【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

51 / 64
第五十話~かつてからの進撃~

D.C.2003 NEWデジタルワールド

 

 プロジェクト・アーク――僅かなデジモンたちを旧デジタルワールドからNEWデジタルワールドへと連れて行き、残ったデジモンたちをXプログラムによって滅ぼす。

 そんな、まさに神話の方舟のようなことがあって、その時代は始まった。

 それは激動の時代だった。

 生き残った者たちは病満ちる旧世界を捨てて、生き延びるために新世界に逃げてきた。

 真実に気づかず、そんな者たちを認めないと神の使徒が逃げてきた者たちを殺し回った。

 逃げてきた者たちが持っていた病が新世界にも蔓延した。

 結果、理想郷だったはずの新しい世界でさえ地獄のような過酷な世界となり、激動の時代が始まった。

 そんな中で、

 

「オレは■■■■■って言うんだ。人間だよ」

「俺は■■■■だ」

 

 彼らは出会った。

 何故、この世界に人間がいたのか。何故、パートナーとしてお互いが出会ったのか。そんなことは彼らは興味なかった。

 ただ、必死だった。必死に彼らは弱肉強食の世界を生き抜いた。

 

「に、逃げ場が……!」

「走れ!」

 

――逃げ場もない状況の中で戦ったことがあった。

 

「おっ、釣れた釣れた……ってぇ!」

「何を釣ってるんだぁ!」

 

――魚釣りをしたら水龍を釣り上げてしまって殺されかけたことがあった。

 

「起きろぉ! 敵だぁ!」

「ねむい」

 

――眠っていたら襲ってきた相手を返り討ちにしたことがあった。

 

「■■■。これくらいの敵に手間取っているのか?」

「っ、■■■……!」

 

――自分と同じ境遇である銀髪の少年とその相棒の兜をかぶった獣竜と共闘したことがあった。

 

「お前の食ってる肉よこせぇ!」

「何で!? 普通X抗体の方じゃないのか!」

 

――食事をしてたら食べていたものを狙ってきた輩がいて呆れたことがあった。

 

「デジモンの削除……――貫くは、使命!」

「まさか、■■■■■がX-進化するなんて――!」

 

――最後の名を冠する白き聖騎士と戦って、負けたことがあった。

 

「よかった! 生きてた! よかったぁ……!」

「■■■……」

 

――死んだはずの相棒と運良く再び巡り合うことができた。

 

「行け! アイツのX抗体を奪うのだ!」

「まずい!」

 

――無知故に虫たちのテリトリーに忍び込んで死にかけたことがあった。

 

「無茶だ! このままでは死んでしまう!」

「■■■……何故お前はここにいる? 何故我々は再び出会った。……決まっている。生きる為だ!」

 

――徒党を組んで襲われた時、戦いの最中で知ることがあった。

 

「まさか、神話の中の――!」

「■■■、行こう」

 

――失ってしまった究極の座に別の姿で辿り着けた。

 

「行こう。最後の決戦だ」

「うん。これ以上、命を失っちゃいけない! 戦うんだ!」

 

――銀髪の少年とその相棒と共に、自らが作ってしまった死の化身に戦いを挑んだ。

 

「伝説の巨龍よ……我が魂、我が心の中で、生きろォ!」

「そっか、そうなんだ。命は受け継がれていくもので。だから、命はいつだって死を越えるんだ」

 

――命の尊厳と存亡を懸けた戦いの中で命のあるべき姿を知り、ついに命が死を越えた。

 

「約束だ! 絶対に勝てよ! 勝って、いつかまた――!」

「ああ。俺のパートナーが■■■でよかった。絶対にまた逢おう」

 

――そして、最後の戦いに赴く相棒との別れがあって、約束があった。

 

 それが、D.(デジモン)C.(クロニクル)2003のこと。やり直しのせいで歴史に上書きされた、なかったことになった世界。

 しかし、この世界の外に帰った者たち(人間)は覚えている。

 しかし、至った者たちは覚えている。

 だからこそ、なかったことになろうと約束は必ずそこにある。

 

 ******** 

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド――ベルサンディターミナル――

 

 その時、アルファモンは空を見上げて驚愕した。

 空から降ってきた流れ星――否、人間。見覚えがあった。かつてと同じではない、が、流れた月日分だけデジモンとは違う進化(せいちょう)をした青年。

 ああ、彼こそは自らのパートナーだ! アルファモンは必殺技もかくやというスピードで落下してくるその少年を肩で受け止める。

 

「っ、ててて……久しぶり……」

 

 落ちないように肩にしがみついた茶髪の青年は気恥ずかしそうに笑った。

 アルファモンも、僅かに笑う。

 

「ああ、久しぶりだ」

 

 ついに約束が果たされた。

 お互いがお互いに生き抜く場所があって、故にもう二度と会えないだろうと心の何処かで諦めていた相手との再会だ。

 これほど嬉しい話はない、とアルファモンも青年も笑い合う。

 一方で、

 

「感動の再会の最中で済まないが」

 

 そんな彼らに水を差したのは、空気を読んでデクスモンの猛攻を一人凌いでいたメディーバルデュークモンだった。

 

「貴様を呼んだのは手を貸して欲しいが為。故に」

「わかってるよ。それにしても、またアイツと向き合うことになるなんてなぁ」

 

 青年は頬を引き攣らせながらデクスモンを見た。次いで、アルファモンを見る。

 

「何でアレがまたいるんだ?」

「それは、少し複雑な事情があるんだ……」

「また死んじまったのか?」思うところがあるように、青年はアルファモンに聞く。一方で、アルファモンは複雑そうな表情で首を横に振った。

「違う。いや、違わなくもないが、死んだのは俺じゃない」

「ふーん? ってことは、またイグドラシル関係かなぁ?」

 

 メディーバルデュークモンもアルファモンも沈黙を貫いた。

 

「まぁいいや」

 

 話は後だ、と青年は切り替える。

 デクスモンがいるということは命が失われていくということだ。それを知っている身として、青年はデクスモンをこれ以上好き勝手させる気にはなれなかった。

 

「行こうか、アルファモン!」

「行くぞ、()()()!」

 

 だから、二人は死に向かって突き進む。

 けれど、それ死ぬためではなくて、越えるためだ。後ろに続く誰かの為の道を作るため、道を切り開くためだ。

 

「――!」

 

 デクスモンが叫ぶようにその爪が振るわれる。吹き荒ぶ風が弾き飛ばした。

 一直線の道ができる。青年(コータ)たちは構わず突き進んだ。

 そして、その最中で二人は笑う。

 青年(コータ)もアルファモンも昔の彼らとは違う。過ごした年月が彼らを変えている。だけど、失われたものがあって、変わったものがあって、それでもあの時代のようにいられるのだから、とても嬉しいのだ。

 

「X-CAST! XAIシステム発動!」

 

 青年(コータ)がその手に持つのは、小さな機械。相棒との繋がりの品。かつてこの世界を旅した証。デジヴァイスX。

 

「アルファモン!」

 

 青年(コータ)はそれを()()

 その中に内蔵された運命の振り子が揺れる。

 

「命とは繋がるもの、受け継がれるもの。故に命は永遠に不滅。託されたものは今もここに。故に時を越えて甦れ、救世の剣! 友よ、伝説の巨龍よ、もう一度力を貸してくれ」

 

 アルファモンの言霊に反応して、魔法陣から現れるのは黒金の大剣。

 それこそは空想の巨龍の命が鍛え上げた剣。神話や伝説に語られるような大層な曰くがあるわけではない。が、そんな過去に存在した数々の偉大な存在に引けを取らない、終末にあって未来を掴み取る剣。

 

「アルファモン! いっけぇえええええ!」

 

 青年(コータ)がデジヴァイスXを掲げて叫んだ。

 そこに表示される天の賽が投げられていた。

 示した数字は、六の()

 

「未来を掴み取る。“究極戦刃――」

 

 天運が決まる。否、天運を選び取る。

 

「――王竜剣”!」

 

 そして、死は切り裂かれた。

 

 ********

 

D.C.2018 ダークエリア

 

 その光景を、グランドラクモンの城でコータたちは見ていた。

 

「あれは……オレ?」

 

 特に、青年(コータ)の存在はコータを呆然とさせた。

 

「えぇ。堂本光太(コータ)。かつてやり直しの時代の一回、そこにいた貴方の()()()()()ですよ」

「っ、おり、じなる?」

 

 オリジナル。その意味がわからないほど、コータは阿呆ではない。

 

「貴方は彼のデータ、やり直しに消えた彼の記録を下にして作られた者。彼のコピーです」

「……!」

「コータが? でも、何で……?」

 

 呆然とするコータに代わって聞くのは、ドルモンだ。そのまま気遣わしげにコータを見やりながらも、グランドラクモンを問い質す。

 彼は衝撃の事実に驚いているようではあったが、ショックを受けている様子はなく、どちらかといえば疑問が先立っていた様子だった。

 

「ま、“敵”には必要だったのでしょうね。人間という異分子。この世界にはない存在が」

「人間が?」

「ええ。だから、作った。そして、ドルモンという堂本光太と同じ相棒を与え、かつてと同じ状況を作り上げた。ま、何度か失敗したようですが」

 

 幾度のやり直しの中で、失敗は当然あった。

 例えばコータたちが未だ存続していたロイヤルナイツに敗北したり、例えば襲いかかって来た有象無象の相手に殺されたり、と挙げたらキリがない。

 デクスに辿り着くことなく終えたことの方が多かった。

 

「しかし、今回で辿り着いた。わかりますか? イグドラシルにとっても、“敵”にとっても……世界にとってのポイント・オブ・ノーリターン(やり直しが不可能な地点)が今回になるでしょう」

「え? でも、そのためのやり直しじゃ……」

「一つの力がしているのならばまだしも、二つの力が自分勝手にせめぎ合っているのですから、それは長く保つものではありませんよ」

 

 グランドラクモンとドルモンが話す中、コータは話を聞いていなかった。湧き上がる思考が彼の頭の中にあって、話を聞くどころではなかったのだ。

 自分は偽者だった、誰かの為に作られた代わりだった、という話であるのだから当然だろうが――……しかし、彼には実感がなかった。彼は彼で自分は自分、偽者とかそんなのは意味がない。そんな当然のことをコータはわかっていたから。

 

「話に集中できていないようですし、休憩として一旦外に出て気分を変えてきたらどうですか?」

 

 そんなコータを見て、グランドラクモンはそんなことを言った。

 次いで、「真っ暗闇の世界ですが、私がいない分だけ空気は軽いと思いますよ」と、言外に自分と相対するのは疲れるだろうと言う。

 自虐なのか自慢なのかわからない言葉だが、

 

「そうだな」

 

 コータは、もちろん気分を変えてくるという部分に頷いて出て行った。

 心配そうなドルモンもついて行こうとする、が、「少し待っていただけますか?」とそれを止めたのはグランドラクモンだ。

 

「何?」

「いえ。ま、話を進めないと仕方ないと思いまして。しかし、貴方(切り札)を失う訳にも行きませんし」

「……?」

「彼なら心配ありませんよ。彼が気にかかっているのは偽物だとか、作られた者だとかそんなことではありませんから。自分が誰にとってどのように必要だったのか――自分がどんな歯車なのか、ですから」

 

 グランドラクモンは「強いですよね。ありがちなアイデンティティの喪失に苦しむような悩みは持たないですよ」と笑った。その鈍さを馬鹿にしているような、その心の強さを称えているような、前者の割合が大きい声色だった。

 まぁ、とはいえ、コータがあんな反応なのも当然だろうか。

 アイデンティティの喪失は自分の居場所が居場所ではなかった時に起こるものだ。例えばドルモンのパートナーが実は自分ではなかったとか、そういう話だったらコータも苦しむだろう。

 けれど、実際にはコータ(真)がコータの居場所を奪うようなこともなく、自分のモデルがコータ(真)だったというだけの話。例えるのならば自分の名前は近所のお兄さんにあやかってつけられたものだったとか、そんな程度の話にしかコータには聞こえなかったのだ。

 だから、アイデンティティ云々ではコータは悩みようがない。彼は彼なりに必死に生き抜いてきたのだから、彼は自分を確立させている。

 よって、問題はそこ以外なのだ。

 

「貴方から見て凄く悩んでたように見えましたか?」とグランドラクモンが聞けば、

「……まぁ」とドルモンは曖昧に唸る。

「そういうことですよ」

 

 グランドラクモンはそう言って話を切り、黙った。

 その様子に話が済んだと思ったのだろう。ドルモンはコータを追って外に出る。

 

「コータ?」

 

 しかし、コータはどこにもいなかった。

 

 ********

 

D.C.2018 旧デジタルワールド――跡地――

 

 崩壊した旧デジタルワールド。そこがあった場所には、もはや何もない。時折僅かな岩塊(ゴミデータ)が浮かんでいるくらいの、何もない空間だ。

 しかし、そんなめぼしいものが何もない空間に一つだけ残るものがある。何もない空間にあって目を引く、否、そんなレベルでは済まない、視線を釘付けにしてしまうモノがあった。

 それはこの何もない空間に相応しくない、輝き。

 世界の果てにあって輝きを失わない、最後の名を持つ剣。

 あの偉大なる皇帝の振るうべき聖剣(オメガブレード)

 持ち主が死してなお、それはそこに突き刺さったまま何もない空間で佇んでいた。まるで、それこそが自分の役目だと誇示するように。

 

「いやいやぁ。さすがに手古摺りましたねぇ」

 

 そんな中、感慨深そうな呟きを放つのは、あの悪魔――メフィスモンだ。

 

「しかし、これで終わりですねぇ」

 

 メフィスモンがその手に持つのは、過去世界に置き去りにされたはずの抜刀状態の蛇鉄封神丸。

 それを、メフィスモンは振り上げる。さすがに戦闘で振り回すようなことはできない。だが、全身全霊をかけて時間をかければ、振り上げて振り下ろすくらいならばメフィスモンにもできる。

 渾身の力で振り下ろすべく、旧き世界の幕引きにふさわしい一撃とするべく、魂を練り上げるようにゆっくりと振り上げていく。

 

「ひっひっひ。イグドラシル、偉大なる皇帝、貴方たちの負けです」

 

 そして、蛇鉄封神丸が振り下ろされた。その先にあるのは、担い手のいない聖剣で。突き刺さっていた聖剣が弾き飛ばされる。

 

「さぁさぁさぁ、さぁっ! 我が主が復活しますよぉ!」

 

 聖剣が縫い止めていたものが、始まりに還す剣が初期化し続けていたことでようやく封印していた者が、ついに動き出す。

 

「長かった」

 

 万感の意を込めた第一声。

 永遠を吐き出し、刹那を吸い込むように、その者は静かに思い起こす。

 

「もはや羨み口を開け見る時は終わった」

 

 何かを成し遂げようとして、何も成せずに死んだ誰かがいた。

 志半ばで死ななければならなくなった誰かがいた。

 どんな動機があろうとどんな者だろうと関係なく、敗けてしまった誰かがいた。

 

「これより我々は動き出す」

 

 美しきものだろうと、醜きものだろうと、善きものだろうと、悪しきものだろうと、大層なものだろうと、些細なものだろうと、敗者は敗者。敗者には勝者のように与えられる報酬(みらい)はない。故に未練があって、後悔があって、やりたいことがあって、やるべきことがあった彼らの念は残る。

 その念が声となって、彼らを産む。否、彼らとなる。美しき者も、醜き者も、善き者も、悪しき者も、大層な者も、些細な者も、すべてが敗者となった時点で彼らとなる。

 

「今度こそ」

 

 彼らを突き動かすのはただ一つ。このままでは嫌だという想いだ。

 故に、彼らは思う。

 勝負の仕切り直しを、と。自分たちが持てなくなったモノ(みらい)を持っているモノたちを殺し、そして今度こそ自分たちが、と。

 

「そう、今度こそ!」

 

 正義が集団の中の多数で決まるものと定義付けるのならば、現存するどんな正義も彼らの正義には敵わないだろう。なにせ、歴史の敗者たちすべてが叫ぶのだから。

 故に、彼らの正義こそは歴史の裏側より世界に舞い戻った大いなる正義で。

 

「歴史を我々のモノにする」

 

 それを成す“彼ら”こそ、偉大なる者が()()。あらゆるデジモンの怨念と悲嘆、歴史に存在したあらゆる敗者の化身にして、この時代の悲劇の元凶。

 正十二面体の上方の面に人型の上半身を乗せた、二重螺旋状の触手を持つ者。

 名を、アポカリモン。

 




というわけで、第四章最終話。
ついにラスボスの登場です。いやぁ、まさかアポカリモンがラスボスだったとは誰も思わなかったのではないでしょうかー(棒)

何はともあれ、次回からいよいよ最終章が始まります。
それでは、最後までよろしければよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。