【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
D.C.2018 ダークエリア
「まず、貴方方はどう理解していますか? イグドラシルの行動、Xプログラムはどうして発動されたかを」
「それは――……デジモンが増え過ぎて世界消滅の危機なったから、NEWデジタルワールドを作ってそこに限られたデジモンを連れて行って――」
「――で、残しておけないデジモンを消すためにXプログラムを発動させたんだよね」
コータとドルモンは互いに顔を見合わせながら、言う。
これは常識というほどでもないが、少し世情に詳しい者ならば誰だって知っていることだ。
だが、グランドラクモンの言い方ではこれが真実ではないのだろう。
「えぇ、真実ではありません。正確には、表面的な真実でしかない」
「表面的?」
「貴方方は出来事を見て理由と勘違いしています。出来事から推測した理由を、貴方方は間違えた」
グランドラクモンは「まぁ、仕方ないことではありますが。彼女だけでは、それしか出来なかった」とその彼女とやらを憐れむように、あるいは同意するように呟く。
「増え過ぎたデジモンを消去するのならばわざわざ新世界を作る必要はない」
「増え過ぎたデジモンを消したいのならばわざわざXプログラムを使う必要はない」
神と例えられるほどの超演算機能を持つイグドラシルに、それが予測できないはずがない。
「であるのならば、イグドラシルは何故さまざまな問題があることを承知の上で新世界を創造したのか。Xプログラムを発動させたのか」
答えは単純だ。その必要があったからだ。
旧世界では無理だった。部下に殺させるのではダメだった。問題があった。その問題を解決するために、イグドラシルは新世界を造って、Xプログラムでデジモンを殺した。
「問題……一体?」早く続きを、とコータがグランドラクモンに聞く。
「貴方方はその一端に出会っているはずです」
「……?」
グランドラクモンの言葉に、コータたちは首を傾げた。
お前わかる? と互いを見やるが、どちらも首を傾げていることが分かって無意味だと悟る。
「見たはずです。貴方方が新世界で見た数々の悲劇。その中にXプログラム、いや、
「X抗体があったからこそ……?」コータは首を傾げる。一方で、先に答えに気づいたのはドルモンだった。
「まさか、メイクーモン?」
そう、メイクーモンの特性。デジモンを狂わせる病――あれは、何故かX抗体には効いていなかった。
「思い至ったようですね。そう。Xプログラムはデジモンを殺すために作られたのではなく、X抗体デジモンを生み出すために作られたのです」
「なっ」
デジモンを殺す機能など二の次だ。XプログラムはデジモンをX抗体持ちにすること、すなわち、X-進化させるためのものだということである。
「なんでイグドラシルはそんなことを?」
「従来のデジモンでは不都合があったということです。だから、都合の良い形に進化させなければならなかった。従来のデジモンのままでは不都合だから進化させ、進化できない者は
では、その不都合が何だったのかが問題となる。
こうまでのことを理由があって行うのだ。それは相当なものだったはずだ。それこそ、世界消滅の危機にも等しいような、もの。
そこに思い至って、コータたちは固唾を呑んだ。
「その不都合って?」
「偉大なる悪の復活、そして世界への侵攻ですよ」
「え、それってグラン――」
「私ではありません。同じ偉大なる者として呼ばれてはいますが」
神でさえ容易に出来ない存在が復活し、世界を侵略する。場合によっては神を以てしても負けてしまうような相手が世界に現れる。
世界を管理する者として、神として、イグドラシルは何とかしなければならなかったのだ。
「新世界に現れた脅威たち、とりわけて伝達者による狂気はその復活のための行いです。狂気によって悲劇を起こし、無念と未練をエネルギーとして回収、ついでに彼らにとって忌むべきX抗体を殺す、そのためのもの」
「エネルギーとして、回収……!」
コータたちが思い出すのは、メイクラックモンVMがラグエルモンに進化した時のことだ。あの時に感じたあれが、回収したエネルギーなのだろう。そのエネルギーを以て、あの時の彼女は進化したのだ。
「最も、それも一端に過ぎません。彼らはさまざまな方法でエネルギーを回収しました。多くは殺害による放散感情の採取だったようですが」
放散感情――死した時や理不尽に直面した時の強い感情だが、それすらもエネルギーとして回収できるという。
それはつまりこういうこととは関係のないことで死んでしまったとしても、その“敵”にはエネルギーとして回収されてしまうということだ。
ただ死んでもダメ、ただ生きていてもダメ、だから、必要だった。
「……XプログラムはX抗体を――“敵”にエネルギーとして回収されないような新しいデジモンを作る為のもの。また、進化できなかった者をエネルギーとして回収されないように殺すためのものでもありました」
Xプログラムに感染した時点で、X抗体を得ようが得まいが敵はそのデジモンからエネルギーを得られなくなる。
エネルギーを得られなくさせることで少しでも敵を弱体化させる、そのためのものだったのだ。
「……だけど、それは」コータはモヤモヤとした気持ちを感じた。端的に言えば、理解は出来るけど納得がいかなかった。そしてそれは、ドルモンも同じだ。
そんなコータたちの姿に、グランドラクモンは苦笑する。
「ええ。世界に生きるものとして貴方方の感情は正しい。しかし、イグドラシルも苦痛……かどうかはわかりませんが、熟慮の末の決断だったのですよ」
偉大なる悪ほどの敵が現れる、またそのための行動をしている。その時点で、もうすべてのデジモンを残すことは不可能になった。というか、下手したら絶滅もありうる。
だから、イグドラシルは世界の管理者として、選択をしたのだ。
デジモンという種を進化させることを、その新しい形でデジモンという種を少しでも残すことを。
「もちろんそんなことは貴方方、生きる者には関係ない話ですが」
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D.C.2018 NEWデジタルワールド――ベルサンディターミナル――
オメガモンAlter-Sが見たのは、緑の閃光だった。それはデクスモンから放たれたもので、故にどのようなものであるかなど、考える間もなく理解していた。
範囲が広過ぎて躱すことが出来ないことも、理解していた。
だから、咄嗟に両腕を向ける。
「“グレイキャノン&ガルルソード”ッ!」
閃光を切り裂かんと狼剣が斬撃を放ち、竜砲が閃光を撃ち抜かんとプラズマを放つ。だが、咄嗟に放ったレベルのものでは無意味だ。
そのどちらもが閃光に前に儚く散る。緑の閃光はその勢いを僅かに減衰させたような気がするだけで、健在。
「っ!」
そして、オメガモンAlter-Sは閃光に呑まれた。
数秒間もの間、閃光は世界を緑色に染め上げていた。
そして、閃光が収まる。
「……」
オメガモンAlter-Sは生きていた。生きていた、としか言えなかったが。
先ほどの咄嗟の足掻きが功を奏したのだろう。直撃を避けられたのだ。逆に言えば直撃していないだけ。それだけで、もう戦闘不能の状況に追い込まれている。
「……」
もはや勝敗は決した。
オメガモンAlter-Sに次を躱す術はない。いや、そもそも躱さなくても彼はもう……。
「――!」
そして、動けないオメガモンAlter-Sに向けてデクスモンの爪が襲いかかる――
「“ガイアフォース”ッ!」
「“コキュートスブレス”!」
――それを迎え撃ったのは、この現在世界における二大勇者――ウォーグレイモンX抗体とメタルガルルモンX抗体だ。
二人の全力の必殺技が、爪を弾く。
その隙に、彼らはオメガモンAlter-Sを抱えて逃走した。
「う、ぉーぐれいもん……」
力なく、オメガモンAlter-Sが口を開く。
「大丈夫だ」
ウォーグレイモンX抗体は安心させるように言った。
だが、違う。オメガモンAlter-Sが言いたいのはそういうことではない。
「う、しろ……!」
彼が言いたいのは背後から迫る爪、自分たちの命を刈り取ろうとする攻撃。
「それも、大丈夫だよ!」
今度はメタルガルルモンが自信満々に言う。
その瞬間、背後に迫る爪が――
「“レイジ・オブ・ワイバーン”」
――飛竜の如き一撃が、爪と激突する。
凄まじい力の激突だ。
だが、未だ。未だ、もう片方の爪がある。
「……もう、いい!」
だから、最期の力を振り絞ってオメガモンAlter-Sは叫んだ。彼は限界だった。彼は自分の死を悟っていた。
だからこそ、彼は叫んだ訳で。
だからこそ――
「仲間を捨てていける訳無いだろ! それにあのバケモノだって到達者が抑えてる!」
「大丈夫! 君のおかげでレジスタンスや近隣に生息するデジモンの避難も終わった!」
――ウォーグレイモンX抗体たちは彼を見捨てられなかった。
「……!」
その言葉に、オメガモンAlter-Sは僅かに目を見開く。
「そっか。嬉しいなぁ……」
信頼。信用。そんなものは所詮、行為と言葉による形のないものでしかなくて。
だからこそ、わかる。
だからこそ、暖かい。
彼らの行動が、言葉が、
ああ、そうだ。二人で一つの彼らは、だからこそ、誰にも信じられない独りきりに耐えられなかった。
「はは」
この期に及んで彼らはそれを得られた。自らの人生を支払ってもお釣りが来ると思えるほどの、人生を対価にしてでも欲しくなるものを、得られた。
だから、満足して逝ける。生に固執することなく、死を恐れることなく、彼らは逝く。
「ありがとう」
オメガモンAlter-Sのその身体が消滅する。
その両腕が踊るように外れて落ちた。