【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
では、最後までよろしくお願いします。
そして、気がつけば
「オレN.E.Oのまんま!?」驚きを露わに、コータは自分の身体を何度も弄る。しかし、結果は変わらない。
そんな彼に対して、驚くのは――
「っ、N.E.O!」
――コータが戻ってくるとばかり思っていたドルモンである。
戦闘態勢で構えるドルモンに、
「待て待て! オレだオレ! コータ!」
「……」
「信じろよ!」
「えー?」
「……そこは信じてくれよ! さっき何も言わずに信じてくれた信頼どこいった!」
「えー?」
「お前わかってやってるだろ!」
まぁ、ドルモンとしても自分の相棒を見間違うはずもない。いや、見た目だけで言えば見間違ってもおかしくはないのだが。
ともあれ、これは彼にとって軽い冗談であった。
なにせ、あの数百年分は過ごしたとさえ思えるほどの濃い僅かな、しかし、圧倒されるほどの絶望的戦いを越えられたのだから、そしてもう二度と戻らない可能性もあった自分の相棒が一応は無事に戻ってきたのだから、ドルモンは浮ついた気分になってふざけたくなったのである。
もちろん、それは
「むぅ、良いところですまんのじゃが」
一方で、そんな彼らに水を差したのはボコモン――ではなく、それと同じ声を発生させている水晶の結晶体、すなわち、イグドラシルだ。
「イグドラシル!」
「本当に今回は助かった。お前さんたちのおかげじゃ」
いけしゃあしゃあとして声を発生させるイグドラシルに、
「よく言うよ。はじめっから計算尽くだったくせに」
「何を言う。料理と一緒じゃ。レシピを知っているところで、材料がなければどうしようもならん。此度の結果はようやく辿り着いた結果なのだからの」
イグドラシルのその声は、肩の荷が降りたような、ひと仕事終えたような安堵の声だった。
まぁ、イグドラシルも苦労したのだろう。
コータ(真)とその相棒では無理だった。歴史にいた誰がいても無理だった。アポカリモンによって生み出された
この結果のために、イグドラシルはずっと頑張っていたのだ。
「そういや、他のみんなは?」思い出したように、ドルモンが聞く。
「ああ、デジモンクロニクルは閉じた。多方は還ったよ。いるべき場所にな。もちろん、訳あって未だ残っている者もいるが」
「訳?」
「それは追々の。さて……――」
ドルモンの問いには答えず、イグドラシルは
そして、問う。
「すべては終わった。これから先には未来がある。お前さんたちもいる、未来が続く。さぁ、お前さんたちはどうしたい?」
世界の管理者らしいと言うべきか、イグドラシルは彼らに彼らの未来を聞いていた。彼らが望む未来を問うていた。
その意味を、
「人間の世界に行きたいというのなら送ってやろう。わしの世界に生きたいというのなら歓迎しよう。N.E.O、新しい世界そのものよ。旧き世界に未練があるというのなら、姿だろうが場所だろうがわしがどうにかしよう」
イグドラシルの無機質な水晶の姿が、
「わかってるくせに」
そんな彼の姿を嬉しそうに見て、ドルモンも力強く頷く。
「確かに」
イグドラシルは面白そうな声を発生させた。
もちろん、
「オレはここでお別れだ」
N.E.Oは、いや、コータたちはずっとただただ生きてきた。
目の前に生があって、追ってくる死があって、それらに向かい合っていただけの今までだった。必死すぎて、それに向かい合うことしかできなかった日々だった。
だけど、今はもう違う。彼はやりたいことを見つけたのだ。
例えそれがいつかの日、彼らが否定したことであっても。それでも、あの時とは違う心境で、それとは違う形で、成し遂げたいと思ったのだ。
「オレたちは新しい世界を作る」
タイガーヴェスパモンたちが作り上げた理想郷。
そして、アポカリモンが成そうとして、しかし、その過去を引きずるが故に旧世界に対する想いを捨てられず、結果として成せなかったこと。
「N.E.Oの力をフルに使って、誰もが生きられる世界を作る」
彼らと相対し、下し、最期を看取ってしまった者として、
同じ形にはなりようがなくとも、それでも引き継ぎたくなったのだ。
より良い世界を、より良い未来を。そんな誰しもが願うことを――彼らは勝者として、当然のようにそんな世界に生きたくなったのだ。
だからこそ、彼らはこの選択をする。
「まぁ、わしとしてはわしらの世界に何もなければそれでいいが……いいのか?」
躊躇いがちに、イグドラシルは聞いた。その行く道が大変なものだと知っているからこその問いだった。
一方で、愚問だとばかりに
「ああ。やりがいのある良いことだろ。生き残った者は未来に行く。それはつまり、生き残った者が未来を創るってことだ。そんな当然のことを、オレはやるだけだ」
「俺たちは、だろ!」
ドルモンの言葉に、
それはドルモンもそんな彼の“夢”を支持するということで、自分は独りではないということの証明でもあるからだ。
「大丈夫だ。ありがとうな」
「大丈夫大丈夫!」ドルモンの言葉に、
「そうか」とイグドラシルは何も言えなかった。
だからこそ、イグドラシルは――
「ま、達者でな。たまには顔を見せるんじゃぞ」
――孫を送り出す祖父母のようなことを言った。それはイグドラシルとしての言葉だったのだろう。決して、ボコモンとしての言葉ではなかったはずだ。
それでも、イグドラシルはそれしか言わなかった。
「それじゃ、さっさと行かんか。わしもこの滅茶苦茶になった世界を作り直さなくてはいかんから忙しいんじゃい。お前さんらのように手伝ってくれる者たちもいないんじゃからの!」
追い払うように、イグドラシルは声を発生させる。もしイグドラシルに人間のような手があったのなら、しっしっと手を振っていたことだろう。
そんなイグドラシルの変わりようを前にして「そっちがいろいろと引き止めてたくせに」と笑って、
「それじゃあ、元気でな!」
そこには迷いも何もなく、未来への期待と希望だけがあって。
まぁ、当然だろう。
ただただ生きるために生きるのではない、より良い未来のために生きていける。
獣のように弱肉強食だった今までとは何もかもが違うが、人として日々前進していける。
そんな、彼らの人生はここからようやく始まるのだ。
*********
D.C.■■■■ 新世界
それは、何処かの新しい世界だった。かつてNEWデジタルワールドと呼ばれた世界があったが、そんな新しさでさえ過去のものとする最新の世界だった。
デジモンがいて、デジモン以外のデジタル生命体もいて、時には人間すら訪れる、従来の世界とは少し変わった世界だ。
それがどのような理念の下に作られたのか、理念理想が成功しているのか、それは誰にもわからない。
だが、他世界からもその世界はそこそこ評価されており、こう言われていた。
――未完成ながらも、だからこそか、
いつも忙しく、騒動の種に困らず、他の世界と変わらない一端の世界だった。
だから、今日も今日とてその世界の中心は大わらわだ。
「なんかルーチェモンがトコモン状態で遊びに来て、可愛さ(笑)とカリスマを使ってファンクラブ軍団作ってるんだけど!?」
「メイクーモンに対処させろ!」
「今ラグエルモンだから、そこまで可愛くないよ!」
「ファンクラブじゃなくてルーチェモンを何とかさせろよ!」
管理者は旧き世界から一緒に来た者たち――あの日、イグドラシルにワガママを言って生き返らせてもらった者たち――と協力して世界を運営していた。
いつの間にかと言うべきか、何だかんだの腐れ縁でと言うべきか。
「つーか、
「は? 何も聞いてないぞ。どこに?」管理者は聞き返す。
返って来た言葉は、予想外のものだった。
「三大天使のとこ」
「なんでっ!?」
「なんかいざという時に
「それなんか別の危機にならないか!? 嫌な予感するんだけど!」
酷い有様だ。次から次へと問題が発生し、仕事が増える。
まぁ、それは他世界も同じなのだが、やはり若いだけあって民間の力が育ちきっていない分、この世界は管理者が直々にどうにかしないといけない案件が多かった。
「あ、ファンクラブ軍団が向かって来てるみたい」相棒からの報告に、
「なら、ビクトリーグレイモンとズィードガルルモンだ!」管理者は名案を叩き出す。
だが、無駄だった。
「あ、その二人は普通のとか黒いのとかSとかBとかに続く新しいハイパーオメガモンになるって休暇中だよ」
「あいつら本当はサボリ魔だろ!? つーかオメガモンばっかそんなにいてたまるか!」
いつかの日、彼らは休暇といって過去世界にいたことを思い出した管理者が叫ぶ。
ちなみにどこかの世界、慈悲だかなんだかと現在進行形でオメガモンはまだまだ増えていっているのだが、自分の世界で手一杯な彼には気づけない。
「手紙書いて出しといてくれ!」
仕方ないとばかりに、管理者は今している仕事を相棒に丸投げする。そして、直々に出張った。
そんな彼の姿を見送って――
手紙を、書く。
「まだ全然書いてないじゃん。えーっと……――うん、シンプルでいいんだよ。シンプルで。あ、この世界の名前決めてないな。うーん、ま、いっか。これで。よし、送信!」
懐かしの世界へと
――そんなわけで、そちらが出来たばかりの頃のように出来たばかりのこちらはいろいろと大変ですが、まぁ、何とかやっています。是非遊びに来てください。
――旧世界へ、新世界より。
ちなみに、三大天使のデジタルワールド壊滅の報が届くまで、あと一時間。
そして、デジタルワールド・イリアスやデジタルワールド・イグドラシルを始めとしたさまざまな世界から抗議文という名の叱責が届くまで、あと数日。
――という、話はさておいて。
半年ちょい続いた『デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。』もこれにて完結です。
私の拙い小説にここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました!
以下、特大反省会&あとがき。
まず本作を書こうと思ったのは、久しぶりに長編書きたいなーって思ったのが一つ。
あと、人気アプリゲームFGOをやっていて、ネタを思いついたからが一つ。
その二つが大きいです。
FGOをプレイしている読者の方が見れば、やはりFGOっぽい部分(設定的に)がわかると思います。
あとは、FGO第一章のラストみたく、最終章のお祭り感を書きたかったんですね。
また元々はクロニクルを再構成するつもりでした。が、それでは面白くない(と何故か思ってしまって)再構成に見せかけた“実はアフターストーリー”となりました。
独自設定マシマシになったのは……
・そもそも何故X抗体関連が誕生したのか、メタ的な理由はさておいて、その辺をちょっと凝りたくなって、
・また、デジモン界隈では逆デウス・エクス・マキナさんことイグドラシル、彼女(彼)をただの都合の良い敵キャラではない味方として書きたくなって、
その結果ですね。
あ、偉大なる者と到達者はFGOのグランドサーヴァントの設定で思いつきました。
私としては、同じ種族でも個体ごとに強さが異なるのがデジモンだと思っているのですが、まぁ、この設定を作ることで“公式設定でコイツどうやって倒すんだよ”ってレベルのやつを設定的には倒せなさそうなやつが倒せるようになったり、皆さんの中にある“最強”を崩さずに別の最強を出せたり、あるいは今作ラストみたいに“一体をフルボッコにしても違和感のない”感じにできると思ったんです。
いや、だって、アポカリモンって言ってもロイヤルナイツ総出だったりすればさすがに倒せると思いませんか?
だから、ラスボスとしての別格感を付け足すための設定でした。
ま、まぁ、そのどれもがちょぉっと失敗しちゃったかもしれません。設定に凝り過ぎて肝心のキャラクターをお粗末にしてしまった感はあります。
しかし、それでもそんな今作を最後まで読んでいただけたのですから、皆様には感謝してもし足りません。
どうもありがとうございました。
今回の失敗を糧に、また細々と『デジモン小説短編集』の方を書いていくつもりです。
長編は……日常生活が忙しいですし、これで最後になるかもしれません。
何はともあれ、今作を最後までお読みいただきありがとうございました!
またどこかでお目にかかることがありましたら、その時はよろしかったらよろしくお願いします!