【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
戦いは激化の一途を辿っていた。
ビクトリーグレイモンたちとオメガモンAlter-S、デュランダモンとタクティモン、彼らの戦いなど氷山の一角。
この場所の至るところで因縁や宿命の対決が、あるいは、何にも関係のない者たち同士による対決が行われていた。
「ひっひっひ。終わらずの戦い、繰り返される争い、休むことも癒されることもなく続いていく……何ともまぁ哀れですなぁ!」
敵も味方も、いや、この場で戦い続ける者たちすべてを嘲笑って、その
彼はただ待っている。自分の主の下へ行くのならば、必ず最短の道を通り、故にここに現れるだろうと予想して。
そして、その予想通りに、
「っ、悪魔!」
ドルモンは現れる。
「いけませんねぇ。ここからは行き止まり。もう終わりですよぉ。先ほどまでのように手助けしてくれる心優しい誰かなど付近にはいませんしねぇ?」
そう、この辺りにはドルモンを助けようとする者たち、ドルモンを知る者たちはいない。もちろん、本能でドルモンこそが勝利の鍵だとわかっている者はいるだろうが、そういった者さえいない。
この辺にいるのは、ただただ目の前の相手と戦い続ける者たち、あるいは、戦わなければならない者たちだけ。
ドルモンを助ける者たちはいない。オメガモンAlter-Sたちの失敗を嘲笑いながら見ていたメフィスモンは、そういう場所を狙って待っていた。
「さぁて、貴方にはずいぶんと手を焼かされましたし、殴られもしましたからねぇ。珍しいんですよ? 私がこれほどまでに根に持つのは」
「退け!」
「退きませんよぉ。いいですねぇ。その焦った顔! もっと見せてくださいよ!」
メフィスモンは嗤いながら、一瞬でドルモンに接近する。
その足が鋭く動いた。前に突き出された足、つまりは蹴り。ドルモンには躱せない。
「ぐふっ!」
蹴りが入って、ドルモンは後方目掛けて吹っ飛んでいく。まるでボールのようだ。何とか体勢を立て直そうと立ち上がろうとしたドルモンだが、そんな彼は見た。
すぐ目の前に、にっこりと笑うメフィスモンがいた光景を。
「えい!」
音符マークが付きそうなほどの
「あはははは。本当にボールのようですねぇ。人間の世界ではこういうゲームがあるんでしょう? 何でしたっけ? 友達をボールに、でしたっけ? まぁ、よく知りませんがなるほど楽しい! えぇ! 良い光景です!」
再び蹴りがドルモンに突き刺さって、また彼は後方に吹っ飛んでいった。
「それでどうです? 必死で進んできた距離がもうこれだけ戻ってきてしまった気分はぁ?」
「……!」荒い息を吐き出し、痛みを堪え、ドルモンはメフィスモンを睨んだ。
「何ですか、その顔は。貴方たちにはほとほと苦労させられたんですよ? 苦労には報いがあるべきでしょう。勝ち取った平和には安寧という報いがあって、得られた食事には満腹という報いがある。物事には報いがあり、苦労させられた分は私が楽しんでもいいでしょう?」
メフィスモンはそんな戯言を言って笑う。
いや、言っている内容はそこそこ道理っぽいのだが、ただの言い訳というか、思ってもいないような、それなりに説得力のありそうな言葉を最もらしく言って楽しんでいるだけだ。
「さぁさぁ、どうします? このままだともっと戻ってしまいますよぉ!」
三度目の蹴り。
三度目の後退。
ドルモンはまた後方へと吹っ飛んでいく。
「ああ、このままタクティモンやオメガモンAlter-Sのところまで連れて行くのもいいかもしれませんね! 彼らがミスした彼らの仕事なのですから、彼らに片付けてもらわなくてはねぇ」
良いアイディアが思い浮かんだとばかりに、メフィスモンは足を後ろに振り上げる。そして、思いっきり蹴飛ばした。
今までにないほどの物凄い速度で蹴りがドルモンに突き刺さった。ドルモンは吹っ飛んでいく。
「うっ!」
浅い放物線を描いて、サッカーのミラクル
そう、それはパスだった。
その時、ドルモンは衝撃を感じた。誰かにぶつかったような、そんな鈍い衝撃だ。しかし、それにしては痛くない。まるで強引にだが誰かに受け止めてもらったかのように、先ほどまでと比べて痛みがなかった。
「果たすべき使命があり、成すべき仕事がある。目の前に終わりがあるのに、いたぶって楽しむだけか。忠義とは程遠い。いや、貴様ら外道の者に正道の心を期待するだけ無駄か」
いや、受け止めてもらったのだ。
ドルモンは目を見開いて、自分を受け止めた
しかも、デジモンクロニクルによって召喚されたその聖騎士
「な、貴方は――!」
驚きと共に、メフィスモンは震えた。
ああ、そうだ。そこにいたのは驚くべき相手だった。
かつてやり直しの最中の一回、黒の者と同じくその時に至った者だった。それでいて、黒や赤とは違ってこの事態において何の干渉もせずに静観していた者だった。
「ことこの事態に至り、我が主が動いているというのに何もしない騎士はいまい。私の再現体も私の模造体もいるようだが、私は未だここに生きている」
左腕に竜頭の籠手、右腕に狼頭の籠手、そして白きマントを身につけた聖騎士。それこそは白の到達者――オメガモンX抗体。
「お、オメガモン……?」
Alter-Sではない、本物のオメガモンだ。しかも、自分と出会っていたということもない。なぜ彼が助けてくれたのかわからなくて、ドルモンは混乱した。
一方で、オメガモンX抗体はそんなドルモンを横目に見ると、すぐに落とした。その目は無機質的で、酷く冷たいものだ。
「私は我が主の真意を履き違えていたようだ。が、私の答えは変わらない。世界の安定と安寧の為にはデジモンなど不要。あのような愚かしい存在が生まれ出でるとなれば尚更」
オメガモンX抗体は静かに言った。何の感情も感じさせない声だった。表情も相まって、まるで機械的というか、何も感じていないかのようだ。
もちろん、そんな訳はないのだが。
「それでも私がここに来たのは、我が主の戦場であるが故。しかし、私は貴様がどのような結末の為に走ろうと知ったことではない」
そう言うと、オメガモンX抗体は足を僅かに動かす。後ろに。
それを見たドルモンは次に来ることがわかって、頬を引き攣らせた。
「ちょ、まっ!」
「こんなところで油を売っているな」
そして、メフィスモンのそれ以上の衝撃がドルモンを襲う。
凄まじい速度で蹴られたのだ。よって、凄まじい速度でドルモンは目的地の方角へと突き進んでいく。星となって消えた彼の姿を見届けて、オメガモンX抗体は改めてメフィスモンの方を見た。
一方で、メフィスモンは到達者という弩級の存在を前に動けずに固まっていた。必死に状況の打開策を探っているようだ。
「我が主の侮辱、酷いですねぇ。ひひ」
「道化を演じたところで演じているという事実は消えまい」
「演じているのは貴方も同じでしょう。ひっひっひ。そんなに苛立ちますかねぇ? 人間とパートナーという邪魔者が! 世界の秩序を崩す存在だろう、我々を始めとした生命が!」
「……」
「貴方はもはや自らの思想の間違いを悟っている。それでいて、それを直そうとはしていない。だから、今の今まで静観していたんでしょう?」
オメガモンX抗体はかつて、その思想に至った。
デクスを見たことで、生きようとする生命の意思が世界を汚し、壊していくのだと理解した彼は世界の為に生命の抹殺の思考に至った。
もちろん、それそのものは直後の
今でも彼はその思想が正しいと思っている。
「命は生きる為にある。確かにそうだ。世界の秩序を壊そうと、世界を崩そうと、命は生きようとする! それを、私は認めない。命は世界と共にあるべきだ」
「ひひっ。傲慢ですねぇ。命の自立を認めないと。到達者らしい、自我の塊です。矛盾ですねぇ。そんな突出した個我、力、それこそが貴方という命が自立していることの証明であるのに!」
「そうだな。私は間違えているのだろう。間違っているのだろう。それでも、私は止まらない。止めたければ、殺してでも止めてみろ。かつての者たちのように」
そう言うと、オメガモンX抗体は「もういいだろう?」とメフィスモンに聞く。
一方で、メフィスモンは「はい?」と惚けた。
そんなメフィスモンに、オメガモンX抗体は容赦なく突きつけた。
「時間稼ぎに付き合ってやったんだ、もういいだろう?」
「……!」バレている、とメフィスモンは必死に頭を回転させる。
「何か良いアイディアは思いついたか? 適当な言葉遊びで私を動揺させられたか?」
「……」
だらだらと冷や汗を流しながら、メフィスモンは打開策を探る。
戦えば負けだ。ガルフモンに進化したところで、到達者であるオメガモンX抗体を前にすれば少しも保たないだろう。
何か、何かないか――! と必死に策を練るメフィスモンに、オメガモンX抗体は呆れて見ていた。
「時間稼ぎをすればするほど不利になるのは貴様の方なんだがな」
「……ひひっ、さて、それはどうでしょうねぇ?」
「根っからの道化が。“デジモンクロニクル”に召喚された者ではなく、この場に直接赴いて来ている者が私だけだと思ったのか?」
「ひ?」
「あるいは、“デジモンクロニクル”でさえ召喚に時間がかかるような規格外の存在がいるとは思わなかったのか?」
そうだ、メフィスモンはそれを見落としていた。
事態に静観していた
その時、メフィスモンは背後に立った何者かの気配を感じた。
「そういうことだ」
聞こえてきた声を、メフィスモンは覚えている。
この圧倒的なまでの気配を、メフィスモンは覚えている。
「白の到達者。悪いが、コイツの相手は譲ってもらおう」
「皇帝ともあろうものが私情で戦場に出るのか」
「それを言われると弱い。が、何。片手間で済むことだからな」
オメガモンX抗体は呆れたように背を向け、どこか別の戦場へと去っていく。
そんな彼を眺めながら、恐る恐るメフィスモンは後ろを振り向いた。
「久しいな。悪魔」
そこにいたのは、かつてメフィスモンが不意打ちでトドメを刺した者。それを根に持っているのだろう、慈悲深き顔で笑っている。
「いっ、偉大なる――」
「再現体の身ではあるが、借りを返しに来たぞ」
その者こそは最強の聖剣をその手に持つ、偉大なる皇帝――インペリアルドラモン:パラディンモード。