【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第六話~洞窟に潜む者~

 日が昇った直後の心地良い朝。

 コータたちは草原を川の上流へと向かって歩いていた。昨日は疲れから、ゴブリモン&オーガモンの死骸の傍で眠ることになってしまった彼らだが、死骸の傍というのも匂いや感情を置いておけばなかなかに寝心地が良い方らしい。

 全快し、調子の良い自分の身体を前にして彼らは朝から微妙な気分になっていた。

 

「そう言えばコータたちの旅に目的はあるのかの?」

「ああ、うん。一応は」

 

 そう言うと、「ほほう」と興味深そうにボコモンがコータを見た。いや、ボコモンだけではなく、メイクーモンやトコモンもコータを見ている。

 

「オレがなんでこの世界に来ちゃったのか、そのワケを知りたいんだ。……特にやることもないし」

「なるほどのう。訳、か。しかし、時空の穴に落ちただけ、なんてオチかもしれんぞ?」

「それならそれでいいよ。いや、あんまり間抜けなオチは嫌だけど」

 

 例えばの話として。

 公園の砂場とかに誰かが掘った落とし穴が偶然にも時空の穴と繋がってしまって、それに引っかかってこの世界に落っこちてきた――とか。

 コンビニへと向かっていたらトラックに轢かれた――とか。

 そんな物語のギャグみたいな理由でなければ、コータは何でも良かった。

 何もない彼にとってそれだけが、いや、それと生きることだけが今の目的なのだ。

 

「ふむぅ。元の世界に帰ろうとは思わんのか?」ボコモンの言葉に、そう言えばとドルガモンが反応した。

「帰っちまうのか……?」

「にゃー……」

 

 見れば、メイクーモンもドルガモンと一緒に道端のダンボールに入れられた子犬のような目をしていた。

 思わず、コータは頬を掻く。

 その横で、トコモンが呆れたように「アウ」と溜息を吐いた。

 

「いや。今のところは帰る気は起きてないなぁ。なんでだろうな。記憶が混乱しているから郷愁の念が起こらないのかな?」

「むっ、お前さん記憶が?」

「ああ、うん。数日前から。何の前触れもなく記憶が混乱し始めてるから、びっくりしたよ」

「いや、びっくりしたのはこっちだぁ! 目を離した隙に相棒が記憶喪失って心臓に悪いわっ」

 

 がぁっ、とドルガモンが吠えた。

 そこについては何とも言えないので、コータは苦笑うしかない。

 

「まぁ、旅の目的はわかった。それで、今はどこに向かっておる?」

「えっ、先に歩き始めたしボコモンはどこかに行こうとしてたんじゃないのか? オレはてっきり……」

「なんでわしが決めなくちゃいかんのだ」

 

 つまりは、一番初めに歩き始めたボコモンの方角に向かって歩いていただけで、目的地もなく彷徨っていたということか。

 コータとドルガモンは天を仰いだ。猫が「にゃー」と力なく鳴いていて、妙に静かだった。

 

「ええい! 昨日からわしばかりを悪者にしくさってぇ!」

「ア、アウアウアウ」トコモンが溜息を吐くように呟いた。

「そこまで言うなら、いいぞ案内してやろう! デジモンたちの集落にのう!」

「にゃ? そんなのあるのにゃ?」

「おうあるとも! まぁ、群れで暮らしている成長期たちの集落じゃし、そこまで規模は大きくないがの」

 

 自信満々にボコモンは言った。

 そして、「あっちじゃ!」と遠くに僅かに見えた森を指差す。

 

「一応聞くけど、X抗体デジモンの集落だよな?」コータが聞いた。

「いや?」

「……」

 

 行けるわけがない。今や通常のデジモンはメイクーモンとしても、X抗体持ちのドルガモンとしても、どちらの理由からしても鬼門だからだ。

 

「あのさ――」

 

 呆れたように、コータが口を開く。

 すると、ただの冗談だと言いたいかのようにボコモンは肩を竦めていた。

 そして、天が光った。

 

「えっ」

 

 光が、落ちてくる。

 流星のようなその光は、そのまま遠くの森に突き刺さる――!

 

「おい」

「な、なんじゃ?」

「集落、なくなったぞ」

「のじゃなぁ……」

 

 一瞬で、遠くに見えていた森は火に包まれて消えた。

 僅かに見えたのは、空から火の森の中へと降り立った白い聖騎士で。

 

「……」

 

 その様子に、ボコモンは眉を顰めた。

 

「あれって、昨日ボコモンが言っていた……?」

「やはり、時間はないみたいじゃなぁ。見つからないように急いでいくぞ」

 

 見つかったら終わりだ。そう言外に言いたいかのように、ボコモンに緊張感が増した。

 その様子に全員が頷いて、走り出す。

 幸いにして、気づかれなかったのだろう。コータたちは無事に草原のエリアの外へと移動することができた。数時間ほど移動した結果か、行く手には切り立った崖、そして壮大な滝が見える。

 辺は切り立った渓谷になっていた。

 

「なるほど、これなら最悪隠れられるな」天然の迷路となっている彼方此方を見ながら、ドルガモンが感心したように呟いた。

「まぁ、さっきみたいに有無を言わさず薙ぎ払われたら終わるけどな」

「……コータ意地が悪いぞ」

「考えたくないにゃー」

「まぁ、その時はその時じゃのう」

 

 あんな長距離からの範囲攻撃を躱す、あるいは防ぐ手段などこの場の誰も持っていない。頑張ってドルガモンの中距離戦がせいぜいだ。

 長距離攻撃されたら、それこそ終わりだ。いや、まぁ、そもそも地力が違いすぎるから、戦いになってしまったらその時点で終わりなのだが。

 

「しかし、あれが……」

「……? コータ、どうかしたのか?」

「いや。何か違和感が……気のせいかな」

 

 ドルガモンに歯切れ悪く返したコータは、しかし、その後も仕切りに首を捻っていた。

 

「まぁ、何かあったんじゃろ。着いたぞい」

 

 ボコモンが指差したのは、先ほど見えた滝だった。

 水煙が湧き上がる滝の麓で、ボコモンは自慢げにドヤ顔をしている。

 

「ここは……?」

「ふっふっふ。わしのこの“もの知りブック”に書かれておる、いざという時の隠れ家じゃ!」

「大丈夫なのかそれ」

 

 本に載っている時点で、一般に知られているだろう。隠れも何もあったものじゃない。

 何となく微妙な気分になったが、コータたちはドヤ顔なボコモンに先導され、滝の後ろに隠された洞窟に入る――。

 

「っく、君たちは……」

「なっ、なんじゃお前さんはっ」

 

 だが、先客がいた。

 コータたちの思いとしては、「ああ、やっぱりね」とそんな気分である。

 トコモンの「アウ……」という小さな呟きが洞窟に響いて、それが全員の気持ちを端的に表していたのだった。

 

「オレは……っく。がっ……はぁっ、はぁっ」名乗ろうとした先客はしかし、荒い息をして名乗れない。

 

 傷だらけだった。身体のあちこちに裂傷や火傷があって、見るからに痛ましい。

 その姿に、コータたちは驚いた。

 

「ウォーグレイモン……生きとったんか」

「む……君、たちは……あの時の」

 

 洞窟にいたのは、ウォーグレイモンX抗体だった。

 あの時、ポコモンとトコモンがいたその場で唯一襲撃者に反抗したデジモンである。だが、やはり力に差があったのだろう。

 命からがらに逃げ出せたとばかりの姿だった。

 

「おい、大丈夫か?」

「うぐ、あ、ああ。すまない、みっともないところを見せた」

「いや、そんなことは……」

 

 ウォーグレイモンはドルガモンに答えるが、誰がどう見ても痩せ我慢だ。

 コータたちは顔を見合わせる。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 やがてどちらとなく頷いて、コータとドルガモンは洞窟を出た。

 

「薬草の類、あるよな?」

「あるとは思う。けど、俺たちが今までいた旧世界とは植生が違うから、わからないかも……」

 

 コータたちは足元を見る。僅かに生える植物だが、やはり見慣れないものが多い。目当てのモノを見つけられそうになかった。

 あれだけ自信満々に出ておいて、恥ずかしいことになってしまいそうだった。

 

「手当たり次第持っていくかー?」

 

 ドルガモンが最終提案をする。

 コータがその提案に頷きかけた、その時のことだった。

 

「全く仕方ないのう!」

 

 現れたのは、もの知りブックをその手に持ったボコモンだ。

 

「ウォーグレイモンはトコモンとメイクーモンが見ておる。ほれ、さっさと探すぞい」そう言ったポコモンは川の傍に群生していた植物の葉を千切って、コータたちに見せつけた。

「これが薬草じゃ。あ、葉の部分だけじゃぞ。茎や根は傷口には毒に近い。絶対に持っていくでないぞ」

「お、おう」

「わ、わかった」

 

 ボコモンのおかげで何とかなりそうである。というか、もの知りブックの効果が凄まじい。サバイバルの必需品になりそうである。

 まぁ、相変わらず見せてくれなければ、どこで手に入れられるのかさえ教えてくれないのだが。

 そして、その数分後。

 

「これだけ集めればいいよな、コータ?」

「そうだな」

 

 両手いっぱいに薬草となる葉を抱えたコータとドルガモンの姿がそこにはあった。

 

「まぁ、量は申し分ないじゃろうな」

「なんだよ、実はダメみたいな言い方は」ドルガモンが少し不満げに言う。

「その薬草はデジソウと言ってな。どこにでも生えている代わりにそこまで強い効果があるわけではないのじゃ。テクスチャを修復する――デジモンの表面の傷を塞ぐ程度で、仲間で治せるというわけじゃない」

「……絆創膏みたいなもんか。じゃあ、もっと効果が良いものを」

 

 コータがそう言うと、ボコモンは首を振った。そんな都合の良いものはこの辺には生えていないし、そもそも簡単に手に入るものではない、と。

 

「旧世界ならば、あるいは文明の名残として回復プログラムくらい遺っていたかもしれんが……――」

 

 わざわざ今すぐにそこまでするほど急務というわけでもないし、そもそも旧世界は崩壊している。

 結局、これしかないのだ。

 コータたちはそこそこ急ぎめに、洞窟に戻る。すると、

 

「っく、ぐうううう……がっ」

 

 中からくぐもった悲鳴が聞こえた。

 まるで声を出すのを耐えているような、苦痛に満ちたウォーグレイモンX抗体の声だ。

 

「コータ!」

「おうっ」

 

 これは、敵襲だ。

 洞窟が形を保っていることを考えれば件の白い聖騎士ではないだろうが、洞窟にいるのは怪我人(ウォーグレイモン)戦闘能力のないほぼほぼ役立たず(トコモンとメイクーモン)だ。

 ドルガモンとコータは慌てて洞窟に戻った。

 そして、はやる気持ちを抑えて入口からそっと中を覗き見る――!

 

「アウッ! アウッ!」

「っく、がっ、や、やめる……っくぅ!」

「にゃにゃにゃ……や、やめて方がいいにゃー」

「アウッ! アウッ!」

「ぐぉおおおおおお!」

 

 だが、そこにあったのはトコモンが楽しそうにウォーグレイモンX抗体の傷を突き、激痛にウォーグレイモンX抗体が叫び、メイクーモンが止められずにオロオロとする光景で。

 

「……はぁ」

 

 敵襲かと思って緊迫感と共にあったコータたちは、ドッと力が抜けたのだった。

 

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