、勢いのままに置いていく。

 狙うは、ゼロ距離。

 

「“ガルル――」

 

 進化してから一度も使用していなかった剣が光る。戦闘の間、ずっとエネルギーを溜めていた狼剣が輝ける。

 どんな危険はあっても、どんな壁があっても、

 

「――ソード”ッ!」

 

 それらすべてを斬り伏せる!

 一閃。一瞬で剣は世界を駆けた。光の筋だけが残った。

 

「よし!」

 

 デクスモンが両断される。その身体が()()る。

 ああ、だが、しかし。

 

「なっ!」

 

 悲しいかな、世界に命がある限りなくならないのがデクスモン()だ。

 デクスモンの身体が元に戻る。完全な形で、何事もなかったかのように、死は再び動き出す。

 

「――!」

「っく!」

 

 デクスモンの爪撃をオメガモンAlter-Sはギリギリで躱した。だが、ボロボロになりながらも残っていたマントがそれで完全に切り裂かれて落ちる。

 

「……ダメか」

 

 オメガモンAlter-Sの武器は何も通じなかった。その時点で、勝ちはなくなった。

 彼は思考する。

 デクスモンを倒すことを諦めるかどうか。倒すことに躍起になるかどうか。……すべきは時間稼ぎ。攻撃が通じなくても、何とかなる。

 

「――!」

 

 そんな後ろ向きの思考に至っていたことが彼の失敗だった。

 確かに、本来の目的は時間稼ぎであって、倒すことではない。そこを見失ってはならない。だけど、積極的(勝つため)に目的を目指すのと、消極的に(逃げで)目的を目指すのは、違う。

 そこにある僅かな差異が、パフォーマンスに影響する。傍から見れば、その影響は些細なものなのだろう。

 

「――!」

 

 だが、弛まぬ糸を繋ぎ続けるような、極限の状況ではその影響が大きく響く。

 

「しま――っ!」

 

 次の瞬間、オメガモンAlter-Sは緑色の閃光に呑まれた。

 




というわけで、ついに万全の偉大なる者が登場です。
偉大なる者という独自設定、散々と語られながらも詳細は不明、ということで本当に申し訳ありません。
詳細は作中で語りましたが、あとがきでも触れます。

偉大なる者は文字通りです。
歴史に名を残した者、偉業を成し遂げた者の総称。イグドラシルなど神と呼ばれる者でさえ敬意や畏怖を露わにする者です。
到達者と同じく、基本的にその種族中でさえ比較にならないほどの桁外れの力を持つ個体です。
ちなみに、到達者でも偉業を成し遂げた者が偉大なる者と呼ばれる場合もあります。
逆に、ある世界では偉大なる者でも、別の世界でその偉業が知られていない場合、到達者と呼ばれてしまうこともあります。
またその性質上、善の存在だけが該当するわけではありません。善の偉業、悪の偉業、どちらも歴史ですので。
今回登場したグランドラクモンもそうですね。悪側の偉大なる者です。
裏設定では、とある世界で神々を相手にヤンチャしていたものの、とある一件があって、ダークエリア創世時にそのままダークエリアに引き篭ったという設定があります。

さて、いよいよ第四章も佳境です。
それでは、次回もよろしければよろしくお願いします。
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