【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
メフィスモンは詰みが迫っているのをひしひしと感じてしまっていた。
偉大なる者や到達者の参戦は予想の範囲内だったとはいえ、その数と早さが予想外だった。参戦してくる者はせいぜい黒や赤くらいだと予想していたし、邪魔をしていた為にもっと遅くなるとも思っていた。
だが、現実はどうだ?
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メフィスモンが遠くを見る。
「残念だ。質も数も足りぬ」
向かい来る風の暴威に抗える者などひと握りしかいまい。
「ガァッアアアアアアアア!」
「惜しいな」
その時、何とか耐えたそのひと握りの
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メフィスモンはまた別の方向を見る。
「再現足りえず、本物にも成りえぬ、何にもならぬ模造品。邪魔だ」
「貴様ッ!」
自らと同じ名前であるだけのお前の力など障害物でしかないと、オメガモンX抗体は左腕の竜剣で突き出された狼剣ごとオメガモンAlter-Sを両断したのだ。
「っく、おのれ――!」
「この程度では私には届かん」
死ぬ間際、一矢報いるとオメガモンAlter-Sは竜砲を突き出すが、しかし、オメガモンX抗体はそれをわかっていたとばかりに軽々と躱して終わった。
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参戦が早過ぎるし、オメガモンX抗体も、メディーバルデュークモンも、圧倒的過ぎる。
到達者と呼ばれるのは伊達ではない。身体スペックが違う、火力が違う、経験が違う、見えてる視点が違う、何もかもが違い過ぎて彼らだけで戦況が傾き始めている。
「……く、こんなことが」
もちろん、総数は減らない。瞬殺されたオメガモンAlter-Sだってすぐに復活したし、吹き飛ばされた数々の敵だって甦っていく。
いかに火力オバケな到達者とはいえ、それでも見れる範囲に限界はあるのだから、彼らの手の届かない戦場も当然のようにある。
だが、それでも。
「我が主は――!」
この勢いは、まずい。圧倒的強者が味方に付いたことによって勢いづいた彼らは、ダメだ。だって、彼らは歴史の勝者で、自分たちは歴史の敗者なのだから。
心中で自分たちの現状を正しく認識したメフィスモンは焦りながら、道を探る。策を練る。
目の前にいる偉大なる者の存在に対しての対策を放棄しても、考え続ける。どうせ甦るのだから、勝てない戦いに思考を割かないという訳だ。
「誑かし、堕とすのが役目の悪魔でもこうなればどうしようもないといった感じだな」
そんなメフィスモンを前に、偉大なる皇帝はその最強の聖剣を使うのも惜しいと、その右腕を突き出す。そこに砲筒が装着され、メフィスモンに向けられる。
「久しぶりの全力だ。せいぜい味わうといい。“ギガデス”!」
星さえ砕く一撃が放たれる。
メフィスモンを消し飛ばし、戦場を横断し、数々の命を散らせる。もちろん、皇帝として味方を吹き飛ばすなどという愚は犯さない。射線上に味方がいなくなるその一瞬を狙い撃った。
やがて、光が収まる。
数秒後、泥からメフィスモンが甦る。
「こういう時は偉大なる吸血鬼やロイヤルナイツの神馬が便利なのだがな」
片手間で吹き飛ばせる相手ではあるが、何度でも甦ったり再生したりするのは鬱陶しい。そんな至極当然の感情を抱く偉大なる皇帝は、こういう時の対策として有効な者たちを思い浮かべる。
残念ながら、片方はこの戦場に来ていないし、もう片方はこの戦場の何処にいるのかさえ不明なのだが。
「さて。皇帝たるもの、他の者が戦っているというのにこのまま遊んでいる訳にも行くまい。余が動くのは良くないが、世界や歴史の為とあれば致し方なし」
偉大なる皇帝はそのままメフィスモンの頭を掴む。
そして、
「お前は余に付き合ってもらうぞ」
そのままぶん投げた。
先ほどのドルモンと同じように、メフィスモンは戦場を吹っ飛んでいく。
偉大なる皇帝は、メフィスモンだけに付き合えないから別の戦場にまで一緒に連れて行く、ということにしたのだ。
そうして、偉大なる皇帝も戦闘に参加する。
また一つ、圧倒的なまでの蹂躙劇が展開される戦場が増えたのだ。
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一方その頃。
勢いづいたイグドラシル側のデジモンたちは多くいる。だが、その中でも歴史から召喚された者たちではない、すなわち、今を生きる者も――諸々の悲劇のせいで少ないが――いる。
そんな者たちの中でも指折りの実力者であるのは、隠すまでもなく、ウォーグレイモンX抗体とメタルガルルモンX抗体だ。
彼ら二人が今戦っているのは、
「……死ネ!」
ラグエルモンだ。
彼らは目の前のラグエルモンがあのメイクーモンの進化体であり、自分たちレジスタンスを壊滅させることになった原因の相手だとは知らない。
ここで戦っているのだって、偶然に出会った結果だ。
それでも、彼らは全力で戦っていた。だって、ようやく辿り着けたのだから。
自分たちがここにいるのは偶然で、自分たちの努力の結果ではなくて、それでもここにいる。すべての黒幕がいる、世界の行く末を決める場所にいる。いることができている。
だから、彼らは戦っていた。勝つために、生きるために、戦っていた。
「“ガイアフォース”ッ!」
「“コキュートスブレス”ッ!」
巨大な火球が、吐き出された凍結の息が、ラグエルモンを襲う。
「“パーホルス”!」
一方で、ラグエルモンが放つのは両腕と腹部の宝玉より出すレーザー弾。
それは、この時代にいる者の中でも指折りの実力者であるウォーグレイモンX抗体たちの合体技を相殺するほどの威力はない。
だが、それでも相殺できなくても、受け流し、方向を変え、直撃しないようにすることはできる。
一瞬後、両者たちの攻撃は何処にも届かずに彼方に消えていく。
「最新ノ強者、最新ノ勝者! オ前タチガ、オ前タチサエ、イナケレバ!」
瞬間、ラグエルモンは距離を詰める。
その先にいるのは、メタルガルルモンX抗体だ。
「死ネ!」
その禍々しい尻尾と両爪がメタルガルルモンを狙う。
だが、メタルガルルモンだって負けてはいない。その身体中に装備されている銃火器が火を噴いた。
雨あられ、目の前を隙間なく埋め尽くす弾幕。
「ック!」
ラグエルモンは必死にやり過ごした。爪で切り裂き、尾で弾き飛ばし、また鎧で耐える。一歩一歩、確実に距離を詰めながら、メタルガルルモンX抗体の猛攻を堪える。
メタルガルルモンX抗体の猛攻がラグエルモンを倒しきるか、あるいはラグエルモンがメタルガルルモンの下に到達するか。
しかし、それは一対一だった場合だ。
メタルガルルモンX抗体はアイコンタクトをする。その先にいるのは、ウォーグレイモンX抗体だ。
自分の相棒が自分にフレンドリーファイアをするなんていうヘマなどしないことは、彼自身がよくわかっている。
だから、ウォーグレイモンX抗体は安心して弾丸の嵐の中に飛び込む。
「“ガイアフォース――」集中する。手の痛みを無視して、ただひたすらに圧縮させる。
放つのは、ガイアフォースを極限まで一点集中した塊。
ガイアフォースと比べてあまりにも小さなそれは、しかし、そのすべてのエネルギーが一点に集中、圧縮されている高密度のエネルギー弾。
巨大な火球と比べて広範囲を攻撃できない分、一点突破の破壊力に長けたウォーグレイモンX抗体の奥義。
「――ZERO”!」
「グ、アッ!」
ゼロ距離で解き放たれた高密度の力の塊がラグエルモンの胴を喰らう。
これには耐え切れない、とラグエルモンは倒れ伏し――なまじ身体の損壊が少なかったからだろう、次の瞬間には泥と共に甦る。
「っく、まだか……!」
「へこたれるな、メタルガルルモン!」
「へこたれてなんかない! まだまだ行ける!」
ウォーグレイモンX抗体たちはその光景に苦い思いを隠せなかった。
彼らは今を生きる者。“デジモンクロニクル”によって召喚された者ではない者。故に、他の者たちと違って死ねば甦れない。一度死んで疲労をリセットするなんていう荒業さえ出来ない。
今や彼らは疲労が現れ始めていた。
すでに何度倒したことだろうか。何度も何度も甦る不死身の再生軍団を相手にするには、一度きりの人生を生きている者には辛過ぎたのである。
「ソロソロ死ネ。頑張ルナ。オ前タチ勝者ガ頑張ルカラ、イツダッテ我々ガ負ケルノニ……!」
ラグエルモンが駆け出す。
ウォーグレイモンX抗体の方向に。
「ウォーグレイモン!」
咄嗟に、メタルガルルモンが声を上げた。
もちろん、ウォーグレイモンX抗体はただで死ぬつもりはない。両腕を構えて、接近してきたラグエルモンに向かっていつでもカウンター攻撃を仕掛けられるようにして――
「なっ?」
――だが、ラグエルモンはウォーグレイモンX抗体を素通りした。
ただ素通りする訳がない。何かある。何かを仕掛けようとしている。そんな、至極当然の帰結に一瞬で至ったウォーグレイモンX抗体は振り向く。
ラグエルモンはウォーグレイモンX抗体たちに背を向けていた。まるで、ウォーグレイモンX抗体たちなど敵ではないとばかりに。
いや、正しくそうなのだろう。
敵ではないと言うよりは、敵ではなくなったと言うべきなのかもしれないが。
「通サン!」
ラグエルモンの視界にあるのは、ウォーグレイモンX抗体でもメタルガルルモンX抗体でもない。
必死に
「っ、ラグエルモン――!」
ラグエルモンの狙いはドルモン。
それに気づけても、ウォーグレイモンX抗体もメタルガルルモンX抗体も気づくのが遅過ぎた。そうだ、ドルモンを助けるには遅過ぎる。
ドルモン自身は気づいたが、ここまでの間でいろいろとあった彼では躱すだけの身体スペックも無駄な体力もない。
「ココデ終ワレ!」
気づけば、ドルモンの目の前にはラグエルモンの爪があって。
「させないニャー!」
気づけば、庇うように空から