【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第五十八話~最後の壁こそ、究極の敵~

 黄金の鎧の上に白衣を着込み、黄金の翼を携えた、獣耳の座天使。

 ラジエルモンという名のその天使の姿に、

 

「イグドラシル、ノ助力ダト――。フザケルナ。フザケルナ。フザケルナ。ナンデ、オ前ダケガァァァァアアア!」

 

 ラグエルモンは怒りを隠しきれない。

 いや、その原動力になっているのはやはり。

 

「ドルモン、下がって。大丈夫だからニャ」

「……うん!」

 

 そう言うと、ラジエルモンは一歩前に出た。

 ラグエルモンとラジエルモンの視線が交差する。両者共にそこにあったのは、嫌悪の感情だった。その感情を隠そうともせず、両者はさらに一歩を行く。

 

「ニャァァァァッ!」

 

 ラグエルモンの両腕と腹部にある宝玉から、眩いばかりの光が発せられる。

 

「ニャァァァァー!」

 

 ラジエルモンの両腕の籠手に魔法陣が展開され、溢れんばかりの五大元素が集う。

 

「“パーホルス”!」ラグエルモンから放たれたレーザー弾と、

「“ノウレッジストリーム”!」ラジエルモンから放たれたエネルギー、

 

 膨大な力の奔流同士がぶつかり合った。

 ドルモンは必死に堪えた。余波による衝撃で吹き飛びそうになる中、それでも必死に堪えた。ここだけは見届けなければ、力を貸さなければいけないと、わかっていたから。

 

「っ、進っ化ぁー!」

 

 なけなしの力で、ドルモンは進化する。ドルゴラモンへと進化する。

 体力からして、進化していられるのはほんの一瞬だ。それでも、そのほんの一瞬で成し遂げる。

 

「“ドルディーン”!」

 

 友への手助けを。

 破壊の衝撃波がラジエルモンの技に加わって、ラグエルモンのレーザー弾を押していく。

 

「ッ――!」

 

 ラグエルモンの顔が醜く歪む。

 それは決して疲れたからでも、負けそうになっているからでもなくて。

 

「“ガイアフォース”!」

「“コキュートスブレス”!」

 

 遠くから、さらに届く。想いが、届く。それはギリギリで意識を取り戻し、戦線に復帰した“彼ら”の手助けだった。

 ラグエルモンの顔がさらに醜く歪んだ。原型も止めないほど、その表情は醜く歪んでいる。その表情が、彼女の想いの大きさを如実に現していた。

 

「――!」

 

 そして、ついにレーザー弾が押し切られる。

 ラグエルモンが最後に見たのは、光だ。眩しくて眩しくて、鬱陶しくなるほどの光だ。彼女は何となくそのさまざまな色が集った光を美しい(醜い)と思ってしまって。

 

「ズルイ、ニャ」

 

 自分の単色の光が酷く寂しくて醜いもの(唯一の美しいもの)に思えて、だからこそ、ラグエルモンは嗤う。

 目の前の絆だ何だと戯言を体現する者たちを、独りぼっちの自分を、嗤う。

 

「――!」

 

 ラグエルモンは莫大な力に呑まれて消えた。

 すぐに泥から再生する。が、

 

「“コキュートスブレス”ゥウウウウウッ!」

 

 最大火力でメタルガルルモンX抗体が氷漬けにする。もちろん、すぐに剥がされるだろう。が、少しは保つ。

 

「ドルモン!」ウォーグレイモンX抗体が声を上げた。

 

 その意味を、ここまで来たドルモンは知っている。予断を許さない状況であることも、自分がここにいたところで出来ることはもうないことも、彼にはわかっていた。

 だから、ドルモンは有り難くその厚意を受け取る。振り返らずに、駆け出した。

 

ラジエルモン(メイクーモン)、君はドルモンと一緒にいけ。オレたちはここでこいつを抑える」

 

 そして、未だ残っているラジエルモンに向けてもウォーグレイモンX抗体は同じことを言う。

 

「でも……」

「余計な心配だぞ。こいつと直接戦い続けるのならともかく、復活と再生の隙を突いて足止めし続けておくことくらいはできる」ウォーグレイモンX抗体が肩を竦めて言い、

「情けない話、疲労がたまっていてね。さっきの一撃も効いたし。……直接解決に動けないのは悔しいけど、でも、出来ることから目を逸らすわけにもいかないからね」メタルガルルモンX抗体が苦笑う。

 

 自分の有り得たかもしれない可能性を他人に任せるということに、ラジエルモンは申し訳なさそうにしながらも、結局彼女はドルモンの後を追った。その去り際に、頭を下げて。

 

 ********

 

 ウォーグレイモンX抗体たちと別れたドルモンたちは、目的地(アポカリモン)めがけて走っていた。目と鼻の先という訳ではないが、ここまでの距離を考えればあと少しと言っても過言ではない距離だ。

 

「っていうか、ラグエルモンじゃないんだね」

イグドラシル(ボコモン)のおかげニャ。まぁ、今回限定だと思うけど……」ラジエルモンは残念そうに息を吐く。

 

 ドルモンは「イグドラシルかぁ。いろいろと変な噂あったし、黒幕疑惑もあったけど、実際はそれと同じくらいアレだったよね」と笑う。

 すると、

 

「アレってどういうことじゃい!」

 

 と、ラジエルモンの中から声が飛んできた。

 ドルモンはびっくりして目を丸くしている。まぁ、一番驚いているのは、ラジエルモン自身なのだが。

 

「いや、だってメイクーモンに力を貸してるし、後ろでふんぞり返ってるし、いろいろと画策しているみたいだし、だいぶはっちゃけてるじゃん」

「たまにはわしだってはっちゃけるわい!」

 

 当のイグドラシルに、はっちゃけている意識があるのだろう。言い訳のような勢いが飛んできた。

 まぁ、ドルモンは「そのはっちゃけ具合が問題だと思うんだけど」と呆れたように言葉を締めた。神様クラスの存在のはっちゃけほど面倒なものはないからだ。

 そして、それはイグドラシルの方がよくわかっているのだろう。だからこそ、

 

「……けど、これくらいじゃぞ。わしにだって立場があるんじゃからな」

 

 と言葉はそれを最後に途切れた。

 まぁ、いろいろと言ってしまったが、立場を押してでもしてくれた助力だ。素直にありがたいことである。だから、聞こえているだろうという下に、ドルモンとラジエルモンは「ありがとう」と言う。

 遠くで空間が震えた。

 

「さて、急ごう!」

「ニャ!」

 

 そして、ドルモンたちは走る速度をさらに上げる。

 だが、

 

「ニャっ!?」

 

 だが、

 

「なっ、まだ泥が――!」

 

 だが、まだ壁が立ち塞がる。

 最後の関門とばかりに、壁のように泥が立ち上り形作る。それが、二つ。

 その二つの形は、シルエットだけ見ればほぼほぼ同じものだった。それは、ドルモンにとって直接は見たことないものの、何処か覚えのある姿だった。

 

「ここに来てこれが来るニャ!?」

 

 というか、覚えどころの話ではないか。

 剣のような鋭さを持つ、破壊の巨竜。ドルモンの進化先である、ドルゴラモン。

 拘束具によって形を保つ、死の巨竜。ドルゴラモンが死して堕ちた姿である、デクスドルゴラモン。

 

「ドルゴラモン――!」

 

 そうだ。最後に立ち塞がるのは、二体の巨竜。

 それはドルモンにとって馴染み深い、彼の力の証。それが、立ち塞がる。

 

「“ドルディーン”!」

 

 意識はないようにドルゴラモンは暴れる。

 破壊の衝撃波が放たれた。

 

「ドルモン、下がるニャ。“ノウレッジストリーム”!」

 

 破壊の衝撃波を、膨大なエネルギーが迎え撃つ。

 しかし、破壊そのものとさえ言える力の塊は、難なく五大元素のエネルギーとせめぎ合って――

 

「――! “メタルインパルス”!」

 

 ――ラジエルモンの頭上に飛び上がったデクスドルゴラモンが、死の鉄球を放つ。

 衝撃波を迎え撃っているラジエルモンに、それに対抗することはできない。だから、無理矢理に放っているエネルギーを暴走させ、その爆風で鉄球と衝撃波を躱す。

 

「メイクーモンッ!」

「大丈夫、ニャ!」

 

 一体だけならまだしも、一撃の威力がバカみたいに高いやつが二体。一体を相手している間にもう一体に攻撃されたらそれでアウト。

 ドルモンもラジエルモンも冷や汗を垂らしていた。

 ドルモンが進化し、ドルゴラモンになったところで疲労による活動制限がある状態では、結果はたかが知れている。

 であれば。

 

「ドルモン……」

 

 ここまでの者たちと同じように、自分が足止めするしかない。ラジエルモンがその結論に至るのも当然のことだった。

 意を決して、ラジエルモンは前に出る。

 

「ァアアアアアア!」

「――!」

 

 二体の巨竜が、そんなラジエルモンを叩き潰すべく動き出す。

 そして、

 

「いけ!」

 

 自分が知るよりもずっと低い、しかし、聴き慣れた声が聞こえた。

 

「はぁっ!」

 

 二体の巨竜が吹き飛ぶ。白いマントがはためいた。

 ラジエルモンとドルモンは目を見開いた。そこにいたのは、黒の到達者(アルファモン)だ。そして、その肩に乗っていた青年こそ。

 

「うわ。本当にドルモンだ! 懐かしい!」

 

 青年(コータ)がドルモンの前に降り立って、興奮したようにドルモンを見る。

 一方でアルファモンは白の光剣を手に取り、二体の巨竜を相手取っていた。

 

「えっと、コータ(真)だよね?」

「(真)って何だよ。いいよ? 君にとってはオレの方が偽物だろ?」

「え、あ、いや……!」

 

 青年(コータ)とドルモンの関係は知り合いのようでただの他人という、複雑そうで簡単なもの。だが、その複雑そうというのが雰囲気をややこしいものにしている。

 だから、ドルモンはどのように接していいかわからなくて、まるで人見知りの子供のように探り探りに口を開いていた。

 一方で青年(コータ)は苦笑していたのだが。というか、伊達に歳を重ねてはいないのだろう。まるで近所に住むお兄さんのような雰囲気を纏っていて、そんな感じでドルモンと接していた。

 

「ま、あいつの二体はオレたちに任せてくれていいよ」

「え? いいのか?」思わず、ドルモンは聞き返した。

「もちろん。キミたちは遠慮せずにキミたちのコータを助けに行けばいい。オレはこれでも一端の大人だからね」

 

 青年(コータ)はウィンクした。

 その顔に押されて、ドルモンとラジエルモンは駆け出す。

 その後ろ姿を見送って――

 

「お待たせ!」

 

 ――青年(コータ)はアルファモンの身体をよじ登り、その肩に乗った。アルファモンは戦っている最中だったのにも関わらず、難なくと。

 

「見送ってきたのか?」アルファモンが口を開く。

「うん。懐かしい姿だったね」

「それほど良い姿だとは思わないが……――」

「そりゃ、今と比べればそうだろうね。でも、それでも思い出深い姿さ」

 

 青年(コータ)は目の前に迫る二体の巨竜を見る。どちらも、アルファモンが軽々とあしらっている。が、その姿に彼は笑った。本当に思い出深い姿を見る日だ、と寂しそうに笑った。

 

「ああ、そうだ。もう全部が昔の話で。もうオレたちは大人なんだ」

「……そうだな」

「心のどこかでオレたちがやらなきゃってさ、帰らないで残ってたけど。でも、やっぱりオレたちは道を歩く側じゃなくて、道を作る側なんだよなぁ」

 

 いつかの思い出を抱きしめて、青年(コータ)はさっぱりと言い切った。

 

「はは。大人だろうと子供だろうと変わりはないさ」

 

 そんな彼にアルファモンは静かに言う。

 その意味を青年(コータ)は余すところなく「ああ」と理解して。

 そうして、

 

「そうだな。行こう!」

「おう!」

 

 彼らは二体の巨竜を迎え撃った。

 

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