【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
N.E.O――それは果たして生命と言っていいものなのか。
外見だけで言えば、人間の少年のようだ。だが、機械の左腕や悪魔の右腕、天使の翼に竜の尾など、この世界に存在しているあらゆる生命種の性質を兼ね備えている。
さらにその人間大の小さな身体では有り得ないほど、その身体に形容し難い巨大かつ異質な力に溢れていた。それが、彼を見た誰もに理解できた。
「生まれたばかりではあるが酷く頭が透き通っている。我々であった我が我であるのは、変な感覚であるが」
その身体を支配しているのがアポカリモンの人格であることも、同様に。
「ようやくだ。ようやくこの時が来たのだ!」
N.E.Oが両手を挙げて叫ぶ。その声色は喜びの色に溢れていた。
同時にアポカリモンが消えたからか、泥から生まれたデジモンたちが溶けて消えていく。オメガモンAlter-Sが、タクティモンが、メフィスモンが、ラグエルモンが、歴史に存在したさまざまな敗者たちが――もはや敗者である必要はないと、敗者という存在が必要なくなったとばかりに消えていく。
そして、残ったのはN.E.Oだけだ。
だが、それでも問題はない。なぜならば新しく良きものに、古く悪しきものが押し潰されて消されるのは自然の摂理。
故に、
だからこそ、
「もはや歴史に敗者はない。ここより先に
一方で、そんな彼を睨むのは、
「間に合わなかったか」
「そうだ。我はここに宣言しよう。貴様らの世界は、貴様らが勝者だった世界は、ここで終わる。ここに我が新世界を創造する。故に」
N.E.Oはその機械の左腕をイグドラシルに――この場に集った誰もに向ける。
そこには敵意が込められていた。どのような形にさえなれるはずの新世界は、旧世界の存在を否定していた。
「ここで消えろ」
瞬間、世界が消え始めた。
「“ジャッジメント”」
瞬間、世界に存在するあらゆるものが崩れ始めた。
光も、闇も、命も、瓦礫も、あらゆるものが崩れていく消えていく。その光景は破壊や崩壊という言葉ではとても言い表せない、すべてが無に還されていく光景だった。
攻撃ですらない。攻撃という言葉を使うことさえ烏滸がましい。迫り来るのはただの無。
ただの無を放ち相手を無に帰す。よくよく考えなくても馬鹿げている言葉遊びのようなそれは、しかし、旧世界の生命には真似できないことだった。
新は古にはない新で以て、古を駆逐していく。
だが、しかし、
「オメガモン!」
「ふん」
新は古にはないものを持つ代わりに、古もまた新にはないものがある。
古き世代には新しき世代にはいない者がいる。それは、偉大なる功績を残す者。その偉大なる功績を追う者。
いかに新しい者が新しさで古い者たちを圧倒しようと、いかに新しき者が新しさで古さを駆逐しようと、古き者たちが成し遂げた偉業が消えることはない。
例え、その偉業は新しき者が嘲笑うようなものであり、その偉業を新しき者が理解できなかったとしても。
「“オメガ――」
無に立ち向かうのは偉大なる皇帝、インペリアルドラモン:パラディンモード。
そして、
「“オール――」
白の到達者、オメガモンX抗体。
「――ブレード”!」
「――デリート”!」
騎士団の始祖たるものが振るうはすべてを初期化する最強の聖剣。
到達せし騎士が振るうはすべてを消滅させる終局の竜剣。
始まりへと返す一撃と終わりをもたらす一撃が合わさって、迫り来る無を迎え撃つ。
終わりと始まりが、無と対消滅していると言えばいいのだろうか。言葉にすればそれだけで済むものだが、その光景は常人には何が起こったいるのかさえ理解できない光景だった。
ただ、
「……」
無表情を極めたと言っても過言ではない表情をしているN.E.Oがいて、
「あまり余らを舐めてもらっては困るな」
「新世界、か」
未だ偉大なる皇帝と白の到達者を始めとして数々の者たちも生きている。
それが、結果だった。
「偉大なる者。到達せし者。我に抗うか」
N.E.Oが飛び出した。
すべてを無に帰す“ジャッジメント”を使って旧き世界を始末することはやめて、面倒でも、嫌でも、確実に一人一人潰していくことを選んだのだろう。
一刻も早く視界から消したい存在が目の前にあるのに、彼は最短の道を諦めたのだ。
「死ね!」
N.E.Oは一人一人、片っ端からデジモンたちを殺していく。かつて歴史の勝者となった者たちだろうが、究極体と呼ばれた者たちだろうが、N.E.Oには敵う様子がない。一瞬で身体を塵にされ、為すすべもなく消えていった。
そして、殺した者たちが“デジモンクロニクル”によって再召喚されるのにも構わず、N.E.Oは前進した。
彼が目指すはただ一つ、
「イグドラシル――!」
この旧き歴史の最後の証明者である、イグドラシルの下。
だから、N.E.Oはイグドラシルの下へと駆けていく。
「さすがにそれはさせんよ」
「我が主は殺させん」
しかし、そんなN.E.Oの前に立ち塞がるのは白の到達者と偉大なる皇帝だ。
さすがのN.E.Oでも彼らを一瞬で殺すことなど叶わない。
振り抜かれた聖剣を、竜剣を、N.E.Oは両腕それぞれで受け止める。
「退けぇっ!」
そして、彼は邪魔者たちを思いっきり吹き飛ばした。
しかし、まだ邪魔者は増える。
「ずいぶんとまた不安定な」
赤の到達者が、
「ニャァッ、いい加減にコータを返すニャ!」
ラジエルモンが、
「ははは。いいザマだね! お前が旧い連中にかかずらってるのは本当に愉快だ!」
ルーチェモンが、N.E.Oの行く前に立ち塞がる。
N.E.Oは尾を振るう。発生した衝撃波が彼らを一撃で吹き飛ばした。
しかし、まだ。
「ガァアアアアアアアアアア!」
「世界ノ為!」
「オレたちが守ってきたもの、絶対に消させない!」
「イグドラシルを守れぇ!」
名さえ歴史に埋もれただろう、歴史の勝者だった者たちがN.E.Oに襲いかかる。
「有象無象共め、邪魔だ!」
N.E.Oの腕のひと振りで彼らは死んだ。偉大なる者でも到達者でもなく、またそれに比するだけの力さえ持たない彼らは、N.E.Oの前に立つには力不足。どれだけの数が揃おうとも、一瞬で塵として消えていく。
「ははは! 勝てない者がいる! 何と久しぶりなことか!」
「偉大なる皇帝は状況もわからないほど耄碌したか」
復帰した偉大なる皇帝と白の到達者がまたN.E.Oの前に立ち塞がる。
そこからは、繰り返しだ。
偉大なる皇帝が、到達者たちが、ラジエルモンが、ルーチェモンが、ビクトリーグレイモンたちが、デュランダモンが、ウォーグレイモンX抗体たちが、デジモンクロニクルによって呼び出された数々の者たちが、N.E.Oの前に立ち塞がる。
何度吹き飛ばされようと幾度消し飛ばされようと、彼らは諦めずにN.E.Oの前に現れる。
「――貴様らはっ!」
それが、その光景が、N.E.Oには苛立った。
優っているのはN.E.Oの方だ。このまま続ければ勝つのはN.E.Oの方だ。だが、この光景を前にすれば、N.E.Oは否応なしに思い出してしまうのだ。自分が
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁっ!」やっと勝者になれたのに。やっと勝利を得られたのに。なぜこうも、負ける気がするのか――!
「それは明らかだろ。勝利を得ようとしている者よ」
それに返したのは、
「お前はまだ勝っていないからだ」
「っ! 貴様ッ」
迫り来るN.E.Oを、アルファモンは黒金の剣で受け止める。見れば、
「お前がどれだけの力を持とうと、俺たちは負けない。アポカリモンではなく、他の誰かでもない、N.E.Oであるお前だけには絶対に負けない。いや――」
そこで、N.E.Oは気づいた。
アルファモンの背後には“それ”があることに。それは、絶望の淵にあっても歩みを止められない理由、彼が相棒と共に歩いてきた道のりの記憶――まさに彼の歴史。
それが、彼の背後にあった。いや、彼の歴史だけではないか。この場に集った数々の者たちが紡ぎ上げた数々の歴史すべてが、彼の後ろに揃っていた。揃って、集って、力となっていた。
……対して、N.E.Oの後ろには何もない。
「――負ける気がしない」
だからこそ、アルファモンは言い切った。
これがただの種族同士、個人同士の戦いであればまた別だったのだろう。だが、これは新世界と旧世界の世界同士による生存闘争だ。
世界とはそこに在るモノ、生きる者たちによる数々の積み重ね――歴史そのものであるからこそ。どれだけの力があろうと意味はない。
積み重ねのない、歴史のない、空っぽなだけの新しいだけの世界では旧き世界には勝てないのだ。
「お前は敗北から脱することを願う余り、大切なものを捨てた。だから、お前は負けるんだ」
アルファモンが、
それぞれのやり方で旧き世界の歴史を証明し、
「勝つのは俺たちだ」そう言ったのは、誰だったか。あるいは、誰もが言ったのかもしれない。
そして、そんな彼らの背後から――
「コータを返せ!」
――世界中に背中を押されたように、ドルモンが勢い良くN.E.Oに向けて飛び出した。