【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第五十九話~創世~

 アルファモンの肩に乗る青年(コータ)はデジヴァイスXをその手に、アルファモンは魔法陣を展開させる。

 

「“デジタライズ・オブ・ソウル”!」

 

 魔法陣から現れ出でるのは、黒金の剣――かの死を斬り裂いた剣。

 

「さぁ、さっさと片付けようか!」

「そうだな」

 

 青年(コータ)の掛け声に頷いたアルファモンは左腕に黒金の剣を、右腕に光剣を構えた。

 そして、

 

「X-CAST! XAIシステム発動!」

 

 青年(コータ)がデジヴァイスXを振る。

 それによってその中に内蔵された運命の振り子が揺れる。

 

「一気にやるぞ!」青年(コータ)が果敢に叫ぶ。

 

 アルファモンは頷きつつ、駆け出した。その右腕を、左腕を、同時に振るう。Xを描くように、二体の巨竜を揃って斬り裂けるように、大振りに振り抜く。

 その時、青年(コータ)の持つデジヴァイスXでは天の賽が投げられていた。示した数字は、六。

 天運が決まった。否、天運は選び取られた。

 

「いっけぇえええええ!」

 

 青年(コータ)がデジヴァイスXを掲げて叫ぶ。

 今のこの場が歴史の再現が集う場所だからだろうか。

 そこにいたのは、ただの少年(コータ)だった。

 そこにいたのは、黒の聖騎士だった。

 いや。

 そこには、銀髪の少年もいた。

 そこには、黄金の武者龍もいたた。

 いつかの日を思い起こさせる、歴史の一幕の光景だった。その時だけ、この場の何処かと同じように、彼ら(歴史)の中にしか存在しないものが甦っていた。

 そして、

 

「“聖剣グレイダルファー”!」

 

 ドルゴラモンは光剣によって真っ二つに切り裂かれる。

 

「“永世竜王刃”!」

 

 デクスドルゴラモンは二つの刀によって四つに斬り分けられる。

 後に残ったのはいつかを思い出して寂しそうに笑う青年(コータ)と、変わらず光剣と黒金の剣を両手それぞれに持つアルファモンだけで。

 

「何か変な感じだな。歴史って」

「だな」

 

 二人は苦笑い合って、泥から生まれ出た二体の巨竜に再び向かい合った。

 

 ********

 

 一方その頃。

 青年(コータ)たちの、いや、此処にいるすべての者たち――直接助けてくれた者たち、アポカリモンの軍勢を抑えてくれたことで結果的に助けてくれた者たち、そんなさまざまな者たちのおかげで、ついにドルモンたちはここに辿り着けた。

 目と鼻の先、そこにアポカリモンがいる。そして、その下に黒く輝く卵のようなものがあった。

 その卵が何なのか、ドルモンにはわからない。だが、どうでもよかった。ここまで来たら、コータを助けるのみだ。

 

「まさかあの中(歴史)を越えて此処まで来るとは。不快だ」

 

 アポカリモンは静かにドルモンとラジエルモンを見据える。言葉とは裏腹に、いや、言葉通りなのか、その表情は無表情のようで、しかし、よく見れば少し歪んでいた。

 まるで、努めて無表情を装っているかのようだ。

 

「お前の都合なんか知ったことじゃない。ただ、コータは返してもらう!」

「そうニャ! 例えアポカリモンがニーの――」

 

 ラジエルモンの言葉は最後まで続けられなかった。

 その時、アポカリモンの触手の一つが二人を襲ったからだ。

 

「ふん。疲れ果てている子供とたかだか一人の座天使に何ができる。歴史には何万という部下を持とうと敗れた王もいれば、一騎当千を謳われながらも敗けた英雄もいる。それらと比べて、貴様らは何を成すにしても少ない、弱い。それで何が成せる?」

「確かにここにいるのは俺たちだけだ。でも!」

 

 アポカリモンの前に立っているのはドルモンだけだ。だけど、彼は自分が多くの者に助けられたからこそ此処に来られたということをわかっている。

 何万の部下はいないし、一騎当千の力はない。

 それでも、彼らは彼らなりの力と絆でここに立っている。

 

「……――忌々しい。失われぬその目の輝きが、それが証明している事実が、何とも憎たらしい」

 

 アポカリモンの触手がドルモンたちめがけて伸びる。

 咄嗟にラジエルモンがドルモンの前に飛び出した。そして、その両腕に魔法陣を展開させ、五大元素を組み合わせ、エネルギーとして放つ。

 

「“ノウレッジストリーム”!」

 

 放たれたエネルギーが触手を迎え撃った。

 膨大なエネルギーの奔流に流され、触手は運動エネルギーを失って弾かれる。

 

「ニャ」

 

 どうだ、とばかりにラジエルモンは誇らしげにアポカリモンを睨んだ。

 一方で、アポカリモンはそんな彼女にも反応しない。先ほど以上に無表情だった。先ほどに比べて、これには感じるところなんてないとばかりに。

 

「無駄だ。諦めろ」

「それはこっちのセリフニャ。お前は他に手一杯でお前自身の全力は出せない! さっきのがその証拠ニャ!」

 

 もし、アポカリモンが本来の力であったのならば、先ほどの触手はラジエルモンの必殺技(ノウレッジストリーム)だけではどうにもならなかっただろう。

 だが、現実にはどうにかなった。

 それはアポカリモンがイグドラシルに対抗して軍勢を作り出しているために、また、イグドラシルの力を抑えているために、本体自身の力が落ちているからだ。

 だからこそ、ラジエルモンでも対抗できる。

 アポカリモンがラジエルモンをどうにかしようとしたら、軍勢の展開かイグドラシルの抑制が上手くいかなくなる。そうなればただでさえ劣勢気味の戦場がさらに傾き、アポカリモンにとって取り返しのつかないことにとなるだろう。

 

「お前の負けニャ!」

 

 だから、アポカリモンには勝ち目がないのだ、とラジエルモンは言い放つ。

 もちろん、勢い任せの出まかせだ。だって、ラジエルモンとドルモンでアポカリモンをどうにかできるという前提、そしてさまざまな“だろう”という推測がそこにあるのだから。

 

「ふん。愚かしい」

 

 それをアポカリモンもわかっている。だから、嘲笑う。

 他に力を回していてもドルモンたち如きに負けることはないと理解しているからこそ、この期に及んでも自分たちに“負け”はないと思っているからこそ、彼らはドルモンたちを嗤う。

 

「貴様らは目的に至る道を知らず、それで良くも言えるものだ。貴様らが助けるなどと宣っている鍵が何処にいるかわかっているのか? どうやって取り返すのかわかっているのか? 何もわかっていないだろう?」

「……!」

「何も知らないくせに、わからないくせに、ただ何となく優勢だからと威勢に乗る。愚かだ。実に愚かだ!」

「それは、っく――」

 

 ドルモンは何も言い返せなかった。アポカリモンの言うことが事実だからだ。

 ドルモンはコータが何処にいるか知らない。アポカリモンが何のためにコータを連れ去ったのかも知らない。どうすれば助け出せるか、その方法さえも知らない。それはラジエルモンも同じだ。

 そんな知らない尽くしで勝った気になるなど、それこそ笑ってしまうくらいおかしなことだろう。

 

「どのみち貴様らでは力不足。潔く諦めろ」

 

 アポカリモンの触手が蠢いて、四方からラジエルモンとドルモンに襲いかかる。

 上から、下から、右から、左から、後ろから、前から、ほぼ同時に襲いかかってくる。

 それを前にしたラジエルモンは咄嗟にドルモンを抱いて、飛んだ。触手の隙間を縫って、退避する。だが、それで諦めるはずもなく、触手は次々と追いかけていく。ラジエルモンたちを捉えるまで、ひたすらに。

 

「ニャ!?」

 

 ついに触手の一本がラジエルモンを捉えた。その足を、触手がしっかりと握る。すぐさま、他の触手がラジエルモンたちめがけて殺到した。

 

「ここに至ったのが到達者の誰かなら、偉大なる皇帝なら、また話は違っただろうに」

 

 確信を抱いて、アポカリモンは目を閉じる。

 そして、

 

「“グランドクロス”!」

 

 十の超高熱球が触手を弾いた。

 呆然とその光景を見る、ラジエルモンとドルモン。そんな彼らの前に、その天使は降り立った。

 

「こんな良い余興まで用意してくれたのに、この僕を除け者とはずいぶんと酷いじゃないか」

 

 六対十二枚の翼を持つ、金髪の少年のような天使――デクスモンに敗北したものの、何とか生き残ったルーチェモンがここに降り立っていた。

 

「っ、ルーチェモン! ってことはトコモン!」

「え。これトコモン、ニャ!? 見ない間に凄くなってるニャ!」

 

 驚きと安堵、喜びを振りまくドルモンたち。

 一方のルーチェモンは「ルーチェモン様と呼べ。全く、躾がなっていない」と呆れたように笑った。

 

「さて。せっかくこの僕が来たんだ。もう終わりなんて、そんなつまらないことはよしてくれよ。せっかくの良い余興なんだ。もっと盛り上げてくれよ!」

「余興、だと?」アポカリモンが苛立ったように口を開いた。

 

 確かに、これは余興だ。少なくとも、アポカリモンにとっては。

 だが、ルーチェモンの口にしたそれとアポカリモンにとってのそれは意味合いが異なっていた。アポカリモンにとってのそれは真の計画達成までの時間稼ぎであり、故に余興。

 一方で、ルーチェモンにとってのそれは、

 

「そうそう。だって、そうだろう? 歴代の敗者が、その集合体が、もう一度勝者たちにコテンパンにやられるために集っている。歴代の勝者の栄光を何度も讃え、敗者の敗者たる所以を何度も示している。これほど愉快な見世物はないからね!」

 

 自分たちの計画を、理想を、理念を、存在を、所詮は敗者の負け惜しみだと傲慢にも嘲笑っているが故の余興。

 その敗者を顧みない勝者が故の傲慢は、アポカリモンが嫌うもの。故に、彼らはルーチェモンを許せないし、断じて認めてはならない。

 

「ほざいたな!」

 

 怒りを顕に、アポカリモンは触手をルーチェモンに殺到させる。

 

「ほざくさ。だって、君たちは敗者だ。何度やり直そうと、どれだけ強大な力を持とうと、どんなことを企もうと、君たちは敗者の集合体である以上、勝者には勝てないのが道理」

 

 ルーチェモンは華麗に触手を躱し、アポカリモン(偉大なる者)の徒労を嘲笑う。

 

「ははは! 勝てもしないのに無駄に戦いを挑んで無様を晒そうとしているんだ。嗤われて然るべきだろう?」

 

 ********

 

 わかっていたことだ。アポカリモンは事実を再確認する。今、アポカリモンは追い詰められていた。

 ルーチェモンに加えて、ラジエルモンとドルモンだ。

 初め、ラジエルモンたちはルーチェモンの傲慢な言葉に思うところがあったようだが、アポカリモンという敵を前にしてそんなことを言っている場合ではないと参戦。今やラジエルモンやドルモンが自分勝手なルーチェモンをフォローする形となっている。

 ドルモンとラジエルモンが協力してアポカリモンの攻撃を補足して攻撃、その生まれた隙にルーチェモンが火力をアポカリモンにぶつけていく、という形だ。

 誰とは言わないが、らしからぬ連携だ。それでも行われているのは、アポカリモンが敵だからか、それともドルモンたちは仲間だからか。

 

「……」

 

 強大な敵に、力を合わせて立ち向かう。強大な悪に絆を武器に戦う。

 それは歴史上、幾度となく繰り返されたことだ。

 だからこそ、アポカリモンにはこの戦いの行く末がわかる。結局、ルーチェモンの言う通りなのだ。

 敗者はどうしたって敗者で、敗けている以上は勝てはしない。

 わかっていたことだ。だから、アポカリモンはこの計画を企てた。

 

「少し早いが仕方ない」

 

 敗者が勝者となるためには、勝負をリセットしなければならない。すなわち、勝ちと負けをなかったことに、あるいは新しい戦いを始めなければならない。

 だが、アポカリモンは敗者の集合体であり、概念的な存在だ。存在する限りアポカリモン(敗者)敗者(アポカリモン)であり、結果が決まっている以上、勝負をなかったことにも新しい戦いを始めることもできない。

 故に。

 

「今この時、我々は生まれ変わる!」

 

 アポカリモンは世界を作る。

 自分たちが勝者となれる世界を、真の世界を、新世界を作り出す。これまでの時代は、そのためのものだった。

 あらゆる時代に絶えず存在していた、世界の欠片――

 

 世界(勝者)にはワームモンのようなムシ/クサキがあって、

 世界(勝者)にはタイガーヴェスパモンのようなキカイ/ヘンイがあって、

 世界(勝者)にはギガシードラモンのようなミズがあって、

 世界(勝者)にはルーチェモンのようなセイがあって、

 世界(勝者)にはメイクーモンのようなケモノがあって、

 世界(勝者)にはドルモンのようなリュウがあって、

 そして、世界(勝者)にはアポカリモン《アンコク》があって、コータ(ニンゲン)がある。

 

 ――それは世界を構成する属性。それを、歴史から抜き取る。そして、いかなる時代においてもデジモンに勝利をもたらす者(ニンゲン)を媒介にして、取り込んだ属性を集らせるのだ。

 そうすることで、アポカリモンは進化する(生まれ変わる)

 

「――我は」

 

 N.E.O(新世界)、創世。

 

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