【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第六十一話~見えなくともそこに在る~

 旧き世界の者が叫ぶ。

 何も成し遂げられてはいない新しいだけの者に世界は任せられないと。

 自分たちの努力を、歴史を、証を、作り上げたものを――自分たちのモノを、お前たちには渡さないと。

 そんな、老害めいた言葉を放つ。いつの世にも世代交代があって、未来を担うのは新しき者で、だからこそ、そんな老害めいたことを言う者たちなど消えた方がマシだと、いつの世も囁かれるのに。

 まさに、悪だ。

 正義を謳う新しい世代は今まさに、悪である老害に殺されようとしていた。

 

「俺たちの世界は、渡さない」

 

 アルファモンが、青年(コータ)が、偉大なる皇帝が、到達者たちが、ラジエルモンが、ウォーグレイモンX抗体たちが、ビクトリーグレイモンたちが、ルーチェモンが、イグドラシルが――旧き世界が、自分勝手な理屈でN.E.O(新世界)を抑え込む。

 腕力で抑えられているわけではなく、概念(プログラム)的なもので抑えられているわけですらない。なのに、N.E.Oは自分が抑えられているのを感じていた。押されているのを感じていた。

 そして、だからこそか、抑圧された彼は見逃してしまう。

 

「うぉおおおおおお!」

 

 この場で最もN.E.Oに文句のある者が出てくるのを。

 飛び出したドルモンは素早く、そして力強くN.E.Oに向かった。勢いのままに突き進む。

 

「――! このっ」

 

 咄嗟、気づいたN.E.Oがドルモンを殺そうとする。だが、それが何故かできない。何故かある僅かな迷いによって、出来ない。その迷いが一瞬の隙を生む。

 そしてその一瞬で、

 

「コータぁぁああああ!」

 

 ドルモンがN.E.Oの下に辿り着く。否、コータの下に辿り着く。

 力強くその頭を振り上げて、思いっきり。

 

「返せっ!」

 

 力強いドルモンの頭突きが、N.E.Oの頭に決まった。

 

「っくぅ!」

 

 ドルモンの頭に激しい痛みが走った。N.E.Oは石頭でもあったらしい。

 痛みにのたうち回りそうになりながらも、ドルモンは引かない。痛みにも構わず、頭を押付ける。

 

「――!」

 

 言葉が出ない。出す余裕もない。

 ただひたすらに夢中だった。

 

「――!」

 

 もうこれしかないとドルモンは考えていたのだ。

 だって、ドルモンはわかっている。

 自分たちには、“彼ら”のような絆の証(デジヴァイスX)はないけれど。

 

 証なんてなくとも、それはそこにあることを知っている。

 証なんてなくとも、繋がってることを知っている。

 証なんてなくとも、伝わることを知っている。

 

 だから、ドルモンはこれしかないと思うのだ。幸いにして、証に変わる道標をドルモンは持っている。だから、彼はやはりこれが最善だと思うのだ。

 

「――!」

 

 それは、プロトタイプデジモンのみが持つモノ。

 デジコア(デジモンの核)を外部から書き換えられる――言い換えれば、外部とプロトタイプデジモンが直接繋がることができる、旧式のインターフェース。

 それを、自分の頭にある石を、ドルモンはN.E.Oに押し付ける。

 そうすることで、N.E.O(新世界)にアクセスできることを、コータと繋がれることを願って。

 

「繋がれぇええええっ!」

 

 そして、ドルモンは賭けに勝った。

 

 ********

 

 その時、何もない空間で()()()()()()()()()()。自然に目が覚めた訳ではない。誰かによって起された気がしていた。まるで、部屋で眠っていたら誰かが入って来て、その物音で睡眠を邪魔されたとばかりに。

 しかし、コータは気づいていた。その誰かは、

 

「……あいつ」

 

 ドルモンであると。

 ついでに、今の自分の状況にも気づいた。というか、知った。今の彼はN.E.Oの一部であり、だからこそ、N.E.Oを通して大体のことがわかったのだ。

 

「……」

 

 どうするべきか、とコータは一人考える。

 目が覚めたからといって、彼に何かが出来る訳ではないのだ。この何もない空間の中、イメージが彼に感覚を与えているのか、立っている自分を認識できるコータだが、それだけだ。

 特殊な能力も、ずば抜けた頭脳も、何かを為す技能もない彼では、せいぜいが考えることが限界だった。

 コータは今やN.E.Oの一部ではあるが、だからといって、現在N.E.Oを動かしているアポカリモンから、N.E.Oの行動権を奪い取れる訳ではないということだ。

 

「困った」

 

 移動してみようにも、どこまで歩いても何もない空間から脱せられない。というか、同じ場所をぐるぐるとループしていることがコータにはわかった。内側から自分が瓦解することのないようにするための、アポカリモン(N.E.O)の差金だろう。

 どうやら目が覚めたからといってそこまで自由があるわけではないらしいことがわかって、コータはがっくりと肩を落とす。

 もちろん諦める気は毛頭ないが、それにしてもこれは絶望的な状況だ。

 状況を把握して、コータは笑った。

 

「……ま、これくらいはいつものことか」

 

 自分の相棒が諦め悪く足掻いているのを、彼は感じ取った。それこそ、まるで目のないモグラのように。

 だからこそ、途切れた道がいつ繋がってもいいように、その時を見逃さないように、彼も諦め悪く足掻く。

 同じくモグラのように、彼ららしく。

 

 ********

 

 そして気づけば、ドルモンは真っ白な空間にいた。これが、N.E.Oの中なのだろう。何となくだが、ドルモンにはそれが理解できた。

 しかし、どうにも寂しい場所だ、とドルモンは思う。

 新しい世界だから当然だが、ここには何もない。空っぽな器、空っぽの場所、大層なそれだけが先に用意されただけで、中に入るべきものが何もない。もちろんその部分はこれからなのだろうが、それをわかった上でやはりドルモンは思うのだ。寂しい場所だ、と。

 

「早くコータを取り返さないと」ドルモンは頭を振って気を入れ直した。

 

 世界そのものに不正アクセスしているのだ。N.E.Oがその気になればドルモンなど吹っ飛んでしまうし、そうでなくともこのやり方は命懸けだ。気づかないうちに体力が限界を迎えて、息絶えてしまってもおかしくはない。

 元々、長々といられる場所ではないのだ。

 ドルモンはほんの少しの焦りと共に、辺りを見渡した。やはり何もない。

 

「コータ……!」

 

 ドルモンは何もない空間を駆け出した。

 もちろん、それはドルモンのイメージによってアクセス&サーチがそう感じられているというだけの話なのだが――やはり、これがいいとドルモンは笑う。

 書庫で本を捲るイメージよりも、パソコンで情報を検索するイメージよりも、彼にとっては直接歩いて探すイメージがしっくり来る。

 なぜならばこれこそが彼らの、ドルモンとコータの生き方だったから。彼らは行き当たりばったりで、その日暮しで、文明的文化的など程遠く、アナログ的に世界に生きていたから。

 どれだけ非効率的でも、馴染み深いこれの方が見つけられるのではないかと、ドルモンは本能的に思ったのだ。

 

「私を、探るなぁ!」

 

 だが、当然だが、在宅中に泥棒に家探しされて気づかない者などいない。

 その時、ドルモンが感じたのは悪寒だった。

 そこにいたら死ぬ、そこにいたら殺される。本能が先立って感じたそれに従って、彼は避けた。

 

「っ!」

 

 直後、そこに現れたのは泥。アポカリモンが出したものに似ているそれは、捏ねくりあって寄り固まって形作られ、そして、アポカリモンとなる。

 

「させん、させん、させんっ!」

 

 アポカリモンがドルモンの前に立ち塞がった。

 これ以上は探らせないとばかりに、彼らはドルモンを殺そうとしていた。それは裏を返せば、探られたくないものがあるということだ。

 

「っ。ここまで来て――!」

 

 そのことにドルモンは気づけなかったが。

 それでも、そこが近いと本能はわかっていたのかもしれない。だからこそ、ドルモンはこの絶望的状況の中、何故か期待が沸き上がってくるのを感じていた。

 

「旧き世界が何だ。歴史が何だ。ようやく我々の歴史を始められるのに、ここでまた終わらせられて堪るか。終わって堪るか。まだ何も始まってはいないのに――!」

 

 アポカリモンが吠えて、ドルモンめがけて触手が殺到する。

 向かい来る一つの触手を、ドルモンは何とか躱した。が、即座に次が来る。ドルモンに躱しきれる量ではない。それでも、ドルモンは諦めなかった。

 諦められず、彼は

 

「うぉおおおおおおおお!」

 

 触手の一つに飛び乗って、その上を駆ける。そんなドルモンを振り下ろさんと、触手が殺到し、不安定な足場が大地震の如く揺れた。

 

「っく!」

 

 立っていられないほどの揺れ。

 ドルモンはすぐさま飛び降りて、さらに突き進む。

 

「コォータァ!」

 

 吐き出した鉄球を勢いに変えて、触手を躱す。

 迫り来る触手の余波を受け取って、スピードを上げる。

 目の前にある触手を盾に変えて、触手を防ぐ。

 アポカリモンに比べて、たかがで済ませられるほどの弱さしか持っていないドルモンは、しかし、アポカリモンの猛攻を凌いでいた。

 それが、アポカリモンにとってはどうしてもおぞましく思えてしまって。

 アポカリモンは一瞬だけ気圧された。たかが成長期の小僧に、と。

 その一瞬の隙に、ドルモンは自分をねじ込む。

 

「俺たちは――」

 

 力強く地を蹴って、アポカリモンを飛び越え、その先に向かう。

 

「――負けないんだ!」

 

 ドルモンの額の石が光る。

 道がつながる。伸ばした手が、ついに届く。

 

「コータ!」

「ドルモン!」

 

 そして、ようやくの再会が果たされる。

 




次回、決着とエピローグの二話を同時投稿します。
それでは、最後までよろしければよろしくお願いします。
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