【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
D.C.2018 ダークエリア
偉大なる者――それが一連の黒幕なのだと、グランドラクモンは言う。
「……? どうかしましたか?」
「いや、偉大なる者の一人が黒幕……敵ってことはわかった、けど。でも、その場合――」
だが、コータたちには気にかかることがあった。
イグドラシルだけに限らず、世界の管理者は部下を持っている。
当然だ。管理世界で問題が起きた時、管理者が直接出向くのは不都合が多い。不都合の結果、さらなる世界規模の問題が連鎖的に発生する可能性もある。
だから、管理者はその問題を解決させる部下や手段を独自に保有している。
それは例えば、他世界から人間を呼ぶことであったり、例えば神と呼ばれるほどのデジモン集団であったり、とさまざまだ。
イグドラシルの場合、人間を呼ぶよりもまずは自分の部下――ロイヤルナイツと呼ばれる十三の聖騎士団に頼る。
そのどれもが究極体の中でもトップクラスの実力者揃い。さすがに個々の戦闘能力では偉大なる者や到達者には敵わないかもしれないが、それでも総力で言えばそれに匹敵するだけの力はある。
「こういう時こそロイヤルナイツの出番じゃないのか?」
だから、イグドラシルが最も信のおける部下を動かしていないことが、コータにはどうしても気にかかるのだ。
例えその偉大なる者が復活したとして、イグドラシルのサポート付きロイヤルナイツが総出で戦えば、何とかなる気がしないでもないのに。
そんな彼の疑問について、グランドラクモンはあっさりと答えた。
「ああ、彼らなら
「え? はっ?」
「彼らは負けました。かなり初めの段階で」
それは驚天動地の真実だった。
個々ならば、あるいはただの同種族デジモンならばともかくとして、ロイヤルナイツとして長年を戦い抜いた経験豊富な者たちが総力戦を挑んで負けたというのだ。
思わず、コータもドルモンも口を開けてアホのように呆然とする。
「そうですね。そこら辺も話しましょうか。まず、イグドラシルはその権限を使い、世界をやり直しています」
「まずで言っていい話じゃない……!」
「前提です。受け入れてください。ともかく、やり直しているんですよ。
話が大き過ぎてイメージが湧かないが、そういうことらしいとコータたちは自分を納得させる。
しかし、おかしい。コータたち振り回されている側としては良い気はしないが、何度でもやり直せるのならば、それこそロイヤルナイツたちが勝つまで何度でも戦わせればいい。わざわざ負けさせる必要はない。
それとも、やり直した今回で負けたということだろうか。
「ま、相手も馬鹿ではないということですよ」
「……?」
「そうですね……。人間の世界には悪の親玉を勇気ある者が倒しに行くシミュレーションの遊びがあるらしいですが?」
「ああ、RPGとかのゲームね。……何で知ってるんだ?」
「人間の世界を覗いていたら見つけました」
何で覗いていたのかとか、どこを覗いていたのかとか、その辺を聞くと藪蛇になりそうで怖かったからコータは聞けなかった。
「その遊びでは倒される側の親玉はずっと待っている訳ですが」
「うん」
「普通、自分に仇なせる者がいたら邪魔するでしょう?」
「……」
まぁ、そこら辺は魔王は魔王でいろいろと忙しかったからとか、初期レベルが1の勇者に対してわざわざ魔王が出向く必要はないというか、強者故の慢心があったせいだからとか、身も蓋もないことを言えば物語のお約束だというか、いろいろと複雑な事情があるのだが。
「そういうことです。お遊びではないのだから、座して待つ必要はない。世界の管理者たちは我々偉大なる者の力を知っていますが、それは我々とて同じです」
つまり、イグドラシルが敵に対して策を弄するように、敵もイグドラシルやロイヤルナイツに対して策を弄しているということである。
「有史以来、ずっと力を蓄えていたのでしょうね。イグドラシルに対抗できるまで。イグドラシルが何度でも世界をやり直すのなら、やり直しで元に戻らないようにする」
「……?」
「そうですね。少し意味合いが異なってしまいますが、死んだ命はやり直せば生き返ります。ですが、やり直しても死んだ命が死んだままになるのならば?」
ようやく、コータたちもグランドラクモンの言おうとしていることがわかってきた。
つまり、敵もイグドラシルのやり直しを利用しているのだ。
「もはや事前の計算も予測も意味を成さず、ただただ流れに任せるしかなく、リブートを利用した両者がそれぞれに都合の良い結果を奪い合っている」
その結果、ロイヤルナイツは負けたのだろう。
負けてしまって、負けたままになってしまっているのだろう。何度世界をやり直しても、もう甦らなくなってしまったのだろう。
「幾度もの流れの中、さまざまな駆け引きが行われました」
例えば、Xウィルスに代わる新しいウィルスを作り、そちらに変える。
例えば、ロイヤルナイツの生き残りたちにわざとデジモンを殺させ、それによりロイヤルナイツに代わる強者を育て上げる。
例えば、新世界に来ることなく旧世界に留まったままだった偉大なる皇帝に助力を頼む。
イグドラシルはさまざまな策を試した。だが、そのどれもが失敗した。どんな策でさえ、最善の未来には辿り着けなかった。
「だから、今回のイグドラシルは新しい手を打っています。だいぶ博打のようではありますがね」
「どんな手なんだ?」
「……敵の策を利用するといいますか……ま、あまり上手くいっているとは言い難いのですが」
具体的な内容には触れずにグランドラクモンはコータを見ていた。
その本当の意味を、コータは察することはできなかった。
「上手くいってない?」
「ええ。おまけにあの死の化身が再び現れる始末。……最近は出てきてなかったのに」
死の怪物――すぐにコータたちは思い至って、やや愕然とした顔になる。悪魔の行動から薄々と察していたが、やはりその敵の策だったらしい。
「元々、ドルモンはプロトタイプデジモンと言いましてね」
「ぷろとたいぷでじもん?」そんなことはさっぱりと知らなかった、と当人は首を傾げる。
「古代種のデジモンは感情によって自身の情報を書き換えますが、プロトタイプデジモンは感情さえ不要で自由に自身の情報を書き換えられる。その
まぁ、感情さえ不要といっても、そういう“元”があった方が良いのは難易度的に事実なのだが。
つまりは、簡単に強くなったり弱くなったり進化できたりするということだ。内部から外部へと影響を及ぼしやすく、また同時に外部から内部へと影響を受け易いのである。
その結果が、
「そして、だからこそプロトタイプはとにかく死にやすい」
グランドラクモンは簡単に言い切った。
「なんでっ!?」
悲しげにドルモンが叫ぶ。
すると、何を当たり前なことを、と少し呆れたようにグランドラクモンは口を開いた。
「自由に情報を書き換えられるというと聞こえがいいですが、それってセキュリティが存在しないということですよ? 内部と外部と繋がり放題。簡単に影響を受け、情報が書き変わり、致命的なエラーを起こすことが多々あるんです」
古代種にせよ、プロトタイプにせよ、希少種となっているのにはそれなりの理由があるということである。
しかし、そんな事情はドルモンにとっては理不尽なことだ。
希少種というレアであったことに喜べばいいのか、それとも死にやすいことを嘆けばいいのか、そんなことは関係ないと開き直ればいいのか、ドルモンは複雑な表情で頭を抱えた。
「で、それがどういう風に繋がるんだ?」
そこで、プロトタイプだのどうだのはどうでもいいコータが聞いた。
「プロトタイプデジモンは二種類いますが、その両方それぞれにとあるプログラムがセットされていました。未来へと突き進む生命、その試作であるが故の生命自身が課したプログラムが」
「プログラム?」
「ええ。何が生命にとって大切なのか、探ろうと考えたのですよ。他ならぬデジモンという生命自身、デジモンという種の概念が、その未来のために。ドルモンの場合は更なる進化です」
ちなみに、もう片方の種類におけるプログラムは更なる戦闘能力だったりする。
「皮肉ですよね。生命が己が未来のためにした試みが、例え死んだとしても他者を喰らって進化するような、そんな穢らわしいものとして変化してしまったのですから。いや、それこそが生命の未来を証明してしまっているのかもしれませんが」
「……もしかして、それがデクス?」
「まぁ、プロトタイプデジモンはほぼほぼ絶滅しましたし、失われたものものでしかなかったのですがね」
「失われてはいなかったと」
「はい。今回ではない、いつかのやり直しの最中にそれが発現しましてね。イグドラシルはそれを現行の敵とは別の脅威と断定し、紆余曲折の上に討伐し、さらに手を打ちました」
結果としてデクスそのものはその時に倒された。そして次のやり直し以降、二度とそんなものが世界に誕生されないようにした。――はずだった。
「しかし、それに目をつけたのが」
「偉大なる者……敵か」
「はい。先ほども少し言いましたが、“彼ら”にとってはX抗体が邪魔なんですよ。だから、殺さなければならない。あの手この手で殺していたようですが、効率を考えて使えると思ったのでしょうね」
自身と同格を相手にすればわからないが、対デジモンとしてはこの上のない性能、ロイヤルナイツクラスのデジモンでさえ殺せるような能力、そこに“彼ら”は惚れ込んだ。
だから、彼らはもう一度、デクスがこの世に現れるように手を打ったのだ。あの死の化身はその文字通り、X抗体デジモンを殺し尽くすための死の現れとして用意されたということである。
「自然発生はイグドラシルのせいで望めない。だから直接的に声を飛ばし、干渉し、発現させた。これ、プロトタイプデジモンのセキュリティが無いに等しいなせいですよ?」
「……」
ドルモンは明後日の方向を向いた。
「まぁ、そこはわかった。アレは想像以上にヤバイもので、敵の復活以前の話になるかもしれないってことも。以前はどうやって倒されたんだ?」コータは聞いた。
頭の悪いコータでは、今聞いただけの説明だけではデクスモンの
それでも、直接相対した者として、アレの脅威だけは十分すぎるほど悟っていた。
だからこそ、あれがどうやったら倒されるのかが気にかかる。
「そこが貴方の真実に繋がるのですよ」
「え? オレの?」
「ええ。なら、見てみます? ちょうど今くらいですか。皮肉にもかつての焼き回しとなりますよ」
グランドラクモンが腕を翳す。
すると、空中に大きな穴が生まれて、そこから何処かの光景が見えた。まるで未来世界にあった空中投影スクリーンのようだ。
「これは、ベルサンディターミナル?」
見れば、映し出されたのは現在世界の光景で。
そこに映っていたのはデクスモンと――
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D.C.2018 NEWデジタルワールド――ベルサンディターミナル――
デクスモンの爪が荒れ狂う。刃の竜巻のように触れたものを切り裂きながら、たった一人を殺そうと暴れまわる。
一方で、その暴威に抗うのは黄金に輝ける槍。風を纏うそれを振るうのは、
「――!」
デクスモンの腕が振るわれる。巨大な爪がメディーバルデュークモンを殺さんと迫る。
「はっ!」
メディーバルデュークモンが黄金の槍を突き出す。風と刺突が巨大な爪を弾き飛ばした。
そのまま槍を回転させ、勢いづけて叩きつける。
デクスモンの腕が宙を舞った。
だが、
「此れでも無駄か」
数秒の後に修復する。
一瞬で修復とはならないのは、それだけメディーバルデュークモンの一撃が効いたからか。
「――!」
一方で、それしか機能がないデクスモンは懲りずにまた爪を振るう。
メディーバルデュークモンは再び槍撃でもって爪を砕き、防いだ。
槍が突き出される。振り回される。
爪が弾かれ、そしてまた狙う。
また、槍が突き出される。振り回される。
また、爪が弾かれ、さらに狙う。
そんなことが、幾度も続いている。
「――!」
「ふっ!」
金属音、金属音、金属音――!
もはや何度目になるかもわからない、爪と槍のぶつかる音が辺りに広がる。
デクスモンは未だ健在だった。一方で、メディーバルデュークモンもまた無傷だった。
「――!」
デクスモンの口から緑色の閃光が走る。
さすがにそれはマズイと感じたのだろう。メディーバルデュークモンの顔が険しいものとなり、その槍が歪む。周囲の空間を歪ませるほどの力が、その槍に集う。
「――!」それは、死の閃光だった。
「“レイジ・オブ・ワイバーン”ッ!」それは、飛竜の如き一撃だった。
死を為す閃光と解放された飛竜の力がぶつかり合う。
そして、爆発のように世界に放散して消えた。
互いに僅かに汚れた程度だった。
「……」
その気ではないとはいえ、自身の一撃が相殺で終わったという事実に、メディーバルデュークモンは顔を顰める。
久しく自分が敵わないレベルの相手だった。武に生きる者の一人として、その壁の存在は何というか、滾る。彼は凶暴に笑った。この目の前のバケモノ相手に、本気で挑戦したくなったのだ。
しかし、結局はその挑戦をすることはできなかった。
「残念だ」
時間切れだ。
「死を齎す者よ、貴様の負けだ」
メディーバルデュークモンは何かに気づいて明後日の方向を向く。
しかし、戦闘中の余所見とはずいぶんと余裕なもの。
「――!」
その隙を、そんなことを考える機能はないから偶然だが、デクスモンは狙う。
特大の爪が、今までにないような速度で迫る――!
「死の化身、死を齎す者――それでも、終わりはある。さぁ、貴様にとっての死が来たぞ」
何処からともなく現れたのは魔法陣。
「“デジタライズ・オブ・ソウル”!」そこから呼び出されたエネルギーの塊が、爪を迎え撃つ。
その光景を前にして、「漸くの到着か」とメディーバルデュークモンは呆れて言った。
一方、
「これでも早く来たんだがな」
そう答えたのはこの場にはいなかった者だった。
また、特大の魔法陣が展開される。そこより現れ出たのは、黒の騎士で。
「まさかまたこいつと戦うことになるなんてな」
そうだ。その騎士こそ、かつてデクスモンを倒した者。
黒を基調として金の縁がある丸みを帯びた重厚な鎧、表裏で白と青の色をそれぞれに持つマントを羽織る――ロイヤルナイツにも同じ種の名がある伝説。
神話の聖騎士にして、始まりの名を冠する聖騎士。
黒の到達者、アルファモン。
「さて」
アルファモンがデクスモンに向かい合う。
迫り来る爪を魔法陣を展開し、迎撃する。その側に、メディーバルデュークモンがやって来た。
彼らは迫り来る爪を弾き飛ばしながら、気楽に会話する。
「貴様はこの死を越えたのだろう?」
「まさか。一人で乗り越えた訳じゃない」
「貴様なら倒せると踏んで我は待っていたのだが」
「俺一人じゃ難しい」
謙遜することなく、アルファモンは事実を言った。
いくら強かろうと老いや死からは逃れられないように、いくら強かろうとデクスモンは倒せない。
アルファモンは確かにかつてこのデクスモンを倒した。かつて倒せたのは、奇跡があったからだ。死さえ切り裂く奇跡の一撃を起こしたからだ。
そして、それはアルファモン一人で起こしたわけではない。
「それでも、此処に来たのは此れの因縁を誰にも渡したくないからだろう? 此れを越えるのは自分の役目だと、そう知っているからだろう?」
「……そうだな」
メディーバルデュークモンの言葉に、アルファモンは静かに同意する。
「ならば良し。呼んだ甲斐もあったというもの」
「……?」
メディーバルデュークモンは槍を振るって鬱陶しい爪を弾きながら、上空を見上げる。
釣られて、アルファモンも上を見て――
「縁があり、道があり、風が吹く。であるのならば何処だろうと届く。何処からであろうと来られる」
――遥か遠くの空の彼方より、流れ星が降って来た。