【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第五十三話~変異進化~

 ドルモンは進んでいく。戦場の中を、しかし、戦場そのものには関わらないと脇目も振らずに突き進んでいく。

 

「……!」

 

 だが、やはりこの混戦乱戦の場だ。

 いかに上手く進んで行こうとも、必ず壁が立ちはだかる。

 初めに立ち塞がったのは――

 

「何処に行く」

 

 ――あの絶望の聖騎士(オメガモンAlter-S)だ。

 彼は別の誰かと戦っていたはず。その誰かに勝ったのか、それとも誰かに勝つことなくここに来たのか、それはわからない。

 だが、現実として彼はここにいて、

 

「我が主の邪魔はさせん」

 

 その右腕の狼剣を振り上げていた。

 

「やばいっ!」

 

 ドルモンは転がるようにして躱した。躱せた。だが、それだけだ。二撃目は避けられない。進化しようにも、一番初めの攻防で疲労した今のドルモンではそれだけの体力がない。

 そして、狼剣が振り抜かれる。

 

「っ!」

 

 ()()()音が響き渡った。

 

「ブリッツグレイモン! クーレスガルルモン!」

 

 ドルモンを庇ったのは、ブリッツグレイモンとクーレスガルルモン――……図らずも、いや、必然としてオメガモンAlter-Sの元である二人だ。

 

「ここは大丈夫。だから、行って!」

「前と同じ。適材適所だ! 大丈夫!」

「頼んだよ!」

 

 ブリッツグレイモンたちに言われて、ドルモンはまた駆け出した。

 その後を、オメガモンAlter-Sが追おうとするが、

 

「させないよ!」

 

 ブリッツグレイモンたちが立ちはだかる。

 オメガモンAlter-Sは苛立ったように舌打ち一つして、しかし、次の瞬間には呆れたようにブリッツグレイモンたちを見た。

 

「クロニクルの展開によって甦ったか。この分ではまだまだいそうだな」オメガモンAlter-Sが忌々しそうに言う。

「だろうね。ボクたちとしては不思議な気分だけど」とブリッツグレイモンが笑い、

「まぁ、悪い気分じゃないことは確かさ」とクーレスガルルモンも笑った。

 

 それが、その姿が、オメガモンAlter-Sの心中にさざ波を立たせる。

 それを押さえ込んで、彼はブリッツグレイモンたちを嘲笑した。

 

「ふん。大丈夫、と言っていたな。勝てると思うのか? 我が主によって私のパーツとして見出されただけの有象無象が」

「時間稼ぎできれば御の字、勝てればなお良し。っていうか、実際にはボクたちとキミたちの状況は互角だ。互いが互いに、クロニクルが展開され続ける限りね」

 

 ブリッツグレイモンの言葉をオメガモンAlter-Sは嘲笑う。

 確かに、ブリッツグレイモンの言葉は間違いではない。イグドラシルの“デジモンクロニクル”が発動され続けている限り、それにアポカリモンが対抗し続ける限り、この場に現れたデジモンたちは消滅したところで何度でも現れる。

 つまり、この戦争状態そのものに終わりは無いのである。この戦争状態が終わる時は、アポカリモンの成すことが成功するか失敗した時だ。

 

「だから、安心してキミを倒せるんだよ」とブリッツグレイモンが言い放つ。

「俺たちの力、舐めないでもらおうか」とクーレスガルルモンが武器を構えながら言う。

「舐めているのは貴様らだろう。私がここにこうしている限り、貴様らは私にはなれん。その劣った姿でどこまで抗える!」オメガモンAlter-Sが狼剣を向けた。

 

 そして、三者はぶつかり合う。

 クーレスガルルモンの“黄獣偃月刀”がオメガモンAlter-Sの狼剣とぶつかり合う。幾度も幾度も打ち合い続ける。

 その隙に、ブリッツグレイモンが準備するのは背中の“サンダーバーニア”だ。

 

「クーレスガルルモン!」

「よし!」

 

 呼ばれた声に反応して、クーレスガルルモンが飛びず去る。入れ替わり、オメガモンAlter-Sに肉薄するのはブリッツグレイモンだ。

 “サンダーバーニア”が雷を吹いた。

 

「“プラズマ――」

 

 全力の一撃、腕をオメガモンAlter-Sに叩きつける。

 

「――ステーク”!」

 

 だが、オメガモンAlter-Sの行動も早い。その背のマントが“プラズマステーク”との間に差し込まれ、僅かに時間を稼ぐ。その僅かな時間を使って構えるのは、左腕の竜砲だ。

 

「“グレイキャノン”!」

 

 放たれたプラズマがブリッツグレイモンを吹き飛ばす。

 撃ち抜かれることはなかったが、かなりのダメージだ。

 

「ふっ! “獣狼大回転”ッ!」

 

 回転することによって全身を刃と化したクーレスガルルモンが、技を放った直後ノオメガモンAlter-Sに襲いかかる。

 オメガモンAlter-Sは即座に放ち続ける竜砲を止め、右腕の狼剣を振りかざす。

 

「ふっ!」

 

 耳障りな音と共にクーレスガルルモンは弾き飛ばされた。

 

「まだだっ!」

 

 入れ替わり、体勢を立て直したブリッツグレイモンがオメガモンAlter-Sに飛びかかる。

 しかし、遅い。

 狼剣を振った勢いで回転したオメガモンAlter-Sはそのまま竜砲をブリッツグレイモンに向ける。

 眼前に竜砲があって、ブリッツグレイモンは目を見開く。

 

「“グレイキャノン”!」

「ぐあっ」

 

 今度はゼロ距離に近い距離、顔という弱点の一つにプラズマ弾が着弾する。ブリッツグレイモンは吹き飛ばされた。

 

「っ、“激・氷月牙”」

 

 そんなブリッツグレイモンを横目に見ながらも、クーレスガルルモンは止まらない。氷で作った何本もの“黄獣偃月刀”がオメガモンAlter-Sに迫る。

 

「“ガルルソード”!」

 

 狼剣から斬撃が飛ばされる。

 飛来する斬撃が氷刀を薙ぎ払い、

 

「っ!」

 

 勢い衰えることなく突き進んでクーレスガルルモンに直撃する。

 身体を両断されることはなかったが、それでもボロボロになって吹き飛ばされた。

 

「時間を無駄にしたな」

 

 ボロボロになったクーレスガルルモンたち。

 そんな彼らから、オメガモンAlter-Sは背を向ける。一刻も早く、邪魔者(ドルモン)を排除しに行かなければならなかったからだ。

 

「っ、待て――!」

「待てっ!」

 

 駆け出したオメガモンAlter-Sの背に声を飛ばす。だが、聞かれない。聞かれるはずもない。

 まだだ、とブリッツグレイモンとクーレスガルルモンの二人は立ち上がる。彼らは何としても止めたかった。ドルモンを先に行かせたかった。

 それがこの場においての勝利条件だとわかっていた、つまりは世界の為だから? もちろん、そんな理由もある。

 オメガモンAlter-Sという自分たちの化身のような敵に負けたくなかった、つまりは自分たちの為だから? 当然、そんな意地もある。

 だけど、それ以上に、

 

「――まだ行くぞ」

「――行けるね?」

 

 生に固執せずに満足した最期を迎えた者として、彼らは未だ生きている仲間(友だち)を助けたかった。

 未練も後悔もない最期を迎え、安らかに眠って(死んで)いた者が再び起き上がって戦っているのは、彼らがその人生で得た信頼の為だ。

 故に。

 その信頼に報いるために、彼らはここにいる。その信頼に報いるために、彼らは満足していた(その気もなかった)のに再び蘇った。

 その信頼が、力を生む。遥か遠くへ行く為の膨大なまでの力が、などと上手いことはいかない。それでも、ほんの少しだけでも先へ行く為の、僅かな力が生まれる。

 僅かな力だけでいいのだ。

 その僅かな力があるだけで、彼らはまだ戦える。

 その僅かな力があるだけで、彼らは()()()

 

「キミたちの思い通りにはさせない! 進■――!」

「お前たちの思い通りにはならない! ■化――!」

 

 それは、果たして進化と呼べるのか。いや、進化というものが次の世代への変化と定義付けるのならば、それは決して進化とは呼べないだろう。

 それはある意味で、特殊な彼らだから辿り着けた姿だ。

 オメガモンAlter-Sを生み出すため、アポカリモンに人為的に操作された身体を持つ彼ら。

 弄り回され、通常とは違う身体に調整された彼らは、通常の進化など望めない。だからこそ、進化退化を繰り返し、オメガモンAlter-Sに連なる系譜のデジモンに自由自在に進化できた。

 アポカリモンの思惑通りの性能として調整された彼らは、それから外れようともがいた結果、その身体に異常を起こす。

 通常では有り得ない異例の進化。

 通常では有り得ない異例の存在。

 アポカリモンの思惑を超えて、アポカリモンに持たされた性能をすべて捨てて、そこに辿り着く。

 

「ビクトリーグレイモン!」

 

 現れたのは巨大な剣を持つ、ウォーグレイモンに似た“豪傑の竜戦士”だった。

 

「ズィードガルルモン!」

 

 現れたのは数々の実弾兵器を装備した、メタルガルルモンに似た“究極の獣戦車”だった。

 

「撃つ。“ブローバックブレス”ッ!」

 

 ズィードガルルモンが口から放つ、発射エネルギーがオメガモンAlter-Sを襲う。

 

「――っ、何?」

 

 ビクトリーグレイモンにズィードガルルモンなどという異常に驚き震えるオメガモンAlter-Sに、ビクトリーグレイモンはその剣“ドラモンブレイカー”を思いっきりに叩きつける。

 もはや剣というよりは鈍器のような、豪快な扱いだ。

 その重量の乗った一撃を、オメガモンAlter-Sは狼剣で何とか防ぐ。

 

「っぐ――!」

 

 だが、耐え切れずに吹き飛んだ。いや、ダメージを減らすために自ら飛んだのか。

 

「まさか、このようなことが。我が主の呪いを振り払ったとでも?」

「知らないよ。お前の主のこととか、何にも。それでもボクたちはここにいて、ここに立っている。それがすべてだ」

「これでもまだ俺たちを無視するのか」

 

 オメガモンAlter-Sは目を閉じた。仕方ない、とでも言いたげに。そして、「我が使命、邪魔するな――!」と駆け出した。

 さっさと終わらせて、ドルモンを追うことに戻るつもりなのだろう。総力で言えば、ビクトリーグレイモンたちはブリッツグレイモンたちだった頃とほぼ変わらないということ見抜いたからこその対応だ。

 だが、そんな彼は見落としている。進化したばかりの新進気鋭の勢いを見落としている。自分の焦りにも似た性急な感情を見落としている。

 

「“グレイキャノン”ッ!」

 

 竜砲から放たれるプラズマ砲。

 真っ直ぐに突き進むそれを躱そうともせず、いや、敢えてその射線上にビクトリーグレイモンは立つ。

 

「“ビクトリーチャージ”ッ!」

 

 それはビクトリーグレイモンの剣技の一つ。相手の技を受け流し、逆転させ、跳ね返すカウンター技だ。

 もちろん、オメガモンAlter-Sほどの実力者の攻撃だ。返しきれるものではないし、次からは対応される初見殺しの部類でしかないだろう。

 だが、それでいい。()()()これで決める。

 ビクトリーグレイモンは返しきれなかった分のダメージが自らの身体を傷つける、ヒリヒリとした焼ける痛みを感じていた。

 一方で、

 

「――!」

 

 驚くオメガモンAlter-Sは跳ね返ってきた、幾分か減衰した自らの技を右腕の狼剣で切り払った。それは僅かだが隙だ。

 その僅かな隙を、ビクトリーグレイモンたちは逃がさない。

 

「“ズィード――」

 

 ズィードガルルモンの背中から砲筒が現れ、その超弩級の最終兵器にエネルギーがチャージされていく。

 

「“トライデント――」

 

 大剣が分割され、ビクトリーグレイモンの両腕に装着。大気に存在するすべてのエネルギーが剣先に集中する。

 

「――砲”!」

「――ガイア”!」

 

 放たれたエネルギーがオメガモンAlter-Sを押し潰さんと迫る。

 

「っ、舐めるな! “ガルルソード”!」

 

 対して、オメガモンAlter-Sは右腕の狼剣より斬撃を放つ。

 だが、チャージが足りていない。その狼剣に万物を断つほどのエネルギーは貯まっていない。

 

「――く!」

 

 そして、斬撃は二つの莫大なエネルギーの塊に押し負ける。

 オメガモンAlter-Sに、それを躱す術はない。そうして、オメガモンAlter-Sはエネルギーに押し潰されて消えたのだった。

 

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