【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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最終章:深世界の敗北者
第五十一話~デジモンクロニクル~


D.C.2018 ダークエリア

 

「おーい? コーター?」

 

 ダークエリアの片隅に声が響く。ダークエリアでは滅多に響かないような、誰かを探す声が響き渡る。

 それは、ドルモンの声だ。彼は先ほどグランドラクモンの城から外に出たコータを探していた。が、見つからない。

「コータ、コータぁ!」

 

 どれだけ叫ぼうともコータは答えない。まるで、どこにもいないかのように。

 まぁ、元々からしてダークエリアはどこの何も見えないような暗闇の世界だ。目視でコータを見つけられないのも無理はない。だから、見えないだけでどこかにはいるのだ、とドルモンは気楽に考えていた。数分前までは。

 

「コータぁ!」

 

 呼び始めて、はや数分。コータの返事はない。その意味が信じられなくて、ドルモンは叫び続ける。

 母とはぐれた子供のように無様に呼び叫ぶ。

 ここがグランドラクモンの城でなければその声を聞いた悪しき者に拐かされる危険もあるだろうに、それさえ気にできないと呼び叫ぶ。

 けれど、やっぱりコータは応えなくて。

 ドルモンはその答えを薄々と勘づきながらも、叫んでいた。

 

「コータ、どこにいったんだよ……」

 

 そして、そんな風に必死に現実逃避をする彼に容赦なく答えを突きつけたのは、

 

「やはり攫われたようですね」

 

 いけしゃあしゃあと笑うグランドラクモンだった。

 

「……! お前っ」

 

 その姿にドルモンは察する。だからこそ、口から飛び出したのは言葉ではなく鉄球だった。

 もっとも、グランドラクモンに比べて遥かに小さな鉄球だ。甲高い音と共に弾かれて終わった。

 

「コータをどうしたんだっ!」

 

 いろいろと教えてくれた相手にする態度としては失礼なものだ。まぁ、相棒を害した暫定の相手としては妥当な対応の一つかもしれないが。

 

「別に私は何もしてませんよ。ええ。何もしなかっただけです」

 

 グランドラクモンはそんなドルモンの無礼な態度にも気にした風はなく、しかしやはり、しゃあしゃあと答える。

 この状況においても余裕を損なわずに何も答えようとしない態度が、何とかしてコータのことを聞き出したいドルモンの気に障り、その分だけ焦りも大きくなる。

 まぁ、年齢も経験も実力も成熟も状況も、その全てにおいて老人と幼子ほどの差があるのだから、今のグランドラクモンの態度を崩して聞き出すのは容易ではないのだが。

 

「コータをどうしたぁ!」

 

 それでも、何としても聞き出さなければならない。ドルモンは吠える。

 

「あぁ、それなら連れて行かれましたよ。件の敵に」

 

 一方で、北極とサウナほどに温度差があるかのように、グランドラクモンはあっさりと答えた。

 

「なっ、なんで!?」

「何でも何も。先ほど述べたでしょう。あの彼はすべての元凶が必要だったから作られた者です。故に、必要になったから()()された。それだけの話です」

「お前っ」

「私にかかずらっていいんですか?」

「……!」

 

 激昴しながらもグランドラクモンの言葉の意味がわかるのか、ドルモンは歯軋りするだけだった。その顔は苦虫を噛み潰したかのような顔だった。

 

「貴方が私にかかずらい、私に殺され、何もかもを無に帰したいというのなら好きにすればいい。私も無礼者を見逃すなどということはしたくありませんからね」

「……!」

「どうしますか? 状況は刻一刻と変化していく。手遅れになるかもしれませんよ?」

「……っくぅ」

「選びなさい。私に殺されるか、それとも――」

 

 ドルモンはすぐに駆け出した。もちろん、グランドラクモンに背を向けて。

 敵わないことなど初めからわかっていて、だからこそ、逃げ出した。生き残ってコータを助けに行くことが重要であり、敵わない相手に挑みかかる無謀はしてはならないことだから。

 

「やれやれ。まさかあそこまで怒るとは。いや、あれこそが生き物として当たり前の姿なのかもしれませんが……私にはわからないことですね」

 

 そんなドルモンの後ろ姿を見ながらも、グランドラクモンは呆れを隠そうともせずに呟く。その呆れはドルモンに対してか、コータに対してか、敵と呼んだ者に対してか、それとも別のものに対してか。

 何はともあれ、グランドラクモンは後ろからドルモンの前に道を造ってやる。

 真っ暗闇の中にポッカリと穴が空いた。

 

「えっ――!」

 

 暗闇の中の穴など見つけようもない。

 ドルモンはその穴の存在に気づけず、落ちていったのだった。

 

 ********

 

D.C.2018 NEWデジタルワールド――跡地――

 

 世界は崩壊していた。

 アポカリモンが復活し、新世界に侵攻を開始したことで、元々デクスモンやらルーチェモンやらが暴れまわったせいでボロボロだった世界は容易く崩壊を始めたのだ。まるで雪の結晶が掌の上で溶けていくかのように。

 そうして過去世界も現在世界も関係なく、何もない空間に砕けて漂っていた。

 ダークエリアほどではないが、真っ暗闇の空間に残骸が漂うだけの場所となっていた。ただ、ダークエリアとは違って、遠くに点在する星のような小さな光が見える。まるで宇宙のようだ。

 それは、他の世界なのだろう。人間の世界や他のデジタルワールド、それ以外にもさまざまに存在する異世界の光なのだろう。

 故に、その光こそは世界という命の光で。

 

「忌々しい」

 

 故に、アポカリモンはその光を忌々しく見つめる。

 もちろん、今すぐに消しに向かいたいところではあったが、彼らはそうしなかった。なぜならば、彼らにはすべきことがあったからだ。

 

「……」

 

 目を閉じ、()()()を待つ。

 しかし、その時が来るよりも早くに邪魔が来ることも彼らはわかっていた。

 

「来たか。いや、ずいぶんと――」

 

 アポカリモンは目の前に視線を向ける。

 そこにあったのは穴だ。そこから飛び出してきたのは、ドルモンだ。

 

「っ、アポカリモン――!?」

 

 穴から出るや否やアポカリモンの姿を視界に収めることになったドルモン。

 彼は驚くことしかできなかった。このヘンテコな宇宙みたいな場所に出た瞬間、こうして弩級のデジモンの姿があったから当然だろうが。

 

「デクスの雛形か」

「まさか……コータをさらったのはお前か!」とドルモンが聞けば、

「コータ……あぁ、さらったというのは適切ではない。返してもらったのだ。我々にとって必要なパーツであったが故に、回収したのだ」とアポカリモンは傲慢にも返す。

「っ」

 

 グランドラクモンの言っていた元凶、コータを作り、誘拐した者――そのすべてが目の前にいるこの偉大なる者(バケモノ)だ。ドルモンは理解する。

 

「我々に挑む気か?」

「……当たり前だ!」

 

 敵わないかもしれない、ということくらいはドルモンもわかっている。偉大なる者の一人を前にしてそこまで楽観を持てるはずもない。戦えば死ぬだろう、ということもわかっている。生存を望む為に戦い続けてきたドルモンにとって、許されるのなら逃げの一択の場面であることも間違いない。

 それでも、ドルモンは戦いを挑む。

 なぜならば、

 

「確かに俺は生きる為に生きてきた。けど、コータを見捨ててまで生きるのは真っ平御免だ!」

 

 ドルモンにとってコータはそれほどの存在だからだ。

 

「取り返す!」

 

 ドルモンはアポカリモンに向けて、この宇宙のような不思議な空間を駆け出した。

 地面がないのに、駆け出せる。その不思議さを気にする間もなく、彼は突き進んだ。

 一方で、「かつて友を見捨てた者がよくも言う」とメイクーモンのことを指して、アポカリモンは吐き捨てる。そこには余裕しかなかった。恐るるに足りないと、わかりきった事実を前に彼らはドルモンを哀れんでいた。

 

「絶対に、かぁつっ!」 

 

 ドルモンは気合を入れた。

 グランドラクモンのところで話は聞いている。だから、できる。やり方はわからない。けれど、参考にすべきものは見たことがある。だから、やる。

 

「進っ化ぁー!」

 

 プロトタイプデジモンは頭の原始的なインターフェースを通して自己情報の改竄ができる。それはつまり進化先の情報さえわかっていれば、それと同じように改竄できる――つまり、進化さえ出来るということだ。

 もちろん、普通はできない。今は退化してしまっているものの、一度進化したことで進化体の情報を記録しているこのドルモンだからできることだ。

 

「ドルガモン――」

 

 成熟期じゃ無理だ。

 

「――ドルグレモン――」

 

 完全体でも無理だ。

 偉大なる者と戦うのならば、必要なのは力。故に。

 

「――ドルゴラモンッ!」

 

 今再び、空想の竜が現実に解き放たれる。

 その姿を、というよりはその進化の輝きを、アポカリモンは不機嫌そうに見つめていた。

 

「……忌々しい。その光が、その針の穴ほどの隙間を強引に通そうとする希望が、何とも腹立たしい」

 

 そして、そんなアポカリモンに向かってドルゴラモンは殴りかかっていく。

 突き出された触手の上を駆け抜け、正十二面体の面を駆け上り、その本体だろう人型の上半身の下にたどり着く。

 

「おらぁっ」

 

 その拳が唸った。拳がアポカリモンの顔に吸い込まれていった。そして、轟音が響く。確かな感触をドルゴラモンはその腕に感じた。

 だが。

 

「……」

 

 だが、アポカリモンは微動だにしない。

 微風が当たったかの如く、ドルゴラモンの渾身の一撃をその顔で受け止めていた。

 

「っ」

「解放された空想の力、この程度か。しかし、だろうな。いかに竜とはいえたかが一体程度の空想が、世界すべての空想を背負う我々に叶うはずもない!」

 

 瞬間、破壊の波動にドルゴラモンは吹き飛ばされた。

 知っている。ドルゴラモンはその技を知っている。自らの技の、“ドルディーン”だ。

 

「なっ」

「集合体である我々に独りで挑むなど笑わせる」

 

 吹き飛ばされたドルゴラモンを追撃するのは、数々の触手だ。DNAのような二重螺旋構造の触手が凄まじいスピードでドルゴラモンめがけて突き進んでくる。

 

「っく!」

 

 ドルゴラモンは必死に捌いた。

 向かってくる触手に拳を叩きつけて止め、尾を振るって逸らし、翼を羽ばたかせて躱す。

 数が多い。だが、戦えている。ならば、勝機はある。

 

「終わりだな」

 

 しかし、その数に気を取られているドルゴラモンは気付けなかった。

 勝機など、初めからなかったことに。

 

「ひっひっひ。無駄な足掻きをしていますねぇ」

 

 聞こえてきたその声を、ドルゴラモンは知っている。

 あの未来世界、自らに死をもたらした悪魔――忘れ難き、メフィスモンの声だ。

 いつの間にかメフィスモンはそこに立っていた。その不意打ちを、ドルゴラモンはギリギリで躱す。

 

「おやおやぁ? そっちに逃げていいんですかぁ?」

「っ」

 

 直後、ドルゴラモンの頭上に影が降りた。

 

「我が主の命だ。ここで死ね」

 

 聞こえてきたその声を、ドルゴラモンは知っている。

 あの現在世界、デジモンたちに絶望を振り撒いていた聖騎士――忘れ難き、オメガモンAlter-Sの声だ。

 頭上から振り下ろされたその右腕の狼剣を、ドルゴラモンは拳を叩きつけて防ぐ。

 その時、ドルゴラモンの背後に気配。

 

「終の戦場、ついにここまで辿り着いたかっ。しかし、残念だったな」

 

 聞こえてきたその声を、ドルゴラモンは知っている。

 あの過去世界、強大な刀を存分に振り回した武者――忘れ難き、タクティモンの声だ。

 蛇鉄封神丸が横薙ぎり振り切られる。オメガモンAlter-Sの攻撃を防御していたドルゴラモンに、それに対応する術はない。

 

「っく――!」

 

 だが、ドルゴラモンは諦めない。自分の死を認めない。

 走馬灯のように脳裏に思い返されるのは先ほどもその姿を目にした、忘れようもないメフィスモンの()()

 

「退っ化ぁ――!」

 

 瞬間、ドルゴラモンはドルモンへと退化する。

 退化したことで、その巨大な体躯が一気に小さなものとなった。その直後のことだ。ドルモンのすぐ下を蛇鉄封神丸が通過したのは。

 

「っ、はぁっ、はぁっ」

 

 何とか躱した。何とか怒涛の攻めを生き残った。

 しかし、ずっと必死を保っていたせいか、それとも先ほどの無理矢理な進化のせいか、すでにドルモンは疲れ果てていた。

 そんなドルモンを見て、

 

「終わりだな」

 

 アポカリモンが無表情にそう言う。

 見れば、ドルモンの周囲には彼が今まで出会った数々の強敵がいた。メフィスモン、オメガモンAlter-S、タクティモン、そして――

 

「……」

 

 ――ラグエルモン。

 例えドルモンの体力が万全でも、ドルゴラモンの状態でも、コータが共にいようとも、一度にこの全員に狙われれば勝ち目はないだろう。

 

「っ、まだ――!」

 

 それでも、ドルモンは前を向く。

 

「……我々も次のやるべきことがある。諦めろ、とは言わん。さっさと死ね」

 

 アポカリモンの声に従って、オメガモンAlter-Sがその右腕の狼剣を振り上げた。

 そして、ドルモンめがけて振り下ろされる――!

 

「まぁまぁ待てい」

 

 だが、それを止めたのは第三者だった。今までこの場にいなかった者だった。

 

「っ、何で……?」驚きにドルモンの目が見開かれる。

 

 そこにいたのは、ボコモンだった。彼は物理的に、その分厚い本(ものしりブック)を盾に狼剣を止めていた。

 

「今更来たのか。この事態になって、もはや手遅れなのに!」

 

 一方で、アポカリモンはボコモンを忌々しそうに睨む。不倶戴天の敵を見るような目で、睨む。

 伝説や神話に語られるような偉大なる者の一人が、たかが成長期のデジモンを本気で敵視していた。

 一方で、敵意を一身に向けられたボコモンは、そんな彼らを見て泰然として笑った。

 

「手遅れかどうか、それは未だわからんじゃろ。結末はまだ決まっておらん。勝利はまだ誰の手にも渡ってはおらん。ここが歴史の岐路。ここで出てこなければいつ出てくるという話じゃろ」

 

 強気に笑っていた。この状況にありながら笑顔で、この状況でありながら余裕綽々といった表情で、胸を張っていたのだ。

 

「ようやく場面がここに至ったんじゃ。世界がこうも壊れればリブートはもはや出来ぬじゃろうが、代償に次に繋がる場面に至れた――」

「貴様……――!」

 

 そこまで言ったボコモンを、アポカリモンたち全員が「この期に及んで邪魔されてなるものか!」と殺しにかかる。

 その光景を前にして、ドルモンが「ボっ、ボコモン――!」と思わず叫ぶ。

 

「――さぁ、ここが正念場じゃ」

 

 しかし、それよりもボコモンの方がずっと早い。

 

「我が真名、()()()()()()の名の下に解き放とう。これこそは歴史書。我が世界のあらゆるすべてを記録し、歴史として残す大いなる書!」

 

 その手に掲げるのは、“ものしりブック”――否。

 

「今こそ世界(みらい)にその価値を示せ! “デジモンクロニクル”ッ!」

 

 そして、歴史が解き放たれる。

 




というわけで、意外なやつが意外なポジションだったという話パート2。
まぁ、パート1と違って薄々と勘づいていたのではないでしょうか。
そして、ものしりブックがチートだった理由も明かされました。

それでは、次回もよろしければよろしくお願いします。
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